マンションの廊下を歩いていると、コメツキに何匹も出会うのですが、どれも皆似ていて、なかなか名前を調べる気力が起きません。そこで、少しでもコメツキに慣れようと思って、この間から努力を始めています。
今回は、いろいろな種類のコメツキを捕まえてきて、その頭部を比べてみました。頭部の特徴は亜科や族の検索にも使われていて、種類によってかなり違っていそうです。
調べたのはこの4種です。皆、それぞれに特徴があって、分類学上のおおよその位置は分かっている個体ばかりです。Aはクシコメツキ亜科クシコメツキ族、Bはヒゲコメツキ亜科ヒゲコメツキ族ヒゲコメツキ、Cはカネコメツキ亜科ヒラタコメツキ族シモフリコメツキ属、そして、Dはコメツキ亜科コメツキ族アカハラクロコメツキです。
AからDまで亜科が違うので、それぞれみな独特の特徴があるはずです。
この写真はAのクシコメツキの個体の頭部を、上からと前からみたところです。上から見ると、頭部はほぼ楕円形になっていて、頭部の前縁には前頭横隆線と呼ばれる隆起線が見えます。この線は前から見るともっとよく分かり、図の黄色い矢印の部分がそれに当たります。クシコメツキ亜科のこの個体は横隆線が帽子のひさしのように横にはっきりとしているのが特徴です。
これはDのコメツキ亜科の個体です。上から見ると頭部はやはりほぼ楕円形ですが、先端はやや飛び出しています。この様子は前から見るともっとよく分かり、前頭横隆線(黄矢印)はV字型に見えます。その下には頭盾と前頭を分離する白い帯状の横溝がはっきりと見えています。
この様子はCのシモフリコメツキになるとだいぶ変化します。まず上から見ると、頭部は楕円ではなく、矩形に見えます。さらに、前頭横隆線(黄矢印)は両側では明確ですが、中央ではよく分からなくなっています(白矢印の部分)。
これらの特徴はBのヒゲコメツキになるとさらに変わってしまいます。上から見ると頭部は矩形なのですが、前から見ても横隆線は見えません。
このように似通っていると思っても、顔を見るとある程度、種類の見当がつきそうです。そこで、名前が分からないコメツキを捕まえてきて、その顔も観察してみました。
調べたのは以前捕まえたこの3種です。いずれも1cmに満たない小さなコメツキばかりです。
まず、頭の形はコメツキAとBは少し矩形がかった楕円ですが、コメツキCでは楕円形です。前頭横隆線はそれぞれ黒矢印で示しています。また、横隆線がない部分を白矢印で示しています。コメツキBはクシコメツキと似ていて帽子のひさしのような横隆線です。そこで、このタイプを"A"型としておきます。コメツキCは、アカハラクロコメツキに似ているので、"B"型ということにします。これに比べて、コメツキAは全く異なった形をしています。横隆線があるのは前と両横だけで、その間は途切れています。また、他のコメツキのように帽子のひさしみたいに突き出てはいません。そこで、これを"C"型としてみました。
こうして、いままでの特徴をまとめてみると次のような表にできます。
頭の形は「矩形がかった楕円」を中間型と書いていますが、基本的には楕円型に含まれるようです。また、シモフリコメツキは前頭横隆線の中央がなくなっているので、"B' "と書いてあります。ヒゲコメツキは横隆線がないのでXです。コメツキAの前頭横隆線はC型で、爪が櫛歯状でないので、「絵解きで調べる昆虫」の検索表を用いて検索を進めていくと、コメツキ亜科カバイロコメツキ族になりました。また、コメツキBとCは共にコメツキ亜科コメツキ族になりましたが、今のところ、どれもあまり自信はありません。でも、そのうちルーペで顔や爪を見るだけで、亜科くらいまでが分かるといいなと思っています。
ところで、この表を作っている時、私の使っている「絵解きで調べる昆虫」の中の分類と、「原色日本甲虫図鑑I」で用いている分類が若干違うことに気が付きました。どうやら分類体系が変化しているようです。ついでにその変遷を調べてみました。
「原色日本甲虫図鑑」の分類はStibickの論文(J. N. L. Stibick, Pacific Insects 20, 145 (1979)(ダウンロード可能
pdf))に基づいています。その中で、コメツキムシ科は12亜科に分けられています。大平仁夫氏は1999年に日本産コメツキムシ科を8亜科に分け、さらに、この「絵解きで調べる昆虫」(2013)では、コメツキダマシ科の1属を加えて8亜科にしています。図の中の破線については、はっきりとは書いていないのですが、おそらくそうだろうと予想される変遷を示しています。時代と共に、亜科が分裂したり、合流したりと複雑に変化しているようです。
この新しい体系によれば、コメツキムシ科は次のように分類されます。
また、最近の遺伝子を用いた解析によれば、ツツコメツキ亜科を除いた、亜科間の近縁性は概略次のようになるようです(R. Segegami-Oba, Y. Oba, and H. Ohira, Elytra 36, 79 (2008)(日本甲虫学会の
ホームページからダウンロード可能))。
まぁ、こんなことをやっていると、少しはコメツキに親しみが湧くのではと思って、試しにやってみました。