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廊下のむし探検 フユシャク♀、キジラミほか

廊下のむし探検 第487弾

昨日は午後から暖かくなりました。それで、午後4時頃、マンションの廊下を歩いてみました。期待通り、「むし」がたくさん見られました。





今日の最初はフユシャクの♀です。小さな翅が見えているので、エダシャク亜科のフユシャクですね。図鑑の写真は皆小さくてあまりはっきりは分かりませんが、おそらく、今たくさん出ているシロフフユエダシャクの♀だと思います。今日は一階の廊下の手すりに2匹いました。シロフフユエダシャクの♀は昨年の2月18日に見ていたので、これで二回目になります。

でも、この日、名前調べで一番大変だったのは次の虫です。



一見、セミのように見えますが、体長はわずか3.5mmの小さな虫です。初めはチャタテムシかなと思っていたのですが、写真を拡大してみると、ちょっと違いました。おそらくカメムシ目ですね。そう思って、「原色昆虫大図鑑III」の図版をぱらぱら見ていたら、キジラミの仲間が似ています。広辞苑によると、キジラミは後脚が発達していてよく跳躍し、植物の汁を吸うので害虫としてしられ、虫癭(ちゅうえい)をつくるものが多いそうです。そこで、キジラミで検索していたら、次のような論文を見つけました。

Y. Miyatake, 「日本産オオトガリキジラミ属について(英文)」, 大阪市立自然史博物館研究報告 31, 93 (1978). (ここからダウンロードできます)

この中のオオトガリキジラミの仲間と翅脈が似ていました。翅脈の写真を載せます。



この論文はキジラミ上科トガリキジラミ科の中のオオトガリキジラミ(
Epitrioza)属に関するものですが、その中の検索表で試しに検索してみると、翅脈からサトオオトガリキジラミ Epitrioza yasumatsuiという種に該当しそうです。サトオオトガリキジラミはこの論文で新種記載されたものです。
 
問題は上の写真の個体がこのEpitrioza属に属するかどうかです。そこで、「大図鑑」の検索表を見てみると、キジラミ上科の検索では、R脈、M脈、Cu脈がほとんど一点で分岐することでトガリキジラミ科であるとしています。この写真を見ると、ほぼ一点(矢印の部分)で分岐しているので、トガリキジラミ科であることは間違いなさそうです。さらに、論文を色々探してみました。だいぶ古い論文になるのですが、日本産のキジラミについて書いてある論文を見つけました。

桑山茂、「日本産木虱類(其一)」、
Transactions of the Sapporo Natural History Society 2, 149 (1908). (ここからpdfをダウンロードできます)
桑山茂、「日本産木虱類(其二)」、Transactions of the Sapporo Natural History Society 3, 53 (1910). (ここからpdfをダウンロードできます)

この中に
Epitrioza属が出ていました。原文はドイツ語ですが、検索表は日本語でも書かれていました。これによると、

前翅の径脈分岐せず
前翅の肘脈は無柄なり

この2つの条件で、Triozinae亜科になります(これは現在のトガリキジラミ科に相当すると思われます)。上の写真の翅脈の名称の付け方とはちょっと違うのですが、おそらく、径脈と書いているのはRs脈が該当し、肘脈というのはM1+2からCu2までの4本の脈を称しているようです。Rs脈は確かに分岐していません。さらに、下の4本の脈に柄がないということは、上の矢印で示したように一点で分岐することを意味していると思われます。

さらに、Triozinae亜科の属への検索を見ると、

触角は細く糸状を呈す
頭頂及び背は平滑なり
肘脈の第四枝脈は翅端若しくは後縁に終わる

この3つの条件で、Epitrioza属に至ります。上の写真を見ると、上の2つの条件は満足しそうです。次の「

肘脈の第四枝脈」が何を意味するかが分かりません。論文に書かれている翅脈の図をつらつら眺めてみると、どうやらM1+2脈のことを言っているようです。翅端は翅の一番尖っている部分を指すと思うので、M1+2脈が翅縁に達した位置が翅端の上(前縁)か下(後縁)かということで、下だったらEpitrioza属だということになります。ということで、一応、Epitrioza属にはなりそうなのですが、古い論文なので、この後、もっと多くの属や種が見つかっていると思われ、この同定がどの程度確かなのか分かりません。(追記:D. L. Crawfordは1919年にキジラミに関する論文(Phil. J. Sci. 15, 139 (1919) (ここからダウンロードできます))を出しているのですが、その中で、桑山氏が記載したEpitrioza属については明確ではないと書いています。その根拠は、最終的に翅脈の位置で属を決めているが、それは個体によって変化するからです。Crawford氏は自身の記載したMegatrioza属に近縁かもと書いていますが、実際に調べていないので何とも言えないとも書いています。宮武氏はこのコメントに対しては反論せずに、Epitrioza属は独立した属であるとして、翅脈以外にも頭頂、胸部、触角、後跗節に見られるいくつかの性質を挙げています。これらを調べてみないといけませんね

それでは、その他に見た虫に移ります。



この間からいるツノブトホタルモドキがまたいました。この日は2匹いました。





それから相変わらず名前の分からないハネカクシの仲間です。これも名前が分かると良いのですが・・・。

次からはハエです。最近は、最低でも科まで書かないと気がすまなくなっているので、ハエの仲間はちょっと大変です。



これは雰囲気的にシマバエかなと思ったのですが、一応、採集してきました。検索の結果、やはりシマバエ科でした。





次はこのハエです。体長はわずか1.5mmしかありません。一応、採集してきました。





実体顕微鏡で撮った写真です。これをもとに、簡単に検索してみたのですが、ミギワバエ科になりました。全く自信はないのですが・・・。あまりに小さいので、実体顕微鏡でも細部が見えにくかったです。もう少し調べてみます。



これはキノコバエ科だと思います。今年の1月初めにも見ていました。



これはフンコバエ科かなと思います。





これはこの間から見ているノミバエ科です。たぶん、Megaselia属でしょうね。





共にユスリカ科でしょうね。



それにこの間初めて認識したタマバエ科です。翅が干渉で綺麗な色になっていますね。写真で撮ると大きく見えるのですが、実は大変小さいハエです。



最後は小さいクモです。おそらく、アサヒエビグモの幼体だと思うのですが、よく分かりません。

昨日は虫が多くて、名前調べが大変でした。こんな調子で春になってもっと増えてきたら、一体どうなるのでしょうね。
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No title

虫がずいぶん出てきましたね
キジラミ、ミカンの木にサナギだか幼虫だかがついて困っています。
親は粉のようにパッと飛び立つ、ごくごく小さな虫です。
とても私のカメラでは撮れません。拡大するとけっこうちゃんとした虫なんですね

No title

トガリキジラミ科でしたか。
実は、庭のモチノキで数年前からタイワントガリキジラミ Trioza formosana Kuwayama, 1910 が大繁殖してしまっています。
海外のサイトの分布図を見ると、台湾から沖縄本島までと千葉県に分布する様で、完全に移入種ですね。
このKuwayamaさんが桑山茂さんの様で、妙な繋がりを感じてしまいました(笑)

No title

> あおやまはるまさん
こんばんは。
ミカンのものはミカンコナジラミかも知れません。
小さくて白っぽい成虫でしたら、おそらくコナジラミで、キジラミは種類にもよりますけど大抵アブラムシ程度の大きさはあります。
あ、それと当方はただの虫好きなオッサンです(笑)

No title

あおやまはるまさん、通りすがりさん、こんばんは

シラミで盛り上がっていますね。とはいっても、同じシラミでも、シラミはシラミ目で、キジラミやコナジラミはカメムシ目ですね。キジラミはキジラミ上科、コナジラミはコナジラミ上科、トコジラミはトコジラミ上科。名前が似ていて、なかなかややこしいですね。

何か全く分からなかった虫から、トガリキジラミに達し、桑山氏の論文までたどり着きました。一匹の虫でも奥深く、なかなか面白いものがありますね。
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