また、ハエの話です。昨年の12月くらいからハエを調べているのですが、少しずつ分かり始めてきた気がするので、私の勉強のためにもう少し続けたいと思います。読まれる方はちょっと気持ち悪いかもしれませんが・・・。
今日は、先日、シマバエ科の
Homoneura mayrhoferiかもしれないなと思ったハエを調べてみました。いつもは科まで調べるのですが、今回は種まで行くので少し長くなります。いつも言っておりますが、ハエには全くの素人なのでそのつもりで見てくださいね。
まず、調べたハエはこれです。翅に模様があるので、調べやすいかなと思って選んでみました。昨年の12月にも同じ種を見つけ、その時は何となくシマバエ科かなと思って画像検索し、同じ種らしい個体が載っているサイトをいくつか見つけました。それが先ほど書いたHomoneura mayrhoferiという種でした。ただ、ネット情報は怪しいものが多いので、自分でもひとつ調べてみようかと思ったのがきっかけです。
まず、種への検索をしてみます。これには、「絵解きで調べる昆虫」の中の検索表を用いました。絵解きの部分を適当に文章化して書くと次のようになります。
これはシマバエ科に至る部分だけを抜粋して書いたものです。それぞれの項目で除外されていく科は( )内に書いてあります。これらの項目に関連する写真を載せます。
まず、①は額線や半月板に関する項目で、Fig. 1に額線を示しています。なお、項目に関係する部分には、黒矢印あるいは白矢印と丸で囲んだ数字を書いています。額線は見えるのですが、半月板はよく分かりません。でも、とりあえずOKとしましょう。次は、この間勉強した無弁翅類に関するものです。まず、Fig.2には覆弁の有無を載せていますが、端覆弁だけで基覆弁はありません。さらに、無弁翅類の特徴だった触角梗節にも縫線はありませんでした(Fig.3に触角の写真を載せたのですが、梗節はちょっと見えにくかったようです)。ということで②まで終わりました。次からは翅脈に関するものなので、翅脈の写真を載せます。
③のR4+5脈とM1+2脈はこの図でもわかりますが、ほぼ平行です。これで③と⑥がOKになりました。④はSc切れ目に関するものですが、切れ目はないのでこれもOKです。⑤の鬚剛毛はFig.1を見ると分かりますが、ありません。次の⑦と⑧のために、さらに2枚の写真を追加します。
⑦は脛節末端の背面に剛毛があるかどうかですが、Fig.5のように1本だけあります。さらに、⑧の後単眼剛毛はFig.6のように交差しています。これで
シマバエ科であることが分かりました。
次は属への検索を試みてみました。これには、
株式会社エコリスのホームページにある「日本のシマバエ科 属への検索試案」を使わせていただきました。これもHomoneura属への検索の部分だけを抜粋して書くと次のようになります。
⑨は翅の外周を小剛毛列が覆っているかどうかについてです。図を載せます。
この写真にはちょっと感動しました。確かにちょうどR4+5脈のところまで太い剛毛列が並んでいます。次の中脛節の剛毛は次の写真を見てください。
これは中脚の写真ですが、脛節末端の内側(向かって左側)に長い剛毛が2本、外側(向かって右側)に1本あります。「底部先端」というのは内側の剛毛を指しているのでしょうね。⑩の上前腹板は載っていた英語訳から判断すると中胸上前側板のことかなと思って、Fig. 5を見てみました。特に、変わった剛毛は生えていません。これと対抗する側の項目を見てみると、「下方を向く1-2本の過剰剛毛を具える」ということなので、そのような剛毛はありません。さらに、翅には模様があるので、前腿節を見てみます。同じくFig.5を見ると、剛毛列が見えます。これが櫛歯状なのでしょう。ということで、
Homoneura属に到達しました。
いつものならこの辺りで終わるのですが、今日は種までなので、もうすこし続きます。種への検索表は次の笹川満博氏の論文を用いました。
M. Sasakawa and S. Ikeuchi, 昆蟲 53(3), 491 (1985). (
ここからダウンロードできます)
これは英文なので、また、必要な部分だけを翻訳してみました。
まず、1 はFig.3を見るとすぐに分かりますが、触角刺毛は軟毛に覆われています。この検索表に関係するところは図に黒矢印と数字で示しています。これに対向する項目は羽毛状です。そんな種があるのですね。次は腹部第6腹板に関するものですが、腹板をどうやって数えたらよいのかまったく分からず、ここでずいぶん苦労しました。
まず、腹部を背側から見てみます。
この場合は番号をつけやすいのですが、この図のようにつけていきます。ここで第1と第2の間には明確な境がないので、1+2と書くことがあるみたいです。さて、ここで見えているものは背板と呼ばれるものです。なぜ「板」というのかは次の図を見ると分かります。
こんな風に一部だけを覆う板状になっているからなのですね。それに対応して、腹側にも板があって、それを腹板と呼んでいます。腹側から見ると次のような感じです。
このように腹板が並んでいます。しかしどう見ても4枚しかありません。これが悩みの始まりでした。実は、Fig.10でも分かりますが、第1と第2の腹板は後脚の下にあって、普段は見えないのです。それを見えるようにしたものがFig. 10でした。しかし、これが見えてもどれをどう番号をつけるかはなかなか分かりませんでした。いろいろとネットを探していてとうとう見つけました。
S. P. Kim, "Australian lauxaniid flies: revision of the Australian species of Homoneura van der Wulp, Trypetisoma Malloch, and Allied Genera (Diptera : Lauxaniidae)", (CSIRO Australia, 1994)(
ここで本の一部を見ることができます。この中のFig. 11に腹部の用語が書かれています)
という本です。それによると、番号の付け方はFig.10のようになるそうです。特に、第2腹板がちょっと飛び出しているだけで板のようには見えないのですが、そう呼ぶのでしょうね。
これでとりあえず、第6腹板が分かりました。そこで、その付近を拡大してみます。
このように第6腹板には強靭な剛毛はありません。笹川氏の以前の論文(M. Sasakawa and S. Ikeuchi, Kontyu 51, 289 (1983). (
ここからダウンロードできます))を見ると、強靭な剛毛というよりは棘のある種がいるので、その意味が分かりました。これから後は楽で、トントン拍子に
Homoneura mayrhoferiまで到達できます。最後の腹部背板の後縁の縁取りはFig.9とかFig.10を見ると分かります。最終的には翅に4つの斑紋があるというところが決め手になりそうです。
笹川氏の論文にはこの種の特徴についても書かれていたので、その部分も翻訳してみました。
全般的な特徴のところで書かれていますが、翅の紋と後で述べる上雄突起の大きさで♂についてはすぐに分かるということです。特徴を順に見ていきます。①の茶色の縞はFig.6にある1対の暗い筋のことを言っているのだと思います。なお、今回の特徴に関係するところには図に赤矢印と赤い丸数字で示しています。②についてはこの個体では前翅長は4.5mm、体長は4.4mmでしたので範囲内に入ります。4つの斑紋の位置も一致しています。さらに、③の腹部背板後縁の縁取り、それに中央の黒い縦線はFig.9を見ると分かります。そして、④です。上雄板と上雄突起はおそらくFig. 10と11に書いてあるものだと思います。上雄突起はFig.12を見るとその巨大なことが分かります。♂ならばすぐに分かる特徴なので、翅の模様とこれさえあればHomoneura mayrhoferiだということでしょうね。この後の⑤以下は日本語訳も怪しいですが、内容もよく分かりませんでした。
ということで、シマバエ科の種の同定をしてみました。種までの同定だったので時間がかかったのと、検索表では抜けている種もあるかもしれないと思って、書かれていた特徴まで調べたので、かなり大変でした。その代わり、腹部の背板や腹板について少し分かったことが収穫でした。一方、交尾器の辺りの言葉の意味がほとんど分からなかったので、もう少し勉強が必要だなと思いました。Fig. 12に見える腹端の構造は折りたたまれて収まっていると思うので、これを引き出すともう少し構造が分かるかなと思うのですが、今度やってみます。(
追記:あおやまはるまさんから、「小さな昆虫の、昆虫に限らず動物の体の、この精巧さには驚くばかりです。」というコメントをいただきました)