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虫を調べる ニンギョウトビケラ

昨年からの宿題だったニンギョウトビケラを調べてみました。



ニンギョウトビケラというのはこんなトビケラです。色が明るい褐色だし、触角を前にすっと伸ばしている姿を見るとすぐにそれと分かり、いつもニンギョウトビケラだと言っていました。でも、「トビケラ専科」というサイトの日本産トビケラの種リストによると、ニンギョウトビケラが含まれるGoera属には15種も記録されています。昨年の11月に一度調べてやろうと思って文献を探していたら、次の論文を見つけました。

T. Nozaki and K. Tanida, "The genus Goera Stephens (Trichoptera: Goeridae) in Japan", Zootaxa 1339, 1 (2006). (ここからダウンロードできました)

この論文には上の15種すべての種について詳しく書かれているので何とかなるかなと思ったのですが、やはりこういう生態写真だけでは分からないことが分かり、宿題として残っていました。今回は上の個体を採集して調べてみました。せっかくだから、科、属の検索からやってみようと思って、「日本産水生昆虫」に載っている検索表で調べてみることにしました。今回は行きつく先がニンギョウトビケラ属Goeraと分かっているので、検索は比較的簡単でした。その道筋を抜き出すと次のようになります。



これをいつもと同じように写真で確認していきます。これもいつものように、検索の順ではなくて、部位別に見ていきます。まず、上の写真では⑥の触角の長さが前翅の長さとほぼ等しいことを見ます。



次は頭部と胸部を背側から撮ったものですが、書き込みがいっぱいでややこしく見えますが、中胸小盾板に関するものが多いので、こんな風になってしまいました。中胸小盾板は写真の中に破線で書いた部分を指しています。その中に前後に長い大きなこぶ状隆起が1つだけあります。このことが上の⑥~⑨までの内容になります。さらに、②は単眼がないこと、⑧は中胸盾板の正中線に縦溝があることを示しています。



これは小顎鬚についてですが、この個体は♂なので、⑧に示すように小顎鬚は3節です。それに対して、③では第5節について書かれているので、これは♀用の検索項目になっています。検索表には♀用と書かれていなくて、さらに、後で♂と♀について書かれた⑧が出てくるので、ちょっとした矛盾になっています。いずれにしても鞭状ではないので、これはOKとしましょう。また、⑧の触角基節も特に異常がないのでOKとします。



⑤は中肢脛節に前距があるかどうかということですが、この写真のように前距が2本あります。



次は前翅の翅脈についてです。採集していた個体をそのまま毒瓶に入れていたら、やはりちょっと乾燥してしまったので、翅が破れる前にはずして翅脈を見てみました。翅脈の名称は次の本に載っている図を参考にしました。

F. Schmid, "Genera des Trichoptères du Canada et des États adjacents", Insects and Arachnids of Canada Handbook Series, 7 (French) (1980). (ここからダウンロードできます)

ただ、この本はフランス語なので私には文章は読めません。ここではDCとTCがあって、MCが開いていることを見ます。これで検索項目はすべてクリアされたことになるので、ニンギョウトビケラ科ニンギョウトビケラ属であることが分かりました。

ここからは上の野崎氏の論文を手掛かりに種の特定をしていきます。まず、論文の中に書かれている分布を見てみると、15種いるGoera属のうち近畿に分布していそうなのは次の5種です。

ニンギョウトビケラ
クルビスピナニンギョウトビケラ
キョウトニンギョウトビケラ
カワモトニンギョウトビケラ
クロニンギョウトビケラ

野崎氏の論文の中に書かれた種の特徴を表にまとめたものを昨年11月に作っていました。もう一度、それを出しておきます。



私のつたない語学力で訳しているので、間違っているところもあると思います。そのつもりで見てください。今回は腹部の欄の腹板の違いに注目してみました。



これは腹部を腹側から写したものです。中間に奇妙な突起列が見えますが、これが第6腹板にある櫛状の刺です。また、わずかですが、その左に小さな突起列が見えるのは第5腹板のものです。さらに、右端の複雑な構造は交尾器で、これは♂のものです。第6腹板の刺は全部で13本で、中心は一番長いことが分かります。この本数から、上の表に載っているカワモトとクロを除外することができます。また、第5腹板に小さな刺が見えるので、クルビスピナも除けそうです。この刺だけで、ニンギョウトビケラとキョウトに絞られますが、クルビスピナ辺りもまだ可能性が残っています。次は交尾器です。





これは腹部末端の側面側と背側からの写真です。大変、変わった形をしています。背側から見ると、長く尖ったものが2本見えますが、これは論文ではventrolateral processes of tergum Xとなっているものだと思われます。第X背板の腹外側突起とでも訳したらよいのかどうか・・・。ただ、この形が種によって違っています。ニンギョウトビケラではこの突起がまっすぐ伸びて、先端2/3の部分でこの突起に重なるように下側に枝が見られます。クルビスピナはこの2本の突起がねじれます。そして、キョウトは2本の突起の長さが左右非対称になっています。クルビスピナとキョウトでないことはこれで分かりますが、ニンギョウトビケラだとすると枝がないといけません。そこで、これまでは実体顕微鏡で撮影したものですが、さらに倍率を上げるために生物顕微鏡の対物レンズ10倍で撮ってみました。



より鮮明に見えるようになりました。長い突起の中間より先の下側に枝らしいものが見えています。おそらくこれでしょう。これで、ニンギョウトビケラで間違いないのではと思いました。交尾器の各部の名称がまだ分からないので、名前を入れていないのですが、そのうち入れたいと思っています。

ついでに撮影した写真も載せておきます。



これは交尾器を腹側から撮ったものの拡大。



そして、これは第6腹板の櫛状の刺の拡大。



腹部を横から撮ったものです。第6腹板の刺が斜めに突き出していることが分かります。



最後は後翅の翅脈で、上のSchmidの本に載っているGoera属の翅脈図を参考にしてつけたものです。同じ源から出ているのに、Cu2とA1に分かれている点がどうも引っかかるのですが、とりあえず本の通りにしておきました。本には載っていないのですが、A2、A3aとA3bについては適当に名前を付けています。

これでニンギョウトビケラらしいことが分かったのですが、いちいち捕まえて交尾器を見るのはいかにも大変です。何とか外見だけから分かるとよいのですけど・・・。
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