虫を調べる トガリキジラミ
先日、マンションの廊下でセミのような虫を見つけました。といっても、体長はわずか3.5mm程しかない小さな虫ですが・・・。調べてみると、カメムシ目腹吻亜目キジラミ上科トガリキジラミ科の虫だと分かりました。広辞苑によると、キジラミは後脚が発達していてよく跳躍し、植物の汁を吸うので害虫として知られ、虫えいをつくるものが多いそうです。せっかくこんな虫がいるので、一つ調べてみようと思って、採集して顕微鏡で見てみました。
見つけたのはこんな虫です。本当にセミに似ているでしょう。でも、小さいんですよ。
これは表側と裏側を写した写真です。死んでしまうと、後脚を前に伸ばして、こんな格好になってしまいました。跳躍をするからだろうと思いますが、後脚の基節がやけに大きくなっています。これに対して、前脚と中脚は普通のようです。腹部の先端が尖っていて♀だと分かります。
ネットで探して見ると、キジラミなどのカメムシ目のいくつかの亜目については、やけに詳しいデータベースがありました。Hemiptera Databases in MNHN-Parisというページです。この中に、世界的な種のリストや分布などあらゆるデータが載っています。さらに、昔からの論文リストもあって、古い論文はたいていここからダウンロードできます。そのページによると、トガリキジラミ科には69属、1亜属、970種、3亜種が記録されているそうです。一方、九大の日本産昆虫目録データベースでは、トガリキジラミ科はキジラミ科の亜科Triozinaeとなっていて、9属31種が載せられていました。
私自身はこの中のオオキジラミ属 Epitriozaのサトオオトガリキジラミ Epitrioza yasumatsuiではないかと思っているのですが、それは最初に見た論文がたまたまオオキジラミ属を扱っている論文だったからかもしれません。
Y. Miyatake, 「日本産オオトガリキジラミ属について(英文)」, 大阪市立自然史博物館研究報告 31, 93 (1978). (ここからダウンロードできます)
この論文の中で、サトオオトガリキジラミ Epitrioza yasumatsuiは日本固有属Epitriozaの一種として初めて記載されました。この属は過去に桑山茂氏が新属として記載したのですが、その後、Crawford氏が翅脈の位置だけを基にした新属の記載は明確ではないというコメントを発表しています。これらの論文は以下の通りです。
桑山茂、「日本産木虱類(其二)」、Trans. Sapporo Nat. Hist. Soc. 3, 53 (1910). (ここからpdfをダウンロードできます)
D. L. Crawford, Phil. J. Sci. 15, 139 (1919). (ここからダウンロードできます)
宮武氏はEpitriozaは一つの独立した属として、その特徴を以下のように挙げています。
頭頂と胸部は無毛
触角は極端に短い(頭部の幅より少し長い)
前翅の翅端は中室に入っていない
後翅の翅脈はtriozineでない
後脚脛節の基部に棘はなく、先端の外側に1つ、内側に2つの棘がある
今日はこれらの特徴にも注目しながら調べていきたいと思います。この中で、triozineという単語はたぶん造語で、triozinaeらしいという意味でtrioz-ineとしたものだと思います。おそらく、初めて使ったのはCrawford氏で、1925年の論文(D. L. Crawford, Phil. J. Sci. 28, 39 (1925))には、"triozine (that is, basal vein branching at one point into three veins, cubitus, media, and radius)"と書かれていました。つまり、Cu, M, Rの3つの脈が一つの点から分岐するということのようです。
初めての虫なので、頭部と胸部の各部に名称を付けてみました。
各部の名称は「原色昆虫大図鑑III」とイギリスの王立昆虫学会が出している"Handbooks for the Identification of British Insects"のシリーズの中のVol. II, Part 5(a) "Homoptera Psylloidea"の中の図を参照しました(ここからダウンロードできます)。
さすがにハエと違って変わった体をしていますね。まだ名前の良く分からない部位が多いのですが、とりあえず分かった部位だけ名前を付けてみました。間違っているかもしれませんので、そのつもりで見て下さいね。単眼が複眼のすぐ脇にありますね。ハエばかり見ていると非常に変わった印象を受けます。それに、頭頂も変わっていますね。とりあえず、頭部も胸部も無毛というEpitrioza属の特徴を満たしているようですね。
次は翅です。前翅では、Cu、M、Rという3つの系統の脈が矢印で示した部分の一点から分かれています。これがtriozineです。これに対して、後翅では2つの矢印で示すように分かれる位置が異なっています。だから、not triozineということになります。前翅がtriozineなのはトガリキジラミ科の特徴で、「大図鑑」の検索表ではこれでもってトガリキジラミ科としています。
翅の一番先端を翅端といいます。前翅のこの部分がM脈で囲まれた中室に入っていないというのもEpitrioza属の特徴でした。なお、後翅の翅脈の写真を撮るのは大変でした。完全に透明だったからです。仕方なしに、背景に黒い紙を入れて、また、光が斜めから当たってちょっとだけ光るようにしました。いろいろ配置を変えているうちに、翅は破れてしまうし・・・。なお、翅脈の名称は「大図鑑」に従っています。また、後翅については前翅にならってつけてみましたが、合っているかどうか。
次は触角です。触角が短いというのがEpitrioza属の特徴で、複眼を含めた頭部の幅より少し長いというのはその通りでした。数えてみると、全部で10節のようでした。先端に剛毛が2本生えています。そこだけ拡大してみました。
20xの対物鏡を用いて拡大はできたのですが、ちょっとゴミが気になりますね。深度合成をするときに焦点が合っている場所以外はボケていまうのですが、その部分がゴミのように周りに残ってしまいます。これは仕方ないでしょうね。いずれにしても、長い剛毛と短い剛毛があります。
次は複眼の周辺です。単眼がだいだい色なのが気になりますね。その部分も拡大してみます。
こんな感じになりました。2つの目でじっとこちらを見ているようでちょっと気味が悪いですね。
次は脚です。跗節は2つの小節からできていて、ピンク色をしています。後脚脛節の末端に黒い棘のようなものが見られます。どちらが外側か内側か分からないのですが、全部で3つあります。これもEpitrioza属の特徴でしたね。この棘で地面をしっかり押さえてジャンプするのでしょうね。
最後は腹端です。
これは腹側からです。
そして、これは横からです。各部の名称は英国王立昆虫学会の本を手がかりに見よう見まねでつけてみました。まだ、日本語に訳していません。こんな形が♀のようです。
ということで、宮武氏の書いたオオトガリキジラミ属Epitriozaの条件はすべて満たしているので、この属かなと思うのですが、属の検索表がないので今のところ何とも言えません。でも、久しぶりにハエ以外の虫を見たので、ちょっと楽しかったです。
見つけたのはこんな虫です。本当にセミに似ているでしょう。でも、小さいんですよ。
これは表側と裏側を写した写真です。死んでしまうと、後脚を前に伸ばして、こんな格好になってしまいました。跳躍をするからだろうと思いますが、後脚の基節がやけに大きくなっています。これに対して、前脚と中脚は普通のようです。腹部の先端が尖っていて♀だと分かります。
ネットで探して見ると、キジラミなどのカメムシ目のいくつかの亜目については、やけに詳しいデータベースがありました。Hemiptera Databases in MNHN-Parisというページです。この中に、世界的な種のリストや分布などあらゆるデータが載っています。さらに、昔からの論文リストもあって、古い論文はたいていここからダウンロードできます。そのページによると、トガリキジラミ科には69属、1亜属、970種、3亜種が記録されているそうです。一方、九大の日本産昆虫目録データベースでは、トガリキジラミ科はキジラミ科の亜科Triozinaeとなっていて、9属31種が載せられていました。
私自身はこの中のオオキジラミ属 Epitriozaのサトオオトガリキジラミ Epitrioza yasumatsuiではないかと思っているのですが、それは最初に見た論文がたまたまオオキジラミ属を扱っている論文だったからかもしれません。
Y. Miyatake, 「日本産オオトガリキジラミ属について(英文)」, 大阪市立自然史博物館研究報告 31, 93 (1978). (ここからダウンロードできます)
この論文の中で、サトオオトガリキジラミ Epitrioza yasumatsuiは日本固有属Epitriozaの一種として初めて記載されました。この属は過去に桑山茂氏が新属として記載したのですが、その後、Crawford氏が翅脈の位置だけを基にした新属の記載は明確ではないというコメントを発表しています。これらの論文は以下の通りです。
桑山茂、「日本産木虱類(其二)」、Trans. Sapporo Nat. Hist. Soc. 3, 53 (1910). (ここからpdfをダウンロードできます)
D. L. Crawford, Phil. J. Sci. 15, 139 (1919). (ここからダウンロードできます)
宮武氏はEpitriozaは一つの独立した属として、その特徴を以下のように挙げています。
頭頂と胸部は無毛
触角は極端に短い(頭部の幅より少し長い)
前翅の翅端は中室に入っていない
後翅の翅脈はtriozineでない
後脚脛節の基部に棘はなく、先端の外側に1つ、内側に2つの棘がある
今日はこれらの特徴にも注目しながら調べていきたいと思います。この中で、triozineという単語はたぶん造語で、triozinaeらしいという意味でtrioz-ineとしたものだと思います。おそらく、初めて使ったのはCrawford氏で、1925年の論文(D. L. Crawford, Phil. J. Sci. 28, 39 (1925))には、"triozine (that is, basal vein branching at one point into three veins, cubitus, media, and radius)"と書かれていました。つまり、Cu, M, Rの3つの脈が一つの点から分岐するということのようです。
初めての虫なので、頭部と胸部の各部に名称を付けてみました。
各部の名称は「原色昆虫大図鑑III」とイギリスの王立昆虫学会が出している"Handbooks for the Identification of British Insects"のシリーズの中のVol. II, Part 5(a) "Homoptera Psylloidea"の中の図を参照しました(ここからダウンロードできます)。
さすがにハエと違って変わった体をしていますね。まだ名前の良く分からない部位が多いのですが、とりあえず分かった部位だけ名前を付けてみました。間違っているかもしれませんので、そのつもりで見て下さいね。単眼が複眼のすぐ脇にありますね。ハエばかり見ていると非常に変わった印象を受けます。それに、頭頂も変わっていますね。とりあえず、頭部も胸部も無毛というEpitrioza属の特徴を満たしているようですね。
次は翅です。前翅では、Cu、M、Rという3つの系統の脈が矢印で示した部分の一点から分かれています。これがtriozineです。これに対して、後翅では2つの矢印で示すように分かれる位置が異なっています。だから、not triozineということになります。前翅がtriozineなのはトガリキジラミ科の特徴で、「大図鑑」の検索表ではこれでもってトガリキジラミ科としています。
翅の一番先端を翅端といいます。前翅のこの部分がM脈で囲まれた中室に入っていないというのもEpitrioza属の特徴でした。なお、後翅の翅脈の写真を撮るのは大変でした。完全に透明だったからです。仕方なしに、背景に黒い紙を入れて、また、光が斜めから当たってちょっとだけ光るようにしました。いろいろ配置を変えているうちに、翅は破れてしまうし・・・。なお、翅脈の名称は「大図鑑」に従っています。また、後翅については前翅にならってつけてみましたが、合っているかどうか。
次は触角です。触角が短いというのがEpitrioza属の特徴で、複眼を含めた頭部の幅より少し長いというのはその通りでした。数えてみると、全部で10節のようでした。先端に剛毛が2本生えています。そこだけ拡大してみました。
20xの対物鏡を用いて拡大はできたのですが、ちょっとゴミが気になりますね。深度合成をするときに焦点が合っている場所以外はボケていまうのですが、その部分がゴミのように周りに残ってしまいます。これは仕方ないでしょうね。いずれにしても、長い剛毛と短い剛毛があります。
次は複眼の周辺です。単眼がだいだい色なのが気になりますね。その部分も拡大してみます。
こんな感じになりました。2つの目でじっとこちらを見ているようでちょっと気味が悪いですね。
次は脚です。跗節は2つの小節からできていて、ピンク色をしています。後脚脛節の末端に黒い棘のようなものが見られます。どちらが外側か内側か分からないのですが、全部で3つあります。これもEpitrioza属の特徴でしたね。この棘で地面をしっかり押さえてジャンプするのでしょうね。
最後は腹端です。
これは腹側からです。
そして、これは横からです。各部の名称は英国王立昆虫学会の本を手がかりに見よう見まねでつけてみました。まだ、日本語に訳していません。こんな形が♀のようです。
ということで、宮武氏の書いたオオトガリキジラミ属Epitriozaの条件はすべて満たしているので、この属かなと思うのですが、属の検索表がないので今のところ何とも言えません。でも、久しぶりにハエ以外の虫を見たので、ちょっと楽しかったです。
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