虫を調べる ブリッグスウスイロチャタテ
昨年末ごろ、マンションの廊下を小さなチャタテがウロウロしていたので、これまでも何度も撮影してきました。
こんなチャタテです。以前、MSWiさんからウスイロチャタテ科のEctopsocus briggsiに似ていると教えていただいたのですが、1匹だけ捕獲して冷凍庫の中にそのままになっていました。正確には、一度検索を試みたのですが、つまづいてしまってそのままになっていました。
あまりに小さいので、もう一度検索してみる勇気がなかなか湧かなかったのですが、とりあえずやってみることにしました。
これは大きさを示したものです。上にあるスケールは一目盛りが1mmです。フリーソフトのImageJで計測してみると、体長は体が曲がってよく分かりませんが、1mmちょっと。前翅長は2.3mmほどです。
そして、これは翅脈です。翅脈の名称は次の論文によっています。
田中 和夫、「屋内害虫の同定法 : (5) 噛虫(チャタテムシ)目」、家屋害虫 25, 123 (2003). (ここからダウンロードできます)
前翅に長四角の縁紋があるので、とりあえずウスイロチャタテ科だと予想できます。チャタテムシの検索表は次の論文のものが使えます。
富田康弘、芳賀和夫、「日本産チャタテムシ目の目録と検索表」、菅平研報12、35 (1991). (こちらからダウンロードできます)
ウスイロチャタテ科は次の項目を満たすことで確かめられます。
1. 成虫は長翅型
2. 跗節は2節
3. 爪の先端近くに歯を持たない
4. 前翅先端の翅脈は完全
5. 後小室を持たない
3を除いてはすぐに確かめられます。3は今度のように小さな個体ではほとんど分かりません。それで爪に歯はたぶんないだろうと思って先に進みました。この科では、5の後小室を持たないというのが一番重要な性質だと思います。上の翅脈の写真では、CuA脈が分岐しないでそのまま翅縁に達し、縁に小室を作っていないところがポイントです。
ウスイロチャタテ科だとして、次に種の検索をやってみることにします。
上の論文に載っている種への検索表を書いてみました。この個体はおそらく♀だと思うので、♀用にしてあります。これを一つづつ確かめていくのですが、最初の1については生殖突起がどれなのかよく分かりません。でも、Ectopsocopsis cryptomeriae(クリイロチャタテ)らしい個体は先日調べたので、ここでは1を飛ばすことにします。次の項目からは写真に書き込んでいったので、それを見ながら確かめていきたいと思います。
まず、Fig. 1では翅が長翅型であることと、前翅長が1.7mm以上だということを確かめます。実は、検索表では1.7-2.0mmになっていました。この個体では2.3mmとちょっと大きいのですが、たぶん、このぐらいは許容範囲だと思ってOKにしました。
で、次が問題です。この項目は前翅に縁毛を持つか持たないかということなのですが、Fig. 2を見ると、およそ縁毛らしいものは見られません。従って、必然的にE. ornatoidesになってしまうのですが、吉澤氏のChecklist of Japanese Psocopteraによると、この種は日本では父島にしか生息していません。また、次の論文はE. ornatoidesの記載論文になっているのですが、見てみると少し違う感じです。
I. W. B. Thornton and S.-K. Wong, "THE PERIPSOCID FAUNA (PSOCOPTERA) OF THE ORIENTAL REGION AND THE PACIFIC", Pacific Insects Monograph 19, 1 (1968). (ここからダウンロードできます)
行き詰ったポイントは前翅に縁毛があるのかどうかなので、もう一度詳しく調べてみることにしました。
翅の縁を生物顕微鏡の100倍で観測してみると、上の写真のようにわずかですが、縁毛のあることが分かりました。ついでに後翅にも短い縁毛が並んでいます。これで迷路から脱出できました。
次は検索の4になるのですが、次の写真を見てください。
前翅と後翅が重なっているので見難いのですが、Rs脈とM脈はほぼ一点で交わっています。よく見ると、若干脈が融合しているようにも見えますが・・・。次の5は後翅の縁毛なので、先ほど見た通りです。6は前翅長で、これもすでに書きました。そして、いよいよ最後の項目です。ですが、卵巣小管が何だか分かりません。
ここで行き止まりだと思ったので、いろいろとネットを探してみました。Psocodea Species File Onlineというサイトがあります。この中に、E. meridionalisについても出ていました。もともとE. briggsiの変種として記載されたようです。このサイトには論文もいろいろと出ていて大変便利です。この中の論文を調べていたら、卵巣小管以外の項目で検索している本も見つかりました。
E. L. Mockford, "North American Psocoptera", Flora & Fauna Handbook No. 10 (1993). (ここで一部見ることができます)
Google Booksで一部読めるのですが、うまい具合にEctopsocus属の検索表は読むことができました。この中で両種の区別は次の項目でなされていました。
つまり生殖下板の先端突起の形で見分けられるようです。生殖下板はsubgenital plateの訳で、上に挙げた田中氏の論文によれば亜生殖板となっていて腹部第7腹板を指すみたいです。それで、とりあえず腹端の写真を腹側から撮ってみました。
撮るには撮ったのですが、写真を見ても何が何だかさっぱり分かりません。そこで再びネットを探していたら、こんなサイトを見つけました。National Barkfly Recording Scheme (Britain and Ireland)というサイトです。この中で、実に、この項目で両種を比較しているページが見つかりました。それを参考にして上の写真に項目を書き込んでみました。どうやらこの2つの突起が生殖下板の先端突起を指すようです。このサイトの写真と比べると、生殖下板の先端突起は内側に湾曲していて、Ectopsocus briggsiとそっくりです。ということで、どうやらMSWiさんのお見立て通り、この個体はEctopsocus briggsiで合っているのではないかという結論になりました。この種は田中氏の論文ではブリッグスウスイロチャタテという和名が当てられていました。
最後に顔写真も撮ったので載せておきます。
でも、この写真、ちょっと失敗でした。試料を白いペグ板に載せて撮影したら、横から当てた光でペグ板が光り、ちょっとコントラストがなくなってしまったからです。今度また撮り直してみます。それにしても、チャタテムシは意外に情報が多いですね。調べるのが楽しみになりました。
こんなチャタテです。以前、MSWiさんからウスイロチャタテ科のEctopsocus briggsiに似ていると教えていただいたのですが、1匹だけ捕獲して冷凍庫の中にそのままになっていました。正確には、一度検索を試みたのですが、つまづいてしまってそのままになっていました。
あまりに小さいので、もう一度検索してみる勇気がなかなか湧かなかったのですが、とりあえずやってみることにしました。
これは大きさを示したものです。上にあるスケールは一目盛りが1mmです。フリーソフトのImageJで計測してみると、体長は体が曲がってよく分かりませんが、1mmちょっと。前翅長は2.3mmほどです。
そして、これは翅脈です。翅脈の名称は次の論文によっています。
田中 和夫、「屋内害虫の同定法 : (5) 噛虫(チャタテムシ)目」、家屋害虫 25, 123 (2003). (ここからダウンロードできます)
前翅に長四角の縁紋があるので、とりあえずウスイロチャタテ科だと予想できます。チャタテムシの検索表は次の論文のものが使えます。
富田康弘、芳賀和夫、「日本産チャタテムシ目の目録と検索表」、菅平研報12、35 (1991). (こちらからダウンロードできます)
ウスイロチャタテ科は次の項目を満たすことで確かめられます。
1. 成虫は長翅型
2. 跗節は2節
3. 爪の先端近くに歯を持たない
4. 前翅先端の翅脈は完全
5. 後小室を持たない
3を除いてはすぐに確かめられます。3は今度のように小さな個体ではほとんど分かりません。それで爪に歯はたぶんないだろうと思って先に進みました。この科では、5の後小室を持たないというのが一番重要な性質だと思います。上の翅脈の写真では、CuA脈が分岐しないでそのまま翅縁に達し、縁に小室を作っていないところがポイントです。
ウスイロチャタテ科だとして、次に種の検索をやってみることにします。
上の論文に載っている種への検索表を書いてみました。この個体はおそらく♀だと思うので、♀用にしてあります。これを一つづつ確かめていくのですが、最初の1については生殖突起がどれなのかよく分かりません。でも、Ectopsocopsis cryptomeriae(クリイロチャタテ)らしい個体は先日調べたので、ここでは1を飛ばすことにします。次の項目からは写真に書き込んでいったので、それを見ながら確かめていきたいと思います。
まず、Fig. 1では翅が長翅型であることと、前翅長が1.7mm以上だということを確かめます。実は、検索表では1.7-2.0mmになっていました。この個体では2.3mmとちょっと大きいのですが、たぶん、このぐらいは許容範囲だと思ってOKにしました。
で、次が問題です。この項目は前翅に縁毛を持つか持たないかということなのですが、Fig. 2を見ると、およそ縁毛らしいものは見られません。従って、必然的にE. ornatoidesになってしまうのですが、吉澤氏のChecklist of Japanese Psocopteraによると、この種は日本では父島にしか生息していません。また、次の論文はE. ornatoidesの記載論文になっているのですが、見てみると少し違う感じです。
I. W. B. Thornton and S.-K. Wong, "THE PERIPSOCID FAUNA (PSOCOPTERA) OF THE ORIENTAL REGION AND THE PACIFIC", Pacific Insects Monograph 19, 1 (1968). (ここからダウンロードできます)
行き詰ったポイントは前翅に縁毛があるのかどうかなので、もう一度詳しく調べてみることにしました。
翅の縁を生物顕微鏡の100倍で観測してみると、上の写真のようにわずかですが、縁毛のあることが分かりました。ついでに後翅にも短い縁毛が並んでいます。これで迷路から脱出できました。
次は検索の4になるのですが、次の写真を見てください。
前翅と後翅が重なっているので見難いのですが、Rs脈とM脈はほぼ一点で交わっています。よく見ると、若干脈が融合しているようにも見えますが・・・。次の5は後翅の縁毛なので、先ほど見た通りです。6は前翅長で、これもすでに書きました。そして、いよいよ最後の項目です。ですが、卵巣小管が何だか分かりません。
ここで行き止まりだと思ったので、いろいろとネットを探してみました。Psocodea Species File Onlineというサイトがあります。この中に、E. meridionalisについても出ていました。もともとE. briggsiの変種として記載されたようです。このサイトには論文もいろいろと出ていて大変便利です。この中の論文を調べていたら、卵巣小管以外の項目で検索している本も見つかりました。
E. L. Mockford, "North American Psocoptera", Flora & Fauna Handbook No. 10 (1993). (ここで一部見ることができます)
Google Booksで一部読めるのですが、うまい具合にEctopsocus属の検索表は読むことができました。この中で両種の区別は次の項目でなされていました。
つまり生殖下板の先端突起の形で見分けられるようです。生殖下板はsubgenital plateの訳で、上に挙げた田中氏の論文によれば亜生殖板となっていて腹部第7腹板を指すみたいです。それで、とりあえず腹端の写真を腹側から撮ってみました。
撮るには撮ったのですが、写真を見ても何が何だかさっぱり分かりません。そこで再びネットを探していたら、こんなサイトを見つけました。National Barkfly Recording Scheme (Britain and Ireland)というサイトです。この中で、実に、この項目で両種を比較しているページが見つかりました。それを参考にして上の写真に項目を書き込んでみました。どうやらこの2つの突起が生殖下板の先端突起を指すようです。このサイトの写真と比べると、生殖下板の先端突起は内側に湾曲していて、Ectopsocus briggsiとそっくりです。ということで、どうやらMSWiさんのお見立て通り、この個体はEctopsocus briggsiで合っているのではないかという結論になりました。この種は田中氏の論文ではブリッグスウスイロチャタテという和名が当てられていました。
最後に顔写真も撮ったので載せておきます。
でも、この写真、ちょっと失敗でした。試料を白いペグ板に載せて撮影したら、横から当てた光でペグ板が光り、ちょっとコントラストがなくなってしまったからです。今度また撮り直してみます。それにしても、チャタテムシは意外に情報が多いですね。調べるのが楽しみになりました。
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