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家の近くのむし探検 雑談(麦角菌と昆虫)

イネ科の花の写真をブログに出したら、ささきさんから麦角菌の紹介がありました。私自身は麦角菌というのは全く知らなかったのですが、ついでだから調べておこうと思って調べてみました。でも、菌に関してはWikipedia以上の知識は得られませんでした。代わりに虫との関係については少し文献を調べてみました。

まず、麦角菌についてですが、Wikipediaによると、キノコなどの子嚢菌の一種でイネ科やカヤツリグサ科に寄生して麦角という、普通の実より大きな菌核をつくります。ここからは大量の糖分を含んだ蜜滴を分泌し、その中には大量の胞子が含まれています。麦角には毒性のあるアルカロイドが含まれています。ライ麦に寄生するClaviceps purpureaという麦角菌は食用のライ麦の麦角をつくるので、これを含むライ麦パンを食べて中毒を起こすことが古くから知られていました。

この麦角菌がどうやって広がっていくのかということについては古くから研究されていました。1920年に書かれたAtanasoffの"Ergot of grains and grasses"(ここからダウンロードできます)には、風によって広がるほかに、蟻やら甲虫やらいろいろな虫がそれに関係していると書かれていました。最近になって次の論文に大々的な調査の結果が載っていました。

M. D. Butler, S. C. Alderman, P. C. Hammond, and R. E. Berry, "Association of Insects and Ergot (Claviceps purpurea) in Kentucky Bluegrass Seed Production Fields", J. Economic Entomology 94, 1472 (2001). (ここからpdfがダウンロードできます)

この調査はアメリカのケンタッキー州のナガハグサの種を取るための農場で行われました。ここではClaviceps purpureaという麦角菌が繁殖しているのですが、この草原でネットスィープ、Aphid sampler、および、ブラックライトトラップで虫を採集し、そこに麦角菌の胞子がついているかどうかを調べました。その結果、農場の場所によっても異なるのですが、蛾では最大100%、ハエでは75%、ヨコバイでは60%、アザミウマでは32%が胞子で汚染されていたそうです。したがって、個体数にもよりますが、昆虫では蛾が麦角菌にとってもっとも重要な媒介者ということになります。

日本でも調査が行われていました。

S. Sugiura and K. Yamazaki, "Migratory moths as dispersal vectors of an introduced plant-pathogenic fungus in Japan", Biol. Invasions 9, 101 (2007).

これは宇治川の土手に生えているシマスズメノヒエを対象にした調査です。この植物には C. paspaliという麦角菌が繁殖しているのですが、ここにどんな蛾が集まるかを調べたものです。観察してみると、昼間はほとんど蛾はやってこないのですが、夜になると急にたくさんの蛾がやってくるようになります。そこで、区画を決めて、17:30-22:30の夜間の5時間にやってくる蛾を片端から調べるという方法で4日間の調査を行ったそうです。その結果、48種877匹の蛾が採集されました。これらはヤガ科、ツトガ科、シャクガ科が主だったのですが、その中でも、クサシロキヨトウ、コブノメイガ、アトジロキヨトウ、ヒメシャク類、スジシロキヨトウ、タイワンウスキノメイガ、ハスモンヨトウ、ナカグロクチバ、スジキリヨトウなどが数の多い種でした。もっとも多かった初めの3種を電顕で調べたところ、胞子が観察されたそうです。

ということで、主に麦角菌と虫との関係を調べてみたのですが、麦角菌というのを初めて知ったこと、蛾がその繁殖に重要な役割を果たしていることが分かりました。麦角というのはどういうものかよく知らないのですが、あるいはこれまでにも見たことがあったのかもしれません。Wikipediaに写真が出ているので見てください。
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No title

そうそう、八木先生の報文も蛾が麦角菌の胞子の運び屋になっているという趣旨だったと思います。おかげさまで思い出しました。蛾の観察や採集をする者はイネ科植物ばっかりの草原には見向きもしませんが、案外優れた観察・採集スポットになりうるのですね。
しかし宇治川での観察で「数の多い種」としてナカグロクチバが挙げられているのは驚きです。

No title

お陰様でいい勉強になりました。イネ科にも意外に蛾が集まるのですね。論文によると、ナカグロクチバは4日間で11匹だったそうです。そういえば、私も以前、河原で見たことがありました。
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