虫を調べる モモブトハシリバエ?
12月も終わりになり、マンションの廊下でも虫はほとんどいなくなりました。そんな時でも、よく見てみると小さなハエの仲間がいるものです。そんな1匹を捕まえてきて、少し調べてみました。だいぶ苦労したのですが、それについては前日の記事を見てください。
まず、対象としたハエはこんな虫です。
体長はわずか3.9mmしかないのですが、それでも拡大してみるといろいろと面白い構造を持っていました。横から見た姿を載せます。
口のところが特に面白いですね。何だか鳥のくちばしのようなものがあります。まず、これが何の仲間なのか、「原色昆虫大図鑑III」の双翅目の検索表を使って調べてみることにしました。昨日も書きましたが、これは短角亜目に属するので、その部分の検索表を載せておきます。全部載せるのは大変なので、このハエがオドリバエ科であることを知って、その部分だけを抜粋して載せることにします。
関連する写真を載せます。まず、側面からの拡大写真です。
次は背側からです。
頭部と触角の拡大写真も載せておきます。
これは真上からです。
横からです。本当に面白い格好をしていますね。
そして、後ろからです。
最後は触角です。触角は3節まであって、長いのは刺毛だそうです。
さて、最初の検索表に戻って調べてみましょう。なお、私はハエについてはまったくの素人ですので、そのつもりで見てくださいね。最初の43と44の項目はそれぞれ、イエバエなどの普通のハエとアブ類を除外する項目なのでパスします。次の小顎鬚はFig. 4か5あたりを見ると分かりますが、節には分かれていないようです。従って、1-2節から構成されるというのは合っているみたいです。触角鞭節というのは第3節以降をいいます。Fig. 7でも分かりますが、刺毛は生えていますが、小節には分かれていないようです。従って、56に進みます。56は翅脈に関することなので、翅の写真も載せます。
翅脈は論文やネットに載っている名称と「大図鑑」の名称が若干異なっていて、ちょっと混乱するので、両方のやり方で名前を付けてみました。合っているどうかは分かりませんが・・・。上は「大図鑑」風、下は論文やネットに載っているやり方です。さて、56のCuA脈については上の方の写真を見て下さい。翅の後縁とはるかに離れたところでCuP脈と融合しています。その融合部の長さはCu脈の基部(Cuと書いてある部分)より十分長いので、ここに書いてあることと合致します。従って、63に飛びます。(追記:Fig. 9のCu脈とA1脈で囲まれた部分はcup室と書くべきなので図を修正しました。なお、cupはposterior cubital cellの略です。ついでに、brとbmはそれぞれbasal radial cellとbasal medial cellの略で、日本語では第1基室と第2基室になります)
63では、第3触角節に刺毛があるかどうかという点ですが、Fig. 7のようにあります。さらに、r-m横脈は中央より翅の根元側にあります。また、M脈は2つに分かれ、M1+2脈はR4+5脈と離れて翅端に達しています。それで、64に進みます。Fig. 7でも分かりますが、触角の刺毛には節があるようには見えません。そこで、65に向かいます。Fig. 8を見ると、Rs脈は肩横脈(hと書いてある部分)から離れて分岐していて、Rs脈基部の長さはh脈よりははるかに長いので、結局、オドリバエ科になります。
ここで、ちょっと一服したい感じですが、続けてオドリバエ科の属の検索を行います。今度は、三枝豊平氏の科研費報告書「双翅目(ハエ目)昆虫の検索システムに関する研究」(平成7年)(こちらからpdfがダウンロード可能)を使わせていただきました。これも、最終的にはPlatypalpus属(モモブトハシリバエ属)になるのでその部分だけを抜粋して載せます。
ここで面白い言葉が出てきました。捕獲脚です。1は前脚にあるか、45は中脚にあるかという内容です。これについては後で載せることにして、その他の項目を最初に見ていきます。まず、2は翅に中室がないのでOK。42は平均棍の前方の刺毛塊についてで、おそらくFig. 2の白矢印の部分に刺毛があるかどうかだと思うのですが、ありません。43はFig. 8を見ると、M脈は2本で、また、翅腋葉は発達していません。
残りは捕獲脚です。
これはハエを前方から見たところですが、中脚がえらい構造をしています。何やらカマキリの脚を連想させます。まず、腿節は太くなり、下側は弓なりに湾曲しています。それに対応するように、脛節も弓なりに湾曲しています。その間には刺のような構造が見えます。これがどうやら捕獲脚のようです。少し拡大してみます。
ちょっと恐ろしいような構造ですね。こんな構造を体長わずか3.9mmの虫が持っているなんてちょっと驚きです。でも、これでPlatypalpus属(モモブトハシリバエ属)であることが分かりました。"platy"というのはラテン語で平らという"flat"の意味、それに"palpus"は口肢なので、平らな口肢という意味ですね。小顎鬚が平らなことを言っているのでしょう。
Platypalpus属についての説明は「大図鑑」でもわずかしか載っていないので、ちょっと論文を探してみました。
上記の論文(ここからpdfがダウンロードできます)に特徴がまとめられていました。左右の複眼が分離しているというのはFig. 4-6あたりを見ると分かります。それにしても大きな複眼ですね。これは♀の個体なので、♂はどうなっているのかは分かりません。3の肩部はFig. 2と3に載っています。発達しているかどうかは比較の問題なのでよく分かりません。4は中胸盾板が長細いこと、5は中脚が捕獲脚であることです。脛節末端の刺は次の写真を見て下さい。(追記:項目6の内容を勝手に解釈し、cua室と書いていたのですが、ここは原文通りcup室と書くべきなので書き換えました)
この写真の矢印の部分になるはずなのですが、実ははっきりしません。Manual of Nearctic Diptera(ここからダウンロード可能)に載っているPlatypalpus trivialisはもっとはっきりした刺を持っています。ここがちょっと不安材料です。最後の翅脈はFig. 9の方の図を見ると言っている意味がよく分かります。
ということで、おそらくオドリバエ科のPlatypalpus属(モモブトハシリバエ属)でほぼ間違いないと思うのですが、ちょっと不安材料も抱えています。それにしても口吻のあたりといい、捕獲脚といい、こんな小さな虫なのにとんでもない構造を持っているのには驚いてしまいました。捕獲脚というはエサをつかむための構造だと思うのですが、前脚なら分かりますが、中脚だけにあるというのはどんな使い方をするのでしょうね。(追記:Platypalpusで画像検索すると、中脚で獲物の脚を挟みながら体液を吸っている画像が見つかりました《リンクを張ってよいのかどうか分からないので、検索してみてください》。中脚をこんな風に使うのだなと感心して見てしまいました。人がものを足でおさえ、手を使って何かをするやり方と似ていますね)
(追記:上の記事で「大図鑑」にはPlatypalpus属のことがわずかしか載っていないと書いたのですが、実は、結構詳しく載っていました。それで、ここに転載したいと思います。
この中では、2の触角第3節が三角形なこと《Fig. 7を見ると確かにそうです》、3の肩部が発達していることを『肩瘤』と書いてあること、4では、Fig. 8のbmは第2基室ではなくて第2基室+中室と解釈するらしいことが分かります。また、6では『中脛節は基部が膝状に屈曲し』とありますが、Fig. 11で脛節を曲げた時に平らになっている部分のことかなと思っています)
まず、対象としたハエはこんな虫です。
体長はわずか3.9mmしかないのですが、それでも拡大してみるといろいろと面白い構造を持っていました。横から見た姿を載せます。
口のところが特に面白いですね。何だか鳥のくちばしのようなものがあります。まず、これが何の仲間なのか、「原色昆虫大図鑑III」の双翅目の検索表を使って調べてみることにしました。昨日も書きましたが、これは短角亜目に属するので、その部分の検索表を載せておきます。全部載せるのは大変なので、このハエがオドリバエ科であることを知って、その部分だけを抜粋して載せることにします。
関連する写真を載せます。まず、側面からの拡大写真です。
次は背側からです。
頭部と触角の拡大写真も載せておきます。
これは真上からです。
横からです。本当に面白い格好をしていますね。
そして、後ろからです。
最後は触角です。触角は3節まであって、長いのは刺毛だそうです。
さて、最初の検索表に戻って調べてみましょう。なお、私はハエについてはまったくの素人ですので、そのつもりで見てくださいね。最初の43と44の項目はそれぞれ、イエバエなどの普通のハエとアブ類を除外する項目なのでパスします。次の小顎鬚はFig. 4か5あたりを見ると分かりますが、節には分かれていないようです。従って、1-2節から構成されるというのは合っているみたいです。触角鞭節というのは第3節以降をいいます。Fig. 7でも分かりますが、刺毛は生えていますが、小節には分かれていないようです。従って、56に進みます。56は翅脈に関することなので、翅の写真も載せます。
翅脈は論文やネットに載っている名称と「大図鑑」の名称が若干異なっていて、ちょっと混乱するので、両方のやり方で名前を付けてみました。合っているどうかは分かりませんが・・・。上は「大図鑑」風、下は論文やネットに載っているやり方です。さて、56のCuA脈については上の方の写真を見て下さい。翅の後縁とはるかに離れたところでCuP脈と融合しています。その融合部の長さはCu脈の基部(Cuと書いてある部分)より十分長いので、ここに書いてあることと合致します。従って、63に飛びます。(追記:Fig. 9のCu脈とA1脈で囲まれた部分はcup室と書くべきなので図を修正しました。なお、cupはposterior cubital cellの略です。ついでに、brとbmはそれぞれbasal radial cellとbasal medial cellの略で、日本語では第1基室と第2基室になります)
63では、第3触角節に刺毛があるかどうかという点ですが、Fig. 7のようにあります。さらに、r-m横脈は中央より翅の根元側にあります。また、M脈は2つに分かれ、M1+2脈はR4+5脈と離れて翅端に達しています。それで、64に進みます。Fig. 7でも分かりますが、触角の刺毛には節があるようには見えません。そこで、65に向かいます。Fig. 8を見ると、Rs脈は肩横脈(hと書いてある部分)から離れて分岐していて、Rs脈基部の長さはh脈よりははるかに長いので、結局、オドリバエ科になります。
ここで、ちょっと一服したい感じですが、続けてオドリバエ科の属の検索を行います。今度は、三枝豊平氏の科研費報告書「双翅目(ハエ目)昆虫の検索システムに関する研究」(平成7年)(こちらからpdfがダウンロード可能)を使わせていただきました。これも、最終的にはPlatypalpus属(モモブトハシリバエ属)になるのでその部分だけを抜粋して載せます。
ここで面白い言葉が出てきました。捕獲脚です。1は前脚にあるか、45は中脚にあるかという内容です。これについては後で載せることにして、その他の項目を最初に見ていきます。まず、2は翅に中室がないのでOK。42は平均棍の前方の刺毛塊についてで、おそらくFig. 2の白矢印の部分に刺毛があるかどうかだと思うのですが、ありません。43はFig. 8を見ると、M脈は2本で、また、翅腋葉は発達していません。
残りは捕獲脚です。
これはハエを前方から見たところですが、中脚がえらい構造をしています。何やらカマキリの脚を連想させます。まず、腿節は太くなり、下側は弓なりに湾曲しています。それに対応するように、脛節も弓なりに湾曲しています。その間には刺のような構造が見えます。これがどうやら捕獲脚のようです。少し拡大してみます。
ちょっと恐ろしいような構造ですね。こんな構造を体長わずか3.9mmの虫が持っているなんてちょっと驚きです。でも、これでPlatypalpus属(モモブトハシリバエ属)であることが分かりました。"platy"というのはラテン語で平らという"flat"の意味、それに"palpus"は口肢なので、平らな口肢という意味ですね。小顎鬚が平らなことを言っているのでしょう。
Platypalpus属についての説明は「大図鑑」でもわずかしか載っていないので、ちょっと論文を探してみました。
上記の論文(ここからpdfがダウンロードできます)に特徴がまとめられていました。左右の複眼が分離しているというのはFig. 4-6あたりを見ると分かります。それにしても大きな複眼ですね。これは♀の個体なので、♂はどうなっているのかは分かりません。3の肩部はFig. 2と3に載っています。発達しているかどうかは比較の問題なのでよく分かりません。4は中胸盾板が長細いこと、5は中脚が捕獲脚であることです。脛節末端の刺は次の写真を見て下さい。(追記:項目6の内容を勝手に解釈し、cua室と書いていたのですが、ここは原文通りcup室と書くべきなので書き換えました)
この写真の矢印の部分になるはずなのですが、実ははっきりしません。Manual of Nearctic Diptera(ここからダウンロード可能)に載っているPlatypalpus trivialisはもっとはっきりした刺を持っています。ここがちょっと不安材料です。最後の翅脈はFig. 9の方の図を見ると言っている意味がよく分かります。
ということで、おそらくオドリバエ科のPlatypalpus属(モモブトハシリバエ属)でほぼ間違いないと思うのですが、ちょっと不安材料も抱えています。それにしても口吻のあたりといい、捕獲脚といい、こんな小さな虫なのにとんでもない構造を持っているのには驚いてしまいました。捕獲脚というはエサをつかむための構造だと思うのですが、前脚なら分かりますが、中脚だけにあるというのはどんな使い方をするのでしょうね。(追記:Platypalpusで画像検索すると、中脚で獲物の脚を挟みながら体液を吸っている画像が見つかりました《リンクを張ってよいのかどうか分からないので、検索してみてください》。中脚をこんな風に使うのだなと感心して見てしまいました。人がものを足でおさえ、手を使って何かをするやり方と似ていますね)
(追記:上の記事で「大図鑑」にはPlatypalpus属のことがわずかしか載っていないと書いたのですが、実は、結構詳しく載っていました。それで、ここに転載したいと思います。
この中では、2の触角第3節が三角形なこと《Fig. 7を見ると確かにそうです》、3の肩部が発達していることを『肩瘤』と書いてあること、4では、Fig. 8のbmは第2基室ではなくて第2基室+中室と解釈するらしいことが分かります。また、6では『中脛節は基部が膝状に屈曲し』とありますが、Fig. 11で脛節を曲げた時に平らになっている部分のことかなと思っています)
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