fc2ブログ

家の近くのむし探検 モクズガニほか

家の近くのむし探検 第319弾

9月6日に家の近くの国道の横で虫探しをしてから、畑の方も歩いてみました。そこで、ばったり知人に出会いました。その方の話によると、畑の脇を流れる用水路にモクズガニがいるとのこと。一緒に探してみました。私はなかなか見つけられませんでしたが、その方はすぐに見つけられました。



モクズガニというのはこんなカニです。これはまだ小さい方で、大きなものは甲羅の大きさが8cmほどにもなるそうです。見つけ方は石の隙間にちょっとでている脚とか鋏などを見つけること、穴から掻き出された砂を見つけることだそうです。





こんな感じです。上は脚と鋏が見えています。下は先端が白い鋏が見えています。



しばらく見ていたら、そこからもそもそと出てきました。こんな身近なところにこんなに大きなカニがいるなんて驚きです。ネットで調べると、海か海に近い河口で産卵し、孵化した幼生が稚ガニになり、川を遡って上流に上がり、そこで成長するそうです。そして、産卵期になると、また川を下降して海辺に行き、産卵するという生活を繰り返しています。でも、途中に堰堤もいっぱいあるし、こんなところまではとても無理そうなので、本当はどうなのかなと思って、少し文献を調べてみました。モクズガニは中国産の上海ガニとごく近縁なため、漁業資源としても重要で、この手の研究が結構たくさんありました。

高橋剛一郎ほか、「富山県射水平野における河川横断工作物のモクズガニの分布に及ぼす影響」、J. Ecotechnol. Res. 15, 121 (2010). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

この論文は富山の射水平野を流れる川の各地点にカニかご(63x43x19 cm3)を置き、入ってきたカニの数からカニの分布を推定しようという研究です。堰堤の上でもカニが見つかったら、カニはその堰堤を越えたという風に解釈します。そうしたら、河口から十数キロ離れた上流まで、途中にある数メートルの堰堤をいくつも越えて分布していることが分かりました。カニは堰堤を直接登ったり、堰堤に垂れ下がった植物をつかんで登ったり、堰堤と土手との境を上ったり、堰堤の手前で堤に上り、堰堤を巻いて越えたりするそうです。

実際に、どのくらいの斜面を登ることができるか実験室で試してみたという論文もありました。

浜野龍夫ほか、「モクズガニの遡上魚道に関する実験的研究」、Suisanzoshoku 50, 143 (2002). (ここからダウンロードできます)

これによると、カニの脚の先は鋭く尖っていて、斜面に引っ掛かりがあると最大で50度くらいの斜面を登ることができるそうです。でも、もし落ちたらどうなるのでしょう。そんな実験もなされていました。

浜野龍夫ほか、「模擬的な堰堤からコンクリートやプールに落下したモクズガニの生残率」、日本水産学会誌 71, 131 (2005). (ここからダウンロードできます)

これも実験室での実験ですが、ある高さから落ちたときに下がコンクリートか、水かで負傷したり、死亡する率が大きく変わってきます。カニは幼体の状態で川を上っていきますが、その時に落ちると、横向きに落ちて、脚を負傷することが多いそうです。下がコンクリートだと1mの高さで25%の個体が脚を負傷しましたが、2mになると55%が負傷して、最終的に40%が死亡したそうです。ところが、親になると背中の甲羅から落ちるので、1mくらいだと大丈夫だったそうです。下が水だといずれの個体も大丈夫でした。こういうデータは堰堤を作るときにカニに優しい環境を作るためのよいヒントになりますね。もっとも、成体が下流に下るときには川の増水も大きな役割を果たしているそうです。

さて、モクズガニの生活史について書かれた分かりやすい総説を見つけました。

小林哲、「モクズガニ Eriocheir japonica (de Haan)の繁殖生態(総説)」、日本ベントス学会誌 54, 24 (1999). (ここからダウンロードできます)

この論文によると、このカニのように成長する場所と産卵する場所を変える現象を「通し回遊」というそうです。これにはいろいろな種類があります。この論文に従って、まとめてみると次のようになります。



産卵を淡水域でするサケは遡河回遊といいます。両側回遊というのは、アユみたいに普段は淡水域で生活するのですが、孵化後、一時的に海域に移動し、また、戻ってくるものをいいます。この分類によると、モクズガニは降河回遊ということになります。この論文に従って、モクズガニの生活史を絵にしてみると、次のようになります(なお、カニのイラストはフリーのものを用いました)。



川の上流で成長したカニは成体になると川を降りてきて海水が混じった汽水域や海域にやってきます。ここで、交尾をして卵を産みます。卵から孵ったカニはゾエアという幼生になり泳ぎ回りますが、さらにメガローパになり、着底します。その後、稚ガニになって遡行を開始します。途中にある堰堤もなんのその。これを上り上流に向かいます。途中でやめる個体もたくさんいて、そのため下流域から上流域まで広く分布します。そして、そこで成長していきます。大きさは上流の個体の方が大きくなる傾向があるそうです。さて、冬が近づいてくると成体の♀は下流に向かって移動を開始します。カニがそれぞれの場所で見られる時期については次の論文を参考にしました。

S. Kobayashi, "Process of Growth,Migration,and Reproduction of Middle- and Large-sized Japanese Mitten Crab Eriocheir japonica(de Haan)in a Small River and its Adjacent Sea Coast", Benthos Reseach 58, 87 (2003). (ここからダウンロードできます)

この論文は福岡県の川についての調査なのですが、詳しく調べられているので大変参考になります。移動は一斉に行われるわけではなく、五月雨式なので、かなりの長い期間にわたって個体が見られることになります。例えば、カニの成体は上流域では8月から1月まで見られるというのですが、1個体がこれだけの期間いるのというのではなく、秋早く移動する個体もあれば、1月になってから移動する個体もあるという意味だと思います。いずれにしても、海ではカニの成体もゾエアも自由に泳ぎ回るので、必ずしも同じ川に戻るというわけではなく、隣の川にも行ったりするようです。これは繁殖する上では都合のよいことです。

論文の中には、44mのダムを越えたとか、上海ガニが1000kmを遡行したという記録が出てきました。身近で見られるカニですが、果てしない力を秘めていますね。なお、次の論文によると、モクズガニは夜行性で、昼間は穴に隠れていてなかなか見つからないそうです。また、特定の巣があるわけではなく、自分の体の厚みの2-3倍の高さの隠れるところがあれば適当に隠れるという生活を送っているようです。

荒木晶、中西良太、「モクズガニの人工的空間に対する選択性に関する研究」、J. National Fisheries University 62, 39 (2013). (ここからダウンロードできます)

ついでにこの時に見たほかの植物や虫を出しておきます。





これはマルバルコウ





それにこれはクルマバザクロソウ。いずれも帰化植物です。



アムールシロヘリナガカメムシ



トノサマバッタ



それにナミアメンボ。この日はこんなところでした。
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

No title

モクズガニの文字を見て、真っ先に思い浮かぶ言葉は「食べてみたい」です(笑)

やはり海に下るアカテガニは90度の民家の壁を登っているところを捕獲したことがあるんで、材質によってはモクズガニも…?
身近なカニはアカテガニとクロベンケイガニだったなあ。

No title

まずは食い気の方ですね(笑)。私はモクズガニに寄生する肺吸虫の論文を読んでしまったので、見てもちっとも食欲が湧きませんでした。カニは90度くらいの壁でも登れるのですね。あまり登れないのではと先入観を持っていたので、こんな中流域までやってくるのかなぁと思ってしまいました。
プロフィール

廊下のむし

Author:廊下のむし

カテゴリ
リンク
最新記事
最新コメント
カウンター
月別アーカイブ