虫を調べる シマバエ科Itomyia属?
最近は虫が少なくなったので、虫の名前調べも少し楽になりました。この機会にいろいろな虫を調べてみようと思って、この間捕まえたハエを調べてみました。
対象とするのはこんなハエです。昨年の1月にも捕まえて、その時にはシマバエ科だというところまで達していました。これをもう一度調べてみました。
まずは大きさです。体が曲がっているので、体長を直線的に測ってよいのか分からないので、スケールと一緒に写した写真を載せておきます。だいたい3-4mmくらいの小さなハエです。これがシマバエ科かどうかは次の検索表で調べていきます。
これは「原色昆虫大図鑑III」に載っていた検索表で、無弁翅類を出発点にしてあります。この間、ハチで説明したときと同じように、科を1つずつ調べていく項目と、大きく対象となる科を分ける項目があります。後者には下線を引いてあります。項目が多いので、今回は下線の部分だけを写真でお見せすることになります。
次はシマバエ科の属への検索です。ネットで調べると、株式会社エコリスというところで日本のシマバエ科 属への検索試案というのが出されています。以前はこれを利用させていただいたのですが、ブログに検索項目を載せるのは著作権に触れる可能性があるので、このもとになっているShatalkin(2000)の論文を探してみました。
A. I. Shatalkin,"Keys to the Palaearctic Flies of the Family Lauxaniidae (Diptera)", Zoologicheskie
Issledovania 5, 1 (2000).
論文は見つかったのですが、ダウンロードできないし、仮にできてもロシア語です。何とかならないかなと思ってさらに探していたら、実にこの論文に書かれている検索表を英訳した論文が見つかりました。
W. Schacht, O. Kurina, B. Merz, and S. Gaimari, "Zweiflügler aus Bayern XXIII (Diptera: Lauxaniidae, Chamaemyiidae)", Entomofauna, Zeitschrift für Entomologie 25, 41 (2004). (ここからpdfがダウンロード可能)
この論文です。論文自体はドイツ語なのですが、検索表の部分だけは英語になっています。さっそくそれを和訳して使ってみることにしました。その結果、ちょっと自信がないのですが、たぶんItomyia属ではないかという結論になりました。その部分を抜書きしてみます。
検索自体は簡単なのですが、問題点が若干含まれています。これについては後で説明します。Itomyia属の種への検索はShatalkin(2000)にも載っているのですが、2種しか扱っていないので他にもないかと探してみたら、次の論文に載っていました。
岡留 恒丸、「Itomyia属(双翅目、シマバエ科)一新種の記載と既知種への検索」、名城大学農学部学術報告 47, 1 (2011). (ここからダウンロードできます)
この論文によると、Itomyia属は日本でだけ記録されていた属だったのですが、最近、韓国からも見つかったそうです。この属には5種が記録されていますが、その検索表で調べてみると、Itomyia kenzoui になってしまいました。この最後の結果はかなり怪しいのですけど・・・。一応、その部分の検索表を載せてみます。
ということで、属、種と近づくにつれ、怪しさも増していくのですが、一応、写真でこれら検索表に載っている特徴を見ていきたいと思います。以前と同じように、写真に検索項目を書き入れたので、それを見ながら説明していきます。
まずは頭部からです。顔面中央に奇妙な膨らみが見えます。これは属の検索の最後に出てくる「円錐形の隆起」ではないかと思っています。これでもってItomyia属かなと判断しました。
その部分を拡大してみました。黄色の透き通ったような隆起です。
ついでに触角を見てみます。触角は根元から柄節、梗節、鞭節の3節からなり、鞭節には触角端刺という細い毛が出ています。梗節に縦線が入らないことが無弁翅類の特徴です。触角端刺の色が種の同定に出てくるのですが、これがはっきりしません。端刺の根元部分を見ると、黄色で黒い短い毛が生えているようです。それで、黄褐色を選んだのですが、そこがはっきりしないところです。もう一つの選択肢は端刺が黒で長い毛が生えているというので、前者の方が合っているかなと判断しました。
次は頭部と胸部の写真です。中胸背板に帯状模様がないのは最後の種の特定に使いました。また、シマバエ科の特徴とされる後単眼剛毛の向きがやや微妙です。シマバエ科というとこの2本の剛毛が交差するものだと思っていたのですが、ちょっとだけ内向きに曲がっているだけで果たして収斂と言って良いのやら。ただ、これが平行、あるいは広がっているとすると、ヤチバエ科、ヤスデヤドリバエ科、ベッコウバエ科などになり、だいぶ感じが違ってきます。さらに、もう一つの重要な特徴である翅脈についてはシマバエ科を支持しているので、これは収斂していると見て、シマバエ科でよいのだろうと思いました。
ついでに刺毛の名称を付けてみました。実は、これがもう一つはっきりしないところになります。だいたいは名前がつけられたのですが、肩後刺毛と名前をつけた部分がこれで合っているのかどうか不安です。斜めから見た写真も載せます。
というのは、項目㉓に肩後剛毛があるかないかという項目があります。これがないとすると別属になってしまいます。なかなか難しいですね。
ついでに体側の写真です。この写真からは、端覆弁はあるが、基覆弁はなく、さらに、翅下瘤もないので、無弁翅類だと分かります。また、種の同定に使う前脚脛節の色は暗褐色ではありません。
次は翅脈についてです。⑰のCu融合脈が翅縁に達していないことはシマバエ科の特徴ですが、白矢印のところで翅脈は終わっています。また、⑪のSc切目がないことも見て取れます。属の検索で用いる、㉑の翅縁に生える剛毛列は間違いなくR2+3脈とR4+5脈の中間付近(黒矢印)で終わっています。ということで、翅脈に関してはあまり疑問の余地はなさそうです。
最後は脚の剛毛についてですが、中脚脛節末端には剛毛は1本、それに末端近くの背側に亜末端剛毛が1本あります。
ということで、一部あいまいなところがありますが、顔面の膨らみはかなり顕著なので、シマバエ科のItomyia属で間違いないのではと思いました。でも、いつものように何箇所かもやもやしたところがあります。素人が行う検索ってこんなもんなんでしょうね。
対象とするのはこんなハエです。昨年の1月にも捕まえて、その時にはシマバエ科だというところまで達していました。これをもう一度調べてみました。
まずは大きさです。体が曲がっているので、体長を直線的に測ってよいのか分からないので、スケールと一緒に写した写真を載せておきます。だいたい3-4mmくらいの小さなハエです。これがシマバエ科かどうかは次の検索表で調べていきます。
これは「原色昆虫大図鑑III」に載っていた検索表で、無弁翅類を出発点にしてあります。この間、ハチで説明したときと同じように、科を1つずつ調べていく項目と、大きく対象となる科を分ける項目があります。後者には下線を引いてあります。項目が多いので、今回は下線の部分だけを写真でお見せすることになります。
次はシマバエ科の属への検索です。ネットで調べると、株式会社エコリスというところで日本のシマバエ科 属への検索試案というのが出されています。以前はこれを利用させていただいたのですが、ブログに検索項目を載せるのは著作権に触れる可能性があるので、このもとになっているShatalkin(2000)の論文を探してみました。
A. I. Shatalkin,"Keys to the Palaearctic Flies of the Family Lauxaniidae (Diptera)", Zoologicheskie
Issledovania 5, 1 (2000).
論文は見つかったのですが、ダウンロードできないし、仮にできてもロシア語です。何とかならないかなと思ってさらに探していたら、実にこの論文に書かれている検索表を英訳した論文が見つかりました。
W. Schacht, O. Kurina, B. Merz, and S. Gaimari, "Zweiflügler aus Bayern XXIII (Diptera: Lauxaniidae, Chamaemyiidae)", Entomofauna, Zeitschrift für Entomologie 25, 41 (2004). (ここからpdfがダウンロード可能)
この論文です。論文自体はドイツ語なのですが、検索表の部分だけは英語になっています。さっそくそれを和訳して使ってみることにしました。その結果、ちょっと自信がないのですが、たぶんItomyia属ではないかという結論になりました。その部分を抜書きしてみます。
検索自体は簡単なのですが、問題点が若干含まれています。これについては後で説明します。Itomyia属の種への検索はShatalkin(2000)にも載っているのですが、2種しか扱っていないので他にもないかと探してみたら、次の論文に載っていました。
岡留 恒丸、「Itomyia属(双翅目、シマバエ科)一新種の記載と既知種への検索」、名城大学農学部学術報告 47, 1 (2011). (ここからダウンロードできます)
この論文によると、Itomyia属は日本でだけ記録されていた属だったのですが、最近、韓国からも見つかったそうです。この属には5種が記録されていますが、その検索表で調べてみると、Itomyia kenzoui になってしまいました。この最後の結果はかなり怪しいのですけど・・・。一応、その部分の検索表を載せてみます。
ということで、属、種と近づくにつれ、怪しさも増していくのですが、一応、写真でこれら検索表に載っている特徴を見ていきたいと思います。以前と同じように、写真に検索項目を書き入れたので、それを見ながら説明していきます。
まずは頭部からです。顔面中央に奇妙な膨らみが見えます。これは属の検索の最後に出てくる「円錐形の隆起」ではないかと思っています。これでもってItomyia属かなと判断しました。
その部分を拡大してみました。黄色の透き通ったような隆起です。
ついでに触角を見てみます。触角は根元から柄節、梗節、鞭節の3節からなり、鞭節には触角端刺という細い毛が出ています。梗節に縦線が入らないことが無弁翅類の特徴です。触角端刺の色が種の同定に出てくるのですが、これがはっきりしません。端刺の根元部分を見ると、黄色で黒い短い毛が生えているようです。それで、黄褐色を選んだのですが、そこがはっきりしないところです。もう一つの選択肢は端刺が黒で長い毛が生えているというので、前者の方が合っているかなと判断しました。
次は頭部と胸部の写真です。中胸背板に帯状模様がないのは最後の種の特定に使いました。また、シマバエ科の特徴とされる後単眼剛毛の向きがやや微妙です。シマバエ科というとこの2本の剛毛が交差するものだと思っていたのですが、ちょっとだけ内向きに曲がっているだけで果たして収斂と言って良いのやら。ただ、これが平行、あるいは広がっているとすると、ヤチバエ科、ヤスデヤドリバエ科、ベッコウバエ科などになり、だいぶ感じが違ってきます。さらに、もう一つの重要な特徴である翅脈についてはシマバエ科を支持しているので、これは収斂していると見て、シマバエ科でよいのだろうと思いました。
ついでに刺毛の名称を付けてみました。実は、これがもう一つはっきりしないところになります。だいたいは名前がつけられたのですが、肩後刺毛と名前をつけた部分がこれで合っているのかどうか不安です。斜めから見た写真も載せます。
というのは、項目㉓に肩後剛毛があるかないかという項目があります。これがないとすると別属になってしまいます。なかなか難しいですね。
ついでに体側の写真です。この写真からは、端覆弁はあるが、基覆弁はなく、さらに、翅下瘤もないので、無弁翅類だと分かります。また、種の同定に使う前脚脛節の色は暗褐色ではありません。
次は翅脈についてです。⑰のCu融合脈が翅縁に達していないことはシマバエ科の特徴ですが、白矢印のところで翅脈は終わっています。また、⑪のSc切目がないことも見て取れます。属の検索で用いる、㉑の翅縁に生える剛毛列は間違いなくR2+3脈とR4+5脈の中間付近(黒矢印)で終わっています。ということで、翅脈に関してはあまり疑問の余地はなさそうです。
最後は脚の剛毛についてですが、中脚脛節末端には剛毛は1本、それに末端近くの背側に亜末端剛毛が1本あります。
ということで、一部あいまいなところがありますが、顔面の膨らみはかなり顕著なので、シマバエ科のItomyia属で間違いないのではと思いました。でも、いつものように何箇所かもやもやしたところがあります。素人が行う検索ってこんなもんなんでしょうね。
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