虫を調べる カシノアカカイガラムシ?
毎年今頃になると家の近くの公園のシラカシの木の幹に小さくて赤い虫がぽつぽつつき始めます。
小さいのですが、拡大するとこんな感じの虫です。ネットで調べてカシノアカカイガラムシらしいことが分かったのですが、初めのころはあまり動かないし、特徴もあまりないので、もっぱら接写の練習用に使っていました。
今年は例年より早い3月24日に見つけました。カシノアカカイガラムシという名前はネットで調べたのですが、本当にその種で合っているのだろうかとだんだん気になってきました。それで、まず、「日本昆虫目録第4巻」を見てみました。カシノアカカイガラムシはアカカイガラムシ科 Kuwaniidaeに属していて、学名はKuwania quercusです。Kuwania属にはその他にもマテバシイアカカイガラムシ K. pasaniaeという種も載っていました。それで、ちょっと調べてみる気になりました。3月31日に小さなサンプル管に消毒用アルコールを入れて、ピンセットの上に一匹だけ載せてサンプル管に入れました。
S. Wu et al., "The taxonomy of the Japanese oak red scale insect, Kuwania quercus (Kuwana) (Hemiptera: Coccoidea: Kuwaniidae), with a generic diagnosis, a key to species and description of a new species from California", Zootaxa 3630, 291 (2013). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)
この文献を見ると、K. quercusについて詳しく載っていました。もともとはKuwana氏が東京と九州でコナラ属 Quercusの木についているところを発見し、Sasakia quercusという名前をつけて1902年に発表したものでした。Cockerellは翌年、Sasakiaという属名が鱗翅目タテハチョウ科ですでに使われているということでKuwaniaという属名に変更しました。それ以降、Kuwania属は日本だけに産するカイガラムシとして知られていました。1950年代になるとKuwania属は中国、朝鮮半島でも見つかり、広く旧北区と東洋区に分布していることが分かりました(旧北区はヨーロッパ、北アジア、中央アジア、東アジア、北アフリカまで含む生物地理区、東洋区は東アジア南部、東南アジア、インドあたりで、日本は大部分旧北区に属し、南西諸島が東洋区に属します)。現在では6種が知られているそうです。
K. quercusは年1化で、3月終わりごろ孵化した幼虫が木の裂け目などに潜みます。1齢幼虫は0.25mm程度で脚は6本、触角は6節で、尾に長い毛を2本持っています。その後の中間齢は0.4-0.9mm程度で足や触角がなくなり丸い形になります。4月終わりから6月にかけて♀成虫が出現します。大きさは1.2-1.9mm程度で、触角は9節になります。そして産卵の場所を探し始めます。産卵場所として蝋で作った白い卵嚢をつくり、そこで産卵するとのことでした。なお、この論文によると、この間紹介した神田氏の♂発見の論文はコナカイガラムシ♂の間違いだろうとのことでした。ただ、交尾しているところを見つけているのですけど・・・。絵が間違っていたのかもしれません。
さて、Wuらの論文には6種の検索表も載っているのですが、かなり細かいところまで見ないと駄目で、私のように10倍や20倍の対物では難しく、100倍の油浸が必要とのことです。とりあえず、見れるところだけ見ていきたいと思います。
まず、この得体の知れない虫を顕微鏡下で撮ってみました。アルコールに浮かべた状態で撮ろうとしても動いてしまうので、小さなシャーレにアルコールを満たし、スライドグラスを切ったガラス板を入れ、その上に載せて撮ってみました。アルコールが少しだけ蒸発して表面が乾いたのでそのままの姿で撮れました。何となく脚の位置から胸の節を考え、残りを頭部と腹部に分けたら、こんな感じになりました。なお、体長は1.4mm。触角は9節なので、たぶん、♀成虫です。
これは頭部を拡大したものです。
さらに触角の拡大です。確かに9節あります。
次は腹部を背側から写したものですが、何となく7節くらいまでは数えられます。末端はどうなっているのか分かりません。
次は腹部の写真です。腹部は脚があるので、アルコールがそこに溜まってしまいます。それで、全体がアルコールに浸かった状態で撮りました。
日本産のKuwania属に限って検索表を書くと上のようになります。日本産はquercusとpasaniaeの2種なので、日本産を区別するだけなら③だけを調べればよいのです。検索の①は気門、②は円盤状の孔、③は気門と脛節末端のこん棒状の刺毛についてです。②は低倍率ではとても無理でした。①は何とか撮れた感じですが、はっきりしません。③の脛節末端の刺毛が一番確かでした。これを写真で見ていきます。
これは腹部をアルコールを少し蒸発させて撮ったものです。気門らしきものは見えるのですが、どれだかよく分かりません。論文によると、腹部の気門は直径10μmの囲みの中に5μmの孔が空いているそうです。もう少しコントラスト落として照明の方向を変えて撮ってみました。
黒矢印の部分に何となく光る部分が並んでいるので、気門かなと思いました。quercusだと腹部第1節から第4節までなので、何となく合っているのですが、←?で示したところにもあると言えばあるような気がします。pasaniaeだと1~6節なので何とも言えません。それで、次は脛節末端を見てみました。
これはかなり明瞭です。"clubbed"というのは「こん棒状の」という意味でゴルフクラブを連想すればよさそうです。数えてみると7本あります。quercusは約6本なのでやはりquercusでよいのかなと思いました。
先ほどのは前脚ですが、これはたぶん、後脚の写真です。やはり"clubbed setae"があります。ちょっと不鮮明なので数ははっきり分からないのですが・・・。
ということで、気門の数が分からないので何とも言えないのですが、たぶん、カシノアカカイガラムシ Kuwania quercusでよいのではと思っています。quercusはブナ科のコナラ属、クリ属、pasaniaeはブナ科を寄主とすることが知られているので、寄主からは見分けられないようです。今度はプレパラートを作ってもっと拡大して調べてみたいなと思っています。
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