家の近くのむし探検 第241弾
土曜日、マンションの人たちに私がいつも行っている公園の植物を案内しなければならないので、5月19日の金曜日にそのための写真撮影に行きました。その時に見つけたむしたちです。
まずは蛾から。これはマンションの廊下にいたものですが、
ホシオビホソノメイガ。この間も見ました。
次はこのエダシャク。最初はいつものオレクギかその辺かなと思っていい加減に写したのですが、後で見ると、外横線の中央に暗色斑があるので、オオトビスジあたりかなと思って「日本産蛾類標準図鑑」を見てみました。でも、結構似た種がいます。一度、整理しておこうと思って、オオトビスジが含まれるEctropis属の特徴を図鑑の記述をもとにまとめてみました。
日本産のこの属には全部で8種属しているのですが、見分けのポイントは♂前翅基部の刻孔という孔があるかどうかと、後脚脛節に毛束があるかどうかというところです。ただ、写真にはそれが写っていません。そこで、翅の特徴もまとめてみました。上3種が外横線の中央付近に褐色斑が明瞭、下3種が不明瞭または欠如です。今回の個体は明瞭なので、上3種のどれかになりそうです。そのうち、ウルマトビスジは沖縄なので除外してよさそうです。残り2種は翅の色と中横線に違いがあるようです。ウストビスジの翅は赤みを帯び、中横線はほぼ直線的に走りますが、オオトビスジは赤みを帯びず、中横線は前縁部のみで大きく外方へ湾曲とあります。それで、この写真を見てみると、確かに赤みは帯びず、中横線は前縁部のみに限られているようなので、
オオトビスジエダシャクで間違いないのではと思いました。
次からは公園で写したものです。ツヤユスリカはこの間、
腹部の模様を整理してみました。それと見比べると、これは
ナカオビツヤユスリカ♂のようです。
次は問題のヒラタアブです。
この間もちょっと書いたのですが、これは顔面が黒いとか腹部の斑紋から、ツヤヒラタアブ(Melanostoma)属に属すると思われます。「日本昆虫目録」(2014)によると、この属には8種が載っていて、いずれも本州には分布してそうです。そのうち、再検討が必要と書いてあるのが3種。結構、大変なグループです。一応、採集したのですが、この8種全部が載っている論文がまだ見つかっていません。どうしようかなぁ。
写真を撮っていたら葉裏に逃げてしまいました。それで、横からも撮りました。腹部が白いのですね。びっくりです。
そのすぐ横にこの綺麗なハエがいました。どちらを採集しようかなと思って、ツヤヒラタアブの方を採集したら、こちらは逃げてしまいました。これは以前に
♂も
♀を見たことがあります。今回は左右の複眼の間が離れているので♀の方です。このときは
ミズアブ科図鑑を見て、CephalochrysaとMicrochrysaの可能性がありそうだという予想を立てたのですが、文献が手に入らずここでストップしてしまいました。その論文が手に入りました。
A. Nagatomi, "The Sarginae and Pachygasterinae of Japan (Diptera: Stratiomyidae)", Transactions of the Royal Entomological Society 126, 305 (1974). (
ここからダウンロードできます)
この論文の中に属の検索表と種の検索表が載っていました。
まず、CephalochrysaとMicrochrysaの違いのところだけを抜き出して、翻訳するとこんな感じになります。とりあえず、翅脈で何とか区別できそうです。
それで、上の見にくい写真から何とか読み取ってみました。この写真でcua室(赤字でかいてある)とbr+bm室を比べるとほぼ同じくらいの広さを持っています。さらに、M脈のうちM1脈とM2脈がどうもはっきりしません。このことから、Microchrysa属でよいのではと思いました。この属ではfraviventris(ハラキンミズアブ)とjaponicaの可能性があるのですが、種の検索表では触角鞭節の毛を見ないといけません。この写真ではとても無理です。こちらを採集しておけばよかったと後悔しています。でも、また出会うことがあるでしょう。その機会を待つことにします。ミズアブ君は待ってはいないでしょうが・・・。
次はこのオドリバエ。昨年、5月終わりごろに公園で数多く見られました。今年も見られそうです。その時はHybos属だとしたのですが、復習のためにもう一度この写真で検索をしてみました。オドリバエ科の属への検索は、「双翅目(ハエ目)昆虫の検索システムに関する研究」という三枝豊平氏の科研費の報告書(この題目で検索するとpdfがダウンロードできます)に載っているオドリバエ科の図解検索システムを用いて調べることができます。
それを使うと、この6項目を調べれば、Hybosであることが分かります。それで、上の写真を使って調べてみます。
まずは前脚が捕獲脚になっていないこと、口吻が前に突き出していることを確認します。これで、①と④は確認できました。
次は翅脈で中室があって、そこから2本の脈(M1+2とM3+4)が出ていることを見ます。さらに、cua室が第2基室より長く、M脈の基部(Mと書いてあるところ)があることなどを見ます。
最後に⑤♂の交尾器は左右不相称というところを見ようと思って、あれっと思いました。この個体は採集していたので、顕微鏡で撮ったのですが、腹部末端はこんな感じです。
上が横から、下は後ろ斜め上からです。以前見たような複雑な形がまったく見られません。こんなものなのかと思ったのですが、どうしても左右不相称というところが分かりません。それで、「原色昆虫大図鑑III」のHybos属の説明を読んでみました。なんと、♂♀とも合眼的(左右の複眼が中央で接している)と書いてあるではありませんか。つまり、これは♀の方だったのです。これはびっくりです。もう一度、捕まえに行かないといけません。
この種は後脚が捕獲脚になっていますが、その部分も写しました。なかなかすごい構造をしていますね。
ところで、Hybos属の種への検索表が「大図鑑」には載っています。これを使うと、まず、前脚が黒色という項目からスネアカモモブトセダカバエ japonicusに到達します。ただ、説明を読むと、次のようになっています。
H. japonicus 脚は黒であるが、中脛節と全跗節は特徴的に橙黄色
未記載種(H. tibialis) 脚に白毛を生じる
つまり、japonicusは中脛節と跗節が橙黄色なので、この個体とは異なります。また、以前、tibialisと言われていた種は未記載種でこれは脚に白毛を生じるということです。したがって、これとも異なります。ということで、これもたぶん、未記載種ではないかと思われます。「日本昆虫目録」を見ると、またまたびっくり。これはオドリバエ科からセダカバエ科Hybotidaeに移されていました。この中でHybos属にはspが4種も載っています。この中のどれかかもしれませんが、ここでストップです。
最後はクワキヨコバイの仲間です。この仲間はいいですね。あまりに種類が多すぎて、調べる気にもならないので楽ちんです。