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虫を調べる たぶん、スジカミナリハムシ

一週間ほど前に、マンションの廊下でハムシを捕まえました。



いつもよく見るハムシで、後脚腿節が太く、前胸背板の後縁近くに深い横溝が見えるので、たぶん、カミナリハムシの仲間だろうと思ったのですが、ハムシは今、勉強中なのでちょうどいいと思って採集してきました。先日、早速、検索をしてみて、スジカミナリハムシだろうということになったのですが、検索表の項目を詳しく見ていくと、疑問になる点ばかり。すっかり自信を無くしていたのですが、とりあえず一度まとめてみようと思って出してみます。



これは採集した個体を実体顕微鏡で撮影したものです。ハムシの顔は下の方を向いているので、体長をどうやって測ればよいのか分からないので、とりあえず寸法を入れておきます。たぶん、4㎜内外だと思います。

検索表にはいろいろな文献を使いましたが、亜科の検索には「原色日本甲虫図鑑IV」に載っている検索表を用いました。検索をするとノミハムシ亜科になったのですが、まず、その過程を顕微鏡で見ていきます。



ノミハムシ亜科であるこを確かめるにはこの3項目を調べればよいことになります。いつものように部位別に見ていきたいと思います。



これは頭部の写真ですが、頭頂には突起らしいものは見えないので①はOKのようです。次の②は触角の基部が近いということですが、近いようでもあり、離れているようでもあるのですが、先日調べたPagria属と比べると明らかに近いのでたぶん、近いということでしょう。頭部の前半部がどこを指しているのか分からなかったので、これはパスです。(追記2017/10/06:先日調べたのはPagria属ではなく、Cleoporus属のサクラサルハムシでした。詳細はこちらをご覧ください



これは腹側から写したものですが、前胸腹板突起ははっきりしています。基節窩は脚の基部が入っている穴をさしますが、矢印で示した部分全体の大きな穴を指しているのだと思いました。左右の基節窩が広く分離しているのかどうか分かりませんが、たぶん、離れているのでしょう。後に出てくる検索表でもそうなのですが、広いとか、大きいとか、相対的な表現が多く見られます。その割に、図が出ていないので、多分に検索表を作った作者の主観によっているようです。これは内容を熟知している方には十分なのでしょうけど、私のような素人にとってはいつも困るところです。是非とも、図を載せるか、何に比べて広いとか大きいとか、比較対象を載せていただきたいなと思いました。



最後は後脚腿節です。これが肥大しているというのはすぐに分かります。後半に出てくるモーリック器官はジャンプするときに用いる器官で次の論文に書かれています。

K. Nadein and O. Bets, "Jumping mechanisms and performance in beetles. I. Flea beetles (Coleoptera: Chrysomelidae: Alticini)", J. Exp. Biol. 219, 2015 (2016).(ここからダウンロードできます)

要は、腿節の内部に三次元に折りたたまれた大きな器官があり、1929年にMaulikという人が見つけたので、Maulik's organと呼ばれています。これはジャンプに関連した器官だとされていたのですが、実は、腱みたいなものでこれにmetafemoral springという伸縮筋が取りつき、ジャンプをすることが分かってきました。その機構も面白いのですが、ここではそれは省略します。いずれにしても、腿節内部にある器官があるかないかは解剖しないと分からないので、なぜ、検索表にそれを載せたのかは疑問です。

いずれにしても、これで3項目すべてが一応確かめられたので、これはノミハムシ亜科ということになります。次は属の検索です。属の検索には次の本の中の検索表を用いました。

木元 新作, 滝沢 春雄、「日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説」(東海大学出版会、1994).

これは先日、吹田市立図書館で調べてきたものです。ノミハムシ亜科の検索表はいずれ使うかもと思ってコピーしてきたのが正解でした。



スジカミナリハムシの属するカミナリハムシ属に至る過程を載せています。ただ、怪しいところがだいぶあって、その部分は2つの選択肢をそのまま載せておき、aとbで区別しておきました。検索表でいうと、⑬、⑮、⑯、⑰の各項目です。これも部位別に見ていきたいと思います。



この写真では⑪の前胸背板後縁前方に横溝があることを見ます。⑫については上翅会合部から3列ほどは点刻は並んでいますが、その外側はほとんど点刻が分からないような状態になっています。⑫は、たぶん、この外側のことを言っているのでしょう。



触角の節は11節です。こういう項目は明快でいいのですが・・・。



この写真では⑯の前頭突起を見ます。前頭突起がはっきりしなかったのですが、前頭突起は英語でfrontal tubercleといいます。これで検索して調べると、上の矢印の部分の少し盛り上がった部分を指すのではないかと思いました。触角間室の意味がよく分からなかったのですが、触角と触角の間と解釈すると、そこまで前縁が伸びているということはないだろうと思ったのですが、一応、対抗する項目も載せておきました。後者を選ぶと、アラハダトビハムシ属、グミトビハムシ属になります。図鑑の図版を見ると、たいていは違うのですが、よく似たチビカミナリハムシはグミトビハムシ属に属しています。説明を読むと、前頭突起の形状のことが書かれているので、やはりこれで区別するしかないようです。ただ、チビカミナリハムシは体長が2mm前後なので、たぶん、違うと思われ、次に進むことにしました。



次は前胸背板の後縁前方にある横溝についてです。ここで再び迷いました。写真を見ると、⑬bに書いてあるようではなく、横溝両端に短い縦溝があるようにも見えます。これが違うと、チャバネツヤハムシ属かヒメトビハムシ属になるのですが、前者は色が異なり、後者は大きさが違います。検索表をよく読むと、「横溝はその両端を短い縦溝によって境される」とあります。この写真のは両端が前方に曲がっているように見えます。ということで、⑬bを選ぶことにしました。次の⑰も悩みました。どうみても、横溝は側縁に達せずに曲がっていたからです。これに対抗する項目は「側縁に達しない」で、ホソルリトビハムシ属になります。図鑑の説明を読むと、「横溝は短く、側方部に達しない」でした。この写真の個体では横溝は側縁近くで前方に曲がり、その後、側縁に達しているようにも見えます。それで、⑰bを選ぶことにしました。



次々と問題点が出てくるのですが、この写真のは最大の問題点かなと思いました。まず、⑥の前肢基節窩は後方に開いているというのは白矢印で示すようにすぐに分かります。次の⑮が問題でした。中胸腹板は中央部がわずかに凹んでいるように見えます。⑮bは「中央部が明瞭に窪まない」、こに対抗する⑮aは、「中央部が全体として窪む」です。黄矢印で示しますが、どちらともとれるような感じです。これが⑮aだと、チビカミナリハムシ属になり、図鑑にはウスグロチビカミナリハムシとルリチビカミナリハムシが載っています。図版では何とも言えないのですが、大きさが共に2mm前後と小さいこと、肢の色が黄褐色ないし赤褐色なので、違うかなと思うのですが、検索表上では何とも言えません。一応、保留のまま次に進みます。



これは後肢の写真ですが、検索項目はいずれもすぐに分かります。



最後は後肢跗節の爪ですが、特に異常はありません。ということで、怪しいところが4か所もあったのですが、これを強引に突き進むとカミナリハムシ属になりました。これらの項目はまた、別の種を検索するときに再検討してみたいと思います。



最後は種の検索です。これは次の論文に載っていたものを翻訳したものです。

S. Kimoto, "The Chrysomelidae of Japan and the Ryukyu Islands. X Subfamily Alticinae III". J. Fac. Agri., Kyushu Univ. 13, 601 (1966). (ここからダウンロードできます)

⑱はスジカミナリハムシの「スジ」の由来である縦隆起線についてです。



これは横から撮ったものですが、肩の高さで隆起線が肩から翅の先端まで続いてみます。これを見て、最初にスジカミナリハムシだろうと思ったのですが、実際に検索してみると、なんだか怪しくなってきました。



これは上翅の前半部分を拡大したものです。はっきりと上側の縦隆起線と下側の翅の側縁の隆起線がほぼ平行して走っているのが分かります。



最後は上翅を拡大したものです。最初にも書いたのですが、翅の会合部から3列ほど除いて、点刻はほとんど目立たなくなっています。サメ肌状というのはちょっと分からなかったのですが・・・。ということで、検索した結果、Alitica latericosta latericostaというスジカミナリハムシの亜種になったのですが、図鑑によると、これは北海道・中国西部に分布する亜種で、本州亜種はsubcostataで、縦隆起線が基部のみ明瞭というものです。これも悩んだのですが、隆起線が基部から末端まで明瞭なので、どうしても亜種latericostaになってしまいます。あ~ぁ、分からないことだらけですね。

ついでに撮った写真を載せておきます。



頭部の拡大です。先ほどの前頭隆起はやはり触角側には伸びていないような気がします。



触角基部の拡大写真です。触角の節の長さを測るかなと思って撮ったのですが、結局、使いませんでした。



これは腹部の前胸腹板と中胸腹板辺りを拡大した写真です。中胸腹板は少し凹んでいるように見えるのですが・・・。



これは上翅の縦隆起線の基部あたりの拡大写真です。

ということで、ノミハムシ亜科の検索を初めて試みました。正直、よく分からないことだらけですね。とにかく、相対的な表現が多くて、判断に苦しんでばかりでした。せめて簡単な絵でも載せておいてくれるとよいのにと何度思ったか分かりません。でも、これからいろいろな種で調べてみて慣れていきたいと思っています。
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2021年10月20日のコメントどうも有難うございます。貴重な情報をいただき、嬉しく思っています。これから勉強していきたいと思っていますので、よろしくお願い致します。
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