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虫を調べる ヒゲナガヤチバエ?

ハエを捕まえて顕微鏡で観てみると、ともかく変わった形をしているので、ついつい写真を撮ってしまいます。それならついでに検索をして、ブログにも出して・・・と思って、つい、忙しくなります。さらに、そうやって検索をしてみると、いつも不安材料があって、それでタイトルに ? をつけることになってしまいます。今回も例にもれず ? つきです。いずれにしても、素人がやっていることなので、間違っているところも多いと思います。いろいろとご指摘いただければ幸いです。

今日のターゲットはこのハエです。



上から見た時は頭が銀色に光っていて、触角がやけに長いなと思ったほかはそれほど奇異な感じがしなかったのですが、顕微鏡で観てみるとやはり変わった形のハエでした。体長は7.2mm、前翅長6.3mm。検索を行ってみると、ヤチバエ科ヒゲナガヤチバエにたどり着きました。そこで、検索表に沿って進みながらその特徴を見ていきたいと思います。

まず、ヤチバエ科に至る科の検索は「絵解きで調べる昆虫」が簡単なので、その検索表を使ってみました。といっても、絵解きで説明がないので、「原色昆虫大図鑑」の検索表を見ながら、適当に書いてみます。



短角亜目という触角の短い種類についての部分です。実際には、検索は無弁類から進んでいったので、1 を飛ばしてしまっていました。後で、表の形に書こうとして、さて1 の額線はどれだろうと思って迷ってしまいました。頭の部分の写真を載せます。



額の部分がよく分からないので、点線で囲った部分をさらに拡大してみます。



額線は「大図鑑」には額囊溝と書いてあります。さらに、検索表には「ヤチバエ科のヒゲナガヤチバエ属Sepedonでは額囊類であるが半月瘤は発達しない。本属は触角梗節が著しく長い。」という注釈がわざわざついています。写真を見ると上にも下にも突起があるのですが、その間にある浅い溝のことかなと思っていますが、よく分かりません。(追記:額囊溝はFig. 5の触角から斜め下に続く溝のことかもしれません。そうだとすると、触角の上側では溝がはっきりしていないので、Fig. 2で書いた浅い溝は違うかもしれません)(追記:先に書いた追記に従って、Fig.2の額線の位置を修正しました。でも、合っているかどうか・・・

2 - 4 は翅に関することなので、翅の写真を載せます。





翅脈については、例によって、「大図鑑」風の名称と外国のサイトや論文に載っているやり方を併記しておきます。ただ、これも適当に付けた部分があるので、間違っているかもしれません。まず、2 の弁というのは翅の付け根にある膜状の構造のことですが、これにはありません。従って、無弁類ということになります。3 の翅脈についてはどちらの図を見ても構わないのですが、いずれにしてもR4+5脈とM1+2脈はほぼ平行に走っています。従って、 3 はOKです。4 のSc切れ目というのはSc脈が前縁に達するところで、前縁を走るC脈が切れてしまうことをいっているのですが、上の図を見ると切れてはいないので 4 はOKです。

次の 5 は鬚剛毛に関するものなので、顔の部分の写真を載せます。




顔は異様な格好をしているでしょう。斜め左上にある丸いものは口です。鬚剛毛はその口の脇に生える剛毛ですが、まったく剛毛は生えていません。それで 5 はOKです。6 はまた翅脈に関するものです。R4+5脈とM1+2脈はほぼ平行に走っているのでこれもOKになります。次の 7 は脚の脛節に関するものです。(追記:額線の位置を追加しました。合っているかどうかは分かりませんが・・・。さらに、図の番号を訂正しました。それに伴い、これ以後の本文の一部を変えています)(追記:頭盾と書いた場所は顔板のようです。頭盾は口のような穴のすぐ内側にあるみたいです。田中氏の「家屋害虫の同定法(2)」のFig. 43b-1に図が出ていました)(追記2015/03/22:田中氏の「家屋害虫の同定法(2)」のFig. 43b-1に従って、図を書き換えました



これは捕獲脚のような感じの後脚の部分です。よく見ると、脛節末端の背面に剛毛が生えています。それで 7 もOKとなります。次の 8 の後単眼剛毛についてはFig. 1でも分かりますが、次のFig. 7でも分かります。



後単眼剛毛というのは単眼の後ろにある1対の剛毛のことです。この2本がどちらを向いているかで科が分かれます。この個体では2本の剛毛の先端がやや離れていくようについてます。それで 8 もOKになります。最後の 9 はR1脈が前縁に出る位置ですが、翅のほぼ中央です。これでヤチバエ科に到達しました。

ヤチバエの幼虫は一般に水生で、ヒゲナガヤチバエも水面下で生息しているそうです。そこで、この科については「日本産水生昆虫」(東海大学出版会)に詳しく載っていました。この本に書かれていたヤチバエ科の特徴は次の通りです。



いろいろと書いてあったのですが、青色の部分はすでに検索表で調べたものです。それ以外を見ていきます。まず、1 は次の写真を見るとよく分かります。



これは頭の部分の拡大です。ずいぶん奇妙な触角があるでしょう。ついでだから触角も拡大してみます。



上額眼縁剛毛というのは上の方の写真で示したものです。他に剛毛は見えないので、2 もその通りなのでしょう。5 の頭盾は上のFig.5で示したものですが、口縁より先に出ることはないようです。これでヤチバエ科の特徴も確認できました。

次は属への検索です。これも「水生昆虫」に載っていたものです。



1b の前胸側板は次の写真で分かります。



この部分には剛毛はないので、5a に進みます。この項目が問題です。Fig. 7に「大図鑑」にならって剛毛の名前を入れてみました。なお、「大図鑑」では「剛毛」ではなくて「刺毛」と書いてあるので、それにならっています。写真でも分かりますが、残念ながら、5a に書いてある剛毛はいずれも存在しません。それでは検索表の別の項目に進めばよいかというと、この個体の性質とはかなりずれてきます。外見からはヒゲナガヤチバエの仲間で間違いないと思うのですが、とにかく不思議です。そこで、とりあえず、この項目を飛ばして進みます。

次の 6b の触角についてはFig. 8または9でも分かりますが、第3節に剛毛束などはありません。それで 7a に進みます。7a の最初の項目はすでに確認しました。2番めの項目は触角第2節が第3節より明らかに長いことで、Fig.8でも分かりますね。最後は翅が透明であることです。ということで、不安材料を抱えたままではありますが、ともかくヒゲナガヤチバエ属になりました。

次は種への検索です。



これは簡単で、頭部の色で他種と明確に区別できるようです。従って、ヒゲナガヤチバエだろうということになりました。

最後はおまけで、Fig. 10で白っぽく見える部分を拡大した写真です。



白い細かい毛で覆われているようです。撮影してからどの部分を撮ったのか探してみたのですが、どうしても見つかりません。どこを撮ったのでしょうね。

ヤチバエ科という初めての科を調べてみました。口の構造といい、触角といい、実に変わった形をしていました。そこで、つい検索もやってみる気になりました。胸背の剛毛について合わないところもあるのですが、外見からおそらくヒゲナガヤチバエで間違いないのではと思っています。それにしても剛毛は難しいですね。

追記:ヒゲナガヤチバエの生活史について次のような論文を見つけました。

永冨昭、櫛下町鉦敏、Kontyu 33(1), 35 (1965). (ここからダウンロード可能)

この論文には、ヒゲナガヤチバエが水辺で暮らし、水草などの水辺植物に卵を産むこと、そして、幼虫は水中での呼吸ができないので水面上で暮らして、ヒメモノアラガイなどの貝類を食することが載っています。蛹化は水際のものならなんでもよくて、成虫は1年中見られるとのことです。ヒメモノアラガイは肝蛭を媒介する有力な中間宿主と知られ、また、卵はズイムシアカタマゴバチに大量に寄生されるので、害虫であるニカメイガにも寄生するズイムシアカタマゴバチの存続に貢献しているとのことです
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No title

おっしゃっていることの3分の1ほどもわかっていませんが、子供が自動車の分解解説をのぞいている気持ちで、ナイスです

No title

どうもすみません。もう少し分かりやすく書ければよいのですが、私自身があまりよく分かっていないものだから・・・。でも、勉強のつもりでやっていますので、そのうち少しは分かりやすくなるかもしれません。今後ともよろしくお願いします。

No title

ヒゲナガヤチバエ、ヒメモノアラガイ、ズイムシアカタマゴバチ、ニカメイガ、肝蛭…自然の中では普通のことかもしれませんが、複雑な共生関係にあるものですね。
成虫は1年を通じて見られる様なので、山より平地に居そうなハエですね。
少なくとも水田があるくらいの低地じゃないと見付からないのかなあ…

No title

こういう生活史を見ると本当に面白いですね。本人たちは何も考えていないでしょうが、自然界のストーリーの中にちゃんと組み込まれているのですね。
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