また、ショウジョウバエを調べてみました。この間から数えて3種目になります。
今回はこんな綺麗なハエで、しかも、名前がルリセダカショウジョウバエらしいとほぼ分かっているので比較的楽しい検索になりました。でも、やはり最後に落とし穴が・・・。
冷凍庫に入れておいてから解凍するとこんな風によく見るハエの標本のような形になっています。体長は2.5mm。まぁまぁの大きさです。散々、いじくり回していたら、翅の先が破れてしまいました。
これをいつものように検索していくのですが、今回はショウジョウバエ科の検索を省略して、属の検索から始めます。ルリセダカショウジョウバエは学名でLiodrosophila aereaと言うのですが、いつも使っているMNDにはこの属が載っていません。それで文献を探していたら、次の論文にこの属を含んだ検索表が載っていました。
T. Okada, "Systematic study of Drosophilidae and allied families of Japan", Gihodo, Tokyo (1956). (
ここからpdfが直接ダウンロードできます)
今回はこの論文の中の検索表を使ってみることにしました。この論文には成虫の外部形態のほか、♂外部生殖器官による検索や♀腹端部による検索表も載っています。この検索表を使うと確かにLiodrosophila属にはなりそうなので、まずはそれを写真で確かめていこうと思います。
調べるのは上の7項目です。そのうち、①と②はショウジョウバエ科、ホソショウジョウバエ科、ナガショウジョウバエ科の中からショウジョウバエ科を見分けるための検索表です。これをいつものように部位別に見ていきたいと思います。
まずは全体像です。ここでは触角刺毛が明確にあることをまず確かめます。次の⑤の体が太いか細いは相対的なのでよく分かりません。⑦の中胸背板が強く曲がっているかどうかも比較の問題なので判断できませんが、それでも、丸く曲がっている様子は分かります。
これは先日も出した写真ですが、orb1がvtiよりorb3に近いことはすぐに分かります。また、orb2が非常に弱く、vtiの後方にある普通の毛とほとんど変わりないことも分かります。
これは前額と頭頂部の写真です。ちょっと分かりにくいのですが、よく見ると、orb3はorb2より内側にあることが分かります。また、後単眼剛毛は発達していて、お互いに交差しています。
これは胸部の側面の写真です。原文ではmesopleuraと書いてあったのですが、「大図鑑」の対照表を用いて中胸上前側板と訳しました。この部分は無毛です。
翅脈の写真です。cua室については次の写真も見て下さい。はっきりはしないのですが、それらしいものがあります。問題は次の⑦です。筆者は前縁脈を切目で分けて第1分節から第3分節と称しているので、それぞれをC1、C2、C3と書くことにしました。⑦はこの第3分節の基部1/2までに剛毛を多く具えるかという項目です。写真を見る限り、前縁脈はM1+2脈の末端にまで達し、R2+3脈とR4+5脈の中間あたりまではやや強い剛毛があるのが分かります。とても1/2とは思えません。むしろ、これに対抗する項目では、前縁脈第3分節の全体あるいはほとんどに剛毛があるというのでそちらに近い感じがしました。ただ、この項目は3つある検索項目の3番目に書かれていて、他の2つの項目は特に問題ないので、ここではちょっと保留ということにしておきます。
次は翅の基部の写真です。この写真ではcua室が辛うじて見えます。Sc脈の先端が不完全という②の項目は容易に確かめられます。また、⑥の前縁脈の第1分節末端が膨れないというのもすぐに分かります。(
追記2017/03/01:翅脈名が間違っていたので訂正しました)
最後は、前脚腿節の内側に歯のような短い剛毛列があることです。これはLiodrosophila属の特徴みたいです。ということで、予想通りLiodrosophila属にはなりました。「日本昆虫目録第8巻」によると、日本産はこの属に5種いて、そのうち本州産はルリセダカショウジョウバエ aerea一種だけなので多分大丈夫かなと思ったのですが、文献を探していたら、世界のLiodrosophila属について書かれた論文が見つかりました。
T. Okada, "A Revision and Taxometric Analysis of the Genera Sphaerogastrella Duda and Liodrosophila Duda of the World (Diptera, Drosophilidae)", Mushi 48, 29 (1974). (
ここからpdfが直接ダウンロードできます)
この論文は「
日本ショウジョウバエデータベース」に載せられている論文の一つです。このホームページは本当に素晴らしいですね。さて、この論文の中には種への検索表が載っていました。早速、それを試してみました。
一応、上の⑧から⑲までの12項目を確めて、たぶん、L. aereaで大丈夫だろうとは思ったのですが、よく分からなかったところもありました。大体はすでに確かめた項目なので省略しますが、確かめなかったところだけ写真で見ていきます。
まずは平均棍が黄色いこと、次に前脚腿節の一部が暗色なことです。
ここでは亜額帯が先端に行くほど狭くなってくること、それから非常に見にくいのですが、複眼に微毛が生えていることです。ぎっしりというよりはまばらに生えています。
問題になったのはこの写真に示した中刺毛が何列かという点です。このハエの中胸背板には細かい毛が生えていますが、よく見ると列をなしています。それでそれらを恣意的につないでみたのが上の写真です。黄色い点は毛の生えている基部、赤い点は強い剛毛が生えている基部です。やや意図的に、つながっているものに対して番号をつけると、中刺毛は全部で6列になり、上の検索表に書かれた事項によく合います。
でも、よく見ると、1と2の間、5と6の間にはつながっていない毛がまばらに生えています。例えば、1と2の間の毛を結ぶと一列になりそうです。これに対して対称であるはずの5と6の間は途中で途切れてしまっています。もし、これらの毛列も加えるのなら8列になってしまいます。そうすると検索表ではfuscipennisという種になり、これは日本にはいないようです。それでたぶん、これらの列は加えないのだろうと思って6列にしました。かなり曖昧なところです。
こうやって列の数を数えていると、
以前、検索した種での中刺毛の列の決め方はまずかったかなと思い始めました。あの時はMNDの検索表に従ったのですが、この論文の検索表に従えば、Scaptomyza属ではなくてDrosophila属になってしまいます。いずれにしても、もう一度検討が必要です。ハエでは剛毛の位置や数をよく問題にするのですが、素人にはなかなか難しいですね。どうにも判断がつかないものがあって・・・。数をこなせば慣れるのかなぁ。
ついでに検索に使わなかった写真も出しておきます。
これは顔面の写真です。
それに触角刺毛。
頭部、胸部の背側からの写真。
小盾板。
腹部末端の側面と背面からの写真です。こんな構造があるので、たぶん、♂ですね。