家の近くのむし探検 イトカメムシとツツジ
家の近くのむし探検 第304弾
8月8日に近くの公園にイトカメムシを見にいきました。目的はイトカメムシが本当にツツジから吸汁しているのか、小楯板の突起があるのかどうか、それに、若干採集することでした。
これがイトカメムシです。この間も書いたのですが、「日本原色カメムシ図鑑第3巻」を見ると、「植食性で、キリ、クサイチゴなどによく見られるが、ときにアブラムシなどを捕食することが知られる」と書かれています。私の行く公園ではツツジの葉に多数見つかりますが、図鑑にも先日載せた論文にもそのことは書かれていません。それで、本当に、ツツジの葉から吸汁しているのかどうか確かめてみました。
あまり多くの数は見られなかったのですが、確かにツツジの葉から吸汁しているようです。次は小盾板の突起についてで、「原色昆虫大図鑑III」には「突起を欠き」と書かれ、上の図鑑では「ときに見られる」と書かれているのを確かめてみました。
これは前方から写したものですが、胸部側面から両側に出ているのは、臭腺開口域だと思っている突起で、今度、採集してきた個体で確かめてみます。この個体では小楯板に垂直に立っている突起は見られません。
この個体では突起が見られます。ざっと探してみると、「ときに見られる」よりは多い感じがしましたが、拡大しないとあるかどうか分からないので、割合までは分かりませんでした。
先日、イトカメムシがハチを捕食することに関連して、ツツジがオオムラサキかもと教えて頂いたので、そもそもオオムラサキとは何かなと思って調べてみました。「日本の野生植物 木本II」にはケラマツツジの欄に園芸種として載っていました。「樹に咲く花」では、オオムラサキ Rhododendron oomurasakiという名で、「ヒラドツツジの品種群のひとつ」と書かれていました。さらに、「牧野 新日本植物図鑑」には、オオムラサキ Rhododendron pulchrumという名で出ていて、「リュウキュウツツジとケラマツツジを親として作られた園芸種と思われる」とのことでした。この両者で学名が異なるので、もう少し調べてみることにしました。でも、結局、深みにはまってしまいました。調べた文献は以下の通りです。
T. Makino, "Observation on the Flora of Japan", Bot. Mag. 27, 108 (1913).(ここからダウンロードできます)
T. Makino, "A Contribution to the Knowledge of the Flora of Japan", Journal of Japanese Botany 1, E15 (1917).(ここからpdfが直接ダウンロードできます)
小松春三、「日本産躑躅属ニ就テ」、植物学雑誌 374, 31 (1918). (ここからダウンロードできます)
E. H. Wilson and A. Rehder, "A Monograph of Azaleas - Rhododendron Subgenus Anthodendron", Univ. Press Cambridge (1921). (ここからダウンロードできます)
T. Nakai, "Abstract from T. Nakai: 'Trees and shrubs indigenous in Japan proper Vol. 1. (1922)', with Additional Remarks on Some Species", Bot. Mag. 38, 23 (1924). (ここからダウンロードできます)
本田正次、「雑録 黄瓜菜集(其七)」、Bot. Mag. 40, 314 (1926).(ここからpdfを直接ダウンロードできます)
1910-20年代の論文はこれで網羅したのではないかと思います。ただ、もともと園芸種なので、その解釈は非常に複雑でとても一口で言えるような代物ではありませんでした。それをあえてまとめると次のようになります。
本当は、出発点を19世紀にまで遡らなければならないのですが、日本で見られるオオムラサキについては牧野氏の話から始めると良さそうなのでそうしてみました。1913年に、牧野氏は日本で大紫琉球と呼ばれている種について外国産の種と比較して、その変種としたのですが、その後、1917年には新たに新種として命名しました。これが、R. Oomurasakiだったのです。上の図から判断すると、このころはたぶん、大紫と琉球ツツジが混じった状態だったと思われます。その後、小松氏が大紫にはR. Osakazukiという名を、一群の琉球ツツジにはR. rosmarinifoliumの変種、品種名を当てました。Wilsonらはツツジについてまとめた本を書いたのですが、その中で、牧野氏、小松氏が新種として命名した種はR. phoeniceumの変種としました。
その後、中井氏はWilsonらが当てた名は大紫に対してではなく、R. calycinumであったこと、牧野氏、小松氏が命名した種はR. pulchrumに一致するとしました。Catalogue of Life2017によると、前者はR. mucronatumというリュウキュウツツジのシノニムで、後者はヒラドツツジと呼ばれているR. pulchrumになっています。このことは「牧野 新日本植物図鑑」(Makino1961)にすでに書かれていました。最近はたぶん、DNAを用いた研究がなされていると思うのですが、それについてはまだ調べていません。いずれにしても、オオムラサキにR. Oomurasakiを当てるのは適当でない気がします。「日本の野生植物 木本II」には、「本種(ケラマツツジ)とキシツツジなどとの雑種がヒラドツツジまたは大霧島といい、大紫、・・・など多くの園芸品がある」と書かれていました。ケラマツツジもキシツツジも共に、モチツツジ亜節なので、たぶん、それで粘り気があるのだろうと思われます。これだけ調べたのですが、さて、公園のツツジは何だろうという疑問にはまだ答えられていません。ふぅー。
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