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虫を調べる ニレハムシ(もやもや)

この間からニレハムシらしい個体を調べているのですが、どうも最後のところでもやもやした結果になっています。いつまでたっても埒が明かないので、とりあえず出すことにしました。



調べたのはこの個体で、6月22日に家の近くにある林の入り口で見つけました。頭部と前胸背板によく目立つ黒点があるのですぐに分かりそうですが、ニレハムシ Pyrrhalta maculicollis、クロヘリウスチャハムシ M. nigromarginata、サンゴジュハムシ P. humeralis、クロヒゲケブカハムシ P. nigricornisなど似た種がいろいろいるようです。それで、一度、ちゃんと調べておこうと思いました。幸い、最近、日本産ハムシのかなりの種を扱った論文が見つかったので、勉強を兼ねて調べてみました。でも、これが迷路の始まりになってしまいました。

S. Kimoto, "The Chrysomelidae of Japan and the Ryukyu Islands. VI Subfamily Galerucinae I", J. Fac. Agriculture, Kyushu Univ. 13, 287 (1964). (ここからダウンロードできます)

用いた論文はこれです。この中にニレハムシなどが含まれるPyrrhalta属の種への検索表が載っていました。ただ、英語が分かりにくく、意味が通りにくいところがあったり、専門用語が分からなかったりして、翻訳にはかなり苦労しました。とりあえず、ニレハムシ辺りを翻訳したものが次の通りです。



これを調べていくことになりますが、クロヒゲケブカハムシについては載っていなかったので、今回は割愛しています。もし、ニレハムシ maculicollisに行くならば、①a→②b→③a→④bと進んでいくことになります。もし、サンゴジュハムシ humeralisならば、①b→⑤a→・・・と進んでいくのですが、最初の①の選択肢で①aが正しそうなので、そちらは途中までしか書いてありません。ただ、①aに進んだ場合でも、②のconvexityの意味がよく分かりませんでした。それで、そちらへ進む可能性も残しておきました。



これは背側から撮ったものです。



そして、これは腹側からです。体長は4.9mm。ニレハムシの6.5mmよりかなり小さいのが迷いの始まりでした。上翅側片は②aに進んだときに必要な項目です。

まず、①の触角の幅と長さの比を見てみました。



検索表に書かれた英語の意味が読み取りにくいのですが、おそらく、第5節から第10節のほとんどは長さ(l)/幅(w)が2以下か、3以上かという選択になると思います。それで、測ってみました。その結果を上の方の図に書き入れました。大体2前後です。これで、①aの方が適当だと思い、①bに進むサンゴジュハムシは除外しました。



次の②の「鞘翅の側縁は縦方向に先端まで伸びる明瞭なconvexity」のconvexityがどれを指すのかよく分からず、とりあえず凸状と訳しましたが、適当でないかもしれません。翅の側縁の先端に近いところを拡大したのですが、縁にある筋のような部分をconvexityと呼ぶのなら②aになるし、このほかに何かconvexityに相当する構造があるのなら②bということになります。

とりあえず、②bに進んだとすれば、③は触角第3節と第4節の長さ比較です。上の図のようにほぼ等しいので、④に進みます。クロヘリウスチャハムシ nigromarginataは鞘翅の会合部、翅縁部が黒くなるので、たぶん、違うので、④bのニレハムシ maculicollisになるのですが、内容をよく見ると、おやっと思う部分がありました。まずは、体長が6.5mmで実測の4.9mmとはかなり違うこと。次は脚の色で、「脚は黒味を帯びる、腿節と脛節の基部は赤褐色」と書かれていますが、写真の個体は明らかに大部分が黄色で、脛節の先端半分と跗節だけが暗色です。前胸背板の斑紋の表現もどうも変です。そんなところから、迷いが出始めました。

それで、仮に②aに進んだとすれば、次の⑥は上翅側片の長さです。上の写真にも載せましたが、その部分を拡大したのが次の写真です。



縁のほかに内部にも隆起線があって、その間を上翅側片と呼ぶようです。この写真でも分かりますが、内部の隆起線は途中で消えてしまいます。そこで、その消えるまでの長さを測ったのが上から二枚目の写真です。約3/4なので、⑦に進むと、腹部が黒色なので⑦aのtakeiiとなるのですが、頭部が黒いなどいくつかの点で大きく異なっています。




前胸背板の基縁(basal margin)の側面側を写したものですが、凹型という感じもしません。

ということで、takeiiは却下して、一応、ニレハムシにはなったのですが、どうももやもやが残りました。そこで、別の論文に載っている検索表もあたってみました。

J. L. Gressitt and S. Kimoto, "The Chrysomelidae (Coleopt.) of China and Korea", Pacific Insects Monograph 1B, 301 (1963). (ここからダウンロードできます)

これは中国・韓国産なのですが、この中にも上記の種が含まれる検索表がありました。その部分を訳すと次のようになります。



この検索表では、ニレハムシに行くためには①a→②aだけです。①aは黒くなる部分を列挙していますが、合っている感じです。②aは触角の長さですが、ニレハムシは体の半分程度、サンゴジュハムシは体とほぼ同じということで、必然的にニレハムシになります。大体はこれでよいかなと思うのですが、この中にも気になる表現があります。例えば、「前胸背板と鞘翅はまばらに立毛で覆われる」というものです。写真で見ると、それほどまばらではないのですが・・・。また、体長は6-7mm。実測の4.9mmとはだいぶ違います。たぶん、ニレハムシでよいのだと思うのですが、だいぶもやもや感が残ったままになりました。
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