また、ハエの仲間を調べてみました。
今回はこんなハエの名前調べです。翅に黒い筋が何本か並んでいて大変特徴的です。この写真は今年の1月12日に撮って、
その日のブログに出したものです。この時は全体の形と頭部が黄色いので、フンバエかなと思いました。採集していたので、昨日、調べてみました。この特徴的な翅の模様から調べてみると、いろいろな文献に載っていることが分かりました。実に、ヤチバエ科マルヒゲヤチバエ属
ブチマルヒゲヤチバエという名前だそうです。次の本や論文に載っていて、いずれも翅の模様が特徴的と書かれていたので、たぶん大丈夫だと思います。
河合禎二、谷田一三編、「日本産水生昆虫」、東海大学出版 (2005).
R. Rozkosny, L. Knutson and B. Merz, "A review of the Korean Sciomyzidae (Diptera) with taxonomic and distributional notes", Acta Zoologica Academiae Scientiarum Hungaricae 56, 371 (2010).
(ここからpdfがダウンロードできます)
M. Sueyoshi, "A revision of Japanese Sciomyzidae (Diptera), with descriptions of three new species", Entomol. Sci. 4, 485 (2001). (
ここからダウンロードできます)
「日本産水生昆虫」は以前、水生昆虫を調べてみようかと思って買ったのですが、その後、止めてしまったのでお蔵入りになっていました。このブログを始めて、ハエ、トビケラ、カワゲラなどを調べるときに、これほど役に立つ本だとは思ってもいませんでした。何でも余裕のあるときに買っておくものですね。
さて、今回は名前が確かそうなので、ゆっくりと検索の練習をしてみたいと思います。まずは科の検索です。
これはいつもの「絵解きで調べる昆虫」の中に書いてあるハエ目の検索表から作りました。もともと絵解きなので文章はないのですが、適当に文章化しています。
これは「新訂原色昆虫大図鑑III」の中のハエ目の検索表です。昨日、いきなりこの複雑な検索表を順に調べていき、実は、ヤチバエ科にたどり着かず、ベッコウバエ科になってしまいました。ベッコウバエで画像検索してもこの特徴的な模様のハエは出てきません。それで、ベッコウバエ科の属を1つずつ画像検索して、やっと似た写真を見つけました。
岐阜大のサイトに載っていました。それで、ヤチバエであることが分かりました。どこで間違えたかというと、上の検索表の終わりから2番め㋢のところです。頭盾がどれだか分からなかったところが敗因でした。
科の先は、「日本産水生昆虫」に属、種の検索表が載っていました。
こんな簡単な検索で種まで到達します。特に⑯はまさに翅の筋模様を示しています。ということで、大変複雑ではありますが、これらの検索表に出てくる特徴を見ていきたいと思います。特に「大図鑑」の検索表は複雑なので、㋐などの記号を赤くしたものだけを見ていきます。これらはいくつかの科を分ける項目になっているからです。
検索表を順番に見ていけば良いのですが、頭を見たり、翅を見たり、また頭を見たりと説明が大変複雑になります。そこで、検索項目を写真に書き込み、部位別に見ていきたいと思います。
まず、頭部を見てみます。これは正面からです。検索表の出発点は額嚢溝と半月板をもつことなのですが、実はここがあまりはっきりしません。そうではないかと思われるところを矢印で示しています。また、触角梗節に縫線があるかないかは有弁翅類か無弁翅類かを分ける重要なポイントの一つなのですが、この写真の様に縫線はありません。従って、無弁翅類の可能性が高くなります。
次は同じ場所をやや下から撮ったものです。検索で間違った頭盾については次の論文に出ていました。
田中和夫、「屋内害虫の同走法 : (2)双翅目の科の検索表」、屋内害虫 22, 95 (2000). (
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この論文の図と比較して上の写真の部分ではないかと思ったのですが、はっきりとはしません。また、この写真では口の両側にある太くて長い鬚剛毛がないこともすぐに分かります。
触角刺毛という細い毛が触角の第3節の基部背面から出ていることが分かります。また、この写真で先ほどの頭盾を見ると口の中に隠れてしまい横からは見えないことも何となく分かります。
以前調べたヒゲナガヤチバエも大きな口をしていたので、こんな大きな口をしていたらヤチバエ科かなと疑ったらよさそうです。
これは頭部を後ろ側から写したものです。後単眼剛毛が交差しないことからシマバエ科と区別できます。また、額眼縁剛毛は上部にある2本だけで、前側にあるはずの下額眼縁剛毛がないことも特徴です。
次は胸部です。各部に名称を入れました。
脚が邪魔して前胸側板が見えなかったので、脚を動かしました。前胸側板の前下部分に1本太くて長い剛毛が生えています。
中胸上前側板はつるっとして感じで後縁を含めて剛毛などは生えていません。また、有弁翅類に見られる翅下瘤は見られません。従って、無弁翅類であることは確かそうです。
次は翅です。翅脈は検索によく出てくるのでいっぱい書き込んでいます。詳細は説明しませんが、⑯の中脈先端部に2本の分枝を持つというのが、筋が並んだように見えた模様の正体でした。
次は脚脛節の剛毛についてで、中脚を例に出しています。脛節末端背面に亜末端剛毛が1本見ています。それ以外には背側には剛毛はありません。
最後は腹部を腹側から写したものです。これは♀だと思うのですが、⑪の説明が何を意味しているのかは分かりませんでした。一応、腹板と背板に番号をつけてみました。
ということで、全部が確かめられたわけではないのですが、特徴的な翅の模様からヤチバエ科のブチマルヒゲヤチバエで間違いないのではないかと思っています。「日本産水生昆虫」によると、本種の生態はまだ知られていなくて、韓国、日本で見つかっているそうです。成虫は6月と11月に本州と九州で見られているとのことです。過去の写真をもう一度見直したところ、1月のほかに12月と3月に見ていました。
今回は種が大体分かっていたので、安心して検索表を見ることができました。種が分からなかったときにベッコウバエ科にたどり着いた時は不安がいっぱいの状態でした。それでも、だいぶ近縁のところまでたどり着いていたので、少しは慣れてきたのかなと思いました。パッと見てフンバエだと思ったのですが、だいぶ違っていましたね。