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虫を調べる ノミバエ科ノミバエ亜科(続き)

昨日の続きで、ノミバエ科の検索をしてみました。



対象は昨日と同じ体長3.8mmのこのノミバエです。

金子清俊ほか、「日本産ノミバエ科に関する研究 第1報」、衛生動物 12, 238 (1961) (ここからダウンロードできます)

昨日は金子氏の論文に載っている検索表を用いて検索した結果、ノミバエ亜科Spiniphora属になったのですが、その後、日本産の属はかなり増えているので、"Manual of Nearctic Diptera" (MND)に載っている検索表を使って、もう一度、調べ直してみることにしました。

"Manual of Nearctic Diptera", Vol. 2, Research Branch Agriculture Canada, Monograph 28 (1987). (ここからダウンロードできます)

検索に入る前にこのハエの変わったところをお見せします。







まずは口吻です。顕微鏡で覗いてみたときにびっくりしました。何と太い口吻なのでしょう。





次は後脚脛節から跗節にかけての櫛歯状の毛です。こんな毛は初めて見ました。こんな特徴があるので、すぐに名前が分かるだろうなと思っていたのですが、検索の方は意外に苦戦です。



MNDの検索表で調べたときの検索過程をまとめたものです。ⒺとⒼははっきりしなかったので、もう一つの選択肢も書いておきました。昨日はSpiniphora属になったのですが、今回はむしろTriphleba属かなと思っています。それを写真で調べていきたいと思います。



この写真では翅があることを見ます。腹部の節がアーチ型か平坦かはよく分かりませんが・・・。



次は頭部です。Ⓑの前半はその通りです。後半の触角上刺毛は後傾というよりは横向きになっていますが、Ⓑには多くの項目が書かれているので、一つぐらい違っても、まず、大丈夫かなと思いました。



次は胸部です。胸部の各部の名称を知りたかったので、ちょっと調べてみました。

R. H. L. Disney, "Scuttle Flies, Diptera, Phoridae (except Megaselia)", Handbooks for the Identification of British Insects Vol. 10, Part 6 (1983). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

この本に載っていました。写真には略号だけ書いていますが、もとの英語に対応する日本語の名称を「新訂原色昆虫大図鑑III」で調べてみると次のようになります。

Me:上前側板、Pt:上後側板、St:下前側板、Hy:下後側板+中副基節、Pr:前胸側板、hu:肩瘤、Ha:平均棍、C:基節

この写真を見ると、前気門(s)の周りをちょっと膨れた上前側板(Me)が取り囲むようになっていることが分かります。これが「上前側板の前背縁に囲まれる("enclosed by anterodorsal margin of anepisternum")」という表現の意味だと思います。さらに、上前側板と胸部背面とは連続的にはつながっていないようです。



これは上前側板の毛を写したものです。短い毛は生えているようですが、原文では"setose"となっているので、Ⓔで問題にしているのはもっと長い剛毛のことです。ここではないようなので、Ⓔbの方を選択します。


翅脈は昨日と同様で、Rsが分岐していることはすぐに分かります。なお、翅脈の名称はMNDを参考にしました。



これはRs上に剛毛が生えていないことを示した写真です。



ただ、よく見ると、Rs脈が基部で細くなる寸前のところで剛毛が1本だけ生えていました。でも、Ⓕは大丈夫でしょう。



次は中脚脛節です。Ⓑに書かれているように、基部近くに1対の接近した剛毛(白矢印)があります。これがあるので、いつものMegaselia属が含まれるトゲナシアシノミバエ亜科ではなく、ノミバエ亜科になります。Ⓖではかなり迷いました。剛毛が強いか弱いかというのは比較の問題なので、何とも言えないのですが、MNDには絵が出ていて、Spiniphoraは相当に長い剛毛が描かれています。これに対して、Triphlebaはちょうどこの写真程度の剛毛でした。それで、この写真で見られる剛毛は弱い方だろうと思いました。また、末端近くにある前向きの剛毛がSpiniphoraではかなり基部側ですが、Triphlebaではほとんど末端から亜末端くらいに位置します。この写真の場合(黒矢印)でも末端から亜末端にあるので、Ⓖについてはbの方を選択して、Triphlebaではないかと思いました。



これは後脚脛節ですが、氈毛列("hair seam")は見えません。また、剛毛は中脚脛節と同程度なので、弱い方なのでしょう。



これは後脚脛節の背側を拡大したものですが、氈毛列は確かにありません。



腹部末端の構造からこれは♀だと思うのですが、第8背板の後縁にSpiniphoraとTriphlebaの違いがあるようです。それで、先ほどのDisneyの本を参考にして腹部の節に番号を振ってみました。背板6節までが見えているようです。下側にしわ状になっているのは膜質の部分ではないかと思います。





上は末端部を背側から撮ったもので、下は斜め下から撮ったものです。MNDの絵と比べてみると、どうやら第7背板と第8背板はこの中に埋もれていて、その先端の尾角とその周辺だけが見えているのではないかと思われます。たぶん、引っ張り出さないと第8背板後縁の形状は見えないのでしょう。でも、引っ張り出すとぐちゃぐちゃにならないかと思ってまだ試していません。

この最後の項目が確かめられなかったので、あまり確かではないのですが、今のところ、Triphleba属が第一候補になっています。「日本昆虫目録第8巻」(2014)によると、日本産Triphlebaは3種。そのうち、本州産はnipponica1種です。これだとよいのですけど・・・。この目録には金子氏の論文にもMNDにも載っていない属がまだ3属残っているので、本当は調べなければいけないのですが・・・。

追記2018/03/02:Triphleba nipponicaの載っている文献を調べてみました。

三井偉由、中山裕人、「東京付近において腐肉に誘引されるノミバエ類の季節的消長」、衛生動物 63, 205 (2012). (ここからダウンロードできます)

これによるとT. nipponicaは初夏から夏に見られ、低温期にはほとんど採集されなかったとのことです。やはり違うのかもしれません


追記2018/03/02:残った3属(Burmophora, Peromitra, Plethysmochaeta)のうち、Burmophoraは「新訂原色昆虫大図鑑III」に載っていました。その部分を転載させていただくと、「クロツヤノミバエ属 Burmophoraの種は体に独特の黒い光沢がある。♀の口器は非常に長く、上唇の長さは頭部の高さと同じかやや長い。Rs脈に刺毛が列状に生える。・・・」とのことです。♀の口器が長いことは合っていますが、体に黒い光沢があることと、Rs脈に刺毛が列状に生えるというところが違います。たぶん、除いて大丈夫でしょう。残り2属になりました

追記2018/03/02:Peromitraについて書かれた論文が見つかりました。

H. Nakayama and H. Shima, "Systematic Study of the Genus Peromitra Enderlein of Japan (Diptera: Phoridae)", Entmol. Sci. 5, 63 (2002). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

この論文にはPeromitra属の特徴が載っているのですが、次の点が今回の個体とは違いました。

1)R2+3は一般に欠如か不明瞭で、Rs背面全体には細かい毛の列がある
2)中脚脛節には1列の氈毛列
3)後脚脛節には2列の氈毛列

他にも違いはあるとは思いますが、とりあえず、この属も除いて大丈夫そうです


追記2018/03/02:ついに最後のPlethysmochaetaについて書かれた論文も見つかりました。この属はnobilisというジャワ島で知られている種が日本で見つかっているだけなのですが、それについては以下の論文に書かれています。

中山裕人、「ジャワ島から知られていた Plethysmochaeta nobilis Schmitz(双翅目:ノミバエ科)の日本からの発見」、Med. Entomol. Zool. 57, 131 (2006). (ここからダウンロードできます)

この論文を読んで、P. nobilisの特徴で目に付いたのは次の通りです。

1)中胸側板(上前側板)に上向きの毛を具える
2)Rs上に♀では10数本の毛がある
3)R2+3を欠く
4)後脚脛節には毛列がない
5)♀では第5背板と第6背板が融合して乾燥標本では腹節が5節しかないように見える

いずれも今回の個体とは異なります。これで、検索表に載っていなかった3属すべてを確かめ、今回の個体とは異なることが分かりました。ということは、もし、Triphlebaでないとすればここで迷子になったことになります

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