FC2ブログ

マダラバッタの発音器

先日、中学生と虫取りをしたときに、中学生が採集したバッタを調べています。マダラバッタらしいことは分かったのですが、きちんと調べようと思って、

日本直翅類学会編、「バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑」、北海道大学出版会 (2006).

に載っている検索表を使って調べていきました。でも、トノサマバッタ亜科を分ける際、「ヤスリ(状発音)器は前翅にある。摩擦器は後腿節内側の中央の長架。」という項目が分からず、なかなか進みませんでした。その後、前翅にそれらしい構造を見つけたのですが、本当かどうかよく分かりません。それで、もう少し調べてみることにしました。



調べたのはこんなバッタです。発音器・摩擦器のあたりがよく分からなかったのですが、これに対抗する項目はヒナバッタ亜科で、こちらは後腿節にpeg状の突起列を持つというので、それではないだろうと思って検索を進めると、予想通りマダラバッタになりました(検索過程はこちらこちらを見てください)。



その時に見つけた構造というのがこの写真です。これは前翅の中央か、その翅端側全体に見られ、縦脈よりも横脈の方が顕著でした。この構造はSnodgrassがイナゴモドキについて描いた図とよく似ている感じがしました。

R. E. Snodgrass, "Insects, their Ways and Means of Living", Smithonian Scientific Series Vol. 5 (1930). (ここからダウンロードできます)

今回はもう少し詳しく調べてみようと思って、冷凍庫にしまっておいたもう1匹について調べてみました。2匹捕まえた1匹については片側だけの展翅標本を作っているので、後の1匹については翅と後脚をはずして調べてみました。



これは翅の中央部を見たのですが、個体が違っても規則正しい突起列の構造が見られます。やはり横脈の方が顕著です。



翅を中央付近でハサミで切って、その断面を見てみようと思いました。



まずは10倍の対物鏡です。あまりはっきりとは見えません。





それで40倍の対物鏡にしてみました。横脈上に周期的な突起があることは確かです。



翅の中央から翅端側全体にこのような構造があるのですが、突起は丸印で示した辺りで特に顕著でした。もし、この構造が発音器なら、この部分を使っているのかもしれないと考えられます。



次は後腿節内側を見てみました。内側には3本の筋がありますが、検索表に載っている絵ではこの中側にある黒矢印で示した筋が「中央の長架」に相当します。この筋、よく見ると、腿節の付け根側(向かって左側)では高さが低く、先端側では高さが高くなっています。



少し斜め後ろ側から写してみました。矢印で示した筋はだいたい黄破線で示した領域では前後の筋より高くなっています。たぶん、この部分を使って摩擦するのかもしれないなと思いました。





それで、赤四角で囲った部分を拡大してみました。つるつるだったら摩擦器にはならないだろうからと思ったからですが、拡大してみると、やはり細かい皺がいっぱい入っています。



今度は実際のバッタの写真に腿節のでっぱり部分を当てはめてみました。腿節は右下の青丸を支点として回転運動します。腿節の各点の動きを黄色の線で示しました。もし、摩擦器が腿節の基部近くにあれば薄い黄色の線の部分を摩擦することになります。腿節内側の中央の筋が高くなる領域を黄色の太い線で表しました。この2本の曲線の間に挟まれた領域に前翅の発音器があればうまく摩擦できるのではと考えました。腿節を同じ角度だけ回転させると、基部ならわずかな距離しか動きませんが、先端では大きく動くので先端側の方が明らかに効率的です。



上の写真とこの翅の写真をうまく重ねて、腿節の支点の位置を決め、同じような黄色の線を引いてみました。黄色の太い領域が腿節内側の筋が高くなっている部分です。そこに前翅の横脈上の突起が顕著な部分(赤丸)を重ねてみました。見事に合致します。



バッタ全身の写真に当てはめるとこの写真のようになります。赤い丸印で示した部分が発音器のあると思われる部分、黄色の太い線分が摩擦器があるだろうと思った場所です。

実際にバッタが音を出しているところを見たことがないので何とも言えないのですが、代わりに次のような論文を見つけました。

O. von Helversen and N. Elsner, "The Stridulatory Movements of Acridid Grasshoppers Recorded with an Opto-electronic Device", J. Comp. Physiol. 122, 53 (1977). 

これはバッタの腿節に光を反射するようなテープをつけ、これに光を当てて、その反射した光の位置変化から腿節の動きを調べ、同時に発音したかどうかを録音で調べたという論文です。微妙な腿節の動きと発音との関係がよく分かる面白い論文です。この論文ではヒナバッタについて実験を行っているのですが、こんな実験をするとよく分かるかもしれないなと思いました。

追記2018/11/20:meg*neu*a*1さんから、「バッタの発音は、♂だけではないでしょうか?」というコメントをいただきました。実は、私もその辺はよく分からなかったのですが、次のサイトにヒナバッタ亜科では♂がcalling songを発音すると、それに答えて♀はresponse songを発音し、やがて両者はduetをして、互いに近づいていくというような記述があったので♀にもあるのかなと思いました。また、検索表にもトノサマバッタ亜科では♂♀が規定されていなかったので、やはりと思って調べてみたら、それらしいものが見つかったというのが実情です。今年はなぜかマダラバッタが山ほどいるので、今度♂を捕まえてきてその違いを調べてみたいと思います。コメント、どうも有難うございました
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

No title

毎日、とても楽しみにして読ませて頂いております。バッタの発音は、♂だけではないでしょうか?

No title

meg*neu*a*1さん、こんにちは

実は、私もその辺はよく分からなかったのですが、次のサイトにヒナバッタ亜科では♂がcalling songを発音すると、それに答えて♀はresponse songを発音し、やがて両者はduetをして、互いに近づいていくというような記述があったので♀にもあるのかなと思いました。

http://www.vedenina.iitp.ru/PREFER/prefer_e.htm

また、検索表にもトノサマバッタ亜科では♂♀が規定されていなかったので、やはりと思って調べてみたら、それらしいものが見つかったというのが実情です。今年はなぜかマダラバッタが山ほどいるので、今度♂を捕まえてきてその違いを調べてみたいと思います。コメント、どうも有難うございました。

No title

これは、失礼しました。ツユムシの仲間が♀も発音すると聞いたことはありますが、ヒナバッタ亜科でも♀が発音するんですね。

No title

マダラバッタがそうなのか、よく分かりません。今さっき、公園に行って、マダラバッタ3♂とショウリョウバッタ2♂を捕まえてきました。これから見てみます。どうなるか楽しみです。これからもよろしくお願いします。
プロフィール

廊下のむし

Author:廊下のむし

カテゴリ
リンク
最新記事
最新コメント
カウンター
月別アーカイブ