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虫を調べる ヨモギハムシ

先日、「ヨモギハムシの各部の構造」というタイトルで頭部や腹部の各部の名称について書いたのですが、その続きで、今度は検索をしてみたいと思います。目的種がはっきりしているので、比較的安心して検索を進めることができたのですが、それでも分からないところがありました。



今回の調査対象は先日と同じ、10月5日にマンションの廊下で採集したこの個体です。ヨモギハムシは文字通り、ヨモギを食します。結構、寒くなってからでもヨモギを探すと見つかることがあります。記録を見ても、12月とか、1月にも見たことがありました。この写真のようにヨモギ以外にいたときは雰囲気からヨモギハムシだろうと思っているのですが、一度、きちんと調べておこうと思って、今回は検索をしてみました。

検索表としては、亜科の検索には「原色日本甲虫図鑑IV」、属と種の検索には次の論文を用いました。

S. Kimoto, "The Chrysomelidae of Japan and the Ryukyu Islands. V Subfamily Chrysomelidae", J. Fac. Agri. Univ. 13, 263 (1964). (ここからダウンロードできます)

まずは外観から見ていきます。





背面からと側面からの写真です。体長は8.4mmで、ハムシとしては結構大きめの方です。体全体が綺麗な群青色で、背中がこんもりと盛り上がっています。前胸背板の両側がちょっと左右に張り出したような感じなので、それからいつもヨモギハムシだろうと推測しています。



まず初めは亜科の検索です。これは検索表のうち、ヨモギハムシの属するハムシ亜科に至る過程を抜粋したものです。全部で6項目、これを写真で調べていきます。検索の順に調べていこうとすると、その都度、あちこちの写真を参照しないといけないので、いつものように部位別に書いていきます。



まずは頭部からです。まず、①については特に異常がないのでOKでしょう。②については、左右の触角は前額によって広く隔たれています。ちなみに、以前書いた「昆虫の頭の構造」に載せたSnodgrassの図と比較すると、前額の周囲にある溝は頭頂と前額を分けるfrontal sutureと呼ばれる縫合線で、前額の両側にある溝はDTと呼ばれる昆虫の頭蓋を支えるつっかえ棒の取り付け部かなと勝手に思っています。③については、この写真でも分かるように頭部が前胸の中に引き込まれるような構造をしています。この間調べたサクラサルハムシもそんな感じでした。



次も同じ頭部です。同じ写真ではつまらないので、少し拡大した写真を用いました。頭盾と前額の間には頭盾会合線が明瞭です。(追記2017/11/10:前額と書いた分がpost-clypeus(後頭盾)、頭盾と書いた部分をante-clypeus(前頭盾)と書いた論文が見つかりました。この場合の頭盾会合線は後頭盾の後ろ側の腺になり、はっきりした頭盾会合線があることになります。詳細は「虫を調べる ハッカハムシ」を見てください



次は側面です。③の複眼の後方はこの写真ではよく分からないのですが、たぶん、大丈夫でしょう。また、③と⑥に書かれている前胸背板の側縁は明瞭に見えます。



今度は腹面です。⑤の「腹部の中間3節」は2-4節を指すのかなと思うのですが、特に異常は見られません。



最後は脚の跗節です。先日のサクラサルハムシでは跗節第3節が二分していましたが、このハムシは全く二分していません。これで、一応、すべての項目を見たことになるので、たぶん、ハムシ亜科は大丈夫でしょう。



次は属の検索です。属の検索には上で書いたKimoto氏の検索表を用いました。これも写真で見ていきたいと思います。


腹面の写真です。⑦は先日示した前基節窩に関するものです。基節窩は基節を除いた後の穴を指していますが、前方は前胸腹板があるために塞がっていますが、後方は写真のように開いています。次の⑩が問題でした。Kimoto氏の論文では"Interior coxal process of metasternum"と書かれているのですが、これがどこだか分かりません。試しに、"Interior coxal process"でGoogle検索をしても、引っかかるのはKimoto氏の論文1件だけ。仕方ないので、いくつか論文を探してみました。この項目は代表的な性質なのか、いろいろな論文で似たような表現がなされていました。

J. L. Gressitt and S. Kimoto, "The Chrysomelidae (Coleopt.) of China and Korea Part 2", Pacific Insects Monograph 1B, 301 (1963). (ここからダウンロードできます)

例えば、この論文では"Intercoxal process of metasternum"となっていて、何となく意味が通じます。つまり、「後胸腹板の基節間突起」というような意味です。これも試しに"Intercoxal process"でGoogle検索すると7100件とかなりヒットしました。たぶん、こちらの表現の方が妥当なのでしょう。次に問題になったのは基節が後基節か中基節かです。いろいろな文献を見ると、"Intercoxal process"で後基節の間に見られる腹部第1背板の突起を指している図も見られました。ただ、ここでは後胸腹板と指定しているので、たぶん、中基節の間に見られる後胸腹板の突起ではないかと判断しました。つまり、矢印で示した位置です。



その部分を拡大してみました。この部分は台形状に中基節の間に突き出していますが、前縁は明瞭な縁取りがなされています。これでたぶん、良いのではと思っていますが、違っているかもしれません。



次は上翅側片の内縁の毛についてです。この写真、よく見ると、短い毛が途中から生えているのが分かります。



もう少し拡大してみました。確かに内縁だけに短い毛が生えていました。



これは先ほども出した写真ですが、爪が単純であることは見ればすぐに分かります。これで属の検索が終わり、無事にヨモギハムシ属に到達しました。



最後は種の検索です。検索表はたいてい亜科とか属とかの検索は細かい構造の違いを調べなければいけないのですが、種になると、色とか点刻だとか比較的見やすい性質を調べればよいので楽になります。本当は交尾器を調べなければならないのでしょうけど。とりあえず、この4項目を見ていきます。



まずは背面からです。⑫も⑬も上翅の点刻についてですが、直線状に綺麗に並んでいるというわけではないですが、完全にランダムというわけでもなさそうです。その表現が⑬のようになるのでしょう。また、体長は8.4mmなので、範囲には入っていました。



最後は小顎肢についてです。第3節の形が歪んでいてどこ測ったらよいか分からなかったので、定量的には測ってはいないのですが、先端節が長卵形状で第3節よりは少し短そうな感じです。これですべての項目をクリアしたことになるので、ヨモギハムシということになりました。いつも外観から前胸背板の両側への張り出しで見分けているのですが、そんな項目は全くなかったですね。むしろ、上翅の点刻の配列が重要みたいです。

ということで、ヨモギハムシの検索を試してみました。"Intercoxal process"でだいぶ迷ってしまったのですが、先日、各部の名称をつけるときに「前胸側板」で悩んだほどは悩みませんでした。それでも、深度合成を用いているせいで、ヨモギハムシのこれらの写真を撮るだけで1000枚以上の顕微鏡写真を撮ることになってしまいました。お陰でパソコン内蔵のハードディスクがいっぱいになり、昨日、メモリを整理をする羽目に。
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