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廊下のむし探検 ツチハンミョウの話(雑談)

知人からツチハンミョウの擬蛹の期間について聞かれたので、ちょっと調べてみました。せっかく調べたので、忘れないようにブログに書いておきます。



ツチハンミョウというのはこんな虫で、ツチハンミョウ科に属する甲虫の仲間です。こんな風に触角に瘤のあるのが♂です。



こちらは瘤がないので♀の方です。大きさは2-3㎝くらいのものです。私の住むマンションでは毎年10月終わりごろになるとこのツチハンミョウが一階の廊下を這い回ります。晩秋になると虫が少なくなるので、出てくるのを今か今かと楽しみにしています。この辺りではヒメツチハンミョウとキュウシュウツチハンミョウという2種がいるようなのですが、たいていはヒメツチハンミョウです。10月終わりころから♂が出てきて、例年11月10日ごろから♀が出てきます。マンションで何をしているのかはずっと謎のままなのですが、廊下や壁などを一日中這い回っています。この虫はカンタリジンという毒をもっているので触らない方が賢明です。

さて、この虫については以前ファーブル昆虫記にに載っている「ツチハンミョウの大冒険」という面白い話があることを紹介しました。この中で、一齢幼虫は花に登っていき、そこで待っていてやってきたハナバチにしがみつき、土の中にある蜜の池の上に産卵するときに、産卵管を伝って卵に乗り移り、その卵を食べて、育っていくという話でした。その時に、芋虫のような幼虫から一度蛹とそっくりな擬蛹(ぎよう)という状態になり、再び、芋虫のような幼虫になってから蛹になると書かれていました。このような過程は過変態と呼ばれていますが、ファーブル昆虫記によると、ツチハンミョウの仲間のゲンセイは擬蛹の期間が1年ほど続くと書かれていました。

知人の質問は仮に擬蛹の期間が1年も続くとなると、秋に成虫が発生して、成虫越冬したものが春に卵を産み、その後擬蛹に1年もかかると2年がかりで成虫になるのだろうかというものでした。ファーブル昆虫記を読むと、ツチハンミョウの方は擬蛹の期間が1か月程度みたいなのですが、面白そうなのでちょっと調べてみました。そして次のような本を見つけました。

J. D. Pinto and R. B. Selander, "The bionomics of blister beetles of the genus Meloe and a classification of the New World species", University of Illinois Press (1970). (ここからダウンロードできます)

この本はヒメツチハンミョウも含まれるMeloe属を詳しく調べたものですが、その中で幼虫や擬蛹の期間についても書かれていました。ヒメツチハンミョウは学名で書くとMeloe coarctatusとなるのですが、略してM. coarctatusと書きます。この本ではM. dianellaとM. laevisという2種のツチハンミョウについて飼育をしてその期間を調べています。

卵から孵化するとまず1齢幼虫になります。この時期にハナバチにつかまって大冒険をします。そして、無事に卵にたどり着いた幼虫は卵を食べて大きくなり、2齢幼虫になります。さらに、脱皮を3回繰り返し、最終的に5齢幼虫にまでなります。その後、擬蛹(6齢)になり、それから脱皮して、再び芋虫状の7齢幼虫になり、そして、最終的に蛹(8齢)になります。この本によると、1齢から8齢までの期間は平均で

M. dionellaでは 10, 2.5, 2.1, 3.4, 13.3, 39.4, 10.3, 18.9日
M. laevisでは   7.1, 3.2, 2.7, 3.5, 11.0, 240.0, 11.0, 21.0日

だったそうです。太字で書いた部分が擬蛹の期間です。種類によって、1か月余りと8か月とずいぶん大きな違いがあることが分かります。擬蛹になると、口器、触角、脚が痕跡程度になる代わりに、気管は拡大し、さらに、移動能力はなくなってしまいます。ただ、通常の蛹では周囲が革質化して固くなるのですが、Meloe属の擬蛹は固くならず、芋虫状の幼虫ほどではないにしろ多少ともぶよぶよした膜質のようです。Epicauta、Pyrota、Lytta属などでは表面が固くなり、色も暗赤色になって本当の蛹のようになるみたいです。

こんなに種によって期間が異なるのはどうしてかというと越冬を擬蛹でするか、成虫でするかの違いによっています。擬蛹の期間の長いM. laevisでは成虫は夏に活動して、幼虫は秋に出てきます。少なくともこの本で観察している北部領域では、幼虫が成虫にまで育つ期間は十分ではなく、したがって、擬蛹の状態で越冬すると考えられます。通常のMeloe属の成虫は春活動し、幼虫は初夏に大きくなるので、冬までには十分時間があるので擬蛹の期間は短くてよいということになります。

以下は私の意見ですが、このように季節によって活躍する時期が違うのは寄生するハチの種類が関係していると思われます。もともとこんな擬蛹の期間を通るのは、ハチの種類の多い夏を狙って活躍するツチハンミョウの種数が多かったためではと思います。たぶん、種によって寄生するハチの種を変える「棲み分け」がなされていると思われるので、夏の方がハチの種類が多くツチハンミョウもいろいろな種が共存できてよかったのでしょう。そのうち、その中の一部のツチハンミョウは春のハチを狙い季節をシフトさせました。こうなると、擬蛹で越冬する必要はなくなり、また、二度も蛹の時期を通るのはいかにも非効率なので、少なくともMeloe属では春に発生するハチを狙った成虫越冬する種が主流になり、擬蛹も形だけのものになってきたのではないかと思っています。
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