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蝶・蛾の口吻で吸う仕組み

蝶・蛾の口吻は普段、顔の前でくるくると巻いていますが、花の蜜を吸うときには長く伸びます。先日、この口吻がどのように伸びたり巻いたりするのか、その仕組みについて書いてみました。今回は、この口吻でどのように液体を吸うのか、その仕組みについて調べてみました。



蝶の口吻は普段はこの写真のように顔の前でくるくると巻いています。



花の蜜を吸うときは、この写真のように巻いていた口吻をほどいて長く伸ばし、蜜を吸います。この口吻、詳しく見るといろいろなタイプがあるようです。これについては次の論文に載っていました。

M. S. Lehnert et al., "Structure of the Lepidopteran Proboscis in Relation to Feeding Guild", J. Morphol. 277, 167 (2016).  (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

次の図はこの論文に載っていた図をスケッチしたものです。


(M. S. Lehnert et al., "Structure of the Lepidopteran Proboscis in Relation to Feeding Guild", J. Morphol. 277, 167 (2016)から一部改変して転載)

5種類のチョウの口吻を並べたものです。手書きのスケッチなのでちょっと汚いのですが・・・。初め、口吻はストローみたいなものだと思っていたのですが、その考えは大きく違っていました。実は、口吻の先端には穴が開いていないのです。それではどうやって液体を吸うのかというと、口吻の先端に吸う領域があるのです。その吸う領域が2と書いてある部分です。領域1は普通の口吻の部分、領域3は穴が開いていない先端部分です。最初の2種については3に相当する部分がないので、見かけ上小さな穴が開いているのかもしれません。

この領域3があるかどうかは、チョウの行動に深く関係しています。上の2種は腐った実などから汁を吸います。これに対して、下の3種は訪花性です。訪花性のトラフアゲハについて、もう少し口吻を詳しく見てみます。


(M. S. Lehnert et al., "Structure of the Lepidopteran Proboscis in Relation to Feeding Guild", J. Morphol. 277, 167 (2016)から一部改変して転載)

これは口吻の先端部分を見たものですが、領域1では中心にdorsal legulaeという細かい葉のようなものが密に並んでいます。液体を吸う領域2では、このdorsal legulaeという葉の長さが長くなり、葉と葉の間に隙間が空いてきます。そして、領域3の末端ではdorsal legulaeがなくなり、先端には穴があいていません。さらに、領域1では疎水的、つまり、水をはじく性質を持っていますが、領域2と3は親水的、つまり水に濡れる性質を持っています。それでは、このdorsal legulaeとは何なのでしょうか。



(L. E. S. Eastham and Y. E. E. Eassa, "The Feeding Mechanism of the Butterfly Pieris brassicae L.", Phil. Trans. Roy. Soc. (London) ser. B. 659, 239, 1 (1955)から一部改変して転載)

これは以前にも出した口吻の断面の図です。次の論文に載っていました。

L. E. S. Eastham and Y. E. E. Eassa, "The Feeding Mechanism of the Butterfly Pieris brassicae L.", Phil. Trans. Roy. Soc. (London) ser. B. 659, 239, 1 (1955).

口吻は小腮肢という口の周りにある肢のようなものが変形してできたものです。口吻は大顎の下にある小顎の左右の外葉が伸びて中央で互いに合わさり、その中心部分に空洞を作って、そこが液体の通り道であるfood canalになります。もとの外葉(galea)はfood canalの両側に張り出します。dorsal legulaeというのはfood canalの背側で蓋をする部分のことでした。これは通常2重になっていて、上側をupper branch、下側をlower branchと呼んでいます。先ほど、葉のように並んでいると書いたものはこのうちupper branchの方でした。つまり、領域1ではこの蓋の幅が狭く、かつ、きちんと並んでいるので、液体は漏れないのですが、領域2ではこの蓋の長さが長くなり、隙間を空けて並ぶのでその隙間から液体が入るようになるのです。その仕組みについては次の論文に載っていました。(追記2017/07/25:小腮肢ではなくて、小顎の外葉だったので訂正しておきます

D. Manaenkova et al., "Butterfly proboscis: combining a drinking straw with a nanosponge facilitated diversification of feeding habits", J. R. Soc. Interface 9, 720 (2012). (ここからダウンロードできます)



つまり、大きな穴から一気に吸い込むのではなくて、dorsal legulae間の小さな隙間から上の図のように液体が染み込むように中に入っていくのです。こんな隙間が領域2全体に開いているので、先端に穴が1つ開いているよりは効率がよいのかもしれません。また、蜜のような液体だけを吸うのではなくて、濡れた地面から水を吸うときや腐った実から汁を吸い取る時などは、領域2をその濡れた面に押し付けて水分を取ることができるので、ストローで吸い取るよりは都合がよいかもしれません。Manaenkovaらはこの仕組みをナノスポンジという言葉で呼んでいます。つまり、先端はナノスポンジ、途中はミクロンサイズのfood canal、この2つを結び付けて効率よく吸っているという主張です。

口吻の領域2をもう少し拡大してみてみます。


(M. S. Lehnert et al., "Structure of the Lepidopteran Proboscis in Relation to Feeding Guild", J. Morphol. 277, 167 (2016)から一部改変して転載)

こんな感じの部分を水分のあるところに接触させて、水分を吸い取るのです。この部分には感覚子も分布しています。ところで、この部分はチョウの種類によって大きく変化します。


(M. S. Lehnert et al., "Structure of the Lepidopteran Proboscis in Relation to Feeding Guild", J. Morphol. 277, 167 (2016)から一部改変して転載)

これはLimenitis arthemis astyanaxというタテハチョウ科のチョウの口吻の先端近くで、領域1から領域2に移り変わる部分の模式図です。この蝶の場合は領域1はdorsal legulaeのlower branchが並んでいるのですが、領域2になるとupper branchが大きくなり全体を覆うようになります。さらに、その先端には枝分かれも見られます。また、大きな有柄感覚子が周りにずらりと並んで、複雑な様相を示しています。この感覚子がどんな役割を果たしているのか分かりませんが、蜜とは違い、一見水分のないようなものから水分を吸い取らなければならないのでその何等かの検出器なのかもしれません。

さて、口吻の中のfood canal内への水分の染み込みについては分かったのですが、これをどうやって体の中に運ぶのかは次の論文に載っていました。

S. C. Lee, B. H. Kim, and S. J. Lee, "Experimental analysis of the liquid-feeding mechanism of the
butterfly Pieris rapae", J. Exp. Biol. 217, 2013 (2014). (ここからダウンロードできます)

実は、口の奥にポンプを持っているのです。この論文では液体の中に小さな粒子を入れて口吻先端での液体の流れを測ったり、X線で頭部内部のポンプの動きを調べたりしています。このポンプの働きをまとめると次の図のようになります。


(S. C. Lee, B. H. Kim, and S. J. Lee, "Experimental analysis of the liquid-feeding mechanism of the
butterfly Pieris rapae", J. Exp. Biol. 217, 2013 (2014)から一部改変して転載)

口吻には口腔ポンプというポンプがついていて、これが膨張・収縮をすることで口吻から液体を吸い込みます。この時、ポンプにはちゃんと弁がついていて、膨張するときには上流の弁が開き、下流の弁が閉まります。収縮するときはその逆になります。この膨張・収縮の周期は365ミリ秒なのでかなり高速度で振動していることになります。口吻先端の液体の流れを観察していると、この膨張・収縮に対応して、液体の流れが変化することが観察されるので、口吻内での液体の上昇は単なる毛細管現象ではなくて、ポンプの作用で行われていることが分かります。

ということで、蝶・蛾が口吻でどのように液体を吸っているのかを調べてみました。ここまで調べてくると、それでは蚊とはどこが違うのかという疑問が湧いてきました。それで、蚊についても調べてみました。蚊の研究は非常に多いです。たぶん、痛くない注射器の開発などと関係しているからでしょう。これについては次の論文を参考にしました。

菊地謙次、寺田信幸、望月修、「蚊の吸血ポンプ特性評価」、生体医工学 46, 232 (2008). (ここからダウンロードできます)
M. K. Ramasubramanian, O. M. Barham, and V. Swaminathan, "Mechanics of a mosquito bite with
applications to microneedle design", Bioinspiration $ Biomimetics 3, 046001 (2008). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)


(M. K. Ramasubramanian, O. M. Barham, and V. Swaminathan, "Mechanics of a mosquito bite with applications to microneedle design", Bioinspiration $ Biomimetics 3, 046001 (2008)から一部改変して転載)

まずは口吻ならぬ吸血針の先端の絵です。先端はまさに注射針と同じ格好をしています。つまり、斜めに裁断された面の中央に大きな穴が開いています。見るからにちょっと痛そうですね。でも、大きさは0.02mm程度なのでそれこそ蚊が刺すような痛みしかないのでしょうけど・・・。



ポンプについては次の本に載っていました。

R. E. Snodgrass, "The Anatomical Life of the Mosquito", Smithonian Institution (1959).(ここからダウンロードできます)

頭部には口腔ポンプと咽頭ポンプという2種類のポンプが連結していました。これらは互い違いに動きます。つまり口腔ポンプが収縮したときは咽頭ポンプが膨張し、口腔ポンプが膨張するときには咽頭ポンプが収縮して、吸った血液を食道に送るようです。何となく蝶よりは強力なポンプのようですね。たぶん、弁もあるのだと思うのですが、書いてなかったので省略しています。

ということで、蝶・蛾の吸水と蚊の吸血の仕組みを簡単に書いてみました。内容はそれほど難しいというわけではなかったのですが、絵を描くのがともかく大変で大変で・・・。でも、最近の研究成果も分かって、いい勉強になりました。
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虫を調べる フンコバエ科Crumomyia属

1月25日に採集したハエの検索をしてみました。



このハエです。このハエには後脚跗節第1節が膨れるという特徴から、フンコバエ科だろうとすぐに分かりました。実は以前にもこの科のハエを調べてみたことがありました。その時からもう2年も経っているので、今回は復習のつもりで調べてみました。また、今回の個体は腿節に黄褐色の帯がないので別種かもしれないという楽しみもあって・・・。

検索にはいつもの通り、「新訂 原色昆虫大図鑑III」(以下、「大図鑑」と書きます)に載っている検索表を用いました。フンコバエ科に至る過程を書いてみると次のようになります。



これは短角亜目から始めていますが、無弁翅類から始めてもよかったかもしれません。これをいつものように写真で確かめていきます。ただ、④から⑦までは特定の科を除外する項目なので、それほど詳しく見なくてもよいかもしれません。まず、短角亜目であることは触角が短くて、その先に触角刺毛が出ていることから上の写真でもすぐに分かります。



これは頭部の写真です。これから②、⑤、⑥、⑦が確かめられます。



これは頭部を上から撮ったものですが、触角第3節が梗節より大きいことが分かります。また、書かなかったのですが、梗節の背側に縦筋が入っていないので、無弁翅類であることも確かめられます。



これは口吻を写したものです。太くて短いというのがよく分かると思います。黄色の部分が妙に生々しいですね。これは唇弁で舐める部分だと思います。



これは後脚を写したものですが、跗節第1節が少し膨れていることが分かります。球形というよりは楕円形ですけど・・・。



最後は翅脈です。Sc脈の先端が写らなかったのですが、途中で不明瞭になります。また、M3+4脈は翅縁に達せず途中で止まっています。この辺は顕著な特徴ですね。なお、翅脈の名称は「大図鑑」の図に従って書きました。これですべての項目を確かめたので、フンコバエ科でよいのではないかと思います。なお、フンコバエ科はハヤトビバエ科とも呼ばれているようで、最初、「絵解きで調べる昆虫」で検索したとき、フンコバエ科がないのでおやっと思ったのですが、よく見るとハヤトビバエ科は載っていました。

次は属への検索です。これにはManual of Nearctic Diptera, vol. 2(ここからpdfをダウンロード可能)というカナダで出されている本を利用しました。これに載っている検索表に日本産の属が網羅されているかなどは確かめていないのですが、とりあえずやってみたら意外に簡単にCrumomyia属になったので、たぶん、大丈夫だろうと勝手に思っています。その過程を示すと次のようになります。



一応、念のため、⑫bにCrumomyia属以外だった場合も載せています。まず、⑨は自明なので、⑩~⑫bを見ていきたいと思います。なお、翅脈の名称を「大図鑑」に合わせるために、項目の中の名称も変えて載せています。さらに、原文は英語で、私の拙い語学力で翻訳しているので、違っているところもあるかと思います。そのつもりで見ていただけると幸いです。



まずは先ほども出た翅脈から。翅室の名称も入れたので、たぶん、見るとすぐに分かると思います。



次は胸部側面の写真ですが、下前側板と上前側板に毛がないことを確かめます。下前側板が矢印の部分でよいのかちょっと迷ったのですが、いずれにしても毛が生えていないので大丈夫だと思います。



後で、必要になったときに中胸盾板の刺毛を調べるために撮った写真です。盾板も小盾板(矢印)にも剛毛が生えています。



先ほども出した写真ですが、触角刺毛に細かい毛が生えていることが分かると思います。



これは鬚刺毛という口の脇に生えている剛毛と觀刺毛という頬に生えている剛毛の長さ比較です。写真でははっきりとは分からないのですが、折れ線近似で毛に沿って長さを測ってみると、觀刺毛/鬚刺毛=~0.51になったので、まぁ、よいのではと思いました。



最後は複眼の後ろと単眼の後ろの毛を示したもので矢印で示すように毛がたくさん生えています。たぶん、これのことだと思います。ということで⑩の貯精嚢と⑫aの中胸脛節の前背剛毛を除いて写真で示すことができました。中胸脛節の前背剛毛は数えると4本あるようですが、脛節に毛がいっぱい生えていて写真に撮るとどうもはっきりしないので省略しました。また、貯精嚢は?です。

ということで、たぶん、Crumomyia属で合っているのではと思っています。「日本昆虫目録第8巻」によると、この属にはannulus(マダラオオ)、nipponica(ヤマトオオ)、peishulensis(クロツヤオオ)という3種が載っています。このうち、本州産は前2種なのですが、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の記事によると、annulusには「腿節2/3のところに黄褐色のリング状の部分」があるとのことで、これにはないので、たぶん、nipponicaの方かなと思っています。ただ、この種の記載、再記載した論文がともに手に入らないので、何とも確かめられません。ここで、ストップです。

一昨年に引き続いて、フンコバエ科の検索をやってみました。以前の記事と読み比べてみると、2年も経っているのに写真も文章もまったく進展がないですね。ちょっとがっかりです。いずれにしても、以前、調べた個体がCrumomyia annulus、今回のはCrumomyia nipponica?ということで2種揃えることができました。

廊下のむし探検 ユスリカ、フンコバエなど

廊下のむし探検 第868弾

26日に公園に行ったついでに、マンションの廊下でも虫探しをしてみました。この日は暖かかったので、虫が出ているのではないかと思ったのですが、公園ではさっぱり。廊下はそこそこいたのですが、小さなハエばかりという状態でした。



初め、虫がいれば片端から写していたら、ユスリカばかり写すことになりました。途中から写すのはやめたのですが、それでも11匹も写してしまいました。それも、この写真のように♀が圧倒的に多くて、11匹中9匹が♀でした。大体はこの写真のようなユスリカだったのですが、よく見ると少し違う種類もいました。





上は♂です。下は先ほどとは種類が違うのですが、たぶん、♂で触角の毛を閉じているのではと思いました。





これらはまた別の種でしょうね。こんなのが、少なくとも属ぐらいがぱっと見て分かるようになるといいなと思うのですが、以前、行った検索の大変さを思い出すと、つい、腰が引けてしまいます。しかし、冷凍庫に以前採集した個体をいくつか入れたままなので、いずれまた検索をしてみます。



これはたぶん、フンコバエ科だと思います。



これは後脚の写真ですが、跗節第1節が膨らんでいます。これは採集して、一昨日、「大図鑑」とMNDを使って検索をしてみました。その結果、フンコバエ科Crumomyia属になりました。「日本昆虫目録」によると、この属で本州に分布しているのはannulus(マダラオオ)、nipponica(ヤマトオオ)の2種なのですが、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の記事を見ると、腿節が一様に黒いのは後者のヤマトオオフンコバエの可能性があります。ただ、この種の特徴を記載した論文が手に入りません。とりあえず、顕微鏡写真は撮ったので、後日、まとめて載せます。





こちらは触角からタマバエ科だと思います。一応、採集したので、うまくいくと属くらいは分かるかもしれません。



翅にピントが合ってしまったのですが、キノコバエの仲間ですね。



これはクロバエ科かな。



最後はこのハエです。これは採集して、一昨日、科の検索をしてみました。その結果、ハナバエ科になりました。ポイントになるところだけを載せておきます。



まずは「大図鑑」に載っている検索表で、ハナバエ科にいたる過程を示しています。この5項目を調べればよいことになります。②は自明なので、そのほかの写真を載せます。



まずは中副基節に毛が生えていないことを見ます。下前側板の剛毛は2本かな、側板の境目にもう一本あるので、3本なのかな。いずれにしても2~4本は確かです。



次は翅のCuA+CuP脈が翅縁まで達していることを見ます。イエバエなどはこれが達していないので、ここで区別します。



次は小盾板の裏側です。これが一番見にくいのですが、淡色の毛が生えていることが分かります。たぶん、これでハナバエ科決まりかなと思います。



最後は頭部ですが、後頭部の毛を見ました。「繊細な淡色毛」というのがどういうものかはっきり分かりませんが、たぶん、ないとしてよいのでしょう。触角のところの矢印は有弁翅類の説明にある、「触角梗節の背面には明瞭な縫線が走る」に対応します。これで科は大丈夫かなと思うのですが、その先の亜科、属はまだ調べていません。今度調べてみます。

最近は4月に行う花の写真展の準備で、以前撮った写真の整理をしています。やっと単子葉植物がまとまったところで約100種ほどありました。それにしても、イネ科の写真が少ないですね。イネ科は何を撮っていいのか分からないのでつい飛ばしてしまうのでしょうね。今年は少し撮らないといけません。後は双子葉植物の合弁花、離弁花をまとめないといけないのですが、この分だとまだ300種ほどはありそうです。間に合うかな。

チョウ・蛾の口吻でどのように液体を吸っているのかを調べた論文をいくつか読んでみました。なかなか面白いです。口吻ってストローみたいなものかなと思っていたら、先に穴が開いていないのですね。また、訪花性の種とそうでない種でも構造が違うようです。また、今度内容を紹介します。でも、今度は図が細かいので、論文の図をスケッチするのが大変・・・。

家の近くのむし探検 チャタテとトビムシ

家の近くのむし探検 第204弾

寒いのであまり外に出ずに文献を読んだり、冷凍庫にしまっていた虫を検索したりしていました。1月になって虫が全然いないと書いたら、探せばいろいろいますよというコメントをいただいたので、一度、公園に探しに行こうと思って昨日行ってみました。





この公園、4日前に行ったときは、イノシシに荒らされて、地面のあちこちが掘られていたのですが、昨日行ってみるとこんなに綺麗になっていました。市でやってくれたのだろうか、それともボランティアの方にやっていただいたのだろうか。ともかく、綺麗になったので、広場でジョギングもできるようになりました。感謝します。



昨日は冷えていたのか、お昼頃に行ったのですが、水が溜まっていたところには、まだこんな氷が張っていました。厚さは1cmちょっとありそうですね。

さて、肝心の虫探しなのですが、公園のすみずみを探したのですが、見つかりません。それこそ、ハエ一匹いない、アリん子一匹もいない状態です。小さな虫が飛んでいるのですが、それはなかなか止まってくれません。さんざん歩き回ったのですが、途中で諦めて、また、桜の木の幹でイダテンチャタテを探すことにしました。



こちらは元気で、こんな寒い冬でも何匹か活発に動き回っていました。

これで帰るのも何だし・・・と、去年の早春にしたトビムシ探しをやってみました。枯葉の積もったところで、枯葉をのけるとぴょんぴょん小さな白っぽい虫が飛び回ります。それを地面に這いつくばりながら、着地地点を探します。最初はなかなか見つからなかったのですが、途中から少しずつ虫の動きが見えるようになってきました。





この虫がトビムシです。



こちらはもっと小さなトビムシです。



小さなザトウムシの幼体もいました。少し粘ってみたのですが、濡れた地面に膝をついて写していたので、膝や肘が濡れてしまいました。それで、今日はこのくらいでやめておこうと思って帰りました。

トビムシは昨年、採集して検索も試みました。検索表はちゃんとしていて、科まではなんとかなるのですが、それから先の種がうまくいきません。それで何となく欲求不満が溜まってしまいました。今回のは2匹ともアヤトビムシ上科で、上がトゲトビムシ科、下がツチトビムシ科かなぁ。単なる予想ですが・・・。昨年は、トビムシを採集するのに吸虫管で吸ったら土も一緒に吸ってしまい、口の中がざらざらしてしまいました。それに、検索にはプレパラートを作らなければいけないのがちょっと面倒です。それで、今回は採集を見送ってしまいました。もう一度、やってみるかなぁ、ちょっと迷っています。

虫を調べる イエバエ科クキイエバエ属?

最近、虫がいないので、冷凍庫にしまいっぱなしだった虫を調べ始めました。今回はハエで昨年の10月4日に家の近くの公園で見つけたものです。



頭部の外観が変わっているので写真を撮った後、採集し、そのまま冷凍庫に入れっぱなしになっていました。でも、3か月も入れておいたら駄目ですね。なんだかすっかり乾燥した感じになっていました。調べ始めはしたのですが、なかなかうまくいきません。でも、もう3日間もあーでもないこーでもないと悩んでいるので、そろそろまとめて出すことにしました。まったく違っているかもしれませんが、その点はご容赦を。



冷凍庫から出したところです。前脚の腿節の先端近くから脛節、跗節にかけて真っ黒です。腹部第4、第5背板に黒い斑点がありますが、何よりも頭部の額と顔の間が直角になっているところが変わっています(黒矢印)。検索をしてみるとイエバエ科になり、「日本のイエバエ科」の図版をぱらぱらめくってみると、トゲアシイエバエ亜科クキイエバエ属あたりかなと目星をつけて、意気揚々と検索を始めたのですが、種の検索でどうもぴったりくるのがありません。それで、そもそもイエバエ科で合っているか、トゲアシイエバエ亜科とは違うのでは・・・と悩み始めました。でも、まぁ、兎も角、検索の過程を示していきたいと思います。まず、原点に戻ってイエバエ科への検索からです。



これは「新訂 原色昆虫大図鑑III」に載っていた検索表で、イエバエ科に至る過程を示しています。上の写真を見ると、翅の基部に覆弁が2枚あるのは確かなので、有弁翅類から始めました。まず、これを写真で確かめていきたいと思います。



まず、①の有弁翅類であることは、基覆弁・端覆弁という二枚の覆弁があるのでこの写真でもすぐに分かります。次の②の口器が発達してることもすぐに分かります。前脚の右側の黒いものが唇弁で甘いものをなめる舌にあたります。その右側の黄色くて細長いものが小顎髭です。③は中脚副基節(hpl)に剛毛が生えていないことからすぐに確かめられます。なお、各部の略号は後から検索に使うので、検索表の載っている「日本のイエバエ科」に合わせました。



次は翅脈です。④のCuA+CuPが翅縁まで達していないことはすぐに見て取れます。



翅の後縁にある脈は見にくいので、別に写しました。A1脈はほぼ直線的で、この延長線がCuA+CuPの延長線とは交わりそうにありません。ということで、①から⑤の項目はすべて確かめられたので、イエバエ科で大丈夫でしょう。

次は亜科の検索です。これは「日本のイエバエ科」を使ったのですが、例によって日本語版と英語版が違うので、その辺に注意して、最終的には日本語版の検索表を使ってみました。



これも写真で確かめていきたいと思います。



まずは先ほどと同じ胸部側面の写真です。⑥は翅側板(ppl)に剛毛がないことでこの写真ですぐに分かります。次の⑧の後脚基節背面の毛については、背面がどこを指すのかはっきりしなかったのですが、上の写真の矢印で示すように剛毛は生えています。これのことだとすると違うことになるのですが、ほかの特徴はすべてあっているみたいなので今のところ、これは保留です。次の⑨の腹胸側板(spl)の剛毛は3本あって、記述通りほぼ正三角形になっています。



後脚脛節の写真です。後背(pd)剛毛が先端1/3のところに生えています。これで⑦と⑨はOKです。



⑧のM1+2脈は直線状というのもOKです。



虫が乾燥していて、ピンセットであちこち動かしていたら、前脚がとれてしまいました。ちょうどいいと思って写真を撮りました。⑧は♂の性質なのですが、実は、この個体は♂なのか♀なのかはっきりしません。それで一応、これも確かめておきます。腿節内面というのが腹面なのか前面なのかよく分かりませんが、ぐるっと見渡してそんな瘤状突起や歯状剛毛はありませんでした。



次は真上からの写真です。両方の複眼の間は広く開いています。種の説明で出てくるので、その比を測ってみると0.332になりました。黄色い部分が額なのですが、この内部には剛毛ありません。これは♀の性質のようですが・・・。

一か所、後脚基節の剛毛について不明な点があったのですが、それ以外は満足されているようなので、トゲアシイエバエ亜科クキイエバエ族あたりまでは大丈夫かなと思いました。



次は属の検索表です。ここは最終的にクキイエバエ属になりました。族の検索で若干先ほどの検索表と重複があるのですが、一応、⑩から⑫までを写真で確かめていきます。



何度も出てきている写真です。⑩と⑫は先ほども見たので、省略です。



⑪の後胸気門(mts)は分かりにくいのでその部分を拡大してみました。気門の穴の下側に微毛が生えていますが、強い剛毛はありません。これで⑪はOKです。



後脛節の後背(pd)剛毛は小さいというのもOKでしょう。

これで属まで到着しました。次は種の検索です。実は、ここからがうまくいきませんでした。



一応、検索表を書いてみるとこのようになります。ポイントはいくつかあるので、とりあえず、そのポイントを写真で見ていきます。



まずは中胸背板の横溝(写真の黄色の楕円内の左隅を上下に走っている筋)の頭部側の楕円で囲まれた毛が何列かというのがポイントになっています。ぱっと見ると、初めは2列で横溝の手前では4列に見えますが、だいぶ微妙です。それから額の色で前半は黄色で後半は薄く褐色がかっています。単眼の後ろの後頭部が黒いのが目立ちますが・・・。



前脚跗節第1節に微毛が生えているかどうかですが、生えているといえば生えているし、いないといえばそうだし、これも微妙です。



それから頬の色です。これは黄色がかった灰色です。

こんなところを手掛かりに上の検索表をいろいろと試してみたのですが、どこにも行き着きません。それで、半ばあきらめていたのですが、ひょっとしてこれは♂用の検索表で、今回扱った個体は♀なのかもと思うようになりました。



これは腹部末端の写真ですが、特に構造が見えないので実際♀かもしれません。検索表が♂用だとすると、使えないので、「日本のイエバエ科」の種の説明を一つずつ読んでいって確かめていきました。残念ながら、♀の説明はほとんど載っていないのですが、分布と特徴などから見ると、ギョウギシバクキイエバエ Atherigona reversuraか、イネクキイエバエ A. orizaeあたりが似ている感じです。ともに、♀の複眼間距離と頭幅の比が0.332を含んでいます。イネは脚の色が似ていました。ギョウギシバは腹部の黒い斑点が似ていました。しかし、残念ながら、今回はここでストップです。

検索に使わなかった写真も載せておきます。



顔の写真です。顔の中央が縦に深くえぐれ、その中に触角が入っています。触角第3節は黒くてかなり長いです。



それから中脚脛節の写真です。中央部に後ろ向けの小さな剛毛がありました。

この間から数えて2種目のイエバエ科なのですが、検索はいつも難航します。日本語版と英語版が違うのと、記述が詳しくないところがあって、いつも途中でギブアップしそうになります。今回もそうだったのですが、一応、分かったところまでを載せました。こんなことをやっていて本当に慣れてくるのだろうか・・・。

蝶・蛾の口吻の伸びる仕組み 続き

蝶や蛾の口吻がどのような仕組みで伸びるのかということを少し調べてみました。前回は口吻が内部にある筋肉の働きにより変形することによって、巻いていた口吻がほどけていくというEasthamとEassaの説を紹介し、さらに、その説を否定するBänzigerの論文を紹介しました。今日は最近の考え方を紹介したいと思います。

論文をすべて見ているわけではないので、これから紹介する仕組みが主流なのかどうかは分かりませんが、最近はウィーン大学のKrenn教授が精力的に研究しているようです。

H. W. Krenn, "Proboscis musculature in the butterfly Vanessa cardui (Nymphalidae, Lepidoptera): settling the proboscis recoiling controversy", Acta Zoologica (Stockholm) 81, 259 (2000). (ここからダウンロードできます)
H. W. Krenn, J. D. Plant, and N. U. Szucsich, "Mouthparts of flower-visiting insects", Arthropod Structure & Development 34, 1 (2005).  (ここからpdfが直接ダウンロードできます)
H. W. Krenn, "Feeding Mechanisms of Adult Lepidoptera: Structure, Function, and Evolution of the Mouthparts", Annu. Rev. Entomol. 55, 307 (2010).  (ここからダウンロードできます)

いくつか論文を出しているのですが、そのうち、代表的な論文を3つ紹介します。いずれもフリーでダウンロードできます。最初の論文は口吻が固く巻くときに筋肉が作用しているということを示した論文、2つ目は花を訪れる虫の口器のレビュー、3つ目もチョウ目の口器の働きや構造のレビューです。パラパラと読んでみると、Krennの考えは次の図のようにまとめることができます。



まず、口吻を1)固く巻いた状態、2)ゆるく巻いた状態、3)伸びた状態の3つの状態に分けます。その間に働く仕組みをまとめてみたものです。いくつか専門用語が出てくるので、図で説明することにします。


(H. W. Krenn, Annu. Rev. Entomol. 55, 307 (2010)より一部改変して転載)

原図を手書きでスケッチしたものです。まず、これは口吻の渦巻きがほどけて伸びていくとき(左)とゆるく巻いていくとき(右)を表しています。黄色く色を付けたものは筋肉です。口吻の中にはintrinsic galeal muscle (IGM)という筋肉が口吻に沿ってついています。また、口吻の基部にはbasal galeal muscle (BGM)という筋肉がついています。この基部の部分を拡大したものが次の図です。



(H. W. Krenn, Acta Zoologica (Stockholm) 81, 259 (2000)より一部改変して転載)

基部にあるBGMはproximal basal muscleとdistal basal muscleという互いに拮抗する二つの筋肉に分けられます。proximalは近傍、distalは遠方を意味します。また、IGMは昨日も出てきた斜走筋の総称で、primary oblique muscle(第1斜走筋)とsecondary oblique muscle(第2斜走筋)という拮抗する二つの筋肉に分けられます。口吻の入り口にはstipes valveという弁がついています。stipesは茎という意味なのですが、どう訳していいのか分からないのでそのままにしておきます。図にはないのですが、この奥にはstipes tubeという体液を入れておく場所があります。このstipes valveを動かすためにいくつかの筋肉がついています。

それでは一番最初の図に戻ります。まず、蝶の口吻がゆるく巻いている状態から伸びていく過程を考えます。このときは口吻の中に頭部からstipes tubeを通って体液が流れ込みます。そのとき、stipes valveという弁は開いていて体液を通します。そして、一定量が口吻内に入れられると弁は閉じて、再び、stipes tubeに体液がため込まれます。そして、溜まったら弁が開いて、また体液が口吻内に流入するというように、何段階かを経て体液が流入され、口吻が伸びていきます。つまり、おもちゃの「吹き戻し」を息継ぎをしながら吹くのと同じ原理ですね。このとき、口吻の断面を観察すると、EasthamとEassaが見つけたように口吻の断面は山型に湾曲するように変形していたそうです。たしかに、金属製の巻き尺を見ても、断面は少し山型に湾曲していますね。こういう変形が必要なのかもしれません。

こうやって口吻は体液の圧力だけで伸びていくので、筋肉の働きは必要ありません。これはどうやって確かめたかというと、Krennは口吻を一部だけを瞬間冷凍して筋肉が動かなくしても口吻は伸びるという実験をしています。逆に口吻が巻いていくときも、筋肉の働きがいらないのはこの同じ実験で分かります。つまりもともとゆるく巻いた状態で作られた構造なので、それを無理にまっすぐ伸ばしても、その力がなくなるともとの構造に戻っていくのです。これを上の図ではバネの力と書いてあります。この時、口吻内の体液は頭部に戻らないといけないので、弁は開いた状態になります。

ここからさらに固く巻いた状態に進むには筋肉の力が必要です。まず、口吻内に分布しているIGMが収縮することにより口吻は固く巻きつけられます。さらに、口吻入り口にあるBGMという筋肉で口吻は少し上に持ち上げられロックされます。こうして固く巻いた状態が作られます。これを緩めるときは、これらの筋肉を緩めることでできます。まず、BGMを緩めてロックを解きます。さらに、IGMを緩めてゆるく巻いた状態になるのです。先ほどの口吻の一部を瞬間冷凍する実験でも、ゆるく巻きつけるところまでは進むのですが、固く巻いた状態には進まなかったことからも、この過程に筋肉が働いていることが確かめられます。

このように口吻が巻いたりほどけたりする過程には、体液の流入、バネの力、それに、口吻を固く固定するための筋肉が必要ということになります。



これで口吻の巻きほどきについての説明は終わったのですが、最後に上の写真のknee bendについて一言。EasthamとEassaはこの曲がる部分には特別な筋肉が存在すると書いているようですが、Krennが調べたチョウでは特にそのような筋肉はなかったということです。したがって、蝶の種類によって構造が違っていて、特別な筋肉のない場合にはバネの力がここだけ弱くなっていると考えているようです。

このknee bendがないと口吻は「吹き戻し」というおもちゃのようにまっすぐ伸びてしまうので、蜜を吸うときには体ごと動かさなければならず、大変不便です。ここで曲がるので、体はじっとしていても口吻の先をあちこち動かすだけで蜜を吸えるようになるのです。このとき、口吻を上下に動かすときは先ほど口吻をロックするときに用いたproximal basal muscleを使い、前後に動かすときはknee bendの部分のIGM筋肉を動かし、さらに、口吻の伸縮は体液の圧力を変化させて行うなど、微妙な動きを作りだしているようです。

蝶・蛾の口吻の伸びる仕組み

この間からこんな本を読んでいます。

F. G. バルト、「昆虫と花 共生と共進化」、八坂書房 (1997).

この本の中に、蝶(蛾)の口吻が伸びたり巻いたりする仕組みについて載っていました。蝶の口吻についてはよく知らなかったので興味深く読みました。だけど、書いてある内容がよく分かりません。それで、自分でも少し調べてみました。



手元にある写真から口吻が写っている写真を探してみました。これはジャコウアゲハですね。顔の前に丸くなっているのが口吻です。



でも、写真によってはこんな風に口吻が少しほどけたものもありました。



そして、これはモンキチョウの口吻が伸びて蜜を吸っているところです。口吻はまっすぐに伸びるのではなくて、全体の2/3くらいのところにknee bendという折れ曲がりができます。この折れ曲がりを支点にして、口吻の先を前に出したり後ろに引いたり、さらに、この折れ曲がり点を上にあげて場所を変えたりします。

蝶の口吻の仕組みというと二通りあって、一つは巻いていた口吻がどうやって伸びたり、また巻いたりするのかという問題と、もう一つはこの口吻でどうやって蜜を吸うのかという問題があります。今回は前者の、口吻が巻いたり伸びたりする仕組みについて調べてみました。

「昆虫と花」では次の論文を引用して、その仕組みを解説していました。

L. E. S. Eastham and Y. E. E. Eassa, "The Feeding Mechanism of the Butterfly Pieris brassicae L.", Phil. Trans. Roy. Soc. (London) ser. B. 659, 239, 1 (1955).

そこで、この論文の中に書いてある口吻の伸びる仕組みについてまず調べてみました。


(L. E. S. Eastham and Y. E. E. Eassa, (1955)より一部改変して転載)

これは論文の中で描いてあった絵をスケッチしてみたもので、口吻の断面を表しています。口吻は大顎の下にある小顎の外葉が変形したものです。左右の小顎外葉が伸びて中央で互いに合わさり、その中心部分に空洞を作って、そこが液体の通り道であるfood canalになります。もとの外葉(galea)の内部はいくつかに仕切られて空洞になっています。その中に呼吸のための気管、神経、それに、primary oblique muscle(第1斜走筋)という斜めになった筋肉などが入っています。この絵には描かれていませんが、筋肉にはこれに拮抗するようにsecondary oblique muscle(第2斜走筋)というのもあり、この二つで伸びたり縮んだりすることができます。なお、exocuticle(外角皮)は固いクチクラ、endocuticleは(内角皮)は内部にある柔らかいクチクラで、この絵ではexcocuticleの方をこげ茶色で塗っています。(追記2017/07/25:小腮肢ではなく、小顎外葉だったので、そのように訂正しておきます

この論文が出される前までは、1)この二つの筋肉の伸び縮みで口吻が巻いたりほどけたりするのだという考え、2)伸びるときには筋肉を使うが、巻くときにはバネの力で巻くという考え、3)伸びるときはバネの力で、巻くときに筋肉を使うという説、4)伸びるときは口吻の中を体液が入っていき、巻くときは筋肉だという説などがありました。これに対して、EasthamとEassaはこの口吻の形が変形することにより口吻がほどけていき、巻くときにはバネの力によるという新しい説を出しました。さらに、口吻が伸びるときには、口吻の中に体液が満たされることも重要だと考えました。これは口吻が体液が満たされてピンとしていないと、口吻が変形してもほどけていかないと考えたからです。

この口吻の変形でほどけていくというのが分からなくてちょっと悩んでしまいました。いろいろと考えてみたのですが、次のような実験に対応するのではと思いました。



これは少し硬めの紙を細長く切って、くるくると巻いたものです。



これを紙の両側から軽く押すと、不思議とくるくる巻いていた紙がほどけていきます。押す場所を少しずつ変えながらやってみると結局全部ほどけてしまいました。そして、手を放すと完全ではないのですが、少し巻き戻りました。EasthamとEassaはこの両側から押す力をgaleaの中にある筋肉で起こると考えたのです。なかなか面白い考えですね。この考えは長い間信じられていました。

でも、その後、いくつかの実験が行われ、この考えでは実験結果をうまく説明できないことが報告されました。その代表的なものが次の論文です。

H. Bänziger, "Extension and Coiling of the Lepidopterous Proboscis: A New Interpretation of the Blood-Pressure Theory", Mitteilunger der Schweizerischen Entomologischen Gesellschaft Bulletin de la Societe Entomologique Suisse 43, 225 (1971). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

この論文の著者は、古い構造を持った蛾では口吻の内部に筋肉がないにも拘わらず、口吻が伸びたり巻いたりすることが報告されていることを知り、EasthamとEassaの説に疑問をもったところから実験を始めました。例えば、口吻を途中で切ってしまうと、中からは体液が出てきて、それ以上口吻を動かすことができなくなることから口吻の動きに体液が重要であることが分かりました。さらに、頭部に針で水を入れてやると口吻が伸びることなどから、体液の圧力により口吻が伸びていくという説を支持しました。

ちょっと長くなったので、続きは次回に回します。

追記2017/03/05:ささきさんから、「口吻にはもうひとつ面白い視点があって、アケビコノハやアカエグリバなどのいわゆる「果実吸蛾」と呼ばれる蛾では、口吻の先端が槍のように硬く尖っています。どうやって果実に口吻を差し込むんだろう?とずっと疑問をもっていましたが、顕微鏡で先端の構造を調べてみて納得できました…とはいっても、いくら先端が尖っていても、それを果実に突き刺すにはそれなりの筋力が必要なはず。そこがどうなっているのか、自分の中では未解決です。」というコメントをいただきました

家の近くのむし探検 公園がたいへん!

家の近くのむし探検 第203弾

「廊下のむし探検」も開店休業状態になったので、久しぶりに家の近くの公園に行ってみました。でも、着いてびっくり。





公園がこんな風になっていました。芝生があちこちでめくられています。通りすがりの方はみなイノシシだイノシシだと言われていました。さすがにこんなになっていると鹿ではなくてイノシシかもしれませんね。それも何頭も。一昨日は正常だったとのことで、昨夜かその前あたりに来たのでしょうね。いつも、虫探しのついでに広場でジョギングをしているのですが、これでは安心して走れません。

仕方なしに今日は公園の周りを歩いてみました。柵のすぐ内側で何かが動く気配・・・。





シロハラです。柵の内側なのかえらく安心しています。1mも離れていないのに・・・。でも、近すぎてカメラのピントが合わない。動くと逃げそうだし・・・。体を伸ばしてやっとこさ撮った写真です。今日はちっとも「むし探検」ではなかったですね。

追記2017/03/05:菅井 桃李さんから、「これは見慣れたイノシシだ(笑)これをやられると直すのが大変なんですよねえ。シロハラは、雑木林などの藪に居るものの方が警戒心が強い様ですね。警戒心が強いから、そう言うところを選んでいるのかも。こちらでも人の通る直ぐ傍の柵の向こうに来るシロハラは逃げませんね。と言うか、鳥って、明らかに通りから手出しできないとか、乗り物は何もしてこないとか分かってますよね。」というコメントをいただきました

廊下のむし探検 あーぁ虫がいない

廊下のむし探検 第867弾

3日前の17日に廊下を歩いてみました。でも、本当に虫がいません。最近、雪が多いからなぁ。



やっと見つけたのはこのハマキガです。フタスジクリイロハマキでしょうね。



1cmほどの毛虫もいました。シャクガの幼虫でしょうね。こんな白い壁に斜めに止まっていてもちっとも擬態にならないですね。



後はいつものキモグリバエ。



それからユスリカ。これは♀ですね。



こちらは♂。でも、ちょっと翅の黒い筋が気になりました。



ちょっとピントが合っていないのですが、黒筋がずっとついています。ひょっとして、MCuという横脈がここにあるのなら、MCuよりFCuという分岐が少し基部側にあるので、ケブカユスリカ亜科、モンユスリカ亜科、ヤマユスリカ亜科かもしれません。ケブカは翅に毛がいっぱい生えているので、たぶん、除外でき、モンかヤマかも。採集すればよかった・・・。



これも小さなクモです。エビグモの仲間の幼体でしょうね。

という具合にあまりぱっとした虫がいなかったので、冷凍庫に入れておいた、10日に捕まえたハチを調べてみました。



このハチです。体長は7.2mm。いつものように、「絵解きで調べる昆虫」に載っている検索表で調べてみると、ヒメバチ科になりました。さらに、いつも使っている次の本の検索表で亜科を調べてみました。

Henri Goulet and John T. Huber (Editors), "Hymenoptera of the world, an identification guide to families", Research Branch, Agriculture Canada (1993). (ここからpdfをダウンロードできます)

するとチビアメバチ亜科になりました。この名前には記憶があったので調べてみると、やはり以前に検索をしていました。たぶん、そのときに調べた個体と同じ仲間でしょうね。一応、顔とか翅とかは撮ったので、載せておきます。



これは顔面の写真です。この亜科の特徴には、「頭盾と顔面の境が溝等で分けられない」というのがあるのですが、まさにその通りでした。



これは後体節第1節の写真ですが、気門は先端方向にあります。



次は翅脈の写真です。翅脈の名称は以前のブログを参考にしました。チビアメバチ亜科の特徴は小さな鏡胞があり、短い柄があるところです。これらの性質は以前のものと同じで、翅脈もよく似ているので、以前の検索が合っていればたぶん大丈夫なのかなと思います。以前の個体は長い産卵管があったのですが、こちらは見当たらないので♂なのかなぁ。

廊下に虫がいないので、これからは少しずつ冷凍庫の整理をしようかな。

虫を調べる シリボソハナレメイエバエ属

イエバエ科も「日本のイエバエ科」が手に入ってから、検索を何度かしてみたのですが、どうもうまくいかないのでしばらくイエバエを調べるのを止めていました。ずっと気にはなっていたのですが、この間、ハナレメイエバエの仲間らしいハエを捕まえたのでもう一度チャレンジしてみることにしました。



対象にしたのはこんなハエです。体長5.6mm。この間から1-2mmの大きさの虫ばかり見ていたので、それに比べるとずいぶん大きい感じがしました。それに、先日、取り付けた実体顕微鏡用のカメラのテストも兼ねています。「日本のイエバエ科」の検索表でまず苦労するのは亜科の検索です。それで、この日は慎重に日本語版と英語版を比較しながら、さらに、このハエの特徴も見ながら調べてみました。結論的には予想通り、このハエはハナレメイエバエ亜科になったのですが、その時に用いた検索の項目をまず書き出してみます。



亜科の検索表は日本語版がやけに簡略で、英語版の方が適切なような気がしました。日本語版にはなくて英語版にはある項目を青字で書き加えました。さらに、③の項目は赤字で書いた部分を付け加えないとうまくいきません。また、「日本のイエバエ科」の検索表では次の部分を訂正する方がよいと思いました。でも、何分、素人がやっていますので、話半分くらいで見ていただければ幸いです。

亜科の検索表(英語)
 4の項目で”Hind tibia without posterodorsal bristle” → “Hind tibia without posterodorsal bristle or with more than one bristle”
亜科の検索表(日本語)
 7の項目で前背面剛毛→前背亜末端剛毛

それでは、上の①~⑥の項目を写真で確かめていきたいと思います。



まず、これは背側から見た全体像です。腹部に模様があります。腹部の節に番号を振っておきました。



これは横からです。腹部第5背板の先端が突き出しています。これは後で種の検索に出てきます。また、このような構造を持っているのは♂の方です。



これは胸部側面の写真です。各部の名称は「大図鑑III」に従ってつけてみました。また、上の項目に書き足した部分は赤字で書いてあります。まず、中胸上後側板には毛が生えていないので、①はOKです。次に④は下側板剛毛についてですが、「大図鑑III」には「日本のイエバエ科」でいう下側板は下後側板+中副基節だと書かれていたので、そう思って見ても毛が生えていないので④もOKです。⑤の後気門にも毛が生えていないようなので、これもOKとします。



次は後脚脛節の写真で、真上から撮影したものです。前方背側に向いて生えている剛毛をad、後方背側に生えている場合をpd、真上に生えている場合をdと書いてあります。すると②はすぐに分かります。③は赤字の部分がないと困ることが分かります。⑥の亜末端剛毛は脛節の末端付近に生えている剛毛ですが、この写真では顕著な剛毛は見当たりません。これで、①から⑥までが確認できたので、ハナレメイエバエ亜科になりました。

次は属の検索です。これも「日本のイエバエ科」に載っていますが、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」ではもっと分かりやすい検索表が載せられていたことを以前ブログに書きました。今回もそちらの検索表を採用することにしました。その結果、シリボソハナレメイエバエ Pygophora属になったのですが、その過程を見ていきます。



基本的には「日本のイエバエ科」と同じなのですが、分かりやすい説明が( )内に書かれています。なお、「日本のイエバエ科」の次の項目は訂正した方がよいと思いました。

ハナレメイエバエ亜科の属の検索表(日本語)
 4の2番目の項目で「頭部には1対の」→「頭部には2対の」

この⑦から⑨を写真で確かめていきたいと思います。



最初は下前側板の剛毛についてです。「日本のイエバエ科」の日本語版検索表では、これが正三角形になると書かれていますが、この写真の上の説明ではさらに詳しく書かれています。この写真でも正三角形というよりは歪んだ三角形になるのですが、上の説明通りならこれでもよいと判断されます。



次は先ほども出た後脚脛節の剛毛についてです。これも上の説明では、adは基部2/3内に2本なのでOKになります。「日本のイエバエ科」の検索表では「後脛節の前背剛毛は2本」と書かれているので、先端1/3にあるやや短い剛毛(矢印)を入れるかどうか迷ってしまいます。



次は頭部の剛毛と単眼三角板についてです。前額眼縁板に生えている剛毛のうち上側の2本(ors)が後ろ向けになっています。⑧はそのことを指しています。⑨は単眼三角板が小さいことです。この両方ともOKです。なお、赤字で書いた部分はこう書いた方がよいかなと思ったところです。



次は中脚脛節についてです。中ほどに後背剛毛は2本あり、これもOKです。ただし、この剛毛、上というよりは横に向いているような感じなので、後剛毛 pと書いてもよさそうです。実際、種の各論ではp-setaとなっていました。これで、すべての項目を調べたので、シリボソハナレメイエバエ属になりました。

最後は種の検索で、これは「日本のイエバエ科」の検索表を使いました。その結果、シリモチハナレメイエバエ Pygophora confusaになったのですが、その過程も見ていきます。まずは検索表です。



これも青字は英語版にあったもの、赤字はこう書いた方がよいかなと思った部分です。特に⑫は英語版と日本語版は異なった剛毛に関する記述のような気がしました。それで、それらを併記することにしました。間違っているかもしれませんが・・・。この検索表にも次の訂正があります。

Pygophoraの種の検索表(日本語)
 1の項目を入れ替える
Pygophoraの種の検索表(英語)
 3と4の項目で、sternite → tergite
 検索表が雄用であること



⑩~⑫はこの写真一枚で説明できます。⑩は腹部第5背板の後縁がこの写真のように突き出していることを表していると思います。⑪はウロコシリモチという幅の広い剛毛を持つ種を除外する項目でこれはないのでOKです。最後は問題の項目です。「日本のイエバエ科」の日本語版検索表では「上方に向けた小剛毛」と書かれているので、おそらく写真の⑫aの部分の毛を指しているのではないかと思いました。これに対して、英語版は「上方に曲がった強い剛毛」とあるので、⑫bにある上に曲がった剛毛を指しているのではないかと思いました。少なくともどちらかだとすると、すべての項目が満足され、これはシリモチハナレメイエバエということになります。

「日本のイエバエ科」によると、シリモチハナレメイエバエは本州から沖縄に分布し、♂の体長は5.3-5.5mmだそうです。そのほか、胸部の剛毛や腹部の色なども比べてみたのですが、だいたいはよさそうな気がしました。

検索に使わなかった写真もついでに載せておきます。



まずは翅脈です。翅脈の名称は「大図鑑III」に従いました。青字は翅室の名前です。



次は前脛節の写真です。



それから胸部背面の写真です。剛毛に名前を付けてみました。略号が分からなくて適当につけたところもあるので間違っているところがあるかもしれません。



最後は顔です。

今回は試料がハナレメイエバエらしいことが分かったいたので、少し安心して検索を進めることができました。また、それをもとにして検索表の項目を解釈したり、誤植を探したりすることができたのですが、まったく分からない種ではずいぶん苦労しそうな気がしました。これからもいろいろな属で確かめていかないといけないなぁと思いました。また、顕微鏡に取り付けたカメラのノイズを減らしてみたのですが、こちらは良好のようです。

廊下のむし探検 ハエとハチ

廊下のむし探検 第866弾

最近はハチの検索をしたり、カメラのテストをしたりして、一週間前の10日に見た虫の写真整理をしていませんでした。本当はいろいろと調べてから出したかったのですが・・・。



虫といっても近頃はほとんど何もいません。いるのはこんなユスリカ・・・。



と思って写真を撮っていたら、いきなり飛び出しました。ユスリカが飛ぶ瞬間なんてあまり撮る機会がないので、まぁいいか。



クロバネキノコバエの仲間もよく見かけます。これも調べれば、属くらいは分かるのかな。見た感じ、いつも同じ種のようにも見えますが・・・。





ノミバエも今頃の常連です。上も下も脚に刺がないし、後脚脛節に毛列があるみたいなので、Megaseliaかな。



これは少し大きなユスリカ♂だったので、採集して調べようと思ったのですが、この間、ハチを調べたらあまりに大変だったので、今はちょっと一休み。たぶん、エリユスリカ亜科だとは思いますが・・・。



これはたぶん、ハナレメイエバエの仲間。ひょっとして調べたら種が分かるかもと思って採集したのですが、これも今は冷凍庫の中。(2017/01/18:今日、「日本のイエバエ」に載っている検索表を使って検索をしてみました。現在のところ、Pygophora属のシリモチハナレメイエバエ♂になったのですが、もう少し検討してみます



最後はこんなハチです。これも採集はしたのですが、まだ、調べていません。何でしょうね。今年は廊下を歩いてもちっともフユシャクを見ませんね。毎年見ていたので、ちょっと寂しい感じです。(追記2017/01/20:簡単な検索をしてみました。ヒメバチ科チビアメバチ亜科になったのですが、本当かなぁ

4月に花の写真展を開くので、最近は花の写真整理に追われています。虫を撮る前は花もいろいろと撮っていたのですが、どんな花の写真を撮ったのか分からなくなって今は発掘中です。間に合うかなぁ。

カメラのノイズテスト

「廊下のむし探検」ではときどき顕微鏡を使って虫を調べているのですが、これまで実体顕微鏡にはNIKON D90、生物顕微鏡にはNIKON 1 V1を使っていました。でも、D90の機械シャッターで触角や脚がちょっと動いてしまうのか、実体顕微鏡の撮影ではときどき失敗がありました。それで、電子シャッターの付いているミラーレス一眼NIKON 1 V2を代わりに使ってみようと思って、思い切って中古で買ってみました。その後、いろいろとトラブルもあったのですが、最終的には何とか使えるようになりました。しかし、使ってみるとどうもざらざらしたノイズがあるのか画像が汚い感じがして仕方ありませんでした。それで、雪で閉じ込められた今日はそのテストをしてみようと思って調べてみました。

やり方はカメラを顕微鏡に取り付けて、できるだけ一様な照明で明るさを変えながら撮影し、そのノイズをフリーソフトのImageJで解析するという方法です。



雰囲気はこんな感じです。左下には画像の例が載せていますが、あまり綺麗な画像ではありません。それで、できるだけ一様な部分(黄色の四角)の明るさのヒストグラムを調べてみます。それが右のグラフです。それから、平均値と標準偏差を求めます。これをいろいろな明るさの画像でやってみました。その結果をこれまで使っていたNIKON 1 V1と比較したのが次のグラフです。



青い点がV1、赤い点がV2です。Mean Valueというのは平均の明るさで、0~255までの値になっています。縦軸はノイズの量を表す標準偏差(SD)です。どちらも明るさが100近傍でノイズ(標準偏差)は最大になり、明るくなるにつれてむしろノイズは減っていきます。S/N比の観点からは増えていってもいいのですが、これはたぶん、明るさで色がつぶれていくという一種の飽和現象が起きているのではと思いました。V1とV2はよく似たデータを示したのですが、暗い部分でV2のノイズが高いのが目立ちます。たぶん、これが原因だなと思ってその理由を調べてみました。



まずは暗いところでどんな感じになるのか、カメラのキャップを閉めて撮影しました。それで撮った画像のノイズを画像内の一か所で直線を引き、その直線上で明るさの値を調べたのが下のグラフです。真っ暗な画面のはずですが、V1では平均が1程度でショットノイズ的なノイズが見られます。ところが、V2では平均が6くらいで、±1程度のノイズが見られています。もう少しはっきりさせるために、0~255の明るさになっている画像を0~10に明るさを拡大してみたのが上の写真です。右の方が明らかに明るいことが分かります。本来真っ暗であるはずなのに、こんなに明るさに違いがあるのです。

それで原因を調べていたのですが、MENUの中にActive D-LightingがONになっているのに気が付きました。これは暗いところや明るいところで色がつぶれてしまうのを防ぐ機能で、ひょっとすると暗い部分を強制的に明るくしてしまうかもと思って、これをOFFにしてみました。



確かに効果がありました。左はON、右はOFFですが、右の方が明らかに暗くなっています。6くらいの値だった平均値も2以下になっていて、かなり改善されました。でも、V1に比べるとまだまだです。



それで、いろいろと変えられるところをいじってみました。まず、ISO。続いてノイズ低減。でも、いずれもそんなに効果はありませんでした。まぁ、こんなところなのかなと思って今回はここで終わりにしました。

終わってから、ふと、V1の設定を見ると、Active D-LightingがONになっていました。こちらはOFFにしてもほとんど変化はありません。この間の暗いところでの液晶画面の点滅といい、V1では変化がなかったものがV2では変化があったりと、V1とV2ではだいぶ違っているみたいです。私としてはV1で満足していたので、そのままでよかったのですけど・・・。

虫を調べる ツヤヤドリタマバチ科 その2

先ほどの続きで、ツヤヤドリタマバチ科の属を調べてみたという話です。結果から言うと、残念ながら属の特定はできませんでした。でも、いろいろと変わった構造を見ることができて、結構、面白かったです。



調べたのはこんなハチで、体長は1.4mmくらい。普通に見るとちっちゃな虫だなぁと思うくらいなのですが、顕微鏡で見ると、どうしてどうしてなかなか面白い虫でした。科の検索をしてみると、ツヤヤドリタマバチ科らしいというところまでいったのですが、「大図鑑III」に、日本には9属21種を産すると書いてあったので、これは何とかなるかなと思って属を調べてみました。

まず、九大の日本産昆虫目録データベースを調べてみました。ここには「大図鑑III」に載っていたと思われる9属21種のリストが載っていました。属だけ書き上げると次のようになります。

Endecameris
Eucoila
Eucoilidea→Gronotoma
Hexacola
Kleidotoma
Leptolamina
Odonteucoila
Pseudoeucoila→Trybliographa
Rhoptromeris

矢印はHymenoptera Name Serverで調べたもので、左に書かれた属は右に書かれた属のシノニムとされているようです。ツヤヤドリタマバチ科については次の論文に属への検索表が載っていました。

1) J. Quinlan, "Hymenoptera Cynipoidea Eucoilidae", "Handbooks for the Idenfication of British Insects" Vol. VIII, Part 1(b), Royal Entomological Society of London (1978). (ここからダウンロードできます)
2) J. Quinlan, "A key to the Afrotropical genera of Eucoilidae (Hymenoptera), with a revision of certain genera", Bull. Br. Mus. nat. Hist. (Ent.) 52, 243 (1986). (ここからダウンロードできます)
3) C. M. Yoshimoto, "Revision of the Hawaiian Eucoilinae (Hym.: Cynipoidea)", Pacific Insects 4, 799 (1963).(ここからpdfが直接ダウンロードできます)
4) J. W. Beardsley, Jr., "Hawaiian Eucoilidae (Hymenoptera: Cynipoidea), Key to Genera and Taxonomic Notes on Apparently Non-Endemic Species", Proc. Hawaiian Entomol. Soc. 29, 165 (1989). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)
5) M. Forshage and G. Nordlander, "Identification key to European genera of Eucoilinae (Hymenoptera, Cynipoidea, Figitidae)", Insect Syst. Evol. 39, 341 (2008). (ここからダウンロードできます)

また、次のサイトにも写真を見ながら検索できる検索表が載っていました。

6) "Key to genera of Afrotropical Eucoilinae (Figitidae)"

ただ、どの文献も日本産9属がすべて載っているわけではないので、検索はうまくいきそうにありません。そこで、論文に載っている記述をもとに特徴を調べてみることにしました。



一番左の欄が属名、その右は分布で、記述のないものは南西諸島です。右から2番目は文献1)に載っていた属の特徴。一番右は検索表から抜き出した特徴です。Leptolamina属はどの論文にも載っていなかったので空欄にしています。追記2017/01/15:この表には次の文献に載っていたG. micromorphaの分布も加えました。

Y. Abe and K. Konishi, "Taxonomic Notes on Gronottoma (Hymenoptera : Eucoilidae) Parasitic on the Serpentine Leafminer,Liriomyza trifolii (Diptera : Agromyzidae)", Esakia 44, 103 (2004). (ここからダウンロードできます

)(追記2017/01/15:Leptolamina属については次の論文に載っていました。

C. M. Yoshimoto, "Insects of Miconesia, Hymenoptera: Eucoilinae (Cynipoidea)", Insects of Micronesia 19, 89 (1962). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

この論文はLeptolamina属の記載論文になっています。この記載にしたがって、上の表に書き加えてみました。小盾板cupがかなり細長いのと、小盾板discが滑らかなど特徴がだいぶ違うのでたぶん今回の個体の属とは違うと思われます。この論文にはOdonteucoila属についても載っていたので書き加えました


上の表にはいろいろな特徴が載っていますが、その要点をまとめると次のようになります。



この1)から12)を調べると、属の特徴がつかめるのではないかと思って写真で調べてみました。



まずは頭部です。これに関する項目はありませんでした。



次は触角です。全部で13節あります。第6節から13節は形が変わっています。これをこん棒状(club)と言っているのではないかと思いました。



これは頭部の後ろの部分の拡大です。ここに板のような構造が見えます。英語ではpronotal plateと呼んでいるのですが、前胸背板の板状構造とでも訳すといいかなと思いました。これは横からでも見え、また、基部に左右から切れ込みがあるようです。



胸部側面からの写真です。文献1)と4)を参考に各部の名称を入れてみました。



そして、奇妙な形をした小盾板を示しています。ここでは中胸背板にnotaulusという溝があるかどうか見るのですが、背板はツヤツヤで特に溝はありません。



小盾板の拡大です。cupと呼ばれる構造は卵型で小盾板全体の8割ほどあってかなり大きいものです。cupの先端近くにpitと呼ばれる孔があります。cupの下にあるdiscは点刻ないしは網目状の構造をしています。さらに、小盾板基部にはfoveaと呼ばれる横長の孔が左右にあります。



これは腹部(後体節)の写真です。第1節がはっきり見えて短い毛で覆われた毛の輪を作っています。これに対して、第2節の前縁近くにはまばらな毛が腹面から側面にかけて生えていて背面には生えていません。



翅脈です。翅脈の名称は文献2)を参考にしました。翅全体に毛が生えていて、径室は閉じています。



これは後翅ですが、後翅の翅脈名はよく分かりませんでした。



径室の部分の拡大です。閉じていることがよく分かります。



翅縁は直線的か、多少凹んだような感じがします。



最後は腹部末端です。腹部の節を見ようと思ったのですが、なんだかよく分かりませんね。



以上の結果をまとめてみました。これらと日本産9属の特徴を比べてみると、よく分からなかったLeptolamina属を除き、径室が閉じるという条件からEucoila、Gronotoma、Rhoptromeris,Trybliographaの4属に絞られます。このうちEucoilaは翅が無毛なので除外でき、Gronotomaはnotaulusがあるので除外。RhoptomerisとTryboliographaは腹部第2節に完全な毛の輪があるというので除外されます。この毛の輪というのが初めよく分からなかったのですが、この2属については第1節が明瞭でなく、第1節と第2節の前縁付近全体が毛で覆われるようです。(追記2017/01/15;径室が閉じるのは、LeptolaminaとOdonteucoilaもそうでした。でも、小盾板discやcupの形状が異なるので、今回の個体はやはり該当しないようです)

結局、調べてみると、Leptolamina属を除いた日本産すべての属の性質と合いませんでした。そこで、文献やwebの検索表を使って仮に検索をしてみると、文献1)ではCothonaspis属、文献4)とWeb 6)ではともにLeptopilina属になりました。特にこの2属では腹部第1節がはっきり見え、第2節にまばらな毛が生えているところなどは似ています。ということで、現在のところはLeptolamina属か、もしくは日本産とされている属以外の属ではないかと思っています。このあたりが素人の限界でしょうね。でもまぁ、いろいろ調べるといい勉強にはなりますね。(追記2017/01/15:上の追記で書きましたが、Leptolamina属はかなり様相が違い、今回の個体の属とは違うと思われます。したがって、ここに載っていない属なのかなぁ)(追記2017/01/15:今回は顕微鏡に取り付けたカメラのテストを兼ねて行いました。全部で1000枚以上の写真を撮ったのですが、どうも新しく導入したNIKON 1 V2の方が今まで使っていたV1よりノイジーな感じがします。今度、それぞれの特性を調べてみたいと思います)

虫を調べる ツヤヤドリタマバチ科 その1

正月に小さなハチを見つけました。



こんなハチです。体長を測ってみると約1.4mm。かなり小さいのですが、顕微鏡で観ると、びっくりするような構造を持っていました。それで、いつものように「絵解きで調べる昆虫」に載っている検索表で調べてみました。すると、ツヤヤドリタマバチ科という聞いたことのない科に行き着きました。属についても少し調べたのですが、今回は科の検索について書いてみます。





ツヤヤドリタマバチ科はタマバチ上科に属しているので、まずはタマバチ上科であることを調べてから、科の検索をしてみたいと思います。ツヤヤドリタマバチ科であることを確かめるには上の10項目を調べればよいことになります。これを写真で調べてみたいと思います。



まず、最初の①から③はこの写真でだいたい分かります。①の細腰亜目であること、②翅が発達していること、それに頭頂に単眼以外の特別の構造がないことは分かります。最後の③はこの写真より、後に載せた頭部が写っている写真の方がよく分かるかもしれません。



この写真では④、⑥、⑦を調べます。後翅は挿入図で入れてあります。まず、通常のハチに比べて前翅の翅脈がかなり単純なことが分かります。コバチよりは発達していますが・・・。後翅は細くて翅脈はさらに簡単で、とても閉じた室があるようには思えません。また、肛垂というでっぱりもありません。前翅には縁紋がない代わりに、径室は明瞭です。



胸部と腹部(後体節)を横から写したものです。まず、⑤の後脚転節は1節で成り立っていることが分かります。これで、①から⑦まで確かめたことになるので、タマバチ上科になりました。次は科の検索です。ここに書いた⑧、⑨、⑩は写真ではやや分かりにくいのですが、腹部の節は最初の1節以外はまったく一様で、どこが境目か分かりませんでした。



これは腹部をやや後ろ側から撮ったものですが、途中に境界などはなくて一様なことが分かると思います。このことから、第2節が大きくて、たぶん、第3節と融合しているのではと思いました。



これは後脚跗節の写真ですが、第1節の長さは第2から第5節までの長さの和よりは少し短いことが分かります。



これは最後の写真ですが、胸部を斜め上から撮ったものです。ここで驚くべき構造が見えました。中胸背板の後半は小盾板と呼んでいますが、そこにさじ状の出っ張りと、その両横に突起があります。その下側は網目構造になっています。実は、こんな構造を持つのはツヤヤドリタマバチ科だけなので、この構造を見るだけでツヤヤドリタマバチ科であることが分かります。

これで、一応、上科と科の検索の項目はすべて確かめたことになるので、たぶん、ツヤヤドリタマバチ科でよいのではと思っています。「大図鑑III」によると日本には9属21種を産するということなので、属についても少し調べてみました。実は、属調べはずいぶん苦労したのですが、これについては次回に回します。ツヤヤドリタマバチで検索すると、阿部芳久氏が発表した日本応用動物昆虫学会の予稿集が見つかりました。それによると、沖縄に産するコガタツヤヤドリタマバチはマメハモグリバエを寄主として、その卵から成熟幼虫までのいずれの段階にも寄生するとのことです。(追記2017/03/05:菅井 桃李さんから、「小盾板の面白い構造もさることながら、卵から成熟した幼虫にまで寄生できるとは驚きです。卵に寄生したものと、成熟した幼虫に寄生したものとでは、随分と差が出そうですね。」というコメントをいただきました

廊下のむし探検  アミメクサカゲロウほか

廊下のむし探検 第865弾

最近は廊下を歩くよりも、顕微鏡で虫を調べている時間の方が長い気がします。今は、ツヤヤドリタマバチという小さなハチを調べていて、やっと属にまで達したみたいです。今度まとめて出します。4日前の10日に廊下を歩いてみました。その前に、昔買ったレンズを整理していたら、マクロレンズが出てきました。買った記憶が全くないのですが、ブログを始める前に買って、そのまましまっていおいたたようです(当時は裕福だった・・・)。AF-S Micro Nikkor 85mm 1:3.5というレンズです。これまではAF Micro Nikkor 60mm 1:2.8というレンズを使っていました。AF-Sというのを調べてみると、SWM (silent wave motor)という超音波モータ内臓のレンズのようです。ニッコールレンズテクノロジーというサイトには載っているのですが、「進行波を回転エネルギーに変換してフォーカス光学系を駆動します」という訳の分からない文章が書いてありました(理系としてはちょっと気になるけど・・・)。確かに、合焦時間が速いですね。早速、試してみました。(追記:この辺に超音波モータの簡単な原理が載っていますね。進行波型というようです



いつものキモグリバエを写してみました。最近、いつもピントが合わないと嘆いていたのですが、意外にいいですね。焦点距離が少し長いのが今までと違いますが、焦点はスパッと合います。どうして今まで使わなかったのだろう。少し気分をよくして歩いてみました。





今作っている手作り図鑑ではチャタテムシ目の項はほぼ出来上がっているのですが、それを見てみると、以前、ケチャタテ科かもとした種に似ている感じです。ブログには曖昧に書いていたのですが、図鑑を作るときにはValenzuela flavidus?としていました。でも、肝心のその根拠を書いていませんでした。やはり素人が作る図鑑には、どうやってその名前を決めたかという根拠を書いておくことが必須ですね(〇〇図鑑で絵合わせで決めたとか、図鑑の記述と比較してみたとか、〇〇の検索表で検索してみたとか、誰かに教えてもらったとか、・・・)。今回は採集したので、もう一度調べてみます。



こちらはフトジマナミシャクです。今頃の蛾は珍しいですね。今年はフユシャクにもまったく出会えません。



この手の小さなハムシは苦手です。体長を測りました。3.3mm。このくらいのハムシでは少し大き目に感じました。後脚腿節が黒くて太いのでノミハムシ、トビハムシという名前がつく種でしょう。脚のその他の部分は腿節を除いて黄褐色です。触角は長くて体長の2/3ほどあります。上翅の点刻は浅いです。前胸背板の後縁近くに浅い横溝があるみたいです。最後の性質はカミナリハムシに似ていますが、「原色日本甲虫図鑑IV」にはピタリとくる種がないみたいです。見逃しているのかもしれませんが・・・。





こんな虫もいました。アミメクサカゲロウです。2014/07/10のブログにも出していました。これが2度目です。



後、ハエとハチが残っているのですが、名前調べが終わっていないので次回に回します。クモはどうせ調べても分からないので、出しておきます。これはサラグモの仲間かなぁ。触肢の先端が丸いので、これで♂成体なのかもしれません。



これも小さなクモなのですが、腹部の基部近くに褐色の点が見えるので、チュウガタシロカネグモかな。

虫を調べる コガネコバチ科

昨日は目の治療で大学病院に行っていました。朝、9時半ごろに家を出て、帰ってきたのは夕方5時前。予約していてこれだから、よほど元気で体力がないと大学病院なんかには行けませんね。病院から帰ってから、この間から積み残していたコバチの顕微鏡写真の整理をしました。



コバチというのは年末、マンションの廊下を歩いて見つけたこんなハチです。体長は2.9mm。結構、小さいけれど綺麗なハチです。コバチであることはその特徴的な翅脈を見るとすぐに分かります。それで、年明けに「絵解きで調べる昆虫」で検索をしてみました。その結果、オナガコバチ科になったのですが、この仲間は長い産卵管を持っているのが特徴です。この個体は後からお見せしますが、産卵管は短いので、どうして違うのか悩んでいました。そんなとき、おちゃたてむしさんから、「全体的な印象ではコガネコバチ科のMesopolobus属によく似ているようです。」というコメントをいただきました。これは大助かりです。やはり検索が間違っていたようです。それで、もう一度検索をやり直しました。その結果(多分に先入観も入っているのですが)、無事にコガネコバチ科になりました。そこで、どこで間違ったのかという点を含めて、ここに出しておきたいと思います。



最初は、「絵解きで調べる昆虫」に従って上科の検索をします。この6項目でコバチ上科になります。



まず、(みかけの)胸と腹の間がくびれているので細腰亜目であることは間違いありません。みかけのといったのは、ハチでは腹部第1節と後胸が合体して前伸腹節になり、まるで胸の一部のようになっているからです。次の③はツノヤセバチという仲間を除く項目で頭頂には単眼以外特に変わったものはありません。



前翅と後翅が重なった写真しか撮れませんでした。後翅の閉じた室がこの写真だとよく分からないのですが、そのほかはよいので④はOKということにしましょう。



⑤の転節は腿節と基節の間をいいます。写真でははっきりしないのですが、この部分は少なくとも1節ではないのでたぶんOKでしょう。また、肩板と前胸背板の間には隙間があります。これで⑥もOKです。ということで、コバチ上科になりました。でも、こんな面倒なことをしなくても、コバチ上科は翅脈が独特なので、見るとすぐに分かります。



次は科の検索です。コバチの科の検索は科を一つか二つずつ調べていくので、大変煩雑で長ったらしいです。それで、ちょっと表のようにまとめてみました。右欄が検索により除外される科です。全部で13項目を調べてやっとコガネコバチ科になります。というのは、コガネコバチ科は一番後で登場するからです。これをまた、部位別に見ていきたいと思います。



コバチの仲間には前脚が捕獲脚になっていたり、後脚が太くなっている仲間がいるので、それらではないことを確かめる項目が⑩、⑪です。⑫は触角がまっすぐ伸びる仲間と、この写真のように折れ曲がる仲間を分ける項目です。⑱は矢印の場所に大きな段差を生じるマルハラコバチ科ではないことを確かめる項目です。マルハラコバチ科については以前、調べたことがあったのでそちらの写真と比べると違いがよく分かります。



これは顔を正面から撮った写真です。なんとなくのっぺりした感じがします。特に横溝はありませんし、触角挿入部は中心寄りです。



これは背側から撮った写真です。前胸背板ははっきり見えますし、その後縁の筋もはっきりしています。



先ほども出した翅脈の写真です。前翅と後翅が重なっていますが、上側は前翅だけなので今回の検索には支障はありませんでした。前縁脈が径脈との分岐を過ぎた部分を後前縁脈といいます。この部分が科によっては全くなかったり、短かったりします。また、径脈の発達具合も科によって違います。この個体はその両方ともが発達しています。



これは先日も出した側面からの写真です。最初に検索したときは⑬で引っかかってしまいました。どう見ても前基節に比べて後基節ははるかに大きいので、別の道に進んでしまいました。測ってみると、2.2倍ほどあるので、とても「わずかに大きい」にはなりません。それで、赤字で入れた注釈を入れておくとよいと思いました。この3倍という数字は「大図鑑III」の検索表に載っていたものです。中胸側板はその前半部分がやや凹んでいます。後で出てきますが、これを腿節受溝といって中腿節を収める場所になっているのではないかと思いました。



跗節はこの写真のように全部で5節です。



これは前脚の脛節末端を写したものですが、末端には刺あります。これがまっすぐではなくて明瞭に曲がっているのがコガネコバチ科の特徴のようです。ということですべての項目をクリアしたので、無事にコガネコバチ科になりました。

「大図鑑III」に載っている検索表は一つ一つの項目が長いので、今回は使わなかったのですが、基本的には一つか二つの科を除外していくやり方で検索していきます。それで、最後のコガネコバチ科の特徴を記した項目だけを書いてみます。



だいたいは上の写真を見ると分かるので、説明は省きますが、2)のparapsidal groovesと、4)、7)についてちょっと説明します。parapsidal groovesについては以前、セイボウを例にして調べたことがありました。中胸背板上にある溝のことですが、notaulus(中胸背縦斜溝)というもう一つの溝とよく混同されるということでした。上に載せた写真で斜めに入っている溝は、たぶん、notaulusの方だと思われます。その外側にある細い溝がparapsidal groovesのはずなのですが、この個体ではよく分かりませんでした。parapsidal lineは蛹の時に背腹筋と呼ばれる背側と腹側を結ぶ間接飛翔筋の背側の取り付け部分で、notaulusは体に沿った間接飛翔筋の縦走筋と背腹筋を分ける甲の境目(分隔甲)のようです。

4)については次の写真を見て下さい。



3~5節のあたりが多少怪しいのですが、それを信じれば全部で13節になっています。



それから腹部末端の写真です。これが産卵管なのか、鞘なのかは分かりませんが、ともかく短いことだけは確かです。ということで、ほぼ特徴が満足されているので、お教えいただいた通り、コガネコバチ科でよさそうです。

「大図鑑III」によると、コガネコバチ科はチョウ目、甲虫目の幼虫、ハエ目の蛹などに寄生し、日本からは61属110種が知られているそうです。なお、亜科と属の検索表は次の本に載っていました。

M. W. R. de Vere Graham, "The Pteromalidae of North-Western Europe (Hymenoptera: Chalcidoidea)", Bull. Brit. Museum (Natural History) Entomology Suppl. 16 (1969). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

Z. Boucek and J.-Y. Rasplus, "Illustrated Key to West-Palaearctic Genera of Pteromalidae (Hymenoptera: Chalcidoidea)", Institute National de la Recherche Agronomique (1991). (ここからダウンロードできます)

ただ、亜科の検索だけでも54項目、属に至っては309項目もあり、丁寧な図解にはなっているのですが、専門用語も多く、理解するだけでもかなりの難関です。お教えいただいたMesopolobus属はPteromalinae亜科に入っています。亜科だけなら何とかなるかもしれませんが、それはまた今度にします。

ということで、コガネコバチ科の科の検索をしてみました。おちゃたてむしさんに教えていただかなかったら、今頃はまだオナガコバチ科あたりでうんうんうなっていたかもしれません。どうも有難うございました。

廊下のむし探検 ハエとハチ

廊下のむし探検 第864弾

写真を見ていたら、1月3日の写真でまだ出していないのがあったので慌てて出します。



これはタマバエ。たぶん、この間から何度か見ている種ではないかと思います。これについては一昨年に調べたことがあります。そのときはCampylomyza属かもというところまででした。今回は、たぶん、採集したと思うのでもう一度調べてみたいと思います。



こちらはヌカカ科で、これも以前Forcipomyia属だと教えていただいたことがありました。この時、検索表の翻訳までしていたのですが、そのままになっていました。この日ではないのですが、たぶん、以前採集していたので、一度調べてみたいと思います。という具合に、宿題がいっぱい溜まっています。



これはノミバエ。脛節に刺がなく、後脛節に毛列があるので、たぶん、Megaselia属。



ユスリカ♀です。前脛節が跗節第1節より長いので、たぶん、エリユスリカ亜科。



それにクロバネキノコバエの仲間。今頃はいつもこんな小さなハエばかりですね。





これは小さなハチです。体長は1.3mm。なんの種類だか全く分かりません。これもたぶん、採集したかなぁ。ちょこちょこ採集していたので、どれを採集したのか分からなくなってしまいました。(追記2017/01/12:「絵解きで調べる昆虫」に載っている検索表で検索した結果、タマバチ上科ツヤヤドリタマバチ科になりました「大図鑑III」によると、日本からは9属21種が記録されているそうです。Hymenoptera of the worldによると、この科の種は牛馬の糞や果実の腐敗に関係しているとのことです。日本応用動物昆虫学会の予稿集を見ていると、ハモグリバエの卵から成熟幼虫までのいずれの段階にも寄生するとの発表がありました

廊下のむし探検 雑談

これまで実体顕微鏡には古くなったNIKON D90を取り付けて撮影していたのですが、機械シャッターの振動で虫の触角などが少し動くので、深度合成写真がどうもうまくいかないことがありました。それで思い切ってミラーレス一眼のNIKON 1 V2を中古で買って取り付けてみました。これの電子シャッターだと振動することがないので・・・。ただし、顕微鏡にはニコンFマウントが取りつくようになっているので、NIKON 1だとマウントを変えないといけません。そのための製品は売っているのですが、純正品は高いので、K&F Concept® マウントアダプター Nikon-Nikon 1 という安価な変換アダプターを買って取り付けてみました。



こんな感じです。でも、これが失敗でした。実際に撮ろうとすると、カメラの液晶画面がついたり消えたり点滅するのです。やはりカメラが中古なので壊れているのかなと思ったのですが、少し原因を調べてから修理に出そうと思って、いろいろとやってみました。すると、どうやら明るさに関係しているみたいです。視野が十分に明るいときは点滅しないのですが、暗くなると途端に点滅を始めます。変換マウントアダプターが純正でないからかなと思って、これを外してみても、やはり暗いと点滅します。ところが、デジスコ用に売りだされているNikon DSA-N1(これは純正)を取り付けると、そんなことは起きません。どうやらこの辺に原因があるのかなと思ったのですが、その辺のところを聞こうと、昨日、梅田にあるニコンプラザ大阪に行ってきました。

使い方が特殊なので、受け付けていただいた方にいろいろと説明して、そのたびに技術の方に聞きにいってもらいました。結局、別のV2を持って来られ、これでも起きるというのでどうやら故障ではなかったようです。原因はよく分からないのですが、暗い画面の場合は何らかの信号が電子接点を介してレンズ側に行くのですが、それが電子接点を持たないアダプターだと、そのフィードバックがうまくいかないせいではないかとのことでした。

ということで、これは結果的には失敗の買い物でした。今まで生物顕微鏡の撮影に使っていたNIKON 1 V1ではこんなことは起こらなかったので、V2になって付加した機能にこんな現象を起こすものがあったのでしょう。そこでやむをえず、V1の方を実体顕微鏡に使い、V2にはDSA-N1を取り付けて生物顕微鏡に使うことにしました。まぁ、とりあえずは解決したのですが、なかなか思い通りにはいかないものですね。

今日は以前、写真展を開かせていただいた福祉施設に行ってみました。今年も4月にお願いしますというので、今度は花を中心に写真展を開くことになりました。花を拡大して撮った写真もいろいろあるし、顕微鏡を使ってセンダングサの種なども撮っていたので、こんなものを展示しようかなと思っています。

廊下のむし探検 蛾、ハムシなど

廊下のむし探検 第863弾

1月3日にマンションの廊下で見つけた「むし」たちです。この日は公園にも行ったのですが、公園ではほとんど見つからなかった虫がマンションではそこそこ見られました。やはり、廊下はいいですねぇ。



この日は暖かったのですが、成虫越冬しないはずのミドリハガタヨトウが見られました。





これも成虫越冬しないキマエキリガです。この日はこの2匹がいました。





体長2.2mmのこのハムシ。実は、一昨年の2月と3月にも見ていました。そのときは、ノミハムシの仲間か、チビカミナリハムシの仲間か、と書いていました。今回、もう一度、「原色日本甲虫図鑑IV」を見てみたのですが、ツブノミハムシか、その仲間のような気がしてきました。甲虫は手元の図鑑に検索表が載っていないので、いつも決め手に欠きます。今年は何とかしないといけませんね。



これはクヌギカメムシの仲間。





それとスズキクサカゲロウ



前も見たと思うのですが、名前はよく分かりません。



ズグロオニグモの幼体かなぁ。クモも採集しないと分からないのですが、今年あたりはクモに対する恐怖心を克服できるかなぁ。後、ハエとハチが残っているのですが、名前調べがまだ終わっていません。次回に回します。

家の近くのむし探検 イダテンチャタテや鳥など

家の近くのむし探検 第202弾

1月3日に、以前通っていた公園に行ってみました。虫探しとしてはおよそ1か月ぶりです。でも、最近は虫を探すというよりはランニングをしたり、鉄棒をしたりと主に運動をしています。







宇宙から来た生物のようなイダテンチャタテは数はそれほど多くはありませんが、それでも探すとあちこちの木に止まっていました。もう幼虫は見当たりません。





木の幹に動く虫がいると思ってよく見ると、ノミバエでした。これはたぶん、Megaselia属Megaselia亜属ですね。



後は、ヨコヅナサシガメの5齢幼虫。これはユリノキの幹にいました。





陽だまりでヒラタアブの仲間がホバリングしていました。ピントは合わなかったのですが、何とか撮れました。クロヒラタアブあたりかな。公園を探し回って、虫はこのくらい。



仕方なく、公園に来ているハクセキレイを写しました。





こちらは色が薄くて、顔が黄色い。若鳥なのかな。





いつもは群れているエナガ。この日は1羽がすぐ近くに寄ってきてくれました。

廊下のむし探検 年末の虫

廊下のむし探検 第862弾

昆虫の頭の構造なんかを調べていたら、年末にマンションの廊下で見た虫の写真整理が終わっていませんでした。今日は慌てて名前調べです。



翅にピントがあっていなくて、写真は失敗作だったのですが、触角を見ると何となくタマバエの仲間の様です。そう思って以前調べたタマバエを調べてみたら、似た種が載っていました。以前は写真だけから検索をして、属くらいまで到達していました。今回の写真ではとても無理ですね。そのときは、Yukawa(1971)に載っている検索表を使って、Micromyinae亜科Campylomyzini族Neurolyga属か、Campylomyza属という結論でした。さらに、Neurolyga属はM3+4脈とCu脈のなす角が少し鋭角ということで、Campylomyza属かもしれない、また、本州にはCampylomyza moriだけなので、これかもというところまで来ていました。その時から進んではいないのですが、タマバエ科の最近の世界カタログが見つかったので、それで調べてみました。

R. J. Gangne and M. Jaschhof, "A Catalog of the Cecidomyiidae (Diptera) of the World", 3rd Edition, Digital vergion 2 (2014). (ここからダウンロードできます)

「日本昆虫目録第8巻」によると、Campylomyza属にはalpinaとmoriの2種が載っているのですが、上のカタログにはmoriは載っていませんね。何かのsynonymか何かかなと思ったのですが、そうでもないようです。単に抜けているのか・・・。(追記2017/01/07:Campylomyza moriはCatalogue of Lifeにはaccepted nameとして載っていました。ただし、その元データとなるSystema Dipterorumには載っていませんでした。まぁ、ハエ目はこんな感じかもしれませんね





キノコバエの仲間でしょうね。キノコバエは今のところ、まったく手つかずです。結構、面白い模様の虫が多いのですけど・・・。何となく蚊に似ていて、採集を躊躇ってしまうのでしょうね。





上は♀、下は♂。下は前脚跗節第1節より脛節の方が長いのと、把握器の先端が曲がっているので、たぶん、エリユスリカ亜科の方だと思います。上もたぶん、そうかな。



このハエは何だろう。(追記2017/01/10:菅井 桃李さんから、「6枚目はトゲハネバエ科ですが、それ以上は分かりませんね。Heleomyza属辺りかとは思いますが、ちゃんと調べてみたことが無いもので。」というコメントをいただきました。そう言われて以前のブログを見てみると、2015年1月に同じような種を見て検索をしていました。でも、その時も属までは達していませんでした。ハエはどうも種類が多すぎて、パッと見ただけではほとんど科も分かりませんね。いちいち捕まえるわけにもいかないし・・・。ということで、今年もどうぞよろしくお願いいたします



これは以前教えていただいたモモグロヒラタヌカカでしょうね。ピントが合わなかった・・・・。



それからノミバエ。たぶん、Megaseliaかな。



これはニセケバエかな。採集したので、今度、調べてみます。



それから、クロバネキノコバエかな。



変わったハチですね。翅脈からコバチの仲間であることは確かです。それで、採集してきました。今日、「絵解きで調べる昆虫」で検索してみると、オナガコバチ科になりました。それから先の検索表を探したのですが、まだ見つかっていません。今日、顕微鏡写真も撮ったので、科の検索については今度まとめて載せておきます。

追記2017/01/10:おちゃたてむしさんから、「終わりから2番目のコバチですが、全体的な印象ではコガネコバチ科のMesopolobus属によく似ているようです。」というコメントをいただきました。これは大いに助かりました。実は検索してオナガコバチになったものの特徴が合わなくて弱っておりました。おちゃたてむしさんのブログも拝見いたしました。確かによく似ていますね。検索の敗因は「絵解きで調べる昆虫」で「後基節は前基節よりはるかに大きい」と書いてあるところでした。この個体で測ってみると2.2倍ほどになり、当然、「はるかに大きい」と思ってしまいました。「大図鑑」の検索表を見ると、「少なくとも3倍」と書かれていて、2.2倍はまだ小さい方だと分かりました。「はるかに」というような抽象的な表現には気をつけなければなりませんね。これから科の検索をやり直してみます。属の方は日本産だけでも61属だそうでまだまだ先が遠そうです。まずは亜科の検索ですね。コメント、本当にどうも有難うございました。

ついでに脚の基節の部分の写真を載せておきます。



左が頭で、横から撮ったものです。これを見ると、「後基節が前基節よりはるかに大きい」という感じがしますけどね。「絵解きで調べる昆虫」の中の「後基節は前基節よりはるかに大きい」という記述を、「後基節は前基節よりはるかに大きい(少なくとも3倍)」と書いておく方がよいようです




最後はこのクモ。「日本のクモ」をつらつら眺めていたら、クサイロフクログモというのに似ている感じですが、よくは分かりません。

昆虫の頭の構造

なぜ、昆虫の頭を調べようかと思ったかというと、先日、チャタテムシの頭の各部に名称をつけようとして、文献により名前が違うので困ってしまったからです。



これはチャタテムシの頭部を斜め上から撮ったものですが、顔の中心にポコッと膨れたものがあります。これが何だろうと思って、いつも重宝している次の論文の図を見てみました。

K. Yoshizawa, "MORPHOLOGY OF PSOCOMORPHA (PSOCODEA: 'PSOCOPTERA')", Insecta Matsumurana 62, 1 (2005). (ここからダウンロードできます)

すると、この部分は頭盾になっています。一応、「新訂原色昆虫大図鑑III」でも確認しておこうと思って調べてみると、今度は後額片となっていて、頭盾は載っていません。本によって違うということはよくあることなので、単なる名前の問題かなと思っていたのですが、文献を調べてみると、チャタテムシの顔の真ん中で膨れている部分の解釈については、過去には額の一部とすべきとする説と頭盾の一部とすべきという説があったと次の論文に載っていました。

K. Yoshizawa and T. Saigusa, "Reinterpretations of clypeus and maxilla in Psocoptera, and their significance in phylogeny of Paraneoptera (Insecta: Neoptera)", Acta Zoologica 84, 33 (2003).

これに対して、著者らはいくつかの根拠から頭盾が妥当だと結論付けていました。この論文に載っている図をまねていろいろな人の意見をまとめてみたものが次の図です。



膨れている部分だけでなく、その前後の構造についてもいろいろな名称になっています。ここで、最初の4列は論文に載っていたもので原文は英語なのですが、ネットで調べてできるだけ日本語に直してみました.。fronsは前額、epistomal sutureは前額縫合線、frontgenal sutureは前額顎縫合線、cleavage lineは裂隙線、postclypeusは後頭盾、anteclypeusは前頭盾などです。論文に載っていた項目に加えて、次の論文と「新訂原色昆虫大図鑑III」の図の名称も加えてみました。

田中 和夫、「屋内害虫の同定法 : (5) 噛虫(チャタテムシ)目」、家屋害虫 25, 123 (2003). (ここからダウンロードできます)

要は、膨れている部分が頭盾(その一部)か、前額(その一部)かということです。これに対して、上で紹介したYoshizawa and Saigusa (2003)の論文では、頭の骨格、筋肉、神経節の3つの位置を根拠に頭盾であるという結論に至っています。

まず、頭の骨格に関しては、たぶん、上の写真の白矢印で示した辺りにあるのではないかと思うのですが、anterior tentorial pitという孔の位置によって確かめています。しかし、これがなかなか難しい。パッと読んだだけでは、とても理解ができないので、まず、頭の骨格の勉強をしてみようと思いました。昆虫の頭部の構造については次の本に詳しく載っています。

R. E. Snodgrass, "Principles of Insect Morphology", McGraw-Hill Book Co. (1935). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

この本の中の図を参照にしながら、勉強した結果をまとめてみました。本がダウンロードできるということは著作権が切れていることだと思うのですが、著者の亡くなってから50年(国によっては70年かそれ以上)以内が著作権が適用される期間です。Snodgrassが亡くなったのが1962年。単純に計算すると2012年までになるので大丈夫そうですが、念のため図をそのまま転載せずに、イラストを載せることにしました。


(R. E. Snodgrass, "Principles of Insect Morphology", McGraw-Hill Book Co. (1935).より一部改変)

昆虫の頭部の前面と側面図です。頭部には前額、頭盾などいろいろ構造がありますが、それらは縫合線という線で区切られています。この図で語尾にsがつくのがそれです。昆虫の頭部は薄い膜状の頭蓋(クチクラ)で囲まれています。この頭蓋はいくつかの細かい部分に分かれ、その間は縫合線という線で結合されています。人間の頭蓋骨も縫合されているので同じようなものですね。上記の構造はそれぞれこの縫合線で囲まれた部分の名称になっています。例えば、前額はesとfsというで2本の縫合線で囲まれた部分になっています(略号は後でまとめて意味を書いておきます)。したがって、先ほどのチャタテムシの膨らんだ部分が前額か、頭盾かというのはこの縫合線を探せばよいのです。ところで、この縫合線は表面からはっきり見える場合もありますが、ほとんど見えない場合もあります。それで、図のatと書いた"孔"を探せばよいというので、探すことになります。これが先ほど述べたanterior tentorial pitです。この孔はesという縫合線の上に載っているので、この位置から頭盾かどうかが分かるというわけです。

それではこのanterior tentorial pitとはいったい何なのでしょう。それについては次の図がよく分かります。


(R. E. Snodgrass, "Principles of Insect Morphology", McGraw-Hill Book Co. (1935). より一部改変)

これは昆虫の頭蓋を描いたものです。頭蓋は頭の周囲を覆っているだけでなく、中心部分に"腕"とか、"橋"と呼ばれるつっかえ棒がついています。ATは前後に対するつっかえ棒、TBは後ろの左右に対するつっかえ棒、それにDTは上下に対するものです。それぞれのつっかえ棒が頭蓋の表面に出る部分に孔(窪み?)ができて、それをpitと呼んでいます。ATについてはat、TBについてはptがそれに対応しています。DTについては書かれて
いなかったので分かりません。縫合線の断面はERと書いた部分で分かりますが、内側に盛り上がってridge(山の尾根という意味)になっています。これを見ると頭盾とその上にある前額を区別しようと思えば、esを探すか、ERを探すか、atを探すか、そのあたりで何とかなりそうです。(追記2017/01/05:DTが頭蓋表面に出るのは縫合線fs上で、その場所では凹みや斑点になり、それをdtと略します。ただし、ここは孔(pit)にはならないようです

at: anterior tentorial pit
pt: posterior tentorial pit

as: antennal suture
cs: coronal suture(冠状縫合線)
es: epistomal suture(前額縫合線)
fs: frontal suture
ocs: occipital suture(後頭縫合線
os: ocular suture
pos: postoccipital suture(後後頭縫合線)
sgs: subgenal suture

AT: anterior tentorial arm
TB: tentorial bridge
DT: dorsal tentorial arm
ER: epistomal ridge
c: secondary anterior articulation of mandible

略号をまとめて書いておきました。できるだけ日本語にしようとネットで探したのですが、訳はほとんど見つかりませんでした。

さて、チャタテムシの場合、表面から見えるatが上の写真の白矢印だとすると、これは膨れた部分の外周を縁取る線の端付近についています。このため、解釈がいろいろと出たようです。これが膨れた部分の下に位置するとすれば、そこから横に走る線が縫合線となるので、その上にある膨れた部分は前額になります。また、これが膨れた部分の外周上に載っているとすると、外周そのものが縫合線になるので、膨れた部分は頭盾ということになるのです。この写真ではat自身がはっきりしないので、何とも言えませんが・・・。Yoshizawa and Saigusa (2003)の論文では、外周線が縫合線esになっているのを、(たぶん、解剖をして)、縫合線es上のridge ERの位置が膨れた部分の上側を走っていることを確かめて頭盾であることを主張しています。

昆虫の前額や頭盾など、写真を撮るとすぐに名前を付けたくなるのですが、それには、こんな頭蓋の縫合線が関係していることを初めて知りました。なかなかいい勉強になりました。そのほか、論文には筋肉や神経節についての記述もあるのですが、そちらはまだ勉強していないのでまた今度にします。

追記2017/01/05:以前撮ったアリの写真にatらしきものが見えているのがありました。



atはこんな孔になるのですね

ケチャタテ科?の各部の名称

昨日、科の検索をしてケチャタテ科になり、その後の種の検索でもやもやで終わってしまったチャタテムシがいるのですが、折角だから、各部の名称を付けてみようと思って写真をちょっと撮り加えてみました。



今回撮ったチャタテムシはこんな虫です。前翅長3mmなので、かなり小さいです。一応、検索でケチャタテ科になったのですが、だいぶ、怪しいです。ついでだから、各部の写真を撮って名前を付けてみました。



まずは頭部です。各部の名称は次の論文を参考にしました。

K. Yoshizawa, "MORPHOLOGY OF PSOCOMORPHA (PSOCODEA: 'PSOCOPTERA')", Insecta Matsumurana 62, 1 (2005). (ここからダウンロードできます)

ただ、後額片と書いたところが、論文では頭盾となっているのですが、「新訂 原色昆虫大図鑑III」では後額片となっていました。さらに、論文ではその上の線がepistomal suture(前額縫合線)となっていたので、どこまでを額として、どこから頭盾とするのかというところに違いがあるようです。どちらが良いのか判断できないのですが、、「大図鑑」は同じ著者が担当していることと、ケチャタテが例に挙げられているので、そちらを採用することにしました。

(追記2017/01/04:チャタテムシの顔の真ん中で膨れている部分の解釈については、過去には額の一部とすべきとする説と頭盾の一部とすべきという説がありました。これについては次の論文に詳細が載っていました。

K. Yoshizawa and T. Saigusa, "Reinterpretations of clypeus and maxilla in Psocoptera, and their significance in phylogeny of Paraneoptera (Insecta: Neoptera)", Acta Zoologica 84, 33 (2003).

この論文によると、後額片→後頭盾、前額片→前頭盾、膨らんでいる部分の上側が前額、その境の線が前額縫合線とする解釈がよさそうです。また、小顎肢の基部についても問題があるようです。これから論文を読んで、その根拠などを調べてみたいと思います。また、この解釈にしたがって、いずれこの図を訂正する予定です




次は胸部背板です。つやつやした塊がありますが、これが中胸盾板と呼ばれる部分です。その前部を前盾板、後部を小盾板と呼ぶようです。



次は、前翅の翅脈です。翅脈の名称も上の論文を参考にして付けました。後小室がM脈と分離しているところ、Rs脈とM脈が一部融合しているところ、M脈が2分枝のみであることなどが読み取れます。



ちょっとくちゃくちゃになってしまったのですが、後翅の翅脈です。これもR脈とM+CuA脈が基部で融合していること、Rs脈とM脈が前翅と同じように一部融合していることなどが読み取れます。



最後は翅の基部構造です。これは以前、シリアゲムシで調べたことがあるので、復習のつもりで上の論文の絵を見ながら見様見真似でたどってみたのですが、これは難しかったです。よく分からないところだらけで、この図もだいぶ怪しいと思われます。?マークのところは固くなっていそうなのですが、何なのかよく分かりません。翅基部構造はもう少し勉強しないといけませんね。(追記2017/01/03:ハエについては、以前、「アブの翅基部構造を調べる」というタイトルで、これらの構造の役割を少し書いていました

ということで、今回のチャタテムシは微針の上にくっつけて標本にしておきました。本当は腹部末端も写しておけばよかったのですが、腹部が縮こまってしまったので、今回は諦めました。

廊下のむし探検 チャタテムシは難しい

廊下のむし探検 第861弾

昨年の12月29日に見た虫の整理が残っていました。正月だし、時間もあるのでちょっと調べてみたのが失敗で、今日、一日かかってしまい、挙句の果てに迷宮入りです。





今頃になると小さなチャタテムシをよく見つけます。これもそのうちの一つなのですが、今日、調べたのはこの虫です。体長は2.0mm、前翅長は3.0mm。冷凍庫から何度も出したり入れたりしていたら、腹部がだんだん縮んできました。やはり、大きさは前翅長で測った方がよさそうですね。例によって次の論文に載っている検索表で調べてみました。

富田康弘、芳賀和夫、「日本産チャタテムシ目の目録と検索表」、菅平研報12、35 (1991). (こちらからダウンロードできます)

1)長翅、2)跗節は2節、3)爪の先端近くに歯は持たない、までは顕微鏡で見るとすぐに分かります。



次は翅脈です。4)前翅先端の翅脈は完全、5)後小室を持つ、までは簡単にいきました。次の項目で躓きました。それは、後小室と中脈(M脈)は結合するか、遊離するかというところです。通常はすぐに分かる項目なのですが、迷ったのは赤矢印のように後小室から短い枝が出ていたからです。



この写真は翅の一部を、Aは横から照明を当てて撮ったもの、Bは透過照明で撮ったものです。確かに短い枝が出ていますが、M脈までは届いていません。これを最初、本来はM脈まで届いているものが何らかの理由で届かなかったと判断して、ホソチャタテ科にしてしまいました。それで種の検索で躓きました。それで、もう一度写真を見てみると、写真ではもう一枚の前翅が一緒に写っていますが、その後小室の上側は丸くなっていて枝が出ていません。これからたぶん、M脈と後小室をつなぐ横脈は本来はないものだと判断して進んでいきました。すると、次はニセケチャタテ科かどうかという項目になりました。検索表では生殖突起を見ないといけないのですが、どれだか分かりません。いろいろと調べていたら、ニセケチャタテ科については次の論文に載っていました。

K. Yoshizawa, "Taxonomic Study on the Family Pseudocaeciliidae (Psocoptera: Psocomorpha) of Japan. 1. Revision of the Genus Pseudocaecilius", Jpn. J. Ent. 63, 703 (1995). (ここからダウンロードできます)

その特徴は翅についていえば、前翅の脈上に2本の毛列があり、前翅と後翅の後縁には交差する毛が生えているのですが、この個体ではそうはなっていません。それで、さらに進むとケチャタテ科か、ケブカチャタテ科という項目になりました。ケチャタテ科は脈に1列の毛、ケブカチャタテ科は2列の毛があります。



これは翅脈を斜めから撮ったものですが、1列の毛しか見えません。それで、結局、ケチャタテ科かなということになりました。さらに、富田氏の論文で種の検索もしてみました。これも、1)後小室は遊離する、2)中脈(M脈)は2分岐するという条件で、Mepleres suzukiiになりました。しかし、Checklist of Japanese Psocopteraによると、この種はニセケチャタテ科に入っています。もう何が何だか分からなくなってしまいました。というので、ここでストップです。なお、翅脈の写真Bで赤丸で書いた部分がチャタテムシの翅脈を見るときに注目するポイントです。



ついでに顔の写真も撮りました。うまく検索できたら、「虫を調べる」として出したかったのですけど、こんなもやもやじゃねぇ。



後は何の気なしに撮ったハエ。



それからガガンボダマシ。



ガガンボダマシは黒矢印のところで終わるぐにゃっと曲がった翅脈があるので、科までは分かりやすいです。それから先は調べたことがありません。



これはこの間も出したハエヤドリコマユバチ亜科かなと思われる個体です。一応、記録のためにこちらにも載せておきます。





これはたぶん、この間調べたヒラフシアリだと思うのですけど・・・。



最後はクモです。よく分かりません。

虫を調べる ハエヤドリコマユバチ科?

明けましておめでとうございます。正月早々でこんな硬い話題はどうかなと思ったのですが、大晦日に、29日に採集した虫を調べていたので、忘れないうちにその結果を出しておこうと思って出すことにしました。



調べていたのはこんなハチです。体長2.7mm、前翅長2.9mm。意外に小さなハチです。触角は長くて、翅の前縁が途中で折れ曲がったような感じになっています。何となくコマユバチかなと思って、採集しました。それでいつものように翅脈を見たのですが、翅脈がかなり退化していて、どうも今までの判断ではよく分かりませんでした。それでもう一度、コマユバチ科とヒメバチ科の区別をちゃんと調べておこうと思って、次の文献を見てみました。

Henri Goulet and John T. Huber (Editors), "Hymenoptera of the world, an identification guide to families", Research Branch, Agriculture Canada (1993). (ここからpdfをダウンロードできます)

この中に科の検索表や科の説明も載っています。まとめてみるとこんな感じになります。



AとBは前翅の翅脈、Cは後翅の翅脈、Dは後体節についてです。野外で見ていると、たいがい後翅や後体節は見えないので、前翅の翅脈だけで判断することになります。ポイントは2m-cu横脈と1/Rs+M脈があるかないかです。以前調べたヒメバチ科とコマユバチ科の例で示すと、





上がヒメバチ科、下がコマユバチ科です。黄色の印で書いた部分がポイントとなる点です。前翅ではAとBで書いた部分に脈があるかないかで判断します。また、後翅が見える場合にはCで書いた1r-m横脈とR1脈-Rs脈の分岐点の位置関係で判断します。この判断でたいがいはOKなのですが、上の表の%を見てください。問題は一方が100%であっても、もう一方が100%でないことです。つまり、これだけでは断言ができないことになります。例えば、1/Rs+M脈がないからといってヒメバチ科だとは直ちに断言できず、コマユバチ科の15%も実は1/Rs+M脈がないのです。したがって、基本的にはこれらの組み合わせから判断しなければならず、必然的に検索表のお世話になることになります。

今回の例に限って、先ほどの文献の検索表の必要部分を抜き出すと次のようになります。なお、原文は英語で私の拙い語学力で訳しているので間違っているところもあるかもしれません。訳の怪しいところや訳せなかったところはもとの単語を載せておきます。



ヒメバチ科とコマユバチ科を分けるだけでも結構長い検索表になっていました。面倒なので、後半は省略しましたけど・・・。 (追記2017/01/02:どうせなので、検索表を最後まで訳しました
ここで、2aのところにtubular、nebulous、spectralという単語が出ていますが、これらは翅脈の性質を表す言葉です。これについては以前ブログに書いたので、その部分を転載します。

「翅脈の表現については次の論文に詳細が載っていました。

W. R. M. Mason, “Standard drawing conventions and definitions for venational and other features of wings of Hymenoptera”, Proc. Entomol. Soc. Wash. 88, 1 (1986). (ここからpdfがダウンロードできます)

この中で、Masonは翅脈の状態の呼び方が統一されていないので、その定義をしたいという意図で、翅脈が退化していく過程として次の3つの状態を規定しました。液体が流れる完全な翅脈をtubular vein、液体は流れないが翅の膜がその部分だけ厚くなったnebulous vein、それに単に折れ目になってしまったものをspectral veinと呼ぶようにしたのです。spectralは幽霊のようなという意味で、透明で時々見えたり見えなかったりするからだということです。」

さて、上の検索表を調べてみると、当初の予想通り、コマユバチ科になったのですが、さらに、その先の亜科の検索をしてみると、ハエヤドリコマユバチ亜科になってしまいました。そのときに使った項目を科、亜科の検索表から抜き出すと次のようになります。



この6項目です。これをいつものように写真で見ていきたいと思います。とりあえず、①から⑤は翅に関するものなので、それらを先に載せます。



最初のこの写真から、翅が発達していて、十分に長いことが分かります。



次は前翅です。先ほどのヒメバチ科やコマユバチ科に比べて翅脈がずいぶん簡略化されていることが分かります。ポイントは先ほどの両者を区別するときに使った2m-cu横脈と1/Rs+M脈の両方ともないということです。それで、パッと見てどちらか分からなかったわけです。この写真ではとりあえず、②の2m-cu横脈がないことを見ます。



後翅はさらに貧弱です。ほとんど脈らしい脈がないので、初め、上の検索表の4bの「後翅の脈は大きく退化」を選んでしまったのですが、よく見ると、R脈もRs脈の基部も、1r-m横脈も、M脈もすべて見えます。おまけにR脈と1r-m横脈とM脈で囲まれた翅室が存在します。したがって、これは翅脈がよく発達しているという方になるようです。また、R脈とRs脈の分岐点と1r-m横脈の起点を比べるとやや後者が基部側に位置しています。したがって、①から④のすべてが満足されたことになるので、コマユバチ科ということになります。

亜科の検索には大腮の写真が必要です。それで、正面から撮ってみました。



これを見てちょっとびっくりです。こんな大腮は見たことがありません。大腮が外側を向いているようなので、たぶん、これが外向的というのかなと思いました。歯は矢印で示した3つあります。また、左右の大腮は接触せず、遠く離れています。これでハエヤドリコマユバチ亜科になりました。

ついでに後体節の写真も撮ってみました。



産卵管が見えているので、これは♀の方ですね。後脚転節が2節に分かれているように見えるのはヒメバチ上科の特徴です。後体節第2背板と第3背板が融合しているというのを見たかったのですが、これではちょっと分かりません。



これは背面図です。これを見ると、節と節の境目が薄い線になって見えますが、第2節と第3節の境は見えません。たぶん、これがコマユバチ科の特徴なのだろうと思いました。

という具合に、亜科までは順当に検索できた感じなのですが、いつもお世話になっている「Information station of Parasitoid wasps」に載っているハエヤドリコマユバチ亜科の説明を読むとかなり違っているのが気になります。例えば、後翅2m-cu横脈が大抵存在するとか、後体節第2、第3の間は可動というような点です。科は大丈夫だと思うのですが、亜科が違うのかなぁ。ただ、大腮は特徴的だったのに・・・と、ちょっと悩んでいます。いつものことですが・・・。
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