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廊下のむし探検 早春の蛾、続々

廊下のむし探検 第218弾

昨日は気温が15度近くまで上がったらしい。そのせいか、マンションの廊下には驚くほどの数の蛾が出ていました。どれも早春の蛾です。



まずはオカモトトゲエダシャク。私はいつも「オカトゲ」と呼んでいますが、2月終わり頃から出始めるので、「春の使い」としてトビモンオオエダシャクと双璧をなすものです。止まり方が変わっていて、前翅を畳んで両横に、後翅も畳んで真後ろに伸ばします。展翅をしてしまうと普通の蛾になってしまうのですが、こうやって止まっている姿は実に奇妙です。この日は、廊下で1匹、地下駐車場で3匹の合計4匹がいました。



そのトビモンオオエダシャクもこの日は2匹いました。



これはクロモンキリバエダシャクで、やはり早春に出てきます。私の標本箱にも2月28日採集の個体がありました。



春キリガと呼ばれる春に出るキリガ類も出ていました。これはホソバキリガです。私の標本では3月2日が一番早いので、今年はさらに早く登場したことになります。この日は2匹見ました。



ちょっと潰れていたのですが、やはり春キリガのスモモキリガです。この蛾も早くから見られるのですが、標本箱ではやはり3月2日がもっとも早い標本でした。急に暖かくなったので、一斉に羽化したのでしょうね。



これはカシワキボシキリガで、同じキリガでもこれは越冬キリガです。

こんなに早春の蛾がたくさん出てくると、フユシャクも影が薄くなってしまいます。



それでもフユシャクも負けてはいません。これはいつものシロフフユエダシャクです。この間からたくさん出ていますが、この日は5匹もいました。



クロテンフユシャクも2匹いました。フユシャクは地下駐車場でなしに、いつも廊下で見かけます。



今年初めてのホソウスバフユシャクです。この蛾はいつも3月になってから見るのですが、2月26日というのはこれまででもっとも早い記録になりました。





まるでフユシャクのように翅を重ねて止まっていますが、これはフユシャクではなく、ハイイロフユハマキという早春に出てくるハマキガの一種です。フユシャクに似ているので、「フユシャクモドキ」という別名もあります。触角から見ると、上は♂、下は♀のようです。

その他の虫もちょっとだけ。



クサギカメムシもあちこちで顔を出していました。家の中にも入ってくるので嫌ですね。





これだけ蛾が多いと、ハエにはなかなか目が行かなくなります。それでも一応撮ってみました。上はユスリカの仲間、下は翅脈を調べてオドリバエ科にたどり着きました。さらに、Manual of Nearctic Dipteraで調べると、Rhamphomyia属の翅脈に似ている感じです。



いつの日かヤスデも名前調べをするかもしれないので、一応、載せておきます。



最後はネコハグモという体長数ミリの小さいクモです。このクモ、冬中、廊下の壁のあちこちでじっとしている姿を見かけました。
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カメムシの検索 その2 ヒメヘリカメムシ

前回の続きでカメムシの検索の結果です。今日は、ヒメヘリカメムシ科に属すると思われるカメムシについて、本当にヒメヘリカメムシ科に属するかどうかを確かめてみました。用いたカメムシの標本は次の3種です。



名前は以前、絵合わせで決めたものです。うまくそれぞれの種にたどり着くと良いのですが・・・。まず、前回と同様に科の検索をしてみます。



検索表のうち必要な部分だけを抜き出すと、ヒメヘリカメムシ科に辿り着くには上の6項目にパスしなければならないことになります。前回も行いましたが、アカヒメヘリカメムシと思われる標本を用いて検索を行ってみます。





写真で検索表に関連するところには⑨などの数字をつけています。まず、項目9についてはFig.2のように単眼があるのでNOです。この文章では短翅型では単眼がないものもいるのでしょうね。項目14は特に示していませんが、翅の後ろが折れ曲がっていないのでNOです。項目17はよく分かりませんが、とりあえずマキバサシガメ科ではないのでNOです。項目18は前回もお見せしましたが、網状の翅脈を持つのでNOです。項目28については、Fig.2に示すように触角は4節、Fig.3に示すように触角が頭部背面から生じるので、やはりNOです。

最後の項目38は初めての項目です。



Fig.4のヘリカメムシ科ミナミトゲヘリカメムシの体側を見ると分かりますが、中脚と後脚の間に臭腺開口という穴が空いています(黒い点のある場所は気門です)。これに対して、Fig.3のアカヒメヘリカメムシでは開口はありません(黒く見えるのは黒い模様です)。また、Fig.1の標本写真を見ると分かりますが、革質部が白っぽく見えているのは半分透けたような翅をしているからです。ということは、この項目がYESになり、無事、ヒメヘリカメムシ科にたどり着きました。




次にヒメヘリカメムシ科の亜科、属、種の検索表で必要なところだけを抜き出しました。亜科の検索は
R. T. Schuh and J. A. Slater, "True Bugs of the World", Cornell University Press (1995)
によっています。幸い、Google Booksでヒメヘリカメムシ科の前半部分は読めたので、利用してみました。検索表の後半部分は日本原色カメムシ図鑑第3巻によるものです。

ヒメヘリカメムシ科はアカヘリカメムシ亜科とヒメヘリカメムシ亜科に分かれますが、その違いは襟状部の付近の様子で分かります。アカヘリカメムシ亜科の個体は図鑑の写真を見ると、Fig.2のIで示す部分に襟巻きのようなものが見えます。これに対して、Fig.2では見えないので、この個体はヒメヘリカメムシ亜科ということになります。他の2種の標本についても同様です。

次の項目IIについては、2行あるうちの下の方の行を見て下さい。「体に長軟毛を密生する」というのは、Fig.2およびFig.3を見ていただくと分かると思います。ただし、毛が長いか短いかは相対的なので、最後のブチヒメヘリカメムシの写真(Fig. 7)と比較しないと分かりません。次の「後胸側板は前・後の境界が見られ、後部域の点刻は不明瞭または消失する」というのは、Fig.3のIIを見て下さい。中括弧で示した部分がおそらく後胸側板です。その前部域は平坦な感じですが、後部域は透明な膜がかぶさったような形になっています。その間には明瞭な区切りがあります。また、後部にはほとんど点刻が見えません。

ということで、次の項目IIIに移ります。前胸背の前縁付近の横条というのはFig.2のIIIの部分です。特に、光沢は見られないので、この個体はヒメヘリカメムシ属に属する種だと思われます。

同様のことをケブカヒメヘリカメムシと思われる個体にも行ってみます。





体に生える毛の様子、及び、Fig.6に見える後胸側板(II)の様子は、まさに、アカヒメヘリカメムシと思われる個体と同じです。ということで、この個体もヒメヘリカメムシ属と思われます。ヒメヘリカメムシ属には図鑑には3種出ていますが、1種は大型で、中部山岳に分布するので、残り2種から、予想通りアカヒメヘリカメムシとケブカヒメヘリカメムシで良いと思われます。

最後の個体も同様に写真を載せます。





まず、Fig. 7に示すとおり、体全体に毛は生えていますが、短くてよく整った毛が密に生えている感じです。さらに、Fig. 8を見ると、後胸側板(II)は全体に透明な膜で覆われた感じで、前後の境がよく分かりません。また、点刻は全体に付いています。このことから、検索項目IIでブチヒメヘリカメムシ属の方に当たると思われます。

検索を更に進めると、写真ではよく分かりませんが、前胸背の前縁付近の横条(Fig.7のIII、IV)は不完全な環状になっているので、ブチヒメヘリカメムシかコブチヒメヘリカメムシになります。検索項目Vで、軟毛がやや密とまばらがどの程度違うか分かりませんが、実体顕微鏡で見る限り、やや密に生えているので、おそらく、ブチヒメヘリカメムシで良いのではないかと思います。

こうしてそれぞれの種にたどり着くことができました。名前が分かって改めて標本を見なおしてみると、アカヒメヘリカメムシは名前のとおり全体が赤味を帯びているのですぐに分かります。ケブカとブチは、1)後脚の腿節が前者は黒い点がまばらにあり、後者は黒くなっている、2)単眼の周辺の黒い縁取りが前者ではあまり顕著でないが、後者ではかなり顕著、3)前胸背の横条が前者では単なる線なのですが、後者では不完全な環状になっている、4)前胸中央の線が後者の方がはっきりしている、など、外見上の違いもあり、写真でも十分判定可能であることが分かりました。(追記:2/16の個体は、「通りすがり」さんご指摘の通り、ブチヒメヘリカメムシでした。どうも有難うございました。

カメムシの検索 その1

先日から、ハエ目やトビケラ目の検索をしてきましたが、今回は陸生カメムシ類の検索をしてみました。その中でも、今回は特にヒメヘリカメムシについてです。これは、「通りすがり」さんから、名前が違っているのではと教えていただいたので、もう一度きちんとやってみようと思ったからです(「通りすがり」さん、どうも有難うございました)。

ちょっと長くなるので、その1(カメムシの検索)とその2(ヒメヘリカメムシの検索)に分けようと思います。なにぶん、カメムシについても素人なので、そのつもりで読んでくださいね。

まず初めに、いつものとおり、検索表を表の形にしてみます。ここで用いた検索表は、日本原色カメムシ図鑑第3巻に載っている「陸生カメムシ類の科への絵解き検索」です。



上の表の見方をもう一度説明しますが、検索表の項目番号に相当する内容に合致するものは黄色、合致しないものはその番号の下にある水色の部分になります。例えば、項目28に合致するものはカメムシ上科で、合致しないものはヘリカメムシ上科だと見ればよいのです。

さて、この図をみると、上1/3ほどは1つずつ科(または、下目)の特徴を調べていく部分です。この中には、サシガメ科が含まれますが、アメンボやタイコウチなども含まれています。そこで、とりあえず、ムクゲカメムシ下目より上を無視して考えていきます。その下の部分にはほとんどの陸生カメムシが含まれることになります。黄色の長い部分を探してみると、項目9、14、18、28という大きく4つの特徴で上科が分けられていることが分かります。

まず、9は「単眼がない」という特徴です。これを満たすものにはカスミカメムシ科が入っています。そこで、カスミカメムシを調べてみましょう。



これはカスミカメムシ科のコブヒゲカスミカメの標本写真ですが、複眼の間にあるはずの単眼がありません。



こちらはヒメヘリカメムシ科に属するアカヒメヘリカメムシですが、単眼があることが分かります。つまり、カスミカメムシの特徴は単眼がないのです(例外はダルマカメムシ亜科)。もう一つ、カスミカメムシの特徴は、検索項目14(前翅に楔状部がある)が該当します。検索項目14はハナカメムシ科やダルマカメムシ亜科などを規定する項目ですが、実際は、カスミカメムシ科の一般的な特徴でもあります。カスミカメムシは翅の後半部分が折れたような形状をとりますが、それが楔状部に関係します。



これは先ほどと同じ、コブヒゲカスミカメの後ろの部分の写真です。革質部と呼ばれる固い前翅の部分に切れ込みが入り、その部分で折れるようになっているのです。この折れた先の固いくさび状の部分を楔状部と呼んでいます(楔状の読み方がよく分かりませんが、ケツジョウと呼んでいるようです)。

単眼があって、楔状部のないものは、マキバサシガメ科を除いて、ナガカメムシ上科、カメムシ上科、ヘリカメムシ上科になります。そのうち、ナガカメムシ上科を特徴づけるものは、検索項目18で「前翅膜状部に5本以下の縦走する翅脈があり、網目状の翅脈にならない」というものです。この特徴で、ナガカメムシ上科を分けられます。ここで、膜質部と呼ばれるのは前翅の先にある柔らかい部分です。



これはマダラナガカメムシ科のヒメジュウジナガカメムシとヒメヘリカメムシ科のアカヒメヘリカメムシの膜質部を比べたものです。左側は単純な縦脈が5本あるだけですが、右側は大変複雑な翅脈をしています。左はナガカメムシ上科で、右はそれ以外ということになります(ついでに、Fig.3のカスミカメムシの単純な翅脈も見て下さい)。

最後は検索項目28で、「触角は4節または5節からなり、頭部側面の中央もしくは頭部腹面からでる」というものです。



この写真はカメムシ上科カメムシ科に属するクサギカメムシを横から見た写真です。頭部の背面と側面を分ける線(黄色の破線)の下側から触角が出ていることが分かります〈複眼はちょうどその境目に付いているようです)。



これに対して、上の写真はヘリカメムシ上科ヒメヘリカメムシ科のアカヒメヘリカメムシを横から見たものですが、触角が背面と側面を分ける線(黄色の破線)の上から出ていることが分かります(複眼も背側に付いているように見えます)。このことから、この種はカメムシ上科でないと判断できます。

アカヒメヘリカメムシは、以上のように、1)単眼があり、2)楔状部がなく、3)膜質部の翅脈が網目状になり、さらに、4)触角が頭部背面から出ていることで、ヘリカメムシ上科に属していることが分かります。これから先は次の回に回します。

廊下のむし探検 つららとフユシャク

廊下のむし探検 第217弾

寒い日が続いています。マンションの廊下の手すりにこんなつらら(氷柱)ができていました。



昼なのにまったく解けません。



この日も1階の外壁にフユシャクの♀が止まっていました。小さな翅が生えているので、おそらく、シロフフユエダシャクでしょう。今年は本当にフユシャク♀の当たり年です。









♂の方はたくさんいました。全部で4匹です。蛾は普通、地下駐車場が多いのですが、フユシャクの場合は不思議と廊下でよく見かけます。10年前のマンション改修工事の際に、廊下の照明を赤っぽい色に変えたせいか、虫がめっきり少なくなってしまいました。地下駐車場は以前のままの青っぽい照明なので、蛾はそちらに集まるのかなと思っていました。フユシャクは積極的に明かりに集まるというわけではなく、何となくふらふら飛んでいて、マンションにぶつかり止まったのかもしれません。

「冬尺蛾 厳冬に生きる」(築地書館、1986)という本を書かれた中島秀雄氏は、その本の中でフユシャクの日周行動について書いておられます。その内容を少しだけ引用すると、クロスジフユエダシャクなどの少数のフユシャクを除いて、フユシャクは一般に日没後に行動することが知られています。日中、ウスバフユシャクは♂も♀もじっとししています。日没後20分くらい経つと、♂は触角を上げ、翅を震わせた後に活発な飛翔を開始します。飛翔後1時間後ぐらいが最も活発で、その後、飛んでいる個体は次第に少なくなっていきます。一方、♀は、日没後、腹部を少し上げ、歩行と静止を繰り返します。この時の歩行速度は大変速く、1分間で1.5mほどにもなるので、うっかりすると見失ってしまうこともあります。この日没後が交尾の時間なのですね。

ウスモンフユシャクの観察では、翌朝、交尾したままの個体が♀を上にして、少しずつオノエヤナギの木を登って行くのが見られました。やがて♂が離れていくと、♀は地上から1.3mの高さまで登って、尾部を左右に動かし産卵を開始しました。30分ほど経つと、また、ゆっくりと上に登り、5分後に2mくらいの高さで2回目の産卵を開始したそうです。やはり30分ほど経つと、もっと上に行こうとするので、作者はつい採集してしまい、後で後悔されていました。フユシャクの日周行動を観察すると面白そうですね。しかし、夜の観察はやはり大変でしょうね。

その他の虫です。





ユスリカとハエです。ユスリカはじっとしていましたが、ハエの方はカメラが近づくと嫌がるように少しずつ移動していきました。翅脈からハエの種類を調べてみようと思ったのですが、どれも皆似ていてよく分かりませんでした。今度は採集してきて同定してみようかな・・・。

廊下のむし探検 春の使い

廊下のむし探検 第216弾

「春の使い」というと、どんな可憐なものが出てくるのだろうと期待を持たれるかもしれませんが、実際は、こんなグロテスクなものなのです。



これはトビモンオオエダシャクというシャクガ科の蛾です。早春に出てくる蛾の中でももっとも早く発生する蛾で、いわゆる「春の使い」になっています。昔、10年間ほど、私の住むマンションで蛾の発生状況を調べたことがありました。その時のデータでは、2月中に年平均0.8匹、3月中に2.3匹、4月中に0.4匹が観察されました。もっとも早かった初見日は2月17日だったので、今年が2月21日というのも、それほど早いというわけではありません。

トビモンオオエダシャクは、工業黒化で有名なオオシモフリエダシャクと同じ属の蛾です。オオシモフリエダシャクは、初め、英国では99.99%が白い個体で、苔の生えた木に止まって保護色になっていました。その後、産業革命で、英国の大気汚染が進み、木がすすで黒ずんでくると、白い個体は見つかりやすくなり、急激に減少していきました。それに比べ、0.01%しかいなかった黒い個体は次第に比重を高め、最終的には98%にもなったということです。この蛾の英語名はPeppered moth(胡椒のかかった蛾)というのですが、この変化はPeppered moth evolutionと呼ばれ、短期間に進化が実感できた現象として有名です。



もう一匹はいつものシロフフユエダシャクで、こちらはフユシャクの仲間です。

キンバエの同定

  先日、キンバエの標本をもとにして、ハエ目の科の検索をしてみました。今回はさらに進めて、種の同定もやってみました。なにぶん素人なので、そのつもりで御覧ください。



標本として用いたのは、こんなキンバエの標本です。検索表を用いて、ちゃんとキンバエに辿り着くかどうかを試してみました。

今回用いた検索表は、
田中和男、「屋内害虫の同定法」 屋内害虫 24, 67-110 (2003)
によるものです。前回、キンバエがクロバエ科に入っているところまで到達したので、今回はクロバエ科から始めてみました。いつものように検索表を表の形で表してみました。



クロバエ科の検索表は、亜科でだいたい分かれ、検索表の第1項目がほぼクロバエ亜科を、第7項目がキンバエ亜科を、その他がオビキンバエ亜科に同定される仕組みになっています。この表を用いて検索を行っていったところ、果たしてキンバエに辿り着くことができました。その時に、用いた項目は1,7,8,10,11,12,13,14の全部で8項目です。

順番に調べていきましょう。まず、1と7についてです。



1については、Fig.1を見ても分かりますが、体全体が金属光沢なので、問題なくNOです。これで、キンバエ亜科かオビキンバエ亜科のどちらかになります。







7については、上のFig. 2~4に書き入れました。まず、翅脈Rの基幹部は翅の付け根のところにある部分で、Fig.2にある通り、刺毛はありません。下覆片上肋部もFig.2に書き入れてありますが、前後に刺毛群が見えます。翅下隆起は翅の付け根にある隆起で、Fig.3に拡大図を載せていますが、刺毛はありません。また、Fig.2にあるように下覆片(基覆弁)にも毛はありません。さらに、Fig.4に示すように、中胸下前側板には前方に2本の刺毛、後方に1本の刺毛があります。ということで、この個体はキンバエ亜科であることが分かります。



ここからは1種ずつ調べていくことになります。8-1はFig.2の前縁脈基部片の色が明るい褐色でないことから確かめられます。



8-2は、翅を裏から見たFig.5を見ると、亜前縁脈(Sc)基部片に刺毛があることで、NOであることがわかります。10はFig.4の中胸下側背板に刺毛がないことからNOです。11は腹部に黒帯がないことからすぐに分かります。12は脚の脛節が褐色でなく黒い色から判断できます。



ということで、最後はキンバエとミドリキンバエ、コガネキンバエとの区別をすることになります。13に書かれた項目はミドリキンバエの特徴を表したものです。






13-1は♂の2つの複眼の間隔について書いたものですが、Fig.6に示すように、確かに2つは接近していますが、比較するものがないので何とも言えませんね。13-2は側顎刺毛列に関するものですが、これが単眼刺毛まで連続的に続いているのがミドリキンバエ、途中で途切れるのがミドリキンバエ以外というものです。Fig.7では途中で途切れているので、ミドリキンバエではないことになります。13-3と14は結果的に同じもので、第2生殖背板の形や大きさに関するものです。



Fig.8にその部分の写真を示しますが、大きなお椀を伏せたような形の第2生殖背板が見えます。このことから、ミドリキンバエ、コガタキンバエではなく、キンバエであることが確かめられます。

今回初めて、ハエの同定をしてみました。刺毛の数や位置まで調べるので非常に大変ですが、先に示した田中氏の検索表は一つ一つ図が示されているので、非常に分かりやすかったです。結局、キンバエ♂の場合は、体全体が模様のない金属光沢をしていて、大きな第2生殖背板さえあれば、細かな検索をしなくても大丈夫な感じがしました。

廊下のむし探検 シロフフユエダシャク♂と♀

廊下のむし探検 第215弾

ブログを見ていると、こんな寒い中でも、皆さん、あちこちに出かけてますね。私はマンションの廊下だけなのだから、もうちょっと頻繁に歩いてみなくちゃと思って、昨日、朝のうちに歩いてみました。





家のすぐ近くの天井と壁にシロフフユエダシャクが止まっていました。





この日はちょっと収穫がありました。マンションの1階で、以前クロスジフユエダシャクの♀を見た付近で、フユシャクの♀を2匹も見つけました。小さい翅が生えているので、おそらく、シロフフユエダシャクだと思います。1階は、東側が芝生につながり、西側は雑木林になっています。その西側の外壁に止まっていました。廊下でフユシャクのメスなど見たことがなかったのに、今シーズンはまさに当たり年ですね。





この日は越冬している蛾の連中も姿を見せていました。上はカシワキボシキリガで、下はキバラモクメキリガです。

その他見た虫たちです。



ナミテントウは廊下の壁の隅でじっとしていました。





その他、上はユスリカの♀、下はガガンボダマシです。冬とはいえど、探してみるといろいろといるものです。

ハエの検索に挑戦

この間から、ハエ目の検索を手がけていたのですが、標本箱を見ると、ずっと昔に作ったキンバエの標本が入れてありました。以前、蛾の収集を始めた時に、手当たりしだいに展翅をしていた時期があったのですが、その時に作ったものでした。

この標本を用いて、ハエの検索をやってみようと思いました。頑張って種まで同定してみたのですが、とりあえず科の同定までを書いてみます。



用いた標本はこの2匹です。いわゆるキンバエですね。こういう普通のハエは有弁翅類という仲間に入っています。



有弁翅というのは、弁のある翅という意味ですが、ハエの翅の根もとを見ると、上の写真のように翅とは別に弁と呼ばれる膜が付いています。これが有弁翅類の特徴です。



この図は有弁翅類の分岐図です。これは、ハエのWikipediaにあった分岐図とそのもとになったManual of Nearctic Diptera Vol. 3〈ダウンロード可能)のp. 1493ページの図をもとにして作ってみたものです。いろいろな科のハエが有弁翅類であることが分かります。



原色昆虫大図鑑IIIの検索表のうち有弁翅類に該当する部分を抜き出すと上のようになります。キンバエはクロバエ科に入るのですが、そこに至るには70、72、73、74、78、79、80の7つの検索の項目を通らなければなりません。それを抜き出すと、



70はNOであることは自明なので、まず、72-1~5がYESかどうかを確かめていきます。72は有弁翅類の一般的な特徴を書いたものです。







72-1については、上の写真で翅下瘤という黒い丸い瘤が見えます。72-2は触角の梗節に縫線が走るとのことですが、写真を見ても顕微鏡下でもよく分かりませんでした。72-3は鬚剛毛、72-4は大きな基覆弁が見えます。72-5については、Sc脈とR1脈が合流していないことはすぐに見て取れます。



検索を進めていきます。73については、上の写真で大きな口器が見えるのでYESです。74-1については一番上にある写真の中脚副基節に刺毛が生えていることからNOになります。78と79については写真はないのですが、それぞれNOでした。

結局、以上のような検索の結果、クロバエ科かニクバエ科になるのですが、80-1~5を確かめることでクロバエ科であることが分かります。



この時、重要になってくるのが、肩後剛毛と横線前剛毛の位置(80-1)です。前者が後者に比べ外側にあれば、クロバエ科、内側であればニクバエ科ということになります。上の写真では外側に位置するので、クロバエ科の特徴と一致します。また、翅脈でM1脈の曲がる場所が翅縁に近い(80-3)こともクロバエ科を示しています。

ということで、この標本はクロバエ科であることが分かりました。ハエの検索は剛毛の位置が関係するため、とても野外での写真撮影で科や種まで同定することは難しそうです。また、標本を展翅板で作ったときに脚が曲がってしまい、脚が胸の側面の剛毛を隠すため、種の同定ができない標本がありました。標本作りにも気をつけないといけないなと思いました。次回は種までの検索を行いたいと思います。(追記:青や緑、赤などの金属光沢を持つハエには、クロバエ科、イエバエ科、ヤドリバエ科、アシナガバエ科、ミギワバエ科、ハモグリバエ科などがあるということが、Hexapoda Research 昆虫類調査事務所のホームページに書いてありました。ここには、キンバエ類のユーモアあふれる検索法が載っていました)

廊下のむし探検 カメムシ、ヤスデ

廊下のむし探検 第214弾

毎日、雪混じりの天気が続き、あまり外に出る気力が起きなかったのですが、今日は久しぶりの好天気なので、廊下を歩いてみました。しかし、やはり虫はほとんどいませんね。



家の前の壁に止まっていました。たぶん、ケブカヒメヘリカメムシだと思います。今日はこのカメムシを見たので廊下を歩いてみたのですが、後はまったく見かけませんでした。(追記: 通りすがりさんから、ブチヒメヘリカメムシだと教えていただきました。ちなみに、日本原色カメムシ図鑑第3巻によると、第1巻にあるブチヒゲヘリカメムシはブチヒメヘリカメムシの誤りだそうです)



その他、昆虫ではないのですが、地下駐車場の壁にいました。ヤスデの仲間でしょうね。名前を調べてみようと思ったのですが、日本産生物種数調査のページによれば、日本に産するヤスデ綱には289種もいるようですね。こんなに種類が多いのかとびっくりしてしまいました。今度は、ヤスデも調べなければならないのかと思うと、ちょっとうんざりです。(追記2017/12/17:風魔中太郎さんから、「ツムギヤスデ目の画像は珍らしいです!」というコメントをいただきました。ヤスデはまったくお手上げだと思っていたのですが、ヒントをいただき有難うございました。ツムギヤスデ目とは、まったく知らない名前でした。分類を見てみたら、ヤスデと名のつくものは亜綱レベルでいろいろといるのですね。新しい世界が開けたような気がしました。これから少し勉強してみます。どうも有難うございました

トビケラの科の検索をやってみた

先日、ガガンボの科の検索をしてみたのですが、同じ標本箱にトビケラの標本も入っていたので、検索表を使ってトビケラの科の検索も試してみました。何分、素人がやっていることなので、間違っているところも多いと思いますので、そのつもりで見て下さい。

まず、「原色昆虫大図鑑III」に載っている検索表を表の形にしてみました。



以前と同じですが、一応、見方を説明しておきます。黄色で書いてある部分が検索の項目でYESという意味で、その下の水色の部分がNOを表します。また、番号は検索表の項目の番号です。例えば、2は「単眼を持っているか」という項目ですが、YESはクロツツトビケラ科からヤマトビケラ科までで、NOはムネカクトビケラ科からフトヒゲトビケラ科までという意味です。また、○、□、△で囲ってある項目は同じ内容の項目を示しています。

「原色昆虫大図鑑III」の検索表は、基本的に「日本産水生昆虫」と同じで、科名で紫色の部分が増えていました。また、シンテイトビケラ科は検索表に入っていませんでした。さらに、最近の分類ではアミメシマトビケラ科はシマトビケラ科の1属になっているようです。科名で薄い灰色になっているところは重複している科を表しています。

ハエ目の場合の検索表と比較すると、科の数が少ないからか、全体的にずいぶん整理されている感じがします。最大でも11項目を調べればよいので(ハエ目の場合は26項目)、この図を見ると少しやる気が出てきました。そこで、今日は練習のつもりで、翅の模様からだいたい名前が分かっている種の科名を検索してみようと思いました。



選んだのはこの3個体です。エグリトビケラ科のトウヨウウスバキトビケラ、マルバネトビケラ科のマルバネトビケラ、それに、アミメシマトビケラ科のシロフツヤトビケラです。

トビケラの検索で重要な項目は、1)単眼の有無、2)小顎肢の節数、3)脚の距棘の数、それに、4)中胸小盾板の隆起です。今回の検索では、そのうち、1)、2)、3)を使いました。



これはトウヨウウスバキトビケラについてです。これが、エグリトビケラ科であることを知るには、自明な①を除くと、

②単眼があるか YES
③小顎肢が3節か YES
④M脈は1本か NO
⑤距式は1-2-2か、1-2-4か NO

の4つの項目を調べることで到達します。上の写真にあるように、単眼は2つあります。小顎肢(しょうがくし)は口の周りにある髭でさまざまな感覚器が付いています。これが3節でできています。また、M脈は3本に分かれています(脈の名称は適当につけたので間違っているかもしれません)。さらに、距式は脚の距棘の本数で、前脚は1本、中脚では3本、後脚では4本なので、1-3-4と書けてエグリトビケラ科ということになります。



次はマルバネトビケラについてです。検索表では、次の4つの項目でマルバネトビケラ科に到達します。

②単眼があるか YES
③小顎肢が3節か NO
⑥小顎枝は4節か YES
⑦前翅は長楕円形で、黄色の地色に褐色の網目模様があるか。前翅と後翅の外形は違うか、等々 NO

写真のように、単眼は2つ、小顎肢は4節、前翅と後翅の外形はだいたい同じという特徴からすぐに辿り着きます。



最後はシロフツヤトビケラです。これは、アミメシマトビケラ科(現シマトビケラ科アミメシマトビケラ属)に属します。ここに辿り着くには、

②単眼があるか NO
⑲小顎肢の第5節は長く柔軟で鞭状 YES
⑳R1は分枝するか NO
㉑前翅のDCはMCより長いか NO
㉒前翅のTCは大きいか。後翅の幅は前翅と同じか大きいか YES
㉓前翅と後翅はほぼ同じ大きさか YES

の全部で6つの項目で到達します。写真のように単眼はありません。また、小顎肢は5節に分かれ、第5節目は長く鞭状になっています。DC、MC、TCは翅室を表し、その大きさで分類をしています。翅脈の名称については適当に付けたので間違っているかもしれません。(追記1:DC、MC、TCの意味を調べてみました。DCはdiscoidal cellの略で中国語では「盤室」、MCはmedian cellの略で「中室」、TCはthyridial cellの略で中国語では「明斑室」または「明斑後室」となっていました。日本語での用語が分からなかったので、中国語の論文を探してみました。)(追記2:ついでに、"thyridial"という単語も調べてみました。この単語はすでに1895年の脈翅類に関する論文で使われ、また、その名詞形の"thyridium"は1850年台のトビケラの論文に出ていました。Merriam-Websterというon-line辞書によれば、ギリシャ語で窓を表す"thyridion"から来ているようで、膜翅類、毛翅類の昆虫の翅にある白いスポットを指す用語として使われたようです。)

ということで、上の3個体のそれぞれの科に無事たどり着きました。こんな感じで、他の標本の科も分かるとよいのですが・・・。

廊下のむし探検 シロフフユエダシャク・クサカゲロウ

廊下のむし探検 第213弾

2月初めというと虫が一番少なくなる季節です。そんな中でもよく探してみるといるものです。



昨日は玄関近くの天井にフユシャクが止まっていました。今シーズン初めてのシロフフユエダシャクです。以前、8年間観察した結果からは、2月上旬から3月下旬にかけて出現し、1シーズン当たり7.9匹の割で観察していました。フユシャクとしては多い方です。



その他、いつも見るクサカゲロウがいました。こんな姿でずっと越冬しています。



顔の部分を拡大してみました。複眼のそばに丸い黒い模様があり、そこから三日月状に模様が伸びています。クサカゲロウ科についてまとめてある千葉大応用昆虫学研究グループのサイトにある写真と比較すると、スズキクサカゲロウであることが分かります。このクサカゲロウ、原色昆虫大図鑑IIIには、カオマダラクサカゲロウに似た種であることぐらいしか書かれていません。そこで、その原記載論文を探してみました。学名にある”(Okamoto, 1919)"を手がかりに検索してみると、岡本半次郎、北海道農事試験場報告 No. 9, 1-76 (1919)という論文であることが分かりました。さらに、この論文はAgriknowledgeという農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所のサイトからダウンロード可能でした。

昔の論文は面白いですね。和名が平仮名で書かれていました。また、クサカゲロウが日本で初めて記録されたのは1839年のことで、記念すべき最初の種はブルマイスター氏により報告され、Chrysopa bipunctataと名付けられたそうです (後に、フタホシクサカゲロウという和名がつけられたようです)。この種は、地球上の動植物すべての種のカタログを作ろうとしているCatalogue of LifeというHPの検索で調べてみると、現在のヨツボシクサカゲロウ(Chrysopa pallens)に当たるようです。

この論文でスズキクサカゲロウについて初めて記載されたのですが、残念ながら翅脈図を除いては図はありませんでした。成虫の特徴としては、「体緑色にして、胸腹の背面に黄色の一中條を存す。顔面は黄色にして、両頬に円形の一大黒紋あり。額片の両側に黒褐の一線を有す。両髭黒色。・・・」などと書かれていました。カオマダラクサカゲロウに似ているが、顔面の斑紋、両髭の色彩及び前胸の構造が違うとのことです。顔面の斑紋と両髭については上の写真に矢印を入れてみました。

論文によると、成虫は11月から5月にわたって出現し、11月から1月にかけてが最も多いとのことです。また、分布としては京都付近においては極めて普通で、そのほか大阪の箕面の名前もありました。原色昆虫大図鑑IIIでは、本州、四国、九州に分布しているとのことです。(追記:通りすがりさんから、冬季でも緑が濃いままで、顔が赤くなることから、カオマダラやヤマトと見分けられるというコメントをいただきました。)

廊下のむし探検 フユシャクの発生状況

廊下のむし探検 第212弾

東京で大雪の降った一昨日、私の住んでいる大阪北部では畑や山が一面に雪景色になりましたが、道路には積もっていませんでした。以前は、車が通行できなくなるほど積もったこともあったのですが、最近はそんなことはめったにありません。

昨日はそんな雪もかすかに残っている程度だったのですが、風は冷たく、廊下にも虫はほとんど見かけませんでした。



この日見たのは、このクロテンフユシャク一匹だけ。ちょっと寂しい「廊下のむし探検」でした。


以前、8年間にわたって毎朝廊下を歩いて、マンションで見られるフユシャクの個体数を数えたことがありました。そのとき、フユシャク亜科では次の5種が見られ、発生時期や平均個体数は次の通りでした。

シロオビフユシャク   12月下旬から1月中旬(最盛期12月下旬) 3.3匹/シーズン
ウスモンフユシャク   12月下旬から1月下旬〈最盛期1月上旬)  7.6匹/
シーズン
ウスバフユシャク    12月中旬から2月上旬(最盛期1月下旬)  5.0匹/
シーズン
クロテンフユシャク   1月下旬から3月下旬              4.4匹/
シーズン
ホソウスバフユシャク  3月上旬から3月下旬(最盛期3月中旬)  1.7匹/
シーズン

発生時期が少しずつずれていて、期間も長いものや短いものがいました。なかでも、クロテンフユシャクは一番長い期間見られる種で、最盛期がいつなのか分からない状態です。

最近は毎日歩いているわけではないのですが、今シーズンに今までに見た数は

シロオビ 5、ウスモン 6、ウスバ 5、クロバネ 1、クロテン 2

でした。クロバネフユシャクが新たに登場したほかは、数だけを見れば平年並みの発生状況でしょうか。

ちなみに、昨年12月によく見られたクロスジフユエダシャクは

クロスジフユエダシャク  11月下旬から12月下旬(最盛期12月上旬) 2.4匹/シーズン

でした。数を数えた8年間では、10匹も見られた年もあれば、0匹の年も4度あり、発生数が大きく変化しました。今シーズンは16匹。大発生のシーズンでした。

廊下のむし探検 クロテンフユシャクほか

廊下のむし探検 第211弾

今日はとびきり寒いですね。こんな日にまで廊下を歩かなくてもいいのですが、癖になってしまったのか、歩いてみないと気がすまなくなってしまいました。

それでも歩いたかいはありました。



外横線が曲がっているので、おそらく、今年初めてのクロテンフユシャクです。昨年も2月7日が初見だったので、ちょうど今頃出てくるのでしょう。





後はこの虫です。これはガガンボダマシ科のTrichocera属に属する虫だと思います。寒いのに、カメラが近づくとさっさと逃げてしまいました。結構、元気です。



翅の脈で左側の矢印で示した脈が短くて、急に曲がっているのは、ガガンボダマシ科の特徴です。日本産のガガンボダマシ科にはTricocera属とParacladura属がいますが、右側の矢印の部分がほぼ直線的に隣の脈とつながっているのがTricocera属です。ガガンボダマシ科Tricocera属ではニッポンガガンボダマシが普通にいるのですが、それだと断定するにはどうやら交尾器を調べる必要があるようです。



それから、このユスリカです。



小さいけれど、ものすごい触角をしています。今日はこれだけでした。

ガガンボ類の検索

以前から、ハエやカの名前が分かるといいなと思っていました。先日、「絵解きで調べる昆虫」という本を手に入れたので、検索表のもっとも初めに出てくるガガンボ類について調べてみようと思いました。

実は、以前、水生昆虫を調べている知り合いがいて、一緒に調べてみないかといわれて始めたのですが、環境調査で水生昆虫を調べておられる方は多く、また、その関連の本も多く出されていたので、私は成虫を集めてみようと思って、少しだけ標本を作ったことがありました。カゲロウ、トビケラ、カワゲラ、ヘビトンボなどです。その時に、ガガンボも少し展翅してみたのですが、さっぱり名前が分からないので、途中で止めてしまいました。その時の標本が少しだけ残っていたので、検索をしてみようと思い立ったのです。それから、3日間。苦しみに苦しみぬいて、やっと結論めいたところまでたどり着きました。



調べたのはこの4種類です。おそらく、科が違うのではと思って選びました。

まず、a)の個体についてです。



結論的には、a)はガガンボ科ガガンボ属になりました。その時に使った検索の項目が右側に書いてありますが、○は「絵解きで調べる昆虫」、●は「日本産水生昆虫」(東海大学出版会)に載っていた項目です。まさか、「日本産水生昆虫」がこんなに役立つとは思いもよりませんでした。この本の約半分はハエ目についてで、成虫の検索表も充実していました。翅脈の名称は「日本産水生昆虫」によっています。「絵解きで調べる昆虫」とは一部違う名称があったので、その場合は(...)で書いてあります。



ガガンボ科はSc脈がR1脈で終わるという、上の写真のi)の矢印の部分を見つけるとほぼ決定的です。ii)は前脛節端にある一本の距棘、iii)は単眼がないことを示す頭部の写真です。



b)はヒメガガンボ科カスリヒメガガンボ亜科という結論です。ガガンボ科と違いは、Sc脈が翅縁に届くところです。a)のガガンボ科もb)のヒメガガンボ科も種類数が多くて、種の特定までは至りませんでした。



c)はR4とR5に分かれたり、M1とM2に分かれたり、また、A脈が1本だったりと特徴的な脈相をしているので、科の特定は簡単でした。この場合は種類数が少なく、また、「日本産水生昆虫」では翅の模様で検索していくやり方だったので、とうとう種の同定までできました。種までたどり着くとちょっと感動しました。でも、実はこんな検索をしなくて、昔、翅の絵合わせだけで決めた名前と全く同じだったのです!

追記2016/04/22:菅井 桃李さんから、「最近、オビコシボソガガンボについて少し調べたら、ガガンボ類の大家、中村剛之先生が交尾器を精査したところ、原記載通りの交尾器を持つものは関東地方一帯でしか見付からなかったそうです。」というコメントをいただきました。ということは、これも違うかもしれませんね。上の検索は「日本水生昆虫」に載っているコシボソガガンボ亜科6種についての種の検索だったのですが、「日本昆虫目録」には12種が載っていました。このうち、オビコシボソガガンボ Ptychoptera japonicaの項の備考には、再記載T. Nakamura and T. Saigusa, "Taxonomic study of the family Ptychopteridae of Japan (Diptera)", Zoosymposia 3, 273 (2009)の中部以西の記録はおそらく誤同定となっていました。Zoosymposiaも手に入らないし、その後どうなったのかもよくわかりません。たぶん、違うのでしょうね

追記2016/04/22:C. P. AlexanderによるP. japonicaの原記載は次の論文に載っていました。

C. P. Alexander, "Report on a collection of Japanese crane-flies (Tipulidae), with a key to the species of Ptychoptera [part]", Can. Entomol. 45, 197 (1913). (ここからダウンロードできます)

この中に載っている
P. japonicaの翅の模様は上の写真の個体のものとよく似ています。ついでに♂交尾器の図も出ていました。上の個体は♂みたいなので比べてみたいと思います。ただ、乾燥標本なので果たして分かるかどうか


最後のd)の種は一番大変でした。「絵解きで調べる昆虫」では、消去法で最後にはヒメガガンボ科にたどり着くのですが、M4の部分がどうしてもヒメガガンボ科のものと異なります。半ば諦めていたのですが、「日本産水生昆虫」のヒメガガンボ亜科の検索を行うと、意外に早くオビモンヒメガガンボ族にたどり着きました。



その決め手は、i)の複眼に毛が生えているという点〈矢印)、ii)触角の節の数、及び、翅脈で矢印のつけたsc-r脈の位置、M3とM4脈との関係などです。ただ、「日本産水生昆虫」では、ガガンボ科ヒメガガンボ亜科オビモンヒメガガンボ族になっているのですが、「原色日本昆虫大図鑑III」ではオビヒメガガンボ科に格上げになっていました。

どうやらガガンボの上位分類がだいぶ変更になっているようです。そこで、その変遷についても調べてみました。


これは、原色日本昆虫図鑑(1977)、Manual of the Nearctic Diptera (MND)(1981)、日本産水生昆虫(2005)、原色昆虫大図鑑(2008)、それから、最近のPetersenらの論文(2010)を比べたものです。例えば、ヒメガガンボについて辿ってみると、科→亜科→亜科→科→亜科と複雑に変わっています。オビヒメガガンボについては、亜科(?)→族→族→科→科と大出世をしています。検索に3日間もかかったのは、時代と共に変化する、このややこしい分類のためでした。でも、少しずつ、ハエ目にも慣れていく感じがします。

廊下のむし探検 小さな虫達

廊下のむし探検 第210弾

昨日は宮崎で早くも夏日。私の住む大阪北部でも気温は15度近くまで上昇しました。その影響で、廊下には小さな虫がいっぱい出ていました。おそらく、昨年も虫はいたのでしょうが、今年は特に注意して見ているので目につくようになったのでしょう。一部を除いて、体長が5mm以下の小さな小さな虫達です。



触角の先端部分の各節が実に変わった形をしています。「原色日本甲虫図鑑」をパラパラめくっていると、こんな触角の虫達が見つかりました。シバンムシ科の甲虫です。図鑑と見比べると、触角の形などからオオホコリタケシバンムシに似ています。名前に「オオ」と付いていますが、体長はわずか2-3mmです。「ホコリタケ」という名前からキノコを食する虫だと分かりますが、ツチグリを食するようです。

Wikipediaによれば、「シバンムシ」は「死番虫」と書いて、英語のdeath-watch beetleの訳だそうです。家屋の建材に頭部を打ち付けて出す「カチ、カチ・・・」という音が、死神が死の秒読みをしているのに似ているところから名が付けられたとのことです。



次も変わった形をした甲虫です。これも体長は2-3mmほど。図鑑を見ると、触角と前胸背板の変わった形から、ケシキスイ科の甲虫だと思われます。絵合わせで、ヘリアカヒラタケシキスイかなと思ったのですが、自信はありません。図鑑の隣に載っているヒメヒラタケシキスイはみかんの害虫で、成虫が開花中に吸蜜をするとき、子房に傷を付け、それが、みかんが成熟したときに表面にクモの巣状の模様になってしまい、商品価値を落としてしまうようです。「ケシキスイ」は漢字で「芥子木吸」と書きます。



この間もいたキクイムシの仲間です。



図鑑に触角の形が出ていたので、その部分を拡大してみると、上の写真のようにどんぐりのような形をしていました。この形から、おそらくマツノキクイムシではないかと思います。名前の通り、松の害虫です。



これはアルファルファタコゾウムシです。ヨーロッパ原産で侵略的外来種に指定されています。

カメムシの仲間もいっぱいいました。



先日も見たケブカカスミカメです。



それに、このカスミカメです。図鑑と少し色が違うので、あまり自信はないのですが、ウスモンミドリカスミカメではないかと思います。いずれも成虫越冬していたものが、暖かさに釣られて出てきたのでしょう。



それにアカヒメヘリカメムシもいました。結構元気に動き回っていました。



クサギカメムシはマンション全体で数匹いました。この個体は翅を開きかけていたので写してみました。中は真っ黒なのですね。



クサカゲロウも壁に止まっていました。クサカゲロウは顔の模様で区別ができるので拡大してみました。



この黒い模様からスズキクサカゲロウではないかと思います。



ヒメカゲロウの仲間です。種類までは分かりません。(追記105/05/31:ホソバヒメカゲロウではないかと思います





ハエが2種です。最近、ハエ目の翅脈を調べていたので、科名ぐらいは分かるかなと思ったのですが、ほとんど同じような翅脈のハエばかりで、ちょっとまだ分かりません。これから勉強していきます。(通りすがりさんから、上の写真の個体については、ヤチバエ科Sepedon属?というコメントを頂きました。どうも有難うございました。)



そして、最後はやはりハエ目のガガンボダマシ科の虫です。特徴的な翅脈をしているので、科名までは比較的容易に分かります。
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