廊下のむし探検 ハチ、甲虫、いずれも苦戦
廊下のむし探検 第601弾
一昨日の「廊下のむし探検」の続きですが、この日は名前調べが難しいものばかりでした。どれも中途半端に終わってしまったのですが、とりあえず出しておくことにします。
今日の最初はこのハチです。昨年も7月から9月にかけて3回ほど見ていました。昨年はネットで画像検索をして、コマユバチ科ハラボソコマユバチ亜科ではないかと思ったのですが、今回は一応採集してきました。文献を調べると、外国の論文ではコマユバチ科の亜科の検索表もいくつか見つかったのですが、どうも専門用語が分からなくてまだ試していません。とりあえず、コマユバチ科の翅脈の名前の付け方を勉強しようと思って、顕微鏡写真を撮り、調べてみました。翅はほとんど透明で、しかも、翅脈まで透明なので背景が白だと翅脈もほとんど見えません。そこで、背景を黒くして写してみました。
翅をカバーガラスで押さえて平らにしたので、筋が入ってちょっと見にくいのですが、こんな変わった翅脈をしています。どうやって名前をつけてよいやらさっぱり分からないので、少し文献を調べてみました。こんなとき、Infomation station of Parasitoid waspsのHPは非常に役立ちます。このHPの情報から、次の論文を探し出しました。
C. van Achterberg, "A revision of the subfamily Zelinae Auct. (Hymenoptera, Braconidae)", Tijdschrift voor entomologie 122, 241 (1979). (ここからダウンロードできます)
Tijdschrift voor entomologieという雑誌は聞いたことがないので、手に入らないだろうなと思っていたら、意外に手に入りました。このBiodiversity Heritage Libraryというのはときどき利用するのですが、どういう組織なんでしょうね。いずれにしても、この論文に載っているコマユバチの翅脈から類推して、今回のハチの翅脈にも名前を付けてみました。類推してというのは論文と全く同じ翅脈ではなかったからです。
何となくもっともらしく見えると思いますが、適当につけているところもあるのであまり信じないでくださいね。SRという名称の脈は初めてです。これはsectio radiiの略で、径脈(R脈)の分枝ということみたいですね。ハエの翅脈でいうとRsと書きそうです。いずれにしても、前翅のm-cu脈が一本だけなので、コマユバチであることは確かそうです。ついでに顔も拡大しておきました。
本当は検索に用いる口の部分を拡大しようと思ったのですが、ごちゃごちゃしていてよく分かりませんでした。もう少し大きな個体で一度調べておきたいですね。
(追記:フッカーSさんから、「画像1~4枚目はオオハリアリ Pachycondyla chinensis の有翅オスです。再び見かけることがあったら、腹柄節をご覧下さい。アリの特徴である盛り上がった腹柄節が見られると思います。オスの羽アリはワーカーやメスなどと違って淡褐色で、外見がまるで違います。今の時期、夜間に自販機などの灯りに集まっているのをよく見ます。自分も当初は正体が分からなかったのですが、後に有翅オスが混在する巣を確認してオオハリアリだと気付いた次第です。有翅メスは、普通の黒い外見にそのまま翅が付いたような外見です。アリは小型から大型のワーカーで頭部が違ったり、無翅と有翅で外見が異なっていたりして、なかなか難しいです。」、という衝撃的なコメントをいただきました。
私はずっとコマユだと思って先入観で見ていたのですが、実は、まったく違うアリの仲間でした。フッカーSさんの書いておられた腹柄節の写真を載せます。
体長は3,8mm。見かけ上の腹部と胸部の間にある山が腹柄節です。これがあればアリであることは間違いありません。ついでに他の場所の名称も入れておきました。先入観のもととなったのはやはり触角でしょうね。
アリは通常、触角の柄節(第1節)が長いのですが、これはまったく普通の触角です。でも、何より科の検索をしなかったのが敗因でした。科の検索をすると必然的に腹柄節を見ることになるので・・・。幸い、翅脈の名称はこのまま使えそうです。でも、今日は一日、オオハリアリショックで駄目になりそう・・・。
罪滅ぼしに、オオハリアリについて少し調べてみました。このアリはもともと東アジアに分布するのですが、1930年代に日本から米国に入り、米国では外来種として扱われています。これが最近急速に増えてきて、問題になっています(Rice and Silverman, PLOS ONE 8, e56281 (2013)による)。というのは、オオハリアリは噛むときに毒液を注入するからです。この毒液の中には、アミノ酸、蟻酸、ヒスタミン、ヒアルロニダーゼ、ホスホリパーゼ、テルペンなどを含んでいます。噛まれると一種のアレルギー反応が起きて、80%の人は5cm以下の紅斑、痛み、蕁麻疹ができ、この症状は2時間から5日続きます。12%の人は5cm以上の腫れ、痛み、ひどい蕁麻疹ができ、症状が3日から14日ほど続きます。残りの8%の人は変化がなかったとのことです(Nelder et al., J. Medical Entomology 43, 1096 (2006)による)。これに噛まれてしばらくしてからもう一度噛まれると、いわゆるアナフィラキシー症状を呈することがあります。夏秋優氏が日本衛生動物学会で発表したところによると、2ヶ月前に噛まれた人が2度目に噛まれて10分後に全身に紅斑、膨疹、動悸、気分不良を訴えて救急車で運ばれたそうです(夏秋優、衛生動物 61, Suppl. 63 (2010)による)。小さなアリでも気を付けないといけないですね。
また、「日本産アリ類図鑑」によると、最近、オオハリアリと呼ばれている各地の個体のミトコンドリアDNAを調べた結果、2種が混在することが分かったそうです。一方はそのままオオハリアリ、もう一方はナカスジハリアリと命名されました。この2種の外見上の区別は微妙ですが、腹柄節や前胸背板前側縁の形から識別可能とのことです)
甲虫もいろいろといたのですが、分かりにくい種が多かったです。これは顔を隠しているので、なおさら分かりませんが、たぶん、ゾウムシでしょうね。そう思って図鑑を探してみると、ホソクチカクシゾウムシというのが似ていました。本当に口を隠していますね。
これも同じような格好をしていますね。胸背にぶつぶつがあって、何となく分かるかなと思ったのですが、やはりはっきりしません。たぶん、以前教えていただいた
これも似た種があって、いつも迷うゾウムシです。クリアナアキゾウムシとリンゴアナアキゾウムシの違いは「図鑑」によると、小盾板に点刻が全面に密にあるかないかで、この個体はよく見ると小盾板は光っているので、点刻の少ない方のクリアナアキゾウムシかなと思いました。
これはベニカミキリですね。
この甲虫も迷いました。「日本産コガネムシ上科標準図鑑」の図版と絵合わせをしてみると、何となくクロコガネに似ているなと思いました。(追記:通りすがりさんから、「コガネムシはクロコガネのオスかな。」というコメントをいただきました。どうも有難うございました)
それにこの間から出てきているアオカミキリモドキです。
これはホシウスバカゲロウですね。
それにヒシウンカの仲間です。写真はうまく撮れたのですが、名前はどうせ分からないだろうなと思って調べていません。
このハエトリはいつものハエトリと違いますね。「日本のクモ」で調べてみると、シラヒゲハエトリという種に似ています。記録を見ると昨年の9月にも見ているようです。
最後はいつものウロコアシナガグモらしい個体です。最近、よく見ますね。
スポンサーサイト