虫を調べる ミズアブ科Microchrysa属♀
先日、ミズアブ科♂の検索をしたばかりなのですが、もう一匹、6月14日に採集した♀が残っていました。もうだいぶ前に顕微鏡写真などは撮ったのですが、どうも納得がいかなくて、今まで抱え込んでいました。でも、もうそろそろ出しておこうと思って出してみることにしました。従って、かなり怪しい話なので、そのつもりで見ていただければ幸いです。
これも写真で確かめていきたいと思います。
今回調べたのはこんな綺麗なミズアブです。よく見かけるのですが、一度、調べておこうと思って採集しました。まずは左右の眼が離れているので、♀の方です。先日と同様、「ミズアブ図鑑」を見ると、Sarginae亜科のMicrochrysa属辺りに似たような種が見られます。そこで、Sarginae亜科の検索表が載っている次の論文を利用しました。
A. Nagatomi, "The Sarginae and Pachygasterinae of Japan (Diptera: Stratiomyidae)", Transactions of the Royal Entomological Society 126, 305 (1974). (ここからダウンロードできます)
検索表を用いて調べてみると、Microchrysa属は間違いなさそうですが、その先がちょっとはっきりしなくなります。でも、一応、Microchrysa japonicaの♀だろうと思っています。
まずは属の検索です。検索は①→②bと進みますが、赤字ははっきりしなかったところや確かめられなかったところで、かなりいっぱいあります。とりあえず、それ以外の部分を写真で確かめていきたいと思います。
まずは側面から撮った写真です。体長は5.6 mmでした。
これは背面からの写真です。①の「腹部が比較的短くて広い」というのはこの写真でよく分かります。
前額は矢印で示した部分ですが、一番狭いのは触角の直上というのはその通りだと思います。
また、前額が隆起していないというのはこの写真でもよく分かります。
次は翅脈です。翅脈の名前はMNDを参考にしながら、「原色昆虫大図鑑III」風につけてみました。最初が大文字なのが翅脈名、小文字が翅室名です。②に書かれているのはcua室とbr+bm室の幅の比較です。実際に測ってみると1: 1.14になりました。先日、Cephalochrysa属だと思った個体は1: 1.38になったので、今回は同程度に広いと言えなくはないですが、やや微妙です。それよりも上の論文にはMicrochrysa japonica♂の翅の写真が載っているのですが、cua室が思いのほか広くてここでかなり迷ってしまいました。でも、M脈が翅縁にまで達していないことは確かです。それで、一応、Microchrysaだろうと思って進んでいきます。
thoracic squamaは胸弁と書いた部分だと思うのですが、これがfan状とはどのような状態を指すのでしょう。分かりませんでした。体の軟毛は先日見たCephalochrysa属よりは短そうです。(追記2018/07/12:フトツリアブさんから、「Microchrysa属の胸弁本体はほとんど裸体に近く,後縁毛があるだけです.写真の毛がふさふさしている部位が問題の扇状の突起です.標本を真後ろ側か下側から除くとよく見えると思います.」というコメントをいただきました。やっと見方が分かりました。今度、後ろ側か下側から見てみます。どうも有難うございました)
最後はまた意味の分からないcerebraleです。これが頭部後縁を指すのなら、この写真のようになり、単眼三角板(B)の方がわずかに長くなります。絵が載っているとこんなに迷わなくてすむのですけど・・・。
ということで、紆余曲折しながら、やっとMicrochrysa属になりました。Cephalochrysa属との差で一番大きなのはM脈が弱いというところかなと思っています。
次は種の検索です。検索は③→④b→⑤と進むことになるのですが、ここでもかなり迷ってしまいました。
複眼が離れていて♀であることは確かです。
♂だと触角鞭節の節数で種の区別ができるのですが、♀は共に3節なので節数では区別ができません。鞭節先端の毛というのは矢印で示した部分だと思うのですが、小さいことは確かです。ただ、論文に載っているMicrochrysa japonicaに比べると毛の生えている部分が少なすぎるようです。flaviventrisでは毛の生えている領域はさらに広いので、これでないことは確かそうなのですが、ここでも迷ってしまいました。
次は後脛節の先端近くにある暗色部分です。背面と腹面が暗色でないのかはこの写真でははっきりしないのですが、まぁ、大丈夫かなと思いました。これで、M. japonicaか、nigrimaculaのどちらかということになります。論文でも♀は区別がつかないそうなので、はっきりとはしたことは言えないのですが、後者の分布が九州、南西諸島なので、除外しても構わないかなと思っています。それで、とりあえずはMicrochrysa japonica♀かもという結論になりました。
次に、先日、行ったような翅の各部の長さを測ってみました。
測ったのは翅縁に沿った i と j の長さです。
それから翅脈のa~hの長さです。これを論文に載っている数値と比較してみました。
これは翅脈の長さの平均値を1と規格化してグラフ化したものです。横軸の1から8はaからhに対応しています。また、CsはCephalochrysa stenogaster、MfはMicrochrysa flaviventris、MjはMicrochrysa japonicaを表しています。赤線が今回の個体の値ですが、心持ち、青色で示したM. japonicaと似ているような気がしないではありません。
横軸の1から6はiからnに対応していますが、この個体では1と2だけが測定可能でした。それで、その部分を比較すると、やはり、M. japonicaに似ている感じです。やはりjaponicaでいいのかなぁ。はなはだ怪しい結果ではあるのですが、とりあえずはMicrochrysa japonica♀ではよいのではという結論になりました。また、機会があったら挑戦してみたいと思います。
ついでに撮った写真です。
これは口器の部分です。
それから、腹部末端の側面と腹面からの写真です。
これでミズアブ2種の検索を終わりました。どうやら、この辺には少なくとも2種のよく似たミズアブがいるようです。これから注目してみていきたいと思います。それにしてもなかなか難しい検索でした。でも、とりあえず、翅を撮影すれば属の違いくらいは分かるかもしれません。
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