ウスイロギンモンシャチホコというのはこんなシャチホコガ科の蛾です。
昨日、マンションの廊下の階段の裏に止まっていました。銀紋がずいぶん目立つので、ちょっと調べてみたくなりました。そこで、だいぶ昔に採集した標本を使って調べてみました。
標本の表と裏を示しています。チョウは裏もよく見えるのですが、蛾はほとんど裏を見ることがないですね。表側は銀紋が複雑に配置されていますが、裏はちょっと手抜きではないかと思われるくらい単純です。

撮影条件:実体顕微鏡+NIKON D90 シャッター速度1/10s ISO200
実体顕微鏡を使って銀紋のあたりを拡大してみました。銀紋といっても単純な面ではなくて、細かな鱗粉が並んでいることが分かります。どちらかといえば、銀紋の部分は鱗粉が平面的にびっしり並んでいますが、茶色の部分はやや粗雑に並んでいる感じです。
銀色と茶色の部分の境目をさらに拡大してみます。
撮影条件:生物顕微鏡 対物レンズ10x +NIKON 1 V1 シャッター速度1/20s ISO400
フォーカス位置を変えて29枚撮影し、CombineZPで深度合成
銀紋の部分には白い鱗粉、茶色の部分には茶色の鱗粉があることがよく分かります。このことから銀色の理由は鱗粉に起因していることが分かります。鱗粉の並びは銀紋の部分は上から押し付けられたように平面的に見えますが、茶色の部分はやや乱雑な感じです。
この銀紋、面白い性質があります。

撮影条件:実体顕微鏡+NIKON D90 シャッター速度1/10s ISO200
これは照明の当てる方向を変えて撮影したものです。翅の上下方向から照らす限りはぎらぎらと光っていますが、翅の左右方向から照らすとまったくと言ってもよいほど光りません。つまり強い方向性があるのです。
撮影条件:生物顕微鏡 対物レンズ20x +NIKON 1 V1 シャッター速度1/4s ISO400
これは鱗粉の性質によるもので、鱗粉1枚で実験してみても、同じような結果が得られます。上の写真を見ると鱗粉の長い軸に垂直な方向から照明すると、ぎらぎらと光りますが、平行な方向から照らすとほとんど光らなくなります。。
銀色なので、おそらく紫外線も反射しているのだろうなと思って、紫外線写真も撮ってみました。

撮影条件:NIKON D70+MicroNikkor 55mm+U360フィルター シャッター速度20s ISO200
これは紫外線写真です。照明にはUV-LED(375nm)を用いて、蛾の上方から照らした場合が上で、右側から照明したものが下の写真です。やはり銀紋のところだけが光っています。可視光と同様、翅の前後方向から照明した場合だけが良く光り、左右から照明した場合にはまったく光らないため、画面が暗くなっています。
この実験をしているとき、銀紋にUV-LEDを当てると、青白く光っているような気がしました。きっと、蛍光が出ているのだと思い、試してみました。照明は上と同じUV-LEDですが、カメラには紫外線に感度を持たないNIKON D7100を用いました。

撮影条件:NIKON D7100+AF Micro Nikkor 60mm シャッター速度1/10s ISO6400
暗闇で光る目のように青白く光っていることが分かります。紫外線が反射しているのではないことは、横から照明しても光っていることから分かります。つまり、蛍光は方向性を持っていないことになります。
以上、まとめてみると、
1)銀紋の銀色は鱗粉によるもので、その鱗粉が平面的にびっしりと並んでいることが重要らしい。
2)銀紋での光の反射には方向性があって、鱗粉の長い軸に垂直方向から照らすと良く光るが、平行方向からだとほとんど光らない。これは紫外線領域でも同様。
3)銀紋に紫外線を当てると青白い蛍光を発する。これには方向性はない。
などの結果になりました。
なぜ紫外線で蛍光を出すのかは分かりませんが、ワイシャツを白く見せるときに蛍光増白剤というのを加えることが連想されました。この場合は、蛍光を出すことでより白く見せるのに役立っているのでしょう。ただし、蛾の目は紫外線も見えるので、人間が白く見えることとはまた違った意味があると思いますが・・・。
光の反射に強い方向性があるということは、撮影のときに光がどちらから当たっているかを十分に考えてから撮らないと、銀色が映えないということですね。いい勉強になりました。