家の近くのむし探検 第111弾
夏になって虫がだいぶ少なくなってきたので、その分、あちこちを探すようになりました。7月20日の午後、時間を見つけて、公園まで行ってみました。やはり虫は少なかったのですが、代わりにこんなものを見つけました。
シラカシの幹についたこんな細長い筋です。近寄ってみると、
筋にはあちこち破れた部分があって、そこから中が見えました。中は空洞になっていて、その中を小さなアリが登ったり降りたり、忙しそうに往来していました。
しばらく見ているとこんな繭みたいなものを持って移動するアリもいました。たぶん、木の上にある巣から引っ越ししているのかなぁと思って、参考のために2匹ほど捕獲しました。家に戻ってから調べると、これは蟻道と呼ばれているようです。「蟻道」で検索するとシロアリの蟻道が大量に引っかかります。中にトビイロケアリもいくつか見られました。しかし、情報はどれも断片的で、トビイロケアリについては寄生するノミバエを避けるためにつくられているとか、木の上の蟻道内でアブラムシを飼育していて土の中の巣まで栄養分を運ぶためだとかが載っていました。「蟻道」は英語でshelter-tubeというようですが、こちらで検索しても大部分がシロアリに関するもので、有用な情報は得られませんでした。今度、木の上の部分を調べてみたいと思います。
ところで、採集してきたアリを今朝、調べてみました。ヤマアリ亜科ケアリ属はまず間違いないところ。その先は若干怪しいところもあるのですが、たぶん、
トビイロケアリで合っていると思われます。怪しいところというのは、1)触角柄節の立毛の数と、2)腹柄節の横から見た形状についてです。前者については前から悩んでいました。以前にも紹介したのですが、次の論文に立毛の定義が載っています。
E. O. Wilson, "A Monographic Revision of the Ant Genus LASIUS", Bull. Mus. Comp. Zool. Harv., 113, 1 (1955). (
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K. Yamauchi, "Taxonomical and Ecological Studies on teh Ant genus Lasius in Japan (HYMENOPTERA; Formicidae). I. Taxonomy", Sci. Rep. Fac. Educ., Gifu Univ. (Nat. Sci.) 6, 147 (1978). (
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もともとは博士論文に載っていた性質をWilsonが厳密に定義して検索の指標に採用したということなのですが、「立毛とは鞭節を含む面内で見て、柄節の前面にあって、表面から45度以上の角度で生えている毛」という意味のようです。以前もこの定義で
検索をしたことがあったのですが、もう一度見直してみると、どうも「柄節の前面」という部分の解釈を間違っていたような気がします。柄節と鞭節は互いに直角近く曲がっていますが、その両者を含む面内で外側(鈍角側)の立毛を数えていました。でも、外側というのは実は後面に当たるのではないかと思うようになりました。むしろ、内側(直角側)の柄節で見なければいけないかというわけです。というのはこちらが前面になるからです。実際に見てみると、外側ではほとんど立毛は見当たりませんが、内側では多数の立毛が見られます。それで、この条件が合っているのなら、これでヒメトビイロケアリを除外できそうです。
次は、2番目の腹柄節の横から見た形状です。詳細は先ほど紹介した
以前のブログを見てください。以前は腹柄節の前面側に明確な角がないためハヤシケアリとしたのですが、「日本産アリ類図鑑」の挿絵を見てみると、明確な角はなくても前面側が膨らんでいるのがトビイロケアリ、前面側が膨らまず、全体としてほぼ三角形状になるとハヤシケアリという風に解釈できます。だとすると、以前ハヤシケアリとしたのはトビイロケアリということになり、今回もほぼ同じ形状なのでトビイロケアリということになります。この辺りはもう少し検討の余地がありますが、形状だけでなく色もトビイロケアリに近いので間違いないのではと思っています。
蟻道で長くなってしまいました。次はハエについてです。
ツツジの葉の上で動き回っているハエを見つけました。やっとじっとしてくれたので、写真が撮れました。これは見覚えがあります。以前、ヤドリバエの仲間だと教えていただいたことがありました。それで、「
一寸のハエにも五分の大和魂・改」で、「ヤドリバエ」でワード検索をしてみると、
似たハエが見つかりました。しかも、「ルリチュウレンジ幼虫に産卵す」というタイトルで、まさに産卵しているところを見事に写されています。ルリチュウレンジの幼虫に産卵するヤドリバエとしては、Drinomyia bicoloripesが知られているとのことで、文献まで紹介されていました。
H. Shima, "Study on the Tribe Blondeliini from Japan (Diptera, Tachinidae) : III. Descriptions of a New Genus and Two New Species from Japan, Korea and Nepal, with Notes on Drinomyia bicoloripes (MESNIL)", 昆蟲 48, 259 (1980). (
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この論文にはDrinomyia bicoloripesはアカスジチュウレンジとルリチュウレンジの幼虫で飼育することができたという報告が載っていました。ルリチュウレンジと言えば、幼虫がツツジの葉を食べるので、先日来、この公園でも幼虫を大量に見ています。もしかしてと思って、トリミングする前の写真を見てみたら、
ちゃんとルリチュウレンジの幼虫が写っていました。写真は何枚か撮ったのですが、最初の写真が何だか分からなかったのですが、もう一度よく見ると、
まさに、産卵しているところの写真だったみたいです。知らなかったなぁ・・・。なお、「日本昆虫目録第8巻」によると、Drinomyiaは一属一種で、D. hokkaidensis キアシハリバエが載っていて、先ほどのD. bicoloripesはシノニムとされていました。なお、上の論文にはDrinomyia属が新たに記録されたので、従来までのヤドリバエ科の属への検索表の修正が載っていました。もとの検索表は次の論文に載っています。
H. Shima, "Study on the Tribe Blondeliini from Japan (Diptera : Tachinidae) I", 昆蟲 47, 126 (1979). (
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これで、これまで手が付けられなかったヤドリバエが少し検索できるようになるかもしれません。それにしても、昆虫の世界は面白いですね。
ハエついでにアシナガバエも載せておきます。このハエのM1脈は実に奇妙な形をしています。これを手掛かりに先日手に入れた「ハナアブ」を見てみると、Amblypsilopus属、Condylostylus属辺りが該当しそうです。「日本昆虫目録」によると、前者には2種、後者には4種載っていますが、「ハナアブ」には未記載種もいくつか載っているので、頑張ったら種までたどり着けるかも知れません。でも、採集しなかった・・・。(
追記2016/08/01:菅井 桃李さんから、「アシナガバエは、Amblypsilopusだと思ってるヤツかな。小さいですが、全身金ぴかで意外と目立ちますよね。」というコメントをいただきました)
これは、たぶん、シマバエ科のHomoneura属辺りだと思います。
小さなハバチなのですが、採集しないとまだ科も調べられません。
後は蛾。蛾は本当に少なくなりました。これは
シバツトガ。
小さなヒメシャクなのですが、
ミジンキヒメシャク?
アブラゼミが地面近くに止まっていたので、上から目線で撮りました。
ネコハエトリの幼体?今頃、多いですね。あちこちにいます。まだまだ小さいですが・・・。
ニホントカゲ、
それにムカデです。林の入り口がワイルドだったと以前書きましたが、公園にもムカデはいましたね。