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廊下のむし探検 雑談

スマホの緊急速報がとてつもなく大きな音を立てるので、そのたびに飛び上がっています。マンションの窓から外を覗いてみると、いつも行っている川も水量が増し、水がごうごうと音を立てて流れています。こんな日に虫探しをするのもどうかと思って、今日は家でじっとしていることにしました。



1)ハナアブ科Cheilosia属の検索をしているときに、検索表に出てくる後基節橋がよく分からないと書いたら、フトツリアブさんから、後基節窩の後ろ側にある構造で、MNDに絵が載っていると教えていただきました。それで、早速、その部分の写真を撮影してみました。これは後脚の根元を後ろ側から写したものです。MNDの絵と比べてみると、黄矢印の部分がそれだと思うのですが、どう見ても膜質のような感じです。「橋」というからには硬質のものだと思うので、この個体は後基節橋がないのかなと思いました。

2)今日は次の論文を読んでみました。

R. Futahashi et al., "Extraordinary diversity of visual opsin genes in dragonflies", Proc. Nat. Acad. Sci. 112, E1247 (2015). (ここからダウンロードできます)

トンボの視覚に関係するオプシンというタンパク質をコードする遺伝子を調べたら、15~33種もあり、幼虫と成虫の複眼の背側、腹側、単眼でそれぞれ種類が違っていたという内容の論文です。

二橋亮、「トンボのRNAseq解析とオプシン遺伝子―マニュアル・アセンブリの重要性―」、蚕・昆虫バイオテック 85, 13 (2016). (ここからダウンロードできます)

日本語の解説もあったのですが、テクニカルな内容がほとんどで、どうしてこんなにオプシンの種類が多いのかとか、幼虫、成虫の複眼の背側、腹側、単眼でなぜ異なるオプシンが使われているのかというような、知りたい部分についてはほとんど書かれてはいませんでした。いろいろなトンボの種で調べておられるのですが、簡単のためにアキアカネに限って要約してみることにします。

まず、動物の眼には視物質があり、これが光を検出する一番根本の物質になっています。この視物質はロドプシンと呼ばれ、オプシンというタンパク質とレチナールという色素がくっついてできています。オプシンの構造が微妙に変わるとレチナールとの結合の仕方が変わり、検出する色も変化するという仕組みになっています。ヒトの場合には、赤、緑、青の三原色に対応する3種類のロドプシンと、暗いところで明暗を検出するロドプシンの4種類のロドプシンを持っています。この4種類のロドプシンに対応して、4種類のオプシンがあり、それぞれ4種類の遺伝子が対応しています。

哺乳類はもともと夜行性だったので色覚については3種類のロドプシンだけを持っていますが、鳥などは紫外線を検出するロドプシンも持っているので、4原色になっています。一方、たいていの昆虫は赤色が見えないので、紫外、青、緑の3原色になっています。これに対して、トンボはこれが10数種以上もあるということなのです。それらをアキアカネでまとめてみると次の表のようになります。



Rhはロドプシン、UVは紫外線、SWは短波長、LWは長波長の略です。従って、RhUVと書いたものは紫外を検出するロドプシンに対応するオプシン(正確には遺伝子かな)という意味だと思います。つまり、紫外線を検出する視物質は幼虫でも成虫でも変わりがないということです。短波長というのは青色付近、長波長というのは赤色付近を表していると思いますが、これを検出する視物質は幼虫、成虫の背側、腹側でそれぞれ違います。

視物質の種類が多いというのは、それだけ色を精密に検出できるのだと解釈すれば、幼虫では主に赤色側を検出し、成虫の複眼の背側は主に青色付近を、そして腹側は赤色付近、それに単眼も赤色付近を検出していることになります。このような違いは幼虫や成虫の生活環境や生活様式に適応しているのだと考えられます。例えば、成虫の複眼の背側は主に青空を見ているので青色付近の視物質の種類が多いということは分かりますが、普段はそれほど色を細かく見る必要がなさそうな気もします。これに対して、筆者はたそがれ時の狩りのときに、シルエットになって飛ぶ餌となる虫を見分けないといけないので、それに役立つかもしれないと考えているようです。一方、複眼の腹側は縄張りや♀を発見するとき、餌をとるときなどに使うので、青よりは赤色の色検出を精密にした方が有利だというようなことだと思います。ただ、ヒトでは3原色で十分に細かい色の違いを検出しているのに、どうしてこれほどまでに多くの視物質を用意しないといけないのかというのはよく分かりません。ひょっとすると、3原色の視物質の情報からそれを色に変換する脳の機能が十分でないからかもしれません。いずれにしても、複眼の上下で検出する色が違うことだけは確かみたいです。

追記2018/07/12:通りすがりさんから、「トンボが色を見分けるのに多くの視物質が必要なのは、脳が発達していないから…と言うのはありそうな話ですね。昆虫の脳は小さな脳神経節ですし。また、他の昆虫より多いと言うのであれば、トンボが比較的原始的な特徴を残していることにも関係あるのかもしれませんね。複眼の模様を見る度にいろいろ想像できるネタですね。アミメクサカゲロウやモンシロチョウの複眼の模様、ヤマトシジミと言った極普通のチョウの複眼が何故他のシジミチョウと違うのか…なんて疑問に思うと、かなり深みに嵌まりそうですが。」というコメントをいただきました。

虫の色覚は面白そうですね。ヒトの場合はR、G,Bの視物質で検出した光量をアナログ的に組み合わせて無限に多くの色を検出しているのですが、トンボはデジタル的に取り出しているのかもしれません。例えば、AからEまでの5つの視物質がある場合、これはAとCが検出されたから〇色、これはA、B、Dが検出されたから〇色という具合にです。そうすると、全部で32通りの色が検出できることになります。幼虫と成虫複眼の上下の違いは生活をしていく上で必要な色が少しずつ異なるので、別の視物質を用意したということかな

3)夕方から次のハエを調べてみました。



これは6月9日採集したものですが、吸虫管で吸ってそのまま冷凍庫に入れておいたら、翅は破れ、触角が取れてしまっていました。それでも、「絵解きで調べる昆虫」で検索してみると、シマバエ科になりました。そこで、株式会社エコリスのホームページにある「日本のシマバエ科 属への検索試案」を使って調べてみました。その結果、Minettia属になったのですが、どうだか分かりません。今、顕微鏡写真を整理しているところです。

4)雨も降っているし、何もできないなと思って、頼まれていた原稿を書いてみました。2ページの量だったので意外に早く書きあがりました。やはり日ごろブログをせっせと書いているのが役に立ってますね。
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No title

こちらは雨も落ち着いてきましたが、そちらはまだ大変そうですね。
水には絶対に敵わないので、無理と無茶は禁物です。

トンボが色を見分けるのに多くの視物質が必要なのは、脳が発達していないから…と言うのはありそうな話ですね。
昆虫の脳は小さな脳神経節ですし。
また、他の昆虫より多いと言うのであれば、トンボが比較的原始的な特徴を残していることにも関係あるのかもしれませんね。
複眼の模様を見る度にいろいろ想像できるネタですね。
アミメクサカゲロウやモンシロチョウの複眼の模様、ヤマトシジミと言った極普通のチョウの複眼が何故他のシジミチョウと違うのか…なんて疑問に思うと、かなり深みに嵌まりそうですが。

No title

雨雲が少し北側を通るようになったので、こちらもやっと小康状態になりました。

虫の色覚は面白そうですね。ヒトの場合はR、G,Bの視物質で検出した光量をアナログ的に組み合わせて無限に多くの色を検出しているのですが、トンボはデジタル的に取り出しているのかもしれません。例えば、AからEまでの5つの視物質がある場合、これはAとCが検出されたから〇色、これはA、B、Dが検出されたから〇色という具合にです。そうすると、全部で32通りの色が検出できることになります。幼虫と成虫複眼の上下の違いは生活をしていく上で必要な色が少しずつ異なるので、別の視物質を用意したということかな。

例年、市役所で自然展をしているので、パネルを出しているのですが、今年は昆虫の眼について出してみようと思っていました。コカゲロウのターバン眼、クロバネキノコバエの眼橋、この間のミズアブの眼とか、ハエの眼の模様とか。そういえば、アミメクサカゲロウやモンシロチョウの眼も変わっていますね。ヤマトシジミの眼も違うのですか。雨が止んだらさっそく写真を撮りに行こうっと。ヒントをいただきどうも有難うございました。

No title

廊下のむし様

メールを送ったのですが届かないようなので、こちらの書き込みで失礼します。
手短に用件を伝えさせていただきます。
廊下のむしさんの画像をお借りしたく、そのご相談をしたいのですが
他にメールアドレスまたは連絡方法を教えていただくとは可能でしょうか?

No title

このブログ専用のメールアドレスとして
roukanomushi@hotmail.com
があるのですが、こちらにお送りいただいたのでしょうか(今、チェックしたところ、届いてはおりませんでした)。もう一度、お送りいただき、もし、届かないようでしたら、ご連絡先をコメントにお書きいただき、「内緒」というのにチェックして投稿していただけると非公開になるので大丈夫だと思いますが・・・。
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