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虫を調べる 公園の砂場の上を飛び回る蜂

公園の砂場の上を十匹ほどのハチが低空で飛び回っています。気が付いたのは6月3日。いつもマンションの芝生の上を飛び回るウツギヒメハナバチが出てくるのもウツギの咲く今頃だったので、たぶん、このハチか、別のヒメハナバチだろうと思っていました。







6月5日に写真を撮りに行きました。砂すれすれに飛び回っていてなかなか止まってくれません。やっと止まっても、こちらがちょっとでも動くとすぐに飛び立ってしまいます。そぉっと近づいて何枚か写真を撮りました。



大人しく止まっていてもすぐに別のハチがちょっかいをかけてきます。こんな風に、別に穴を掘るわけでもなく、こんなことをずっとやっていていました。6月3日に1匹捕まえてきました。これは♀でした。6月5日に行ったときは♂っぽいハチを1匹捕まえました。

早速、♂らしき個体の方の検索をしてみました。



対象とするのはこんなハチです。体長はどう測ってよいのか分からないので、スケールごと出しておきます。体長は8mm程度という感じでしょうか。検索にはいつもの「絵解きで調べる昆虫」の検索表を使ってみました。そうしたら、意外や意外、ヒメハナバチ科ではなくて、ドロバチモドキ科に到達しました。



その時用いた検索の項目が上の14個です。これを例によって、写真に項目を書き込み、部位別に見ていきたいと思います。まず、上の写真を見ると、①の「細腰亜目」、②の「機能的な翅をもつ」の2項目はすぐに分かります。



次は頭部です。顔を見ると、確かにヒメハナバチと違うなということがすぐに分かります。触角の下の黄色い台形の部分が頭盾、その下の部分が上唇です。この写真では頭頂に突起がないこと、複眼の内縁に湾入がないことを確かめます。



次は翅です。ここでは、④の翅脈が発達すること、縁紋も明瞭なこと、後翅に閉じた室をもつことを確かめます。さらに、肘室が3つ、縁紋が第1中室より小さいことを見ます。意外に、すぐに分かる性質ばかりです。



次は腹部です。⑳は後で使う検索項目なので、今回は飛ばします。⑤の後脚転節が1節であることはすぐに確かめられます。



次は横からです。肩板と前胸背板は図に示した通りです。前胸背板の側面に出た端は丸い突起になっています。その先端と肩板を比べると、確かに肩板まで達していないことが分かります。さらに、⑦の毛を見ると単純な毛だということが分かります。ここが枝分かれした毛になっていると、ヒメハナバチの方に進むことになります。



次は背側からです。⑧の前胸背板が前に伸びていないことはすぐに分かります。㉑は後で使うので、ここでは省略です。



⑭の中脚の脛節距は確かに2本です。これで、すべての項目を確かめることができ、無事に科の検索が終わりました。しかし、意外や意外。ドロバチモドキ科だったのです。



ついでに♂と♀では触角の節数が違うことがあるので、節数を数えておきます。全部で13節です。たぶん、♂でしょうね。11節に突起があり、12節の内側がえぐれています。

ドロバチモドキ科の亜科への検索表は次の本に載っていました。

H. Goulet and J. Huber, "Hymenoptera of the world: an identification guide to families", Entmological Society of Canada (1993). (ここからダウンロードできます)

例のカナダの本です。これで検索をしてみると、Stizinae亜科になりました。検索表のその部分を訳してみると次のようになります。



先ほど出てきた⑳と㉑はこの番号だったのです。まず、翅脈を改めて見てみます。



⑳は3つの肘室があることで、これはすでに確かめました。次の㉒は少し微妙な表現なのですが、第1肘室の基部側の端と翅端側の端までの距離の1/2と縁紋の基部側の端までの距離の比較です。図に矢印を入れてみました。縁紋までの距離の方がもう一方の距離の1/2より長いので、これもOKです。上の腹部からの写真をもう一度見直すと、腹部第1腹板の前方中央に確かに一本の隆起線が見えます。また、㉑の後単眼は通常の形をしています。ということで、ドロバチモドキ科Stizinae亜科になりました。この亜科はその時々でハナダカバチモドキ亜科と呼ばれたり、スナハキバチ亜科と呼ばれているようですが、ここではスナハキバチ亜科としておきます。

無事、亜科までたどり着いたのですが、実は、ここからが大変でした。寺山氏の最新の「日本産有剣膜翅類目録」を見ると、ドロバチモドキ科というのはありません。似たような名前のドロバチモドキ族はギングチバチ科に入っています。さて、"Hymenoptera of the world"で検索して到達したスナハキバチ亜科に入っていた種が、現在のどこに含まれているのだろうか、これが問題です。これに対して、ちょっとヒントになるような文献が見つかりました。

H. E. Evans and K. M. O’Neill, “The Sand Wasps”, Harvard Univ. Press (2007). (ここで内容の一部を見ることできます)

例のGoogle booksのサイトです。この中に分類の変遷についての表が載っていました。そのうち、スナハキバチ亜科に関する部分だけを抜粋すると次のようになります。



"Hymenoptera of the world"の検索表は一番左のBohart and Menke(1976)をもとにし、これを一部修正したと書かれているので、たぶん、その右の赤枠で囲った部分に相当するのだろうと思いました。ドロバチモドキ科スナハキバチ亜科はその後、アナバチ科の族になり、最終的にギングチバチ科の2亜族になっています。寺山氏の目録の中の分類が一番右のPrentice(1998)と一緒かどうかは分かりませんが、一応、上の表のPrenticeの欄に載っている亜科、族、亜族は目録に載っていました。そこで、スナハキバチ亜科がハナダカバチ亜族とスナハキバチ亜族に該当するとして、本州に生息していそうな種を目録から抜き出すと次の3種になることが分かりました。

ニッポンハナダカバチ Bembix nipponica nipponica
ヤマトスナハキバチ Bembecinus hungaricus
キアシハナダカバチモドキ Sitzus pulcherrimus

この3種については、田仲義弘、「狩蜂生態図鑑」、全国農村教育協会 (2012).に写真が載っていました。それと見比べると、ニッポンハナダカバチは腹部の縞が明らかに違います。キアシハナダカバチモドキは脚の色が違います。ヤマトスナハキバチはパッと見ではよく似ています。ということで、消去法なのではなはだ頼りないのですが、ヤマトスナハキバチではないかという結論になりました。「狩蜂生態図鑑」によると、ヤマトスナハキバチは砂質の土中に多房巣をつくるそうです。獲物となる虫を捕まえて巣穴に入れ、卵を産むようです。なお、巣の入り口は外出するときには仮に閉鎖するそうです。



ついでに♀も撮ってみたので、載せておきます。長い産卵管があるので♀であることは確かでしょう。



何となく♂と顔つきが違います。♀の方が頭盾が大きいようです。模様もはっきりしています。



触角の節数は全部で12。♂が13節だったのでやはり節数が違いました。しかも、♂で見られた末端節あたりの変形がありません。

というので、公園の砂場の上を飛び回る蜂の正体が少し明らかになってきました。初めの予想、ヒメハナバチとは全く違うギングチバチ科のヤマトスナハキバチではないかという結論です。やはりいろいろと調べてみるものですね。いい勉強になりました。
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No title

前回に顔を見た時、ハヤバチに近い印象だったので、近かったと言えば近かった様で。

オスの触角は面白い構造ですね。
ツチハンミョウの様に、交尾の時に挟み込むと予想してみますか。

No title

ツチハンミョウは交尾のときに触角を挟み込む・・・なんてことをするのですか。確かに♂の触角は奇妙な形をした節が並んでいましたね。ハチもそうなら面白いですね。今日も砂の上を10数匹飛び回っていましたが、交尾っていつするのでしょうね。
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