先日採集した
シダクロスズメバチを調べてみました。実は、私はこんなスズメバチがいることを知らずにクロスズメバチとしていたのですが、通りすがりさんに教えていただき、やっとその存在を知りました。調べてみると、学名に
Sk.Yamane & Wagner, 1980とあるので、比較的新しく記載された種なのですね。
以前も載せた写真ですが、複眼の内側に三日月紋があるのがシダクロスズメバチということが分かり、ここが半月紋になっているとクロスズメバチになります。体長は13.1mm。スズメバチにしてはずいぶん小型です。それで、私も写真を撮っているときはスズメバチだとは思わず、ハチを追いかけて撮りまくっていました。おまけに毒瓶に入れて採集まで。後で、スズメバチだと分かってびっくり。(
追記:通りすがりさんから、「新女王とオス蜂が巣を離れたら働き蜂たちも守るものが無くなるので、お食事中に観察し易くなるのでオススメです。威嚇されたり、獲物を探してまとわりつかれたりと言うことが無くなりますからね。あ、オス蜂は大型なこともありますけど、腹部と触角が長いので直ぐに分かりますよ。」というコメントをいただきました)
このように、今回はハチの名前がよく分かっているので、いつものように検索表に沿って名前を調べていくのではなしに、検索表に載っている特徴を写真で確かめていこうかなと思いました。まずは検索表です。
これは「絵解きで調べる昆虫」に載っていたハチの検索表のうち、スズメバチ科に至る部分を抜粋して書いたものです。次に種への検索は
寺山守氏のページに載せられていたものを使わせていただきました。
これもシダクロスズメバチに至る部分を抜粋して書いたものです。全部で15項目あるのですが、以前と同じように写真に書き込みましたので、今回は写真を見ながら特徴を調べていきたいと思います。
まずは背面から見た全体図です。まず①で胸部と腹部の間が強くくびれていることで細腰亜目であることが分かります。また、この細い部分に腹柄節という突起がないので、アリでないことも分かります(当たり前か)。②と④は機能的な翅を持って、翅脈が発達していることです。これは翅のない種や、翅脈がほとんどない種もあるので、それとの対比です。また、⑧はこの写真のように翅が縦に畳まれていることを示しています。ハエが横に折れ曲がることと比べるとだいぶ違いますね。⑩は腹部第1節が横長で、その前縁が直線状だということです。これは後でFig. 13を見ると、前縁部が崖のように切り立っていることが分かります。更にその前縁に白帯がないことが⑭です。⑬は紋が象牙色ないし白で、これは黄色の種があるので、それを除外する項目です。
次は顔面の写真です。私はこの写真を見て、なんとすばらしい造形だとほれぼれしてしまいました。ここでは③の頭頂に刺がないことでツノヤセバチ上科を除外します。次は⑪で、頭盾に模様があることを示しています。㋘はややこしいので後で触れますが、「原色昆虫大図鑑III」の検索表に載っている項目です。頭盾と大顎の間には通常上唇というのがあるのですが、これはほとんど見えません。従って、退化しているのではと思います。
翅脈と翅室の名称に関する部分です。ここでは、次の本に載っている名称を書いてみました。
H. Goulet, "The genera and subgenera of the sawflies of Canada and Alaska: Hymenoptera: Symphyta", Insects and Arachnids of Canada Handbook Series 20. (1992). (
ここからダウンロードできます)
ハチは翅脈にも翅室にも独特の呼び方があります。ここでは翅室について出てくるので、その呼び方をまとめて書いておきます。
左側は「大図鑑」に載っていたもので、右側は「日本産ハナバチ図鑑」に載っていたものです。さて、ここでは④の前翅に縁紋があること、後翅に閉じた室があることを見ます。次に、⑧の第1中室が非常に長いことを見ます。これはスズメバチ科、ドロバチ科に特徴的な性質のようです。それから⑩の後翅に臀垂という飛び出したひだのようなものがないということを確かめます。臀垂は、通常、肛垂というのではないかと思います。後で載せる「大図鑑」の検索表では、㋗の3個の亜縁室があることも特徴のようです。
次は中脚と後脚の転節の辺りを見てみます。転節というのは腿節と基節の間をつなぐ部分です。⑤は後脚転節が1節だけでできていることを示しています。これが2節あるとヒメバチ科などになります。また、㋗は前脚、中脚腿節の基部に輪があることで、これは私には初めて聞く言葉なのでよく分かりませんが、多分、図の矢印の部分がちょっと異質な感じがするので、その部分を指しているのではないかと思います。
これは胸の側面を写したものですが、⑥は、本来は背側にある前胸背板の両側が後ろに伸びて、肩板という翅の基部を覆う板と接していることを示しています。これはスズメバチ上科特有の性質のようで、これでミツバチなどと分かれます。ミツバチなどはこんなに後ろには伸びてきません。また、胸部前気門のことが書かれていますが、これがよく分かりません。前胸背板の縁に毛のいっぱい生えている部分があるのですが、その下に気門があるのではないかと疑っています。
次は脚の先端の爪です。単純な爪が生えていて、特に歯があったり、櫛歯状になったりはしていません。これが⑨です。
これは中脚の脛節末端の刺の写真ですが、2本あることが分かります。ちょっと大きく撮り過ぎました。後でお見せするFig. 14にはもう少し小さく見ることができます。
次は頭部を背面から撮った写真です。頭の後縁が伸びていないで複眼にほとんど接するようになっています。これが⑪の意味です。後単眼も同じです。普通のスズメバチでは複眼の後ろが広くなっています。
これは顔の向かって左半分を横向けにして撮った写真です。⑫は複眼の下端と大顎がほとんど接するようになっていて、間にあるはずの頬がほとんどないことを表しています。⑭、⑮、㋖は複眼が深くえぐれていて、その内側に白い模様が三日月状にあることを示しています。これで検索表をすべて調べて、結果的にシダクロスズメバチであることが分かりました。
「原色昆虫大図鑑III」の科への検索表はもっと複雑です。先ほどの㋘などはその一部なのですが、難しい項目が多くて、なかなかすべては分かりません。それでもちょっと調べてみました。
これはスズメバチ科に至る部分を抜粋して書いたものです。紫色で書いた部分はすでに出てきた特徴です。それ以外を見てみます。
これは翅の下の部分を写したものですが、この中に気門が3つあることになっているのですが、よく分かりません。前伸腹節気門は写真に矢印を入れて示したようによく分かるのですが、胸部前気門はこの辺かなぁというところ。さらにもう一つは分かりませんでした。
触角は全部で12節。ちょっとうろ覚えですが、♂は13節、♀は12節だったのではなかったかな。(
追記:どこかに書かれていたと思って探してみたら、「大図鑑」のスズメバチ上科の説明に♂は13節、♀は12節と書かれていました)
2つの写真とも同じ項目が書いてありますが、これがなかなか写しにくかったところです。腹部第1節が崖のように切り立っていることが上の写真で分かります。腹部第2節以降は背板と腹板が分かれていますが、第1節はこれがくっついて腹を一周回っています。でも、腹側は幅が少し細くなっていますこれが「部分的に融合」という表現になっているのではないかと思いました。それでは細くなった部分は他に何があるのかということなのですが、たぶん、膜質があるのではないかと思います。
次は口器についてです。大顎の下の部分に淡黄色に見える部分が舌だと思いますが、それを拡大していきます。
大顎の歯のない部分を、多分、磨縁部といっているのだと思いますが、これが長いというのが㋘です。大顎が交差するというのは、顎がもう少し細いと交叉してX字のような格好になるので、そうならないことかなと思っています。舌の部分をさらに拡大します。
これで私の実体顕微鏡の最大倍率(56倍)です。中央の部分を中舌、その両側にある部分を側舌と思って名づけました。よく調べていないので、違うかもしれません。その長さが等しいというのが㋘なのですが、見る限りは側舌の方が短くなっています。
ということで、検索表に書かれている特徴をよたよたしながらすべて調べていきました。文章で読んでもピンと来ませんが、こうして写真に書き込んでいくと、どこが分かってどこが分からないのかがはっきりして、なかなか勉強になりますね。