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虫を調べる ホソアシナガバエ亜科

この間からアシナガバエを調べてみたいと思っていて、先日、2種のアシナガバエを採集したのですが、いざ検索してみるとなかなかうまくいきません。それで、だいぶ以前に採集していて、たぶん、ホソアシナガバエ亜科Condylostylus属だろうと思う種について、練習のつもりで検索をしてみました。でも、それでも結構大変でした。



用いたのはこんなアシナガバエです。5月29日に家の近くで採集したものです。翅全体が薄黒く、中央に白い模様が入っているので、マダラホソアシナガバエ属 Condylostylusで間違いないのではと思っています。いずれにしても、後で示すようにM1脈が大きく曲がっているので、ホソアシナガバエ亜科 Sciapodinaeであることは確かそうです。そこで、次の論文に載っている検索表を使ってみることにしました。

D. J. Bickel, "The Australian Sciapodinae (diptera: Dolichopodidae), with a review of the oriental and Australasian faunas, and a world conspectus of the subfamily", Australian Museum Journal, Suppl. 21 (1994). (
ここからダウンロードできます)

この中で日本産に限って検索をしてみると、無事にCondylostylus属になりました。いつもすぐに忘れてしまうので、その時の検索過程を記録しておこうと思います。



検索表を使うと上の3項目を確かめるだけで、比較的簡単にCondylostylus属に到達しました。いつものように各部の写真でこれらを確かめてみたいと思います。



まずは頭部の写真です。複眼の横が大きくえぐれています。複眼のすぐわきに盛り上がった部分があり、そこから黒い頭頂剛毛が上に向かって生えています。さらに、白い毛も3本ほど横に向かって生えています。このちょっと盛り上がった部分が、たぶん、検索表に載っているraised setose moundと書かれた部分だと思われます。この部分を生物顕微鏡を使ってもう少し拡大してみます。



こうして拡大してみると本当に奇妙な形をしていますね。特に単眼瘤が一つ目のようにこちらを睨んでいます。



次は触角の拡大です。触角刺毛は背側の先端から出ています。たぶん、背亜縁側というので合っているのでしょう。また、梗節には背側にも腹側にも長い刺毛があります。検索表の通りですね。



次は胸部の背側を見たものです。除光液入りの毒瓶に入れたのが2か月半前だったので、だいぶ乾燥してしまっていますが、まだ、脚や翅は固まっていないので、自由に動かすことができます。この写真では小盾板に2対の長い剛毛が生えていることを見ます。



ついでに刺毛の数も数えてみました。中刺毛は左側は3本、右側は2本、背中刺毛は両側とも4本でした。これも検索表の通りです。



次は翅脈です。毒瓶の中で翅がくちゃくちゃになっていたのですが、何とか伸ばしてみました。翅脈の名称は「日本産水生昆虫」によっています。M1脈がM2脈と分岐した後、大きく上側やや基方側に上がり、約90度で翅縁側に曲がってR4+5脈に接近するようにして翅縁に達しています。検索表では基方に鋭く曲がるということなのですが、この程度でもいいのかどうかは分かりません。



次は中、後腿節についてです。見たところ、どちらの腿節も強い剛毛は見当たりません。前亜縁剛毛というのは、anterior preapical setaeを訳したもので、腿節の末端近くにある前側(写真の下側)を向いた剛毛を指しています。写真を見る限り、確かにありません。ということで、交尾器に関するもの(上の検索表では省略しています)のほかはすべての項目が満足されたので、たぶん、Condylostylus属で合っているのではと思います。



ついでに、腹部末端の写真も撮ったのですが、複雑な構造が見えます。多分、♂ですね。

実は、これから先が大変でした。日本産アシナガバエ科チェックリストが「知られざる双翅目のために」というサイトに載っているのですが、その中ではCondylostylus属には次の4種が載っています。

Condylostylus itoi Kasagi, 2006 ヒメマダラホソアシナガバエ
Condylostylus japonicus Kasagi, 1984 ヤマトマダラホソアシナガバエ
Condylostylus luteicoxa Parent, 1929
Condylostylus nebulosus (Matsumura, 1916) マダラホソアシナガバエ

このうち、ヒメマダラ、ヤマトマダラ、マダラの3種については次の論文に載っています。

田悟敏弘、「関東地方にて採集したアシナガバエ科の記録」、はなあぶ 30-2、1 (2011)

また、マダラについては「原色昆虫大図鑑III」に詳しい種の説明が載っています。さらに、ヤマトマダラについては次の記載論文が見つかりました。

M. Kasagi, "A New Condylostylus (Diptera, Dolichopodidae) from Japan", Kontyu 52, 293 (1984). (ここからダウンロードできます)

残念ながら、C. luteicoxaについては情報がないのですが、この3種と今回の個体を比較してみました。まず、ヤマトマダラは中、後基節が暗色であり、また、翅の模様も異なるようです。上の写真でも分かるように基節は特に暗色ではないので、これを除くことができます。次に、ヒメマダラは小型で体長は4.5mm、また、前脛節先端に強い刺毛を持つということです。体長はよく合っています。



でも、前脛節先端を見ても弱い刺毛は見えますが、強い刺毛は見えません。それで、残りのマダラの可能性が高くなるのですが、「はなあぶ」の説明を読むとマダラでは前脛節背面に短い刺毛1本を持ち、ヒメマダラは刺毛を持たないとあります。この個体では明らかに背面に2本の刺毛を持っていてどちらとも合いません。ということで、マダラホソアシナガバエに近いと思われますが、そのものかどうかは分からないという、またしてももやもやの結果になってしまいました。(追記2016/08/31:菅井 桃李さんから、「ヤマトマダラのまだ体色が薄い個体に見えますが、いかがでしょう?最初の生体を見ると、まだ胴体ちゃんと色付いてませんね。脚の特徴はヤマトマダラですし、おそらくヤマトマダラだと思います。」というコメントをいただきました。ヤマトマダラの性質をまとめてみたのですが、これから断言するのはなかなか難しいですね。若いので色があてにならないとすると、刺毛の数にも結構範囲があるし・・・

他のアシナガバエについてもついでに調べてみたのですが、どれもはっきりしなくて弱っています。綺麗なハエなのに、どうして名前調べがこんなに難しいのでしょう。困ってしまいますね。
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No title

ヤマトマダラのまだ体色が薄い個体に見えますが、いかがでしょう?
胴体部分は既に色が出ていますが、翅の紋の色も薄いので、脚と翅は胴体より色付きが遅いのは普通のことですし。

No title

あ、最初の生体を見ると、まだ胴体
ちゃんと色付いてませんね。
脚の特徴はヤマトマダラですし、おそらくヤマトマダラだと思います。

No title

いや~、これは神の助けですね。また、もやもやで終わるのかとがっかりしていました。基節の色でヤマトマダラは真っ先に除外していました。若いときは色が付かないのですね。当然かもしれませんが、初めて知りました。今度はヤマトマダラかもと思って、もう一度調べ直してみます。本当に助かりました。

No title

ちゃんと調べるまでは確定できませんけどね。

あまりに翅の色が淡く、体に青みがあってあまりギラギラしてないものはまだ色付いてないものです。
もっと早いと、何となく白っぽいので分かり易いんですけどね。

No title

ヤマトマダラの性質をまとめてみたのですが、これから断言するのはなかなか難しいですね。若いので色があてにならないとすると、刺毛の数にも結構範囲があるし・・・。うーむ。どうすればよいかちょっと作戦を練ってみます。
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