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虫を調べる マツムラヒラタカゲロウ

5月17日に家の近くでこんな綺麗なカゲロウを見つけました。



最近、「日本産水生昆虫第二版」と「原色川虫図鑑」という二冊の本を手に入れたので、早速、調べてみようと思って採集しました。でも、検索の最初にある翅脈で引っかかりました。カゲロウの翅脈については以前調べたことがあります。この頃は翅脈についてあまり分かっていなかったので、それほど疑問には感じなかったのですが、本に載っている翅脈の名称の付け方に疑問を感じてしまいました。それで、まず、カゲロウの翅脈について調べてみました。



翅脈の命名法の基本として次のComstockの本があります。

J. H. Comstock, "The Wings of Insects", The Comstock Publishing Company (1918).(ここからダウンロードできます)

この本の中にこのカゲロウと同じだと思われるEpeorus属の翅脈の絵が描かれていました。それを真似して書いたものが上の写真の中の記号です。Comstockの方法は発生段階で翅脈に先だって発達する気管を調べて、それから翅脈間の関連性を調べていく方法です。Comstockは翅脈をC、Sc、R、M、Cu、Aの6つの系統に分け、さらに、R脈をR1とRsに分けていきます。この方式は多くの昆虫の翅脈の命名法の原点になっています。それで、翅の基部を見てみます。



上からC、Sc、Rと脈が基部から出ています。次のM1+2とM3+4は同じ脈から分かれているので、同系統の脈と解釈します。それで、共にM脈とします。M脈はdistal median plate(DMP)という骨状の構造の前側で、Cu脈はDMPの後ろ側と結合することになっているので、M脈とほぼ共通の部分の後ろ側から出ている脈をCu脈とします。それから下の方はA脈の系統になります。+と-の記号は翅面から翅脈が上に凸になっているか、凹になっているかを示しています。一般的に凹凸は互い違いに並んでいて、翅を扇子のように畳めるようになっています。

このように名前を付けてみると何の疑問もないのですが、カゲロウの本を見ると、M1+2→RSとなっていたり、Cu→MPとなっていたりと、Comstockの本からは全く意味のなさないような命名法になっています。これについては次の本に詳しく書かれていました。

N. Kluge, "The Phylogenetic System of Ephemeroptera", Springer-Science+Business Media (2004). (ここからダウンロードできます)

結論から言うと、たいていの昆虫は新翅節に入っていますが、トンボ目とカゲロウ目は旧翅節に入っています。後者では翅脈が基本的に凸と凹が完全に交互に並ぶようになっていて、凸脈は2つに分かれても共に凸になります。その間の整合性を保つため、分かれた二つの凸脈の間に凹脈の間脈ができます。凹脈もまったく同じです。それをKlugeの絵を真似して描いてものが次の図です。



錯覚で+と描いた脈が下になって見えることもありますが、太線で書いた凸脈(+)が上にある方が正しいです。つまり、凸脈(+)は分岐しても凸で、その間には凹(-)の間脈ができています。一方、新翅節では凸脈が途中で凹脈に変化したり、凸か凹のはっきりしない脈もあります。それで、Klugeは広く用いられているComstockの翅脈命名法は新翅節に限るべきだと考えています。それでは旧翅節のカゲロウ目ではどうしたらよいかというと、凸凹凸凹・・・の順番にC、Sc、RA、RS、MA、MB、CuA、CuP、AA、APと形式的に名付けていく方法で、Martynov、Tilliardが提案したものです(追記2018/05/26:Klugeの本にはC、Sc、RAは新翅節のC、Sc、R-R1と相同ですが、その他の脈は相同ではないと書かれています。従って、ここで用いられている名称は形式的なものだと考えた方がよいと思われます)。この方式で名前を付けていくと次の写真のようになります。



確かに、その起源とは関係なしに、+とーが順番に並んでいます。これで全体の名称をつけると次のようになります。



RS脈が分岐する時にはRSaとRSbに分かれ、さらに分岐するときにはRSa1とRSa2という具合になります。MA脈についてはMA1とMA2に分岐するとします。分岐した後、その間に伸びる間脈については"i"の文字を先頭につけて、RSa1とRSa2の間脈にはiRSaなどと呼ぶことにします。こうして出来上がった翅脈の名称がこの図です。翅の後縁部分は後翅が重なって写っているので、別の写真でお見せすることにします。

これでやっとカゲロウの検索表が使えるようになりました。このカゲロウは検索の結果、ヒラタカゲロウ科ヒラタカゲロウ属のマツムラヒラタカゲロウになったのですが、その検索の過程を抜き出すと次のようになります。



この13項目を調べることで確かめられます。検索項目のうち、①~⑦は「原色川虫図鑑成虫編」に載っていたもの、残りは「日本産水生昆虫第二版」に載っていたものです。赤字は写真がない項目です。実はあるのですが、乾燥してしまって汚くなっていたので、今回はパスです。これをまた、写真で確かめていきたいと思います。今回は部位別に見ていきます。



まず、尾が2本であることはすぐに分かります。



次は頭部と胸部を背面から写したものです。④は眼がコカゲロウ特有のターバン眼になっていないことを見ます。ターバン眼についてはここで少し書きました。⑥のMNsというのは黄矢印の部分に走る横溝のことのようです。これにはないので、これでOKです。



また、翅脈ですが、①と④は問題なさそうです。



②については、MP2はかなり手前でMP1に合流しています。モンカゲロウなどはMP2がもっと基部まで伸びて大きく湾曲します(こちらで見られます)。後は翅の基部にある黒い模様です。黒い線が直角状に曲がっているのでL字型というのだと思います。これで⑩~⑫はOKです。



前翅後縁近くを見てみます。Cu区というのはCuAとCuPで挟まれた部分で黄色の三角で示すように4本の長い間脈があります。他にももっと短い間脈があるみたいですが、それは無視するようです。



次は後翅です。これがうまく撮影できませんでした。②はOKでしょう。⑦については実際に縦横比を測ってみると2.04倍になりました。検索表では1.5倍程度か2倍以上を選ぶことになるのでなんとも言えないのですが、2倍以上を選ぶとオビカゲロウ属になります。でも、たぶん、大丈夫かなと思って、1.5倍程度を選んで次に進みました。



これは♂なのですが、その腹部末端です。長い突起が把持子で、二つに分かれたガラス状の部分が陰茎です。もう少し拡大してみます。



⑧は陰茎が先端が二つに分かれていることを言っているのだと思います。⑨、⑬あたりは「原色川虫図鑑成虫編」に載っている写真を見ながら、判断していったのですが、たぶん、大丈夫だと思います。ということで、マツムラヒラタカゲロウになったのですが、決め手はこの陰茎の形でした。この部分は少し斜めからも撮っているので、載せておきます。



ガラスのようなプラスティックのような感じに見えますが、何でできているのでしょうね。

今回はカゲロウの検索をやってみました。よく分からなかった翅脈の命名法が少し分かったような気になったところがよかったかな。また、今度トライしてみます
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