FC2ブログ

カミキリムシの発音板

8月28日にマンションの廊下で見つけた虫の整理をしていたら、マルクビカミキリの仲間がいました。「原色日本甲虫図鑑IV」の図版を見たのですが、みなよく似ていて違いがちっとも分かりません。属の検索表が載っていたので、ちょっと検索をしてみようと思ったのですが、「中胸背板の発音部はわずかに発達し・・・」というところでつまづいてしまいました。発音部って何だろう。Wikipediaでカミキリムシを調べてみると、「また、カミキリムシを手でつかむと、ほとんどの種類が『キイキイ』という威嚇音を出す。多くは前胸と中胸をこすり合わせて発音するが、ノコギリカミキリ類など前翅の縁と後脚をこすり合わせて発音するものもいる。」と書かれていました。そこで、画像検索をしてみると、どうやら前胸背板の後ろに少しだけ中胸背板が見えるときがあって、その中央に発音部があるようです。

そこで、手元の標本でいくつか調べてみました。標本によっては見えるものと見えないものがあったのですが、とりあえず見えるものの写真を撮ってみました。



標本に針を刺していなくて、タトウに入れたままのキマダラミヤマカミキリがあったので調べてみました。



これは胸背の部分です。確かに、前胸背板の後ろに中胸背板が見えていて、その中央に発音体らしきものが見えています。さらに拡大してみます。



これは実体顕微鏡の最大倍率5.5倍で撮ったものです。非常に滑らかな感じですが、よく見ると、細かい横筋がたくさん入っています。前胸背板の後縁には比較的長い毛が一列生えています。



針を刺していないので、生物顕微鏡でも撮れるかなと思って撮ってみました。これは対物鏡10倍で撮ったものです。先程の前胸背板後縁の毛が右側に見えています。規則正しい筋が見えてきました。



さらに筋の部分を拡大してみました。これは20倍の対物鏡で撮ったものです。本当に綺麗な筋です。面が若干湾曲しているのか間隔が少し違って見えますが、一番広く見える部分で、間隔を測ってみました。平均で7.7ミクロンになりました。

筋が入っている部分は、英語ではstridulating organ, stridulating file, stridulating plank, stridulatory plateなどと呼ばれています。試しに、これらの英語名で画像検索すると、今回、撮った写真と同じような写真が出てきます。stridulateは「発音する」で、stridulatoryはその形容詞型、organは器官、fileはヤスリ、plankは厚板、plateは板です。どれも雰囲気をよく表していますが、ヤスリというのが一番ピンとくるかもしれません。



他の標本も見てみました。これはミヤマカミキリです。針を刺しているので、生物顕微鏡ではその針が邪魔になって撮れないのですが、実体顕微鏡では撮影できます。



やはり似たような構造が見られました。さらに拡大してみます。



これは実体顕微鏡の最大倍率です。やはり細かい筋が一様に入っていることが分かります。白っぽく見えている部分は照明で光ってしまった部分です。



これはマツノマダラカミキリです。これも前胸背板の後ろを拡大してみます。





この場合は筋があるのは中央部だけで、その部分が黒っぽくなっています(照明で光ってしまっていますが・・・)。

いずれにしても、中胸背板にあるこのヤスリのような板が前胸背板に擦れることにより発音しているみたいです。じゃあ、前胸背板の内側はどうなっているのだろうと思って、少し文献を調べてみました。実は、カミキリの研究は中国の研究者が多く、いずれの研究も中国国内の論文誌に出しているので見ることができません。やっと、外国の雑誌に出している次の論文を見つけました。

L. LI et al., “Ultrastructure of stridulating organ of Xylotrechus rusticus L. (Coleoptera, Cerambycidae) and behavioral responses to alarm sounds”, J. Forestry Research 24, 547 (2013) .

この論文はXylotrechusというトラカミキリ属で発音の機構を調べたものです。やはり同じようなヤスリ状の構造の電子顕微鏡写真が載っていました。ここには発音の機構も載っていて、中胸背板にあるヤスリ状の構造と前胸背板の後縁にある剛毛が楽器のピック(ギターピックみたいなもの)の役割を果たして音を出しているそうです。これは光学顕微鏡でも見えるというので見てみました。



これはミヤマカミキリの前胸背板後縁を見たものですが、長い毛の下に黒矢印で示したように、長さの揃った短い毛が規則並んでいるのが見えます。



こちらはマツノゴマダラカミキリですが、ちょうど発音板の辺りにだけやや長い一様な毛が並んでいます。これがたぶん、ピックの役割を果たすみたいです。

先程の論文によると、カミキリが頭を持ち上げたり下げたりするときに、前胸背板も動き、中胸背板中央にあるヤスリ状の発音板と前胸背板後縁にある剛毛列がこすれて音を出すとのことです。ただ、ギターの場合は音をだすのは弦の方で、ピックはそれを弾くだけです。カミキリの場合はどちらが発音しているのかは分かりませんが、振動して音が出るとなると、おそらく、剛毛の方なのでしょうね。この擦れる音は警戒音の意味があるようです。上の論文での実験では、この音が3度鳴ると近くのカミキリの90%が動きを止め、5度鳴るとそのうち一部は擬死の態勢を取ったとのことです。広い空間で同じ実験をすると、全てのカミキリが音の出る方向とは逆の方向に逃げ出したそうです。なかなか面白い実験ですが、検索ではこの発音板の形が問題になっているようです。
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

No title

カミキリのギイギイ音は、不気味に感じますよね。
やすりの部分と硬い毛をこすり合わせて発音しているのは始まて知りました。
ただ、音が出るということは、その毛はかなり硬そうですよね。
ナイス!

No title

タイコウッチ君、こんばんは。
そうですね。本当に剛毛が音を出しているのか、調べてみないと分かりませんね。標本でも音は出るはずだけど・・・。もしそうだとすれば、短い毛だと高い振動数の音が出そうですね。毛の振動とヤスリの間隔で決まる周期が共振したりするのかなぁ。ヤスリの間隔は一様ではないのではとも疑っています。今度、もう一度調べてみます。コメント、どうも有難うございました。
プロフィール

廊下のむし

Author:廊下のむし

カテゴリ
リンク
最新記事
最新コメント
カウンター
月別アーカイブ