スジチャタテで悩む
マンションの廊下に、この間から模様のはっきりしたチャタテムシが出てきています。翅の模様からおそらくスジチャタテ Psococerastis tokyoensis (Elderlein, 1906)だろうと思っているのですが、一度、ちゃんと検索をして確かめてみようと思ったのが悩みの始まりでした。でも、いつまでも悩みを抱えていても仕方がないので、一度、出しておこうと思って書いてみました。
この間から見ているチャタテというのはこんな虫です。「原色昆虫大図鑑III」によると、もともと食藻性、食菌性なので、我々の生活と直接関係しない虫なのですが、屋内生息の種には書物の糊や貯蔵食品を食べる害虫もいるとのことです。
これはたぶん♂の方です。♀も模様は同じなのですが、少し大きく、腹部末端が違っています。
こちらがその♀だと思われる個体です。
大きさは♂が前翅長5.2mm、♀が5.9mmでした。これが本当にスジチャタテかどうかを検索表で調べてみました。用いた検索表は次の論文に載っています。
富田康弘、芳賀和夫、「日本産チャタテムシ目の目録と検索表」、菅平研報12、35 (1991). (こちらからダウンロードできます)
まず、この個体がチャタテ科に属しているかどうかは次の検索表で確かめることができます。
ここでは詳細は省略し、次に載せる写真に項目の番号を入れておきましたので、参照しながら見てください。次にチャタテ科の種への検索をしてみます。
問題はこの検索表の⑩です。ここでいつも引っかかってしまいます。⑩の最初の項目は小顎髭の末端節の長さに関するものです。まず♂についてその部分の写真を載せます。
消毒用アルコールにつけたまま撮影しているので、ちょっとぼやっとしていますが、小顎髭はよく分かります。この長さと幅の比を測ってみると2.7になりました。次に触角の長さを測ってみます。
アルコールに漬ける前の写真を用いて測ってみました。節数を数えると13節みたいなので、おそらく切れてはいないと思います。ImageJの折れ線ツールで測ると、向かって右側は前翅長の1.59倍、左側は1.62倍になります。ところで、⑩を見ると、小顎髭の長さも触角の長さもともに⑩'に該当しそうですが、そちらを選ぶとその先ですぐに行きづまってしまいます。おそらく、⑩で合っていると思うのですが、ここが最大の悩みどころです。
そこで、この辺りに関して他の論文も調べてみました。
H. Okamoto, "Die Psociden Japans", Trans. Sap. Nat. Hist. Soc. 2, 114 (1907). (ここで読むことができます)
C. N. Smithers, "Keys to the Families and Genera of Psocoptera (Arthropoda: Insecta)", Tech. Rep. Aust. Museum No. 2, (1990). (ここからpdfがダウロード可能です)
上の論文にはスジチャタテ Psococerastis tokyoensisについて詳細に書かれています。スジチャタテなので、⑩に該当するはずなのですが、触角の長さについては♂で1.4倍、♀は1.23倍と書いてあり、検索表では⑩'に該当してしまいます。また、下の論文にはオーストラリアの種についての属の検索表が載っていて、その中で小顎髭の長さについてはPsococerastis属では幅の2.6-2.8倍、その他の属については3.5-4.5倍となっていて、富田氏の論文と数字がかなり違っています。オーストラリアと日本では属している種が異なるので何とも言えませんが、この辺りの数字についてはもう少し検討が必要な気がしてきました。
それで、とりあえず⑩を選んだとして、次は⑪のR2+3脈とR4+5脈のなす角についてです。翅の写真を載せます。
翅脈の名前は次の論文によっています。
K. Yoshizawa, "Morphology of Psocomorpha (Psocodea: 'Psocoptera')", Insecta Matsumurana 62, 1 (2005). (こちらからpdfがダウンロードできます)
この⑪'→で示した部分が2つの脈の分岐点ですが、その分岐した脈がなす角度は60度くらいです。さらに、Sc脈は途中で途切れています。ということで⑪'の方を選びます。これで、Psococerastis属になりました。次は⑫で、縁紋の後縁が尖るという項目です。この項目は上で載せたOkamotoの論文に載っている検索表でも採用されています。そこで縁紋の部分を拡大してみます。
おそらく、⑬→の部分が鋭角になっていることを示しているのではないかと思います。そこで、⑬を選ぶことで無事にPsococerastis tokyoensis(スジチャタテ)になりました。ちなみに、Psococerastis tokyoensisの記載論文であるElderleinの論文には前翅の絵も載っていました。
G. Enderlein, "Die Copeognathen-Fauna Japans", Zool. Jahrb. Abt. f. Syst. 23, 243 (1906). (ここで読むことができます)
翅の模様はよく似ています。おそらく大丈夫だと思うのですけど・・・。
ついでに♀についても撮影したので載せておきます。
最後は腹部末端の写真です。実のところ、どちらが♂なのか、♀なのかよく分かりませんが、上の2つの個体で腹部末端の構造は違っていました。♀だと思っている方はこの写真のように複雑な構造をしていましたが、♂だと思っている方は単純な形をしていました。
どうもはっきりしない結論になってしまいましたが、おそらくスジチャタテで間違いないと思っています。ただ、検索表とちょっと違っているところがあって気になります。もう少し別の種も調べてみる必要がありそうです。
この間から見ているチャタテというのはこんな虫です。「原色昆虫大図鑑III」によると、もともと食藻性、食菌性なので、我々の生活と直接関係しない虫なのですが、屋内生息の種には書物の糊や貯蔵食品を食べる害虫もいるとのことです。
これはたぶん♂の方です。♀も模様は同じなのですが、少し大きく、腹部末端が違っています。
こちらがその♀だと思われる個体です。
大きさは♂が前翅長5.2mm、♀が5.9mmでした。これが本当にスジチャタテかどうかを検索表で調べてみました。用いた検索表は次の論文に載っています。
富田康弘、芳賀和夫、「日本産チャタテムシ目の目録と検索表」、菅平研報12、35 (1991). (こちらからダウンロードできます)
まず、この個体がチャタテ科に属しているかどうかは次の検索表で確かめることができます。
ここでは詳細は省略し、次に載せる写真に項目の番号を入れておきましたので、参照しながら見てください。次にチャタテ科の種への検索をしてみます。
問題はこの検索表の⑩です。ここでいつも引っかかってしまいます。⑩の最初の項目は小顎髭の末端節の長さに関するものです。まず♂についてその部分の写真を載せます。
消毒用アルコールにつけたまま撮影しているので、ちょっとぼやっとしていますが、小顎髭はよく分かります。この長さと幅の比を測ってみると2.7になりました。次に触角の長さを測ってみます。
アルコールに漬ける前の写真を用いて測ってみました。節数を数えると13節みたいなので、おそらく切れてはいないと思います。ImageJの折れ線ツールで測ると、向かって右側は前翅長の1.59倍、左側は1.62倍になります。ところで、⑩を見ると、小顎髭の長さも触角の長さもともに⑩'に該当しそうですが、そちらを選ぶとその先ですぐに行きづまってしまいます。おそらく、⑩で合っていると思うのですが、ここが最大の悩みどころです。
そこで、この辺りに関して他の論文も調べてみました。
H. Okamoto, "Die Psociden Japans", Trans. Sap. Nat. Hist. Soc. 2, 114 (1907). (ここで読むことができます)
C. N. Smithers, "Keys to the Families and Genera of Psocoptera (Arthropoda: Insecta)", Tech. Rep. Aust. Museum No. 2, (1990). (ここからpdfがダウロード可能です)
上の論文にはスジチャタテ Psococerastis tokyoensisについて詳細に書かれています。スジチャタテなので、⑩に該当するはずなのですが、触角の長さについては♂で1.4倍、♀は1.23倍と書いてあり、検索表では⑩'に該当してしまいます。また、下の論文にはオーストラリアの種についての属の検索表が載っていて、その中で小顎髭の長さについてはPsococerastis属では幅の2.6-2.8倍、その他の属については3.5-4.5倍となっていて、富田氏の論文と数字がかなり違っています。オーストラリアと日本では属している種が異なるので何とも言えませんが、この辺りの数字についてはもう少し検討が必要な気がしてきました。
それで、とりあえず⑩を選んだとして、次は⑪のR2+3脈とR4+5脈のなす角についてです。翅の写真を載せます。
翅脈の名前は次の論文によっています。
K. Yoshizawa, "Morphology of Psocomorpha (Psocodea: 'Psocoptera')", Insecta Matsumurana 62, 1 (2005). (こちらからpdfがダウンロードできます)
この⑪'→で示した部分が2つの脈の分岐点ですが、その分岐した脈がなす角度は60度くらいです。さらに、Sc脈は途中で途切れています。ということで⑪'の方を選びます。これで、Psococerastis属になりました。次は⑫で、縁紋の後縁が尖るという項目です。この項目は上で載せたOkamotoの論文に載っている検索表でも採用されています。そこで縁紋の部分を拡大してみます。
おそらく、⑬→の部分が鋭角になっていることを示しているのではないかと思います。そこで、⑬を選ぶことで無事にPsococerastis tokyoensis(スジチャタテ)になりました。ちなみに、Psococerastis tokyoensisの記載論文であるElderleinの論文には前翅の絵も載っていました。
G. Enderlein, "Die Copeognathen-Fauna Japans", Zool. Jahrb. Abt. f. Syst. 23, 243 (1906). (ここで読むことができます)
翅の模様はよく似ています。おそらく大丈夫だと思うのですけど・・・。
ついでに♀についても撮影したので載せておきます。
最後は腹部末端の写真です。実のところ、どちらが♂なのか、♀なのかよく分かりませんが、上の2つの個体で腹部末端の構造は違っていました。♀だと思っている方はこの写真のように複雑な構造をしていましたが、♂だと思っている方は単純な形をしていました。
どうもはっきりしない結論になってしまいましたが、おそらくスジチャタテで間違いないと思っています。ただ、検索表とちょっと違っているところがあって気になります。もう少し別の種も調べてみる必要がありそうです。
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