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虫を調べる ミドリイエバエ?

先月16日にいつも行く道路脇の茂みで虫を探していたら、こんなハエを見つけました。



緑色の綺麗なハエです。てっきりキンバエの仲間だと思いました。最近、キンバエは少し調べられるようになったので、早速、採集しました。しばらく毒瓶に入れっぱなしだったのですが、最近、取り出して観察してみました。でも、どうも変です。キンバエはクロバエ科に入っていて、普通、中副基節というところに剛毛列があるのですが、これにはありません。あれっと思って科の検索をしてみると、どうやらイエバエ科みたいです。それで、篠永哲氏の「日本のイエバエ科」(東海大学出版会、2003)の図版を見てみると、緑色でこんな風に光沢のある種がいました。ミドリイエバエの仲間です。それで、一度、ちゃんと調べてみようと思って、科、亜科、属、種の検索をしてみました。その結果、予想通り、ミドリイエバエ Nomyia timorensis に到達しました。間違っているかもしれませんが、一応、記録のために検索の過程を書いておくことにします。





イエバエ科の検索には様々な部位の名称が出てくるので、まず最初にまとめておくことにしました。刺毛も出てくるのですが、それは後でまとめてみることにします。これはハエの胸部側面とその拡大です。略号の意味は次の表のとおりです。



英語と日本語の名称は「新訂原色昆虫大図鑑III」(以後、「大図鑑」と略します)に依っています。「大図鑑」にも書かれていますが、文献によって名称がかなり違っています。それで、今回は「大図鑑」に載っている名称に統一することにしました。略称は基本的に英語名の頭文字を使うことにしました。従って、あまり一般的でない略称が並んでいると思いますので、ご了承下さい。後から出てきますが、ここでちょっと問題になるなと思ったのは、中副基節(mm)と中胸下後側板(mkem)です。上の写真のように両者ははっきりした溝で分かれていません。このことについては、「大図鑑」にも書かれていますが、短角類の一部では両者は融合し副基節側板を構成するとあるので、この場合もそれに該当するのではと思いました。その場合は「大図鑑」にもある通り、中胸下後側板+中副基節と書くべきだと思ったのですが、検索表では別々に出てくるので、とりあえず分けて書いておきました。



まずは科の検索です。これには、「大図鑑」に載っている検索表を用いました。有弁翅類から始めると、上の4項目を確かめることでイエバエ科であることが分かります。これを写真で見ていきたいと思います。



まず、体長は5.9mmでした。測ってみると意外に小さなハエでした。複眼の周辺が白くなっているのは乾燥のためです。虫をノンアセトンタイプのエナメルリムーバーの入った毒瓶に入れておくと、含まれている水分のために長時間乾燥せずに保管することができますが、外に取り出すと次第に乾燥するので、こんな風に白っぽくなってきたのではと思います。あまり乾燥する前に、さっさと写真を撮って、再び、毒瓶の中に保存しておくと、少なくとも1-2か月はそのままの状態で置いておけます。この写真では口器が発達していることを見ます。



次は先ほども出した胸部側面の写真です。中副基節(mm)にクロバエ科やニクバエ科などに見られるような剛毛列はありません。最初、これを見てびっくりしたのです。実は、無毛ではなく、弱い毛が若干生えていますが、これについては後でお見せします。



次は翅脈です。翅の中央部分に縦脈に垂直に筋があるのは翅を固定するためにガラスを置いたためです。翅脈の名称も文献によりまちまちなのですが、ここでは「大図鑑」の方式を採用しました。私は以前、三枝氏の論文を読んで、ハエの翅脈の勉強をしました(ここから4回のシリーズで勉強した内容が書かれています)。これを読んでから、私はすっかり三枝氏の説のファンになりました。でも、文献を見る限り、世界的にはそれほど受け入れられていないような印象です。残念ですが・・・。ここではCu融合脈(CuA+CuP)が翅縁に達していないこと(矢印)とA1の仮想延長線がCu融合脈の仮想延長線と交わらないことを見ます。これで、検索項目はすべて確かめたので、たぶん、イエバエ科は間違いないのではと思います。



次は亜科の検索です。イエバエ科の亜科の検索は以前までは篠永哲氏の「日本のイエバエ科」に載っている検索表を用いていたのですが、どうもうまくいかなくて困っていました。そんな時に次の論文を見つけました。

大石久志、村山茂樹、「日本産イエバエの同定」、はなあぶ No. 37, 100 (2014).

早速、「はなあぶ」を購入しました。この論文は、「日本のイエバエ科」を多くの人に使ってもらえるようにと手引書をつくることに主眼を置いたもので、大変含蓄のある内容です。この中に載っている検索表を用いると、うまく亜科の検索ができるようになりました。このハエも検索を行ってみると、イエバエ亜科になりました。詳しく言うと、イエバエ亜科の中のMuscaの一部、Eudasyphora、Neomyia、Stomoxysの各属になります。次に属の検索をするときは、「日本のイエバエ科」を用いたので、若干の検索項目の重複がありますが、ご了承ください。ともかく、上の2項目を調べることで、イエバエ亜科であることが分かります。これも写真で見ていきます。



これも最初に載せた写真と同じです。下後側板はmkemと書いた部分だと思われますが、中副基節との境界がはっきりしないので、たぶん、ここは下後側板+中副基節と書いておいた方がよいのではと思ったところです。ここには白矢印で示すように少数の弱い刺毛が見られます。これで⑤はOKとしました。⑥の上後側板はmaemと書いた部分です。この部分には黒矢印で示すように明瞭に多数の刺毛が見られます。これで⑥もOKとしました。



次は翅脈でM1+2は前方に曲がっています(黒矢印)。これで、⑤の後半もOKです。ということで、イエバエ亜科まで到達しました。

次は属の検索です。これには「日本のイエバエ科」の検索表を用いました。この本では日本語と英語の検索表が載っていて、結構、両者の内容が違っていることがあるのですが、今回はほぼ同じなので、日本語の検索表の方を用いました。



属の検索ではこの6項目を調べることでミドリイエバエ属であることが確かめられます。これも写真で見ていきます。



これは⑦、⑫の検索を確かめる写真です。写真の上側が胸部、下側が翅になっています。下部鱗弁というのは基覆弁のことで、幅の広い鱗弁が胸部側面に沿ってついていることが分かります。また、その付け根の部分に剛毛の生えた上肋部(黒矢印)があります。これで⑦と⑫はOKにしました。



翅側板は上後側板のことで、これについてはすでに確かめました。



翅脈についてもすでに確認済みです。



これは小盾板を写したものですが、長い刺毛が3対見られます(白矢印)。これで、⑨もOKです。



⑩は色に関するもので、これは大丈夫です。複眼の白い部分がだいぶ広がってきました。早く、撮影を終えないと・・・。



これは翅脈のうち、R1脈を拡大して写したものです。写真で見る限り、背面には剛毛などはありません。ということで、一応、すべての項目を確認したので、ミドリイエバエ属の可能性が高くなりました。次は種の検索ですが、ここでは胸部の刺毛について出てくるので、そのまとめを含めて次回に回します。
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