羽アリを調べる クロヤマアリ?
羽アリを何とか調べてみたいと思って、2匹捕まえてきて検索表を使って調べてみました。
調べたのは翅の途中が黒いこんな種です。この種は以前、フッカーSさんから、クロヤマアリか、ハヤシクロヤマアリだと教えていただいた種と同じだと思います。
これは横から撮影したものです。体長はどの部分を測ってよいのか分からないので、スケールを入れておきました。(追記2015/07/04:論文を読んでいたら、前胸背板はもっと頭に近い部分で、写真の前胸背板と中胸背板と書いた部分は中胸背板のようです。もう少し調べてから訂正しておきます)
図の中の①は検索項目の番号で後で用います。検索には、
寺山守ほか、「日本産アリ類図鑑」、(朝倉書店、2014)
の中の検索表を用いました。実際に検索してみたところ、クロヤマアリ隠蔽種群にたどり着いたので、その経路に沿って説明してきたいと思います。
まずは亜科への検索です。クロヤマアリの属するヤマアリ亜科に至る部分は赤字で書いてあり、その他の部分はいくつかの亜科をまとめました。まず、①から確かめていきます。①に関連する写真を載せておきます。
アリはハチの仲間で腹部第1節と後胸が融合した前伸腹節というのを持っています。腹柄節は本来は腹部の節だったのですが、見かけ上の胸部と見かけ上の腹部を結ぶ節になっています。腹柄節はFig. 1の①で示してあります。また、Fig. 2の拡大写真にも載っています。アリはこれが1節なのか2節なのかで大きく分かれます。この写真の個体は1節です。次の腹部末端の背板の刺列はクビレハリアリ亜科を除くための項目なので、ここでは省略します。3つ目の頭盾前縁側方の小突起もクビレハリアリ亜科を除くための項目ですが、Fig. 2に示す通り、頭盾には特に変わった構造は見られません。
次の②に行きます。腹柄節を横から見たら幅が狭いというのはFig. 3を見るとよく分かります。次の腹部第1節と第2節の間がくびれるというのは、「日本産アリ類全種図鑑」に載っている標本写真を見るとよく分かります。節の間に段差がついているような状態なのですね。
腹部を腹側よりの横から撮影したものです。写真のように背板と腹板の間には腹部第1節を含め、明らかな切れ目があります。従って、腹部第1節は融合はしていません。さらに、腹部末端の写真を載せます。
腹部末端には火山の噴火口のような丸い飛び出しがあります。従って、刺針はないので③に進みます。③はまさに、Fig. 6の腹部末端についてで、丸い開口とその周りの毛について書かれています。ちょっと写真がうまく撮れなくて、周囲の毛が写っていないのですが、確かに毛は生えていました。ということでヤマアリ亜科になります。
次は属の検索です。
これも同様にクロヤマアリの属するヤマアリ属に至る部分を赤字で書いてあります。まず、④'はトゲアリ属を除く項目で刺はないので⑤に行きます。次はサムライアリ属を除く項目ですが、Fig. 2に示すように大腮は三角形状です。次の⑥は触角の節数についてで次の写真を見てください。
触角は確かに12節です。これで⑥まで来ました。次はいよいよ中胸の気門です。Fig. 3を見てください。中胸気門は翅のすぐ下で、中胸の後ろ側にあります。これが側面に位置するのか、それとも、背面もしくはごく背方よりかということで、オオアリ属かヤマアリ属かが分かれます。しかし、翅がある条件では一番高い位置にあるので、たぶん、背方よりだと思って⑦'を取ると、次は前伸腹節気門の形です。これもFig. 3を見ると分かりますが、細長い形をしています。これでヤマアリ属になりました。
次は種の検索です。
⑨は黒いのでOKです。⑩からは腹部の毛についてです。Fig. 4を見ると、黒い帯状の部分は毛のない部分、白かったり緑がかっている部分は細かい毛がいっぱい生えているところです。第3背板にもいっぱい生えているので、次の⑪に進みます。次は腹部第2節についてです。その部分の写真を載せます。
第2背板は白っぽくなっていて、その中に黒い立毛が何本か生えています。この白い部分は更に拡大すると、次のようになります。
細かい毛がぎっしり生えています。これがたぶん軟毛だと思います。この写真には背板の後縁にある立毛が写っていますが、軟毛とははっきり異なります。背板中央部に立毛が5本以上はありそうなので、⑪'を選びます。なおその他の頭の格好、柄節指数などは絵を見るとワーカー(働き蟻)用の項目のような気がして、調べていません。次の⑫は第2背板の軟毛が第1背板と同程度に生えているということですが、Fig. 8を見るとそんな感じがします。後の後頭部の彫刻というのはよく分かりませんでした。若干、不明なところがちょこちょことあるのですが、たぶん、クロヤマアリ隠蔽種群で間違いないのではと思っています。
なお、隠蔽種というのは分類用語で、従来まで同一だと思われていた種に別種が含まれている場合に用いる用語です。この場合は、先日も書きましたが、従来まで同一だと思われていたクロヤマアリに体表炭化水素の組成比パターンに明らかな違いが見られ、4種に分かれるという知見から来ています。「日本産アリ類図鑑」によると、この4種はクロヤマアリ(北海道から本州東北部の日本海側)、ヒガシクロヤマアリ(東北から関東、中部)、ニシクロヤマアリ(中部以南、四国、一部九州)、ミナミクロヤマアリ(九州、一部四国や本州)の4種となっています。ただ、外見上は区別がつかないので、なんとも言えない感じです。
ひと通り羽アリの検索をしてみましたが、若干、怪しいところがポツポツとありました。この部分は他の種と比較しながらでないと分からないと思うので、今度は何種かまとめて調べてみたいなと思いました。
調べたのは翅の途中が黒いこんな種です。この種は以前、フッカーSさんから、クロヤマアリか、ハヤシクロヤマアリだと教えていただいた種と同じだと思います。
これは横から撮影したものです。体長はどの部分を測ってよいのか分からないので、スケールを入れておきました。(追記2015/07/04:論文を読んでいたら、前胸背板はもっと頭に近い部分で、写真の前胸背板と中胸背板と書いた部分は中胸背板のようです。もう少し調べてから訂正しておきます)
図の中の①は検索項目の番号で後で用います。検索には、
寺山守ほか、「日本産アリ類図鑑」、(朝倉書店、2014)
の中の検索表を用いました。実際に検索してみたところ、クロヤマアリ隠蔽種群にたどり着いたので、その経路に沿って説明してきたいと思います。
まずは亜科への検索です。クロヤマアリの属するヤマアリ亜科に至る部分は赤字で書いてあり、その他の部分はいくつかの亜科をまとめました。まず、①から確かめていきます。①に関連する写真を載せておきます。
アリはハチの仲間で腹部第1節と後胸が融合した前伸腹節というのを持っています。腹柄節は本来は腹部の節だったのですが、見かけ上の胸部と見かけ上の腹部を結ぶ節になっています。腹柄節はFig. 1の①で示してあります。また、Fig. 2の拡大写真にも載っています。アリはこれが1節なのか2節なのかで大きく分かれます。この写真の個体は1節です。次の腹部末端の背板の刺列はクビレハリアリ亜科を除くための項目なので、ここでは省略します。3つ目の頭盾前縁側方の小突起もクビレハリアリ亜科を除くための項目ですが、Fig. 2に示す通り、頭盾には特に変わった構造は見られません。
次の②に行きます。腹柄節を横から見たら幅が狭いというのはFig. 3を見るとよく分かります。次の腹部第1節と第2節の間がくびれるというのは、「日本産アリ類全種図鑑」に載っている標本写真を見るとよく分かります。節の間に段差がついているような状態なのですね。
腹部を腹側よりの横から撮影したものです。写真のように背板と腹板の間には腹部第1節を含め、明らかな切れ目があります。従って、腹部第1節は融合はしていません。さらに、腹部末端の写真を載せます。
腹部末端には火山の噴火口のような丸い飛び出しがあります。従って、刺針はないので③に進みます。③はまさに、Fig. 6の腹部末端についてで、丸い開口とその周りの毛について書かれています。ちょっと写真がうまく撮れなくて、周囲の毛が写っていないのですが、確かに毛は生えていました。ということでヤマアリ亜科になります。
次は属の検索です。
これも同様にクロヤマアリの属するヤマアリ属に至る部分を赤字で書いてあります。まず、④'はトゲアリ属を除く項目で刺はないので⑤に行きます。次はサムライアリ属を除く項目ですが、Fig. 2に示すように大腮は三角形状です。次の⑥は触角の節数についてで次の写真を見てください。
触角は確かに12節です。これで⑥まで来ました。次はいよいよ中胸の気門です。Fig. 3を見てください。中胸気門は翅のすぐ下で、中胸の後ろ側にあります。これが側面に位置するのか、それとも、背面もしくはごく背方よりかということで、オオアリ属かヤマアリ属かが分かれます。しかし、翅がある条件では一番高い位置にあるので、たぶん、背方よりだと思って⑦'を取ると、次は前伸腹節気門の形です。これもFig. 3を見ると分かりますが、細長い形をしています。これでヤマアリ属になりました。
次は種の検索です。
⑨は黒いのでOKです。⑩からは腹部の毛についてです。Fig. 4を見ると、黒い帯状の部分は毛のない部分、白かったり緑がかっている部分は細かい毛がいっぱい生えているところです。第3背板にもいっぱい生えているので、次の⑪に進みます。次は腹部第2節についてです。その部分の写真を載せます。
第2背板は白っぽくなっていて、その中に黒い立毛が何本か生えています。この白い部分は更に拡大すると、次のようになります。
細かい毛がぎっしり生えています。これがたぶん軟毛だと思います。この写真には背板の後縁にある立毛が写っていますが、軟毛とははっきり異なります。背板中央部に立毛が5本以上はありそうなので、⑪'を選びます。なおその他の頭の格好、柄節指数などは絵を見るとワーカー(働き蟻)用の項目のような気がして、調べていません。次の⑫は第2背板の軟毛が第1背板と同程度に生えているということですが、Fig. 8を見るとそんな感じがします。後の後頭部の彫刻というのはよく分かりませんでした。若干、不明なところがちょこちょことあるのですが、たぶん、クロヤマアリ隠蔽種群で間違いないのではと思っています。
なお、隠蔽種というのは分類用語で、従来まで同一だと思われていた種に別種が含まれている場合に用いる用語です。この場合は、先日も書きましたが、従来まで同一だと思われていたクロヤマアリに体表炭化水素の組成比パターンに明らかな違いが見られ、4種に分かれるという知見から来ています。「日本産アリ類図鑑」によると、この4種はクロヤマアリ(北海道から本州東北部の日本海側)、ヒガシクロヤマアリ(東北から関東、中部)、ニシクロヤマアリ(中部以南、四国、一部九州)、ミナミクロヤマアリ(九州、一部四国や本州)の4種となっています。ただ、外見上は区別がつかないので、なんとも言えない感じです。
ひと通り羽アリの検索をしてみましたが、若干、怪しいところがポツポツとありました。この部分は他の種と比較しながらでないと分からないと思うので、今度は何種かまとめて調べてみたいなと思いました。
スポンサーサイト