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松尾湿原のサギソウ

いつも虫ばかり調べているので、今年は少し植物も勉強してみようと思って、正月に植物同好会に入りました。その観察会が8月20日に宝塚市西谷の森公園で開かれました。というより、正確にいうと、開かれる予定でした。というのは、集合時間に遅れて、私だけが車で公園に行ったら、誰も来なかったからです。しょっちゅう、目的地を変える会なのできっと今回も変わったのでしょう。

しばらく待っていたのですが、誰も来ないので、西谷の森公園から丸山湿原に向かう道を歩いて花と虫を写し、それから、宝塚自然の家に向かってみました。ここは2年ほど前から閉鎖されていたのですが、この間ネットを見たら、土日だけ開いていると書いてあったので、ちょっと様子を見に行ったのです。この敷地内には松尾湿原という小さな湿原があるので楽しみにしていました。行ってみると、サギソウは咲いているやら、ハッチョウトンボは飛び回るやら、まるで、地上の楽園でした。今日はそのうち、サギソウについて書いてみます。





湿原で撮ったサギソウです。サギソウはその清楚な姿がいいですね。



サギソウの花自体は小さいので、湿地全体で眺めたらこんな感じで、白い点がぽつぽつ見える程度でした。





サギが入り乱れて飛んでいる感じですね。

ところで、湿原のサギソウは近くで見れるといっても、やはり望遠で撮らないといけないので、いつもの虫の様に接写では撮れません。ちょっと残念だなと思っていたら、湿原から水が流れている水路沿いで一輪だけ咲いているのを見つけました。シメタ!と思って近寄って撮ってみました。





花の奥の方も写してみました。穴が開いています。これが蜜が溜まっている距の入り口でしょうね。花の奥は複雑な構造をしているので、花の構造についても調べてみました。「日本の野生植物I」に簡単な説明図が載っていました。この図とサギソウの説明文を読んで、各部の名称を書き入れてみると次の様になります。



サギのように見える部分を唇弁とよぶようです。花の後ろには長い距があります。図鑑の説明によると、距の長さは3-4cmみたいです。よく見ると、距の底には液が入っているみたいです。これが蜜なのかな。



花の奥の各部にも図鑑の説明図を見ながら名称をいれてみました。ただ、ちょっと合わない部分がありました。それが、この写真で花粉塊と書いてある部分です。この花粉塊はサギソウの花粉媒介者(ポリネーター)と深い関係があります。これについては次の論文に書かれていました。

K. Suetsugu and K. Tanaka, "Diurnal butterfly pollination in the orchid Habenaria radiata", Entomol. Sci. 17, 443 (2014).
M. Pedron et al., "Pollination biology of four sympatric species of Habenaria (Orchidaceae: Orchidinae) from southern Brazil", Bot. J. Linnean Soc. 170, 141 (2012).
R. B. Singer, "POLLINATION BIOLOGY OF HABENARIA PARVIFLORA (ORCHIDACEAE: HABENARIINAE) IN SOUTHEASTERN BRAZIL", Darwiniana 39, 201 (2001). (ここからダウンロードできます)

サギソウは学名でHabenaria radiataといいますが、Habenaria属では通常、花粉媒介者としては、ススメガやメイガ、ガガンボなどが知られています。最初の論文はサギソウでは昼行性のイチモンジセセリもポリネーターになるという論文でした。後二者はHabenaria属でどのように花粉媒介するか書かれていました。サギソウを含むHabenaria属にポリネーターがやってくると、距の中の蜜を吸おうと、口吻を距の入り口から差し込みます。そして、顔を花に押し付けるようにして蜜をたくさん吸おうとします。

そのとき、葯室が破れ、中に入っていた花粉塊が体についてしまうというのです。花粉塊の
長い柄の先には花粉小塊があり、逆の先端には粘着体がついています。図鑑の説明によると、こんな花粉塊が左右の葯室に一個ずつ入っているそうです。粘着体の部分は板状になっていたり、手袋状になっていたりとランの種によって変わりますが、いずれにしても、ポリネーターが蛾の場合には、鱗粉のついていない部分に付着すると、この形のままで蛾にくっついて運ばれていきます。具体的には、口吻、口肢、複眼につくことが多いようです。

こうしてくっついたまま次の花に行くと、また、花粉塊が新たにくっつきます。論文には花粉塊が10個ほどついている蛾の写真が載っていました。花粉塊のついたポリネーターが次の花にやってくると、蜜を吸おうと同じように花に顔を押し付けます。その時、花粉塊の先端の粘着体が花の柱頭について花粉塊の移動が完結します。上の写真はちょうどそうやって柱頭についた花粉塊の状態を表していたようです。こんな変わった送受粉をするのは、ランは生息密度が低く、また、訪れるポリネーターも少ないので、やってきたら確実に送粉させようとする工夫のようです。

ただ、ランのポリネーターが何なのかを探すのはなかなか大変な仕事のようです。と言うのは、ランには滅多に虫がやって来ないので、それに適応して開花時期や時間も長くなっています。その間、ずっと見ていないといけないからです。やってくる虫を調べるだけなら、15-30秒に一回の割で写真を撮ったりという工夫もされていますが、送受粉がどのように行われるかを知ろうと思うと、やはりずっと観察していないといけません。今度、松尾湿原に行ったら、ずっと見ていようかなと思っていたのですが、ずいぶん根気のいる仕事だったのですね。
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No title

こんばんは
サギソウで来ました。
サギソウは魅力がありますね。ナイス

No title

あるくさん、こんばんは
サギソウはいいですね。これに虫がやってくるところをみたいなと思っています。コメントどうも有難うございました。
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