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廊下のむし探検 カスミカメ

廊下のむし探検 第209弾

今日は暖かかったのですが、廊下を歩いてみても、およそ虫の姿は見かけませんでした。わずかにいたのが、次のカメムシでした。



体長数ミリの見たことがないカメムシだったので、採集してきました。



上の写真は、いつものように実体顕微鏡を使い、深度合成で作った写真です。

図鑑で調べてみると、カスミカメムシ科のケブカカスミカメという種に似ています。「日本原色カメムシ図鑑」第1巻(1993年)が出た当初はケブカメクラガメという和名で出ていて、分布も四国と九州のごく一部が挙げられているだけでした。第2巻(2001年)には、西日本に広く分布していることが判明したとありました。実際、「ケブカカスミカメ」でgoogle検索すると67件が引っかかり、関東地方でも見られているようです。年2回の発生で、成虫越冬するそうです。

「ケブカ」という名前は背面が長毛で覆われていることによっています。



その部分を拡大してみると、確かに長い毛の生えていることがよく分かります。(追記:触角が途中で切れたようになっているのは、深度合成のときに、触角の部分が写った写真が入っていなかったためです。)
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廊下のむし探検 今日は難解な虫ばかり

廊下のむし探検 第208弾



こんな本を買ってみました。日本環境動物昆虫学会編の「絵解きで調べる昆虫」です。日曜日に注文したら、今日届きました。郵送料込で3881円です。ヨコバイ、ハチ、ハエ、甲虫、小蛾類などを、絵を見ながら検索していく形式で、手描きの部分も多く、ちょっと素人っぽい作りなのですが、なかなか使い勝手のよさそうな本です。これで、ハチやハエも少しは分かるかなと思って楽しみにしています。

この本で調べられるかも・・・なんて思いながら、今日も廊下を歩いてみました。でも、出てくる虫が難解なものばかり。午後から調べ始めて今までかかってしまいました。



小さい甲虫ですが、なかなか種類が分かりませんでした。「原色日本甲虫図鑑」第I巻から第III巻まで全部に目を通しました。結局、第III巻の一番後ろにそれらしい虫が載っていました。キクイムシの仲間のようです。しかし、それ以上は分かりませんでした。(追記:楓子さんからコメントをいただきましたが、詳しく調べてみると、マツノキクイムシのようです。小さい甲虫は難しいですね。)



次はこの虫です。ゴミムシの中のマルガタゴミムシの仲間だろうというところまではすぐに分かりました。例によって、琵琶湖博物館の電子図鑑「里山のゴミムシ」と一種ずつ比べてみました。前胸背板の凹み具合とか、触角の根もとの方が橙色のところとかを見たのですが、チビマルガタゴミムシかなと思った程度で、確信が持てませんでした。







こんなハエが何匹かいました。写真から翅脈を見てみると、クロバエ、ニクバエ、ヤドリバエあたりだと思うのですが、科もよく分かりません。



ものすごい触角をしているので、ユスリカであることはすぐに分かります。実際、翅脈も図鑑のものとよく似ています。でも、それ以上は分かりませんでした。



やっと名前の分かる虫に出会えました。ウスバフユシャクです。



最後はこの蜘蛛です。体長は10mmほどあって、マンションの外壁に止まっていると、遠くからでもすぐに分かりました。名前を調べようと、「日本のクモ」を初めから終わりまで2度も見たのですが、ナミハグモ、コモリグモ、シノビグモ辺りかなと思うくらいで、ピンとくる種が見つかりません。次に、以前古本屋さんで買った「原色日本蜘蛛類大図鑑」を見てみました。ナミハグモの仲間で間違いなさそうです。体長からカチドキナミハグモの可能性がありますが、確信は持てません。(追記:谷川明男氏の日本産クモ類目録によれば、ナミハグモ科には3属86種が載っていて、そのうち、ナミハグモという名前の付くCybaeus属には84種が載っていました。)

名前調べはなかなか大変ですね。どなたかご存知でしたら、是非ともお教え下さい。

廊下のむし探検 アケビコノハ、ミバエほか

廊下のむし探検 第207弾

1月終わりといえば真冬のはずなのですが、廊下を歩いてみると意外に虫がいるものです。今日は大物もいました。



ヤガ科のアケビコノハです。見た目は枯れ葉そっくりなのですが、こんな白い壁に止まっているとよく目立ちます。成虫越冬のはずだと思って「大図鑑」を見ると、「主たる越冬態は成虫だが、実験すれば卵でも幼虫でも越冬可能で、特定の休眠期はない」という変わった生態の蛾でした。







シモフリトゲトゲエダシャクがたくさんいました。今日だけで5匹も。こんなに一度にたくさん見たのは初めてです。大発生でもしているのでしょうか。幼虫は多食性だが、サクラ類によくいるとのことです。



廊下にはアオモンツノカメムシもいました。



それに、外壁にはナナホシテントウも。



廊下で一匹のハエがじっとしていました。どうやら死んでいるようです。翅に変わった模様があり、最近、ハエ目に興味があるので、チャック付きのポリ袋に入れて持って帰りました。



実体顕微鏡下で撮影した写真がこれです。いつものように、焦点位置を変えて59枚ほど撮影し、深度合成により作成したものです。目が大変綺麗ですね。翅の模様も独特です。図鑑で見てみると、ミバエの仲間に似ているので、「ミバエ」で検索すると見つかりました。おそらく、ミバエ科ハマダラミバエ亜科のクロホソスジハマダラミバエ(Hendelina fossata)でしょう。

九大の日本産昆虫目録データベースで調べてみると、Hendelina属には3種、H. fossata、H. pulla、H. nigrescensが載っていますが、後二者については標本写真がネットで見れました(H. pullaH. nigrescens)。翅の模様がいずれも違うようです。やはり、クロホソスジハマダラミバエでよさそうです。

ついでに、翅脈も見てみました。



翅脈の名前は"Manual of Nearctic Diptera" Vol. 2 (1987)(ダウンロード可能)に従って付けました。ミバエ科の特徴は、「Sc脈がC脈の切れ目に向かって直角に折れる」ということですが、確かにそのようになっています。翅脈が分かると、ハエを調べるのも結構楽しくなりますね。

ハエ目検索表の構造

昆虫の種類を調べるときには、検索表を使います。この検索表、私のような素人には、とにかく使いにくいものです。順番に特徴を調べていっても、必ず途中で分からない項目が出てきて、そこからどうやったらよいのやらさっぱり分からず、途方に暮れてしまうからです。

特に、ハエ目のように種類の多いものでは、科の検索さえなかなかできません。北隆館の「原色日本昆虫大図鑑III」では、科の検索表だけでも、全部で10ページにもわたって書いてあります。しかも、ずらずらと文章の形で書いてあり、あっちへ行け、こっちへ行けと数字で指示されるので、一体、自分が検索表の中のどこにいるのかさえ見当がつきません。

先日、ハエ目の中のカ亜目について、「原色日本昆虫大図鑑II」Iにある検索表を表の形で図示してみました。そうしたら、何だか面白い模様ができて、しかも、検索表全体の構成がよく分かるような気がしました。

今回は、その流れに乗って、ハエ目全体で同じことをしてみました。「原色日本昆虫大図鑑III」にはハエ目全体で約130種ほどの科が載っています。それぞれの科についてどういう道順で行き着くのかを図にしてみました。出来上がったのが下の図です。



枝分かれがあって面白い模様になっているのですが、ちょっと見方を説明します。



ハエ目の中のカ亜目の部分を拡大したものが上の図です(小さいので拡大してみてください)。右端に科の名前が並んでいます。代表的な種類が欄外に書いてあります。各マス目で橙色と青色に塗ってあるところがあります。橙色の部分は、科を特徴付ける性質を書いた検索表の中の1つの項目を意味して、それぞれの場所に「昆虫大図鑑III」の検索表の番号が記されています。橙色はその特徴に一致している、すなわち、YESを意味しています。

例えば、この表の一番上はハネカ科なのですが、それに行き着くには、一番左の橙色の枠(数字が消えていますが、検索表の1番に相当します)と検索表の2番の特徴に一致すると、ハネカ科であることが分かります。青色の部分は、その上にある橙色の特徴に一致しないこと、すなわち、NOを意味しています。例えば、上から2番目の欄はアミカモドキ科ですが、1、3、4、5番の特徴は一致し、2番の特徴に一致しないものとして行き着きます。

そんな風にして色を塗っていくと、上のような図になるのです。橙色のマス目が縦に長い部分は、多くの科で同じ特徴を持つことを意味していて、1マスのものはその科だけの特徴を示している項目です。

従って、橙色の模様が斜めに進んでいる部分は、1つの科ずつ特徴を調べていく部分で、非常に効率の悪い検索をしていることになります。逆に枝分かれが進んでいる部分は共通の特徴を調べながら検索を進めていくので効率のよい部分です。上の図ではガガンボ、カ、ユスリカあたりはかなり効率よく検索できますが、ケバエ、キノコバエは大変だということが分かります。

そう思って、ハエ目全体の検索表を見て下さい。アブ、ハナアブ、ムシヒキアブ、イエバエの辺りは効率よい科の検索ができますが、その下のヤチバエ、ミバエ、キモグリバエ、ショウジョウバエは、途中で1科ずつ調べていく部分が長くて、最終的に科にたどり着くのは非常に大変だということが分かります。1番長い道を辿らなければならないのは、ケブカハマバエ科で全部で26項目の特徴についてYESまたはNOを入れていかなければならないということになります。

この図を見ると、ちょっと便利なこともあります。たとえ、1つの項目でつまづいても、その項目がYESの場合とNOの場合についてそれぞれ進んでいけば、結果として2つの科にたどり着きます。そこで、最終的にその2つの科を比較すればよいだけのことになります。実際には、正しくない道ではYESがなくて、行き止まりになってしまうケースも多いでしょうし、また、たとえ2つの候補ができても、お互い近縁ではないので、比較は簡単かもしれません。1回つまづく毎に1つずつ候補が増えていきますが、とにかく、この図を見ると検索表の中で迷子にならないですむのではと思います。

とは言っても、こんな趣味的な図を見る人は、まずいないでしょうけど・・・・。

廊下のむし探検 虫がいろいろ

廊下のむし探検 第206弾

日中暖かかったせいか、今日は虫がいろいろと見られました。まず、今シーズン初めて見るフユシャクの登場です。





シモフリトゲエダシャクです。このフユシャクは例年2月初旬から3月初旬に見られるのですが、今年は少し早くて1月24日に2匹見られました。フユシャクというと何か、か弱い感じがするのですが、この蛾はかなりゴツイ感じで、あまりフユシャクだという気がしません。



昨日から見られ始めたウスバフユシャクが今日も見られました。



暖かいのか、クサギカメムシもあちこちで見られました。

小さなハエが何匹か壁に止まっていましたが、カメラを近づけるとみな逃げてしまいます。これも暖かさ故でしょう。



蚊みたいな虫ですが、最近、翅脈の見方が少し分かってきたので、翅脈を写してみました。



独特の翅脈をしています。先日作った「翅脈図鑑」と比べてみると、これは、キノコバエ科のようです。



これもいわゆるハエですが、翅の内側で縁取るような奇妙な翅脈をしています。これは分かりやすいかなと思って、「原色日本昆虫図鑑下巻」を見たのですが、クロバエ、イエバエ、ヤドリバエ辺りのハエであることは確かそうですが、それ以上は分かりませんでした。



このハエは動き回ってなかなかゆっくりとは撮らせてくれませんでした。翅脈がよく分かりません。



最後は、いつも見ているヒメバチの仲間ですね。そのうち、ハチの名前も分かるようになるといいなと思っています。

廊下のむし探検 関西でもクロバネフユシャク?

廊下のむし探検 第205弾

気温は相変わらず低いのですが、今日は少しましな感じがしました。この日はフユシャク2種が見られました。



最初はこのフユシャクです。黒い点がはっきりしていて、外横線が真っ直ぐなので、おそらく、ウスバフユシャクだと思います。昨年も1月23日に、昨シーズン初めてのウスバフユシャクを見ていました。日まで同じとは不思議ですね。中嶋秀雄氏によると、「サクラが植えられている公園などに多産する」とありますが、近くの公園に行って探してみても、♀は見つかりませんでした。



もう一匹のフユシャクはこの間から見られているシロオビフユシャクです。これも、中島氏の論文によれば、♀は採集しにくく、交尾ペアは非常に稀とのことです・・・と書こうと思ったのですが、どうも全体に黒いのと模様も違うような気がします。

調べてみると、シロオビフユシャクによく似た種でクロバネフユシャクという種が関東地方を中心に分布していることが分かりました。関西では知られていないのですが、おそらくそれかもしれないと思って、さっそく採集しに行きました。写真を撮ったのは午前中だったのですが、幸い、まだ地下駐車場の蛍光灯に止まっていました。早速採集して、冷凍庫に1時間ちょっと入れておいてから、観察してみました。



クロバネフユシャクとシロオビフユシャクの違いは、「標準図鑑」と「大図鑑」によると

①前者の前翅の地色は黒褐色で、後者に比べて暗色になる。
②前者の前翅外横線は白色で、前縁から外方に向かって翅脈R1上で鈍角に曲がるが、後者は鋭角になる。
③前者の触角の繊毛は後者より長い。
④前者の大きさは後者の小型個体くらい。

ということです。比較のために、シロオビフユシャクの標本と比較してみました。



標本ではありますが、明らかに地色はシロオビの標本の方が薄く、また、白い帯ははっきりしていません。また、翅脈R1上での白い帯の屈曲の角度はシロオビでは鋭角ですが、採集した個体は明確に鈍角になっています。



次に触角の比較をしてみました。a)は今回の個体、b)はシロオビの触角です。繊毛はa)の方がやや長い気もしますが、それほど大きくは変わりませんでした。

さらに、持っている標本で調べたシロオビの開張は、最小で32mm、最大は39mmでしたが、今回の個体の開張は28mmで明らかに小型でした。

これらの結果から、おそらくクロバネフユシャクの方ではないかと思います。過去の記録は分かりませんが、「標準図鑑」によると、関東地方を中心に、静岡県、愛知県でも得られているそうで、私の住む大阪北部でも見つかったということのようです。それにしても、1時間以上冷凍庫に入れておいたのですが、解凍したら、まだ生きていて触角を少し動かしていました。

廊下のむし探検 虫がいないのでハエ目の翅脈調べ

廊下のむし探検 第204弾

冬本番ですね。今日、外はみぞれが降っていました。こんな天気なのですが、一応、廊下も歩いてみました。で、期待どおり、ほとんど虫の姿は見かけませんでした。






わずかにいたのは、壁に止まっていたこんなハエと天井に止まっていたクサギカメムシだけでした。(追記2018/02/14:ハエの方はトゲハネバエ科かなと思われます。詳しくはこちらを見てください

そこで、この間から続きで、双翅目〈ハエ目)の翅脈を調べてみようと思いました。双翅目はカ下目とハエ下目に分かれますが、とりあえずカ下目について調べてみました。

実際には、カ下目に属する各科について、ネットから翅脈を集めてくるという作業です。カ下目は「原色昆虫大図鑑III」に39科が載っていますが、昆虫の翅脈を集めたこんなサイトがあり、ほとんどの科の翅脈を集めることができました。大体集め終わった頃、保育社の「原色日本昆虫図鑑下巻」を見てびっくり。この中には検索表が載っていて、それぞれの科について翅脈が載っていました。それで、それもスキャナーで取り込み、最終的にこんな図鑑のようなものを作ってみました。



例として、ガガンボ上科を載せます。著作権の問題があるので画素数を減らして載せています。出来上がったものを眺めてみると、結構満足できるようなものになりました。

次に、こうして集めた翅脈が、検索表で書かれた翅脈の特徴と合っているかどうかを、「原色昆虫大図鑑III」の検索表で確かめてみました。ガガンボ科などで、若干、疑問になった点もあったのですが、ほとんど検索表で追いかけることができました。

そこで、今度は検索表そのものを表形式にまとめてみようと思い立ちました。出来上がったものがこんなものです。



この表は、検索表のうち、翅に関するところを集めたものです(若干、翅以外の特徴も含まれています)。橙色が検索表で科を特定するのに使われた条件で、橙色の下の青色の部分は、それに反する特徴を持つ科を示しています。例えば、一番上の条件は「翅に二次的な皺や折れ線がある」というもので、それに合うものが上の2種で、それを橙にしています。その条件に合わないものは残り全部で、それを青色で描いています。

このようにすると、一番上はアミカモドキ科ですが、この科は結局、最初と2番目の条件だけで決定されるということがすぐに分かります。それに対して、一番下はクロキノコバエ科ですが、この場合はすべての条件に反する特徴を持つ種だということができます。従って、クロキノコバエ科であることを決めるのは大変だということですね。

こんな表をつくると、すべての項目について分からなくても、だいたいの項目さえ分かれば、上の翅脈の図鑑と合わせると科が特定できるのではと思っています。標本を作らず、写真だけで判定するときには、こんな工夫も必要かなと思います。

・・・というようなことをしてたら、今日一日はあっという間に過ぎていってしまいました。

(上の表の見方の補足: 例えば、表の中央部分の「単眼欠如」という条件が、写真からは分からなかったとします。検索表を追いかけていくと、大概はそこで行き詰まって、やる気を失ってしまうのですが、この表では、「単眼欠如」という条件に対して、「YES」と「NO」という2つの道ができることがすぐに分かります。従って、それぞれの道を進むことで2つの答えが得られることになります。得られた2つの科を翅脈の図鑑で比較すればよいのです。分からない条件が増えれば、その分候補が増えますが、お互いに近縁ではない場合が多いので、それほど同定には支障にならないのではと思います)

ハエ目の同定に挑戦

今日は朝から雪模様、仕方なく、家でグズグズしていたのですが、先日、「廊下のむし探検」第203弾でハエ目の写真を撮ったのを思い出し、その科を調べてみようと思い立ちました。とりあえず、翅脈が見えていそうな次の2種についてです。



ハエ目の同定は初めてなので、いろいろと分からない所だらけなのですが、この写真から行き着けるところまでいってみようと思いました。ハエ目の検索表は、「原色日本昆虫大図鑑III」に載っていますが、もう少し簡単そうな田中和夫氏の屋内害虫22、95 (2000)に載っている「屋内害虫の同定法(2)双翅目の科の検索表」を使ってみました。また、写真で見える範囲ということで、翅、触角、頭、胸についてだけ追いかけていくことにしました。

まず、左の方の虫ですが、検索表を追いかけていくとガガンボダマシ科にたどり着きました。そのポイントとなる特徴は次の通りです。

①触角鞭節は長短あるが、6節またはそれ以上あり、各節は大体同型、可動で融合しない。
②体は蚊のように細長いものが多い。

③中胸盾板にはV字型の溝がある。
④臀脈A1とA2は強太で翅縁に達する。
⑤前縁脈Cは翅の全周を縁取る。

⑥肢は著しく細長い。
⑦中胸盾板のV字溝は中央で消失する。
⑧単眼がある。
⑨臀脈A2はA1の長さの半分以下で先端で急に後方に曲がっている。

その特徴を写真に書き入れると次のようになります。



翅脈はかなり煩雑ですが、ちょうど、ガガンボダマシの翅脈が「原色日本昆虫大図鑑III」に載っていたので、それを参考にして、記号を書き入れてみました。[...]の中は古い名前だそうで、田中氏の論文ではこの古い名前が使われていました。

ポイントとなるのは、①触角の節が一様に並んでいること、これでハエとガガンボなどを分けることができます。次に、③V字型の溝と④CuPとA1という二つのはっきりした脈があること、及び、⑤Cの前縁脈が翅の全周を回っていることです。この最後の性質は、翅の全周に縁取りがあるようなもので、ガガンボ類かどうかを見分ける簡単な特徴になるようです。最後に、⑨A1脈が強く曲がっていることからガガンボダマシ科に辿り着きました。

ガガンボダマシ科は九大の昆虫目録データベースでは14種が記録されていますが、属でいうとTrichocera属とParacladura属が載っていました。このうちParacladura属については、Alexander(1930)の論文に翅脈が載っていて、今回の種とはdと書いてある中室付近の脈相が少し違うようです。一方、Trichocera属は「原色日本昆虫大図鑑III」に載っていて、今回の種とほとんど同じ脈をしています。そこで、Trichocera属〈ガガンボダマシ属)だろうと思っています。



もう一種については、翅脈は簡単なのですが、意外に難しい種類です。紆余曲折しながら最終的には、キノコバエ科に辿り着いたのですが、そのポイントは次の通りです。

①触角鞭節は長短あるが、6節またはそれ以上あり、各節は大体同型、可動で融合しない。
②体は蚊のように細長いものが多い。

⑩中胸盾板にはV字型の溝はない。
⑪臀脈A2はないか、又は短くて翅縁に達しない。

⑫単眼はない。

⑬翅室dはない。

⑭翅室bmは横脈で閉じられず翅縁に達するか、あるいは中脈Mを欠き翅室brと合一する。
⑮前縁脈Cは通常、少なくとも翅端付近まで伸びる。
⑯翅の前縁近くの翅脈と、後方の翅脈との間に、強度と色について極端な差はない。?

⑰複眼は左右離れている。
⑱中脈Mの柄部は短く通常分枝部より遥かに短い。
⑲小型~中型の細長い種。

①と②は上と同じで、今回は⑩V字型の溝がないので、別の道に進みました。さらに、前縁脈Cが翅の全周でなく、⑮の矢印で示すように途中で止まっています。これでガガンボの仲間でないことも分かります。後は、図に番号を記したようなところを見て回ったのですが、写真の解像度が悪くて、⑫単眼があるかどうか分からないこと、⑯に書かれた内容があまり合っていないところが気になるのですが、田中氏の論文に書かれたキノコバエ科の翅脈とはかなり似ています。また、Diptera.infoというページに書かれたものともそっくりです(翅脈の名前はこのページに書いてある名前を採用しました)。それで、おそらくキノコバエ科でよいのではないかと思っています。キノコバエ科は九大のデータベースには150種もあるので、とりあえず、ここまでです。

ということで、ガガンボダマシ科ガガンボダマシ属とキノコバエ科というところまで分かったことになります。でも、ハエ目の検索はかなり難しいですね。朝から始めて、今までかかってしまいました。でも、今度、写真を撮る時は、翅脈が見えるように撮ることと、胸と頭の単眼、肢がよく分かるように撮ることが重要だということが分かりました。

廊下のむし探検 虫はいるにはいるけど

廊下のむし探検 第203弾

しばらくぶりの「廊下のむし探検」です。1月のこの時期、廊下を歩いても何もいないだろうなと思ったのですが、一応歩いてみました。よく見るとあちこちに虫はいることはいるのですが、名前の分からない虫ばかりでした。



一番、意外だったのがこの虫です。この時期、甲虫を見ることはまずないので、しかもカミキリ。大きさは数ミリほどですが、模様も脚の形にも特徴があります。家に戻ってからさっそく原色日本甲虫図鑑のカミキリのところを端から端まで見てみましたが、どうしても見つかりません。模様にとらわれすぎなのかなと思って、前胸の黄色い筋だけで探したり、脚の形や色だけで探したりしたのですが、やはり分かりません。どなたかお分かりの方はお教え下さい。(追記:通りすがりさんから、ヒョウホンムシ科のナガヒョウホンムシの♂だと教えていただきました。ヒョウホンムシという名前は動物標本をよく食べるところからきていて、乾燥動植物質を食べる害虫として知られているようです。)







ハエの仲間は名前がまったく分かりません。それでも、マンションの外壁を探すと結構止まっています。気温は5-6度だと思うのですが、一番上のハエはカメラを近づけると少しずつ逃げようとしていました。(追記:一番上はブユ科、次はガガンボダマシ科みたいです)(追記2018/02/15:一番上はキアシツメトゲブユ♂ではないかと思っています。詳しくはこちらを見てください)(追記2018/02/20:一番下はキノコバエ科ではないかと思います



やっと名前が分かる種がいました。ツマグロキンバエです。目の縞模様が面白いですね。





それに、いつものウスモンフユシャクナミスジフユナミシャクです。地下駐車場にいました。

ハエも蛾もあまり代わりバエがしないのですが、記録だと思って出しておきます。この日の撮影は少し倍率を上げすぎた感じがします。目や翅にピントが合っていても、脚がみなぼやけてしまっています。倍率を上げ過ぎて焦点深度が浅くなってしまったのです。廊下のむしを写すときは虫にちょうど合うように、少し倍率を下げないといけないですね。

虫を調べる イダテンチャタテの翅脈

この間、近くの公園でイダテンチャタテという変わった虫を見つけたという報告をしました。



これはその時の写真です。複眼がでっぱってていて、このブログを見られた方から「イダテンというよりデメキンみたいだ」というメールをいただきました。このとき、捕まえてきた個体をチャック付きポリ袋に入れて持って帰ってきたら、頭の部分が潰れてしまっていました。体が大変柔らかいようです。

この間、ヒメバチの仲間で翅脈の名づけ方を勉強しました。せっかくだから、イダテンチャタテの翅脈も調べてみることにしました。



上が前翅、下が後翅で、実体顕微鏡で撮影した写真です。前翅長は約3.0mm、後翅長は約2.1mmです(あまりに小さいので、息をした時に飛んでしまって探すのが大変でした)。上の写真では前翅と後翅の長さがだいたい合うようにスケールしています。翅脈はヒメバチとずいぶん違います。また、前翅には縁紋のような部分と翅脈の上や間に黒い模様のあることが分かります。

翅脈の名前を吉澤和徳先生の論文(K. Yoshizawa, Insecta Matsumurana 62, 1 (2005))を参考にして付けてみました。Scははっきりしないのですが、他の脈はだいたい書いてあるものと対応がつきました。CuAとCuPのAとPはanteriorとposteriorの意味で、「前」と「後」を表します。つまり、肘脈Cuの前側の脈と後ろ側の脈という意味です。R2+3のような書き方は、おそらく、近縁種でR2とR3の分かれているものがいるので、こう名付けられたのではと思います。これは以前からもそうしていたみたいで、1974年に出された王立昆虫学会のハンドブック〈ネットからダウンロードできます)でもほぼ同じ名前になっていました。

イダテンチャタテはマルチャタテ科に入れられていますが、吉澤先生の記載論文(K. Yoshizawa and C. Lienhard, Species Diversity 2, 51 (1997))の中の翅に関する特徴だけをいうと、縁紋の下の部分が角ばっていることがその決め手になっているそうです。また、これまでLabocorta属(これは後にMesopsocus属のシノニムだとされます)に入れらていたのですが、それとの違いは、後翅のM+CuとRとがどこで分岐しているかによっているようです。Mは中脈、Rは径脈です。

その部分を生物顕微鏡を使って拡大してみました。



この写真からも分かりますが、イダテンチャタテの後翅では、RとM+CuAがほとんど根もとに近いところで合体していますが、Mesopsocus属はもっと後の方まで合体しているという特徴を持っています。これが翅に関しては、イダテンチャタテがIdatenopsocusという別の属に属するとした決め手になっているようです。

ところで、この写真を見ると、RとM+CuAとCuPの三本の脈が同じ源から出ていることが分かります。これに対してA(臀脈)は独立しています。一番上に、途中から〈ひょっとしたら根もとから)二本に分かれた脈が見えていますが、これがSc(亜前縁脈)なのかもしれません。イダテンチャタテの特徴の一つに、後翅でSc脈が縮小しているということが書いてありましたが、何を意味するのかよく分かりません。

ついでに前翅の黒い斑紋の部分を拡大してみました。



縁紋の部分と下の部分です。黒い斑紋というよりは何か汚れた感じがします。

ところで、この写真を撮るのに、今回はじめて、以前デジスコに使っていた接眼鏡とデジカメのセット〈ニコン製)を使ってみました。デジカメが古いので画素数は少ないのですが、顕微鏡のカメラポートの上に載せるだけでよく、レリーズも付いているので、非常に簡便に撮影出来ました。

廊下のむし探検 蛾が少しだけ

廊下のむし探検 第202弾

1月になると、私の住むマンションでも、「むし」はほとんどいなくなります。それでも、よく探してみると少しだけ蛾を見ることができました。



マンションの玄関の横に、クシヒゲシャチホコが止まっていました。この蛾はいつも12月に見ていて、卵越冬のはずなのですが、1月も中旬になって見るのは初めてです。



同じく卵越冬組のはずのアオバハガタヨトウもいました。皆、遅くまで頑張っていますね。



これはチャバネフユエダシャクです。以前、フユシャク♂については、8年間、マンションに発生する個体数を毎日数えたことがありました。それによると、チャバネフユエダシャクは12月上旬から1月上旬まで見られ、12月下旬がもっとも多く見られました。そのときは1月中旬という記録はありませんでした。





シロオビフユシャクウスモンフユシャクです。この2種はいずれも、12月下旬から1月中下旬にかけて発生しています。

これから2月にかけてはますます虫が少なくなります。「廊下のむし探検」もちょっと一休みですね。

虫を調べる イダテンチャタテ

「廊下のむし」というわけではないのですが、面白い虫を見つけたので紹介します。昨日、近くの公園へフユシャクの♀を探しにいった時、木の幹を動き回る小さな虫を見つけました。大きさは3mmちょっとですが、およそ動くものがいないこの季節、気になったので写真を撮ってきました。





宇宙から来た生物ではないかと思うほど、ともかく奇妙な形の虫です。目が4つあるような感じでもあり、メガネを掛けたような感じでもあります。一応、ビニール袋に入れて持ち帰ったのですが、家で見てみると少し潰れてしまっていました。

カメムシのような長い口吻は持っていないので、カメムシ目ではありません。全体の形は、ちょっとハンミョウに似ていますが、翅が薄くて透明なので甲虫でもありません。そこで、「学研生物図鑑昆虫III」と「原色昆虫大図鑑III」の図版を初めから丹念に見ていったのですが、それらしい虫は載っていません。

触角が長いので、もしかしたらチャタテムシではないかと思って、画像検索で調べてみると、似た虫にぶつかりました。さらに、リンクをたどって、「明石・神戸の虫 ときどきプランクトン」さんのブログに辿り着きました。

このサイトに、名前が分かったときの経緯がコメント欄に載っていました。マルチャタテ科のイダテンチャタテという種だそうです。このチャタテは1986年にLabocoria orientarisとしてクナシリで記載されたのですが、北大の吉澤和徳先生が新しい属の種として1997年に再記載されたものだったようです。この再記載した論文も紹介されていました。これにより、新しくIdatenopsocus orientarisという学名になったそうです。和名はまだついていないのですが、イダテンチャタテという名前でよさそうです。イダテンは「韋駄天」に由来し、よく動くことによっているようです。実際、写真を撮る時も動き回ってなかなか撮らせてくれませんでした。

こんなに最近記載されたものなのですが、実際には全国各地に普通にいる種のようです。試しにイダテンチャタテで検索するといろいろと見つかりました。昨日の公園の個体が何の木にいたのかよく見なかったので、今日もう一度公園に行ってみました。公園にある木という木を探して回ってやっと3匹見つけました。いずれもサクラの木です。





今日も捕獲してきて、冷凍庫に入れた後、実体顕微鏡で観察してみました。






触角が長くて、複眼が横に飛び出しています。その内側に白い模様が二つあるので、目が4つあるように見えたのですね。翅には縁紋のような黒い部分があり、また、薄黒い紋もあるようです。かなり変わった翅脈をしています。この翅脈を先の論文に書かれている翅脈と比較するとほぼ一致しました。やはり、間違いなさそうです。腹部は白くて大きく、これは♀のようです。今日、公園で見た個体はすべて♀でした。これから産卵でもするのでしょうか。



顔を拡大してみました。ちょっと牛に似ています。



腹側から見た写真です。



口の部分を拡大してみました。チャタテムシは一般にはカビや地衣類を食べるそうですが、意外に大きな口をしています。

いろいろと変わった虫がいるものですね。それにしても、こんな寒い季節でも、平気で動き回っているのには驚きました。

天井灯カバーの中のコバエ

先日、エアコンが故障して、夜、修理に来てもらいました。ベランダの窓を開けて大変な作業をしていただき、お陰でその夜には無事動くようになりました。寒い夜だったのですが、窓を開けた時にコバエが入り込んだようです。毎年、冬が近づくと、コバエがマンションの壁にびっしりと止まります。最近は殺虫剤を置いたので少なくなったのですが、やはりまだいたみたいです。

やっと侵入者を退治して、ふと見上げると天井の蛍光灯カバーの中には小さなコバエの死骸がいっぱいです。掃除ついでに、どんなコバエだろうと思って、実体顕微鏡で観察してみました。



遠くから見ると黒い点にしか見えなかったのですが、拡大すると思ったより綺麗なハエです。横にスケールを置いてありますが、体長は2mmちょっと、大変小さなハエです。写真はいずれも深度合成したものです。



斜め横からの写真です。腹には黒い筋、前胸には全部で5本の黒い筋、さらに、頭部にかけて三角形状の黒い模様が見えます。



今度は腹側が見えるように写しました。腹側にも黒い模様がいくつかあるようです。



最後に顔の部分の拡大です。





この2匹は別の個体です。最初の個体と違って、腹の部分が真っ黒なのですが、その他の特徴は合っているので、同じ種類でしょう。

小さいので、最初、ショウジョウバエかなと思ったのですが、図鑑を見ると、どうやらキモグリバエの仲間のようです。幼虫が植物の茎に潜り込んで、若い芽などを食べるので、こんな名前がついたみたいです。Wikipediaによれば、日本には52属145種が記録されていますが、ネットを調べても成虫の写真はほとんど見つかりません。

キモグリバエについては、久留米大の上宮健吉先生が詳細に調べられていて、1983年にA systematic study of the Japanese Chloropidae (Diptera)という本を出されています。しかし、調べてみると北大農学部にしか置いてないようです。ネットで調べると、農業害虫であるイネキモグリバエやThaumatomyia notataという種が、前胸に5本の黒い筋があって似ていますが、残念ながら種の特定にまでは至りませんでした。

廊下のむし探検 ちょっとだけ虫がいました

廊下のむし探検 第201弾

今日は少し暖かかったせいか、マンションの廊下でも少しだけ「むし」が見られました。



今日一番のお客さんはこのヒメアカタテハでした。マンションの外壁に止まっていました。近づいても逃げずにじっとしています。やはり寒いのでしょうね。



このハマキガの仲間も外壁に止まっていました。複雑な模様で種類は分かりにくいのですが、おそらく、ハイミダレモンハマキではないかと思います。図鑑によれば、年一化、成虫越冬で、9月から翌年の5月頃まで見られるとのことです。







フユシャクはナミスジフユナミシャクが3匹見られました。



ウスモンフユシャク
はこの1匹だけでした。フユシャクも次々とメンバーが変わっていきますね。

その他の「むし」たちは・・・。



ナミテントウは何匹か見られました。



それに、ツマグロキンバエ



顔の模様を拡大してみると、スズキクサカゲロウのようです。



そして、最後のクモは体長が数ミリの大きさの小さいクモです。図鑑を見てもなかなか決め手が見つかりません。ハリゲコモリグモあたりかなと思うのですが・・・。

ハチの体を調べる

急激な寒さのためでしょうか、「廊下のむし探検」はほとんど開店休業状態になってしまいました。

そこで、この間から調べているヒメバチについて、今度は体を調べてみようと思いました。私はハチについては全くの素人なので、詳しく書かれている神奈川県立生命の星・地球博物館の渡辺氏らのホームページを手がかりに勉強しているところです。従って、間違っているところも多いと思いますので、そのつもりで見て下さい。ご指摘いただければもっと助かります。



対象としているのは、年末に採集したこのハチで、体長が4mmほどの小さい個体です。今から考えれば、もっと大きなハチを捕まえておけばよかったと悔やまれますが、仕方ありません。翅の翅脈からおそらくヒメバチ科のハチだと思われます。



実体顕微鏡を使って頭の部分を拡大して見てみました。そのまま撮影すると、焦点が合っているところだけがうまく写って、他の場所はぼやけてしまうので、焦点位置を変えながら20枚ほどの写真を撮り、それを焦点合成という方法で合成して作ってあります。焦点合成にはCombineZPというフリーソフトを使っています。

この写真から、とりあえず、どれが何に当たるのかを調べて、名前を図に書き入れてみました。大腮(たいさい)というは大顎のことです。その上の頭盾(とうじゅん)という部分がやや盛り上がっていて、顔との間の境目がはっきりしています。こういうところが同定に役立つようです。複眼と大腮の間をマーラースペースというようです。マーラーというは人の名前かなと思ったのですが、英語ではmalarと書いて、「頬の」を表す形容詞か、「頬骨」を表す名詞です。つまり、マーラースペースは「頬の場所」という意味になります。malarという単語はラテン語のmalaあるいはmalarisという頬を表す言葉から来ているようです。このマーラースペースの隙間の大きさも同定に使われるようです。大腮をもう少し拡大したかったのですが、これで精一杯なので、今度、もう少し大きなハチで見てみます。



頭の上の部分です。頭の上には単眼が3つあります。



次は触角です。触角はいくつもの節からできています。その根もとから柄節(へいせつ)、梗節(こうせつ)という動かない2つの節があり、その後は鞭節(べんせつ)という可動部になっています。このハチの場合、全部で24節もあるようです。昆虫の触角は、いろいろな感覚器がある一種のセンサーとなっています。



次は胸の部分です。この部分は複雑で、いろいろな構造があるので、とりあえず、名前を照合しながら付けてみたのですが、おそらく間違っているものもあると思います。前脚、中脚、後脚に対応して、それぞれ、前胸、中胸、後胸に分けられています。ハチの場合、特に、変わっている部分は前伸腹節という部分があることです。



その部分を拡大してみます。前伸腹節はもともと腹部第一節だったものが、胸部と融合してできたものなのです。従って、この部分が腹部第一節と呼ぶべきなのですが、胸部との境目がはっきりしないので、胸部と前伸腹節を合わせて中体節と呼んでいるようです。この部分がなぜ腹の一部かというと腹部の節に1つずつある気門がこの部分にもあるからなのです。このため、ハチの腹の部分の呼び方がややこしくなっています。本来の腹部第二節以降を膨腹部と呼んでいます。腹部第二節は、見かけ上の第一節となり、この部分を膨腹部第一腹環節と呼びます。この前伸腹節にある模様や気門の位置も、しばしば同定に使われます。



最後に腹部と脚です。この個体は雌なので、長い産卵管を持っています。普段はその産卵管は産卵鞘という鞘に収まっているのですが、産卵するときにはちょうど写真のような格好で、鞘から出して産卵するようです。腹部につけた名前は見かけの節(膨腹部)の番号です。

脚は基節、腿節、ふ節に分けられます。ふ節はさらに5つの節でできていて、先に爪があります。また、脛節には脛節棘という棘が二本あることが分かります。

小さなハチですが、本当に複雑な体をしていますね。腹部にある気門を見るには少し拡大しないといけないので、もう少し大きな個体で今度調べてみようと思っています。ハチの同定も大変ですね。こんなにいろいろと調べても、種名までは辿り着かず、属名まで分かればいい方だそうです。

ハチの翅を調べる

年末の「廊下のむし探検」で一匹の小さなハチを捕まえました。今日はそのハチを実体顕微鏡を使って調べてみることにしました。



捕まえたのはこんなハチです。体長はわずか4mmほどの小さい小さいハチです。翅の特徴からおそらくヒメバチの仲間だと思います。ハチやハエでは、翅にある翅脈という網目模様が同定によく用いられます。翅脈は蛹の間は気管や神経が通り、翅の生命活動維持のために重要で、羽化するときには体液を通してその圧力で翅を伸ばす役目をします。しかし、成虫になると翅にある細胞は死んでしまうので、むしろ、翅の機械的な強度を上げるのに使われていると考えられています。

ヒメバチを初めとする寄生蜂については、神奈川県立生命の星・地球博物館の渡辺氏らによる非常に詳しいホームページが出されていました。私はハチについては全くの素人で、これを機会に少し勉強してみようと思いました。

今日は、そのうちでハチの翅にある翅脈について調べてみました。翅脈を表すのにいろいろな記号が使われていることは以前から知っていたのですが、それが何を意味するのかは全く知りませんでした。良い機会なので、それも少し勉強してみました。

上記のホームページを参考にさせていただき、翅脈に記号を付けてみました。



こうして記号を付けていくと、まさに、これはヒメバチの仲間だなということがよく分かります。ところが、ネットでヒメバチを調べていると、American Entomological Instituteのホームページがあり、そこにも、ヒメバチについて同じような記号が付けられている図が載っていました。しかし、どうも記号の付け方が少し異なることに気が付きました。



この図がそれです。ほとんど同じなのですが、上の図でRs+Mという部分がRsとMに分かれていたり、Cu1aやCu1bというのが無かったり、ちょこちょこと違います。そこで、これらのもとになっている1936年のH. H. Rossの論文や1990年のW. R. M. Masonの論文、及び、1918年のComstockの"The Wings of Insects"という本をパラパラと見てみました(H. H. Ross, Ann. Ent. Soc. Am. 29, 99 (1936); W. R. M. Mason, Proc. Entomol. Soc. Wash. 92, 93 (1990); J. H. Comstock, "The Wings of Insects", Ithca (1918). これらの論文や本は、いずれもネットからフリーでダウンロードできます)。

これらの記号の意味についてはComstockの本に載っていました。それによると、1886年に出されたRedtenbacherの本の中で、これまで、人によっても、昆虫の種類によっても、まちまちだった呼び方を統一するように主張したそうです。これにより、昆虫では基本的に6種類の翅脈があって、それぞれに独特の呼び名が付けられているのです。例として、次のアミメカゲロウ目のネグロセンブリの標本について書いてみると、



となります。それぞれの記号の意味は次の通りです。



一番上のCはCostaの略で、肋骨を意味します。翅全体の強度を支えるための脈だという意味です。Cuは肘を、Aはお尻を意味しています(補足:Wikipediaによれば、Radiusは腕にある橈骨という骨を表し、Mediaは中間という意味のようです)。これらの脈は、皆、その源がそれぞれ異なっています。例えば、1Aから3Aは一箇所から固まって始まっていて、他の脈とは明らかに別になっています。Sc、R、Mの源は上の方で固まっていますが、Cはその上側、CuはAとの中間付近から始まっていることが分かります。つまり、その源が違うことから名前が付けられているのです。



ところで、この写真はヒメバチの一種の翅の付け根の部分の拡大写真ですが、ハチはその脈の本数が少ないことが特徴です。基本的には3本しかありません。センブリでは8本あった脈が3本になっているので、退化したのか、それとも、いくつかの脈がまとまったのかでいろいろ意見が分かれるところです。

これを見つける方法として、1〉近縁の種類を調べて、ハチの原型となる仮想的な脈相を考える方法と、2)発生途中の蛹の中での様子を調べたり、化石を調べたりして、原型を探し出す方法です。

私が読んだComstockの本では、ヒメバチについて次のようになっていました。



分かりやすいように、中心となる脈を色分けしてみました。いわば、都内を走っている下水道網を、どれが本流でどれが枝流かを色分けしたようなものです。灰色はCとScが合わさったもの、赤はR、黄はM、緑はCu、青はAを意味しています。色のついていない黒い部分はそれぞれの本流をつなぐ枝流です。枝流であることを示すには、例えば、RとMをつなぐ枝流ではr-mというような書き方がされ、Rの支流同士をつなぐ枝流だと、単にrと書かれます。さらに、本流が2つに分かれる時には、それぞれにM1とかM2というように番号をつけていき、2つの本流が合流している時にはR+Mというような書き方をします。

これらの記号を手がかりに本流を探していくのですが、ちょっとクイズを解いていくような感じです。もともとない道も探さないといけないからです。点々で描かれているのはまさにそれで、本来は脈はないのですが、近縁種(この場合はコマユバチ)にあるので、それを意識して付けられた流れを示しています。ともかく、黄色がかなり複雑な流れになっていることが分かります。

Rossは1936年にセンブリやシリアゲムシなどの近縁種を考慮に入れて、近縁種から仮想的な脈相をつくり、翅脈の解釈を行いました。それが初めに載せたGauld(1991)やAmerican Entomonological Instituteの図のもとになるものでした。同じように色分けして書いてみると、



どの色の脈の本流もすっきりと表されていることが分かります。ここで、RsはRadial sectorの略で、径脈分枝を意味します。上と下の写真の違いはほんの僅かであることも分かります。この違いの一つについてはMasonの論文に書いてあって、Cuとして、もう一つ別のほとんど消えかけているような脈(CuP)を考慮にいれるかどうかによっています。いずれにしても、このように脈の名前が付けられると、どの脈のどの部分がどう違うという議論がいちいち図を出さなくても言えるようになるので便利です。しかし、いろいろと分布している脈を、どれが本流かどうかという議論にどれほど意味があるのかはよく分かりません。

縁紋の下部分には特に複雑な形をした脈が集まっています。これは、前翅と後翅を連結させる翅鉤(しこう)とよばれる毛が縁紋の下の方にあり、縁毛と翅鉤を結んだ辺りを力学的にもっとも強固にする必要があるため、脈も細かくなっているのだろうと考えられているようです。

そこで、最後に、その翅鉤を、手元にあったオオスズメバチの標本で確かめてみました。



後翅の前縁に生えている曲がった翅鉤が、しっかりと前翅を固定している様子が分かります。これが見えて、ちょっと感動でした。


廊下のむし探検 正月2日と3日の虫たち

廊下のむし探検 第200弾

記念すべき第200回目の廊下のむし探検です。昨日と今日の午前中に、マンションの廊下を歩いてみた結果です。だいたいはいつもの虫たちでしたが、中には変わった虫も来ていました。



木の枝の切れ端にそっくりの蛾です。



枝の切れた部分を拡大するとこんなふうになっています。黒い複眼がかろうじて見えています。

さて、この蛾、いつものキバラモクメキリガかなと思ったのですが、どうも翅が長い気がして、後から採集してきました。キバラモクメキリガに非常によく似ていますが、翅の長い別の種の♂であることが分かりました。しかも、ハネナガモクメキリガとヒロバモクメキリガという2種があることが分かりました。この2種は外見上ほとんど区別がつきませんが、なんとなく特徴からヒロバモクメキリガの方ではないかと思っています。もしそうなら、この蛾は台湾で記載され、1995年に日本にも生息することが分かった種です。交尾器と幼虫は明らかに異なるのですが、成虫の外見での判断は難しそうです。





ウスモンフユシャクは昨日と今日、それぞれ1匹ずついました。翅を重ねて止まっているのは一種の寒さ対策でしょうね。





後はいつもいる蛾です。どちらもちっとも緑や青ではないのですが、上はミドリハガタヨトウ、下はアオバハガタヨトウです。



これはキバラヘリカメムシです。殺風景な冬の景色の中では際立った色をしています。



これはアカヒメヘリカメムシです。冬でもいろいろな虫がいますね。



夕方、郵便局に行くとき、マンションの入口でユスリカの交尾を見ました。何だか冬であることを忘れそうな光景ですが、図鑑を見ると冬に出現する個体もあるとのことです。

廊下のむし探検 元日の虫たち 

廊下のむし探検 第199弾

元日の午前中、ひっそりとしたマンションの廊下を歩いてみました。大きな虫は少なかったのですが、小さな虫はあちこちで見ることができました。



マンションの廊下と外がつながっている部分の外壁に小さい虫がたくさんいます。以前、フユシャクの♀もこの壁に止まっていました。今日はどうだろうかと楽しみに行ってみると、小さな虫が動いていました。体長3mmほどの小さい虫ですが、拡大してみるとカメムシの仲間みたいです。日本原色カメムシ図鑑第1巻を見ても出ていません。何だろうと思って、第2巻を見ると出ていました。ハナカメムシ科という聞きなれない科の個体でした。チビクロハナカメムシとクロハナカメムシという2種が似ているのですが、触角の色などからクロハナカメムシの方ではないかと思います。

ハナカメムシは大きさが2-4mmの小さなカメムシの一群で、花上で生活するため、こんな名前が付けられているようです。アザミウマやアブラムシ、ハダニといった小型の害虫に対する天敵と知られていて、生物農薬として販売までされているようです。



そんな小さなカメムシを撮影しているすぐ横に変わった虫が止まっているのに気が付きました。写真を一枚撮ったら、あっという間に飛び跳ねていってしまいました。



その辺りを探していると、1m以上離れた階段の上に止まっているのに気が付きました。目の大きな虫です。

飛び跳ねるのでトビムシかなと思ったのですが、全然違いました。セミのような目をしているので、カメムシ目を探してみたのですが、なかなか見つかりません。翅が短いので、幼虫かもしれないと思って、ネットで探し回りました。ほとんどが成虫写真しか出ていないので、今度は原色昆虫大図鑑IIIで、目の周辺の形をもとに成虫写真と照合して探してみました。

マルウンカ科が何となく似ているので、今度はその中の一種ずつ、「名前、幼虫」で検索をかけてみました。ついに似た種にたどり着きました。カタビロクサビウンカの幼虫に似ていました。分布が本州、四国の山地で、数は多くないとのことで、その種そのものかどうかはよく分かりません。検索の途中で、ウンカの幼虫が飛び跳ねるとき、二本の後ろ脚を同時に動かすために、歯車のような機構があることを見つけた論文が昨年のサイエンスに出ていたことが分かりました。



ゴミムシの仲間もいました。ゴミムシは皆よく似ていて名前が分からないことが多いのですが、琵琶湖博物館の電子図鑑「里山のゴミムシ」で、絵合わせで探してみると、クロツヤヒラタゴミムシに似ているような気がしました。



これも小さい甲虫ですが、触角が変わっています。「キノコ」という名前のつく甲虫にこんな触角のものが多かったことを思い出し、その辺りを何度も見てみたのですが、結局、見つかりませんでした。(追記:通りすがりさんから、タマキノコムシ科Leiodes sp.の様だと教えていただきました。)





ナミテントウは何匹かいました。



このハエも模様がはっきりしているので、分かるかなと思ったのですが、まだ、探し方が分からず、結局、ギブアップです。





蛾はこの2種でした。上はチャバネフユエダシャク、下はノコメトガリキリガです。両方共、昨年末からたくさん出ています。



ハエトリグモもいました。おそらく、マミジロハエトリの♀かなと思うのですが、はっきりはしません。





それに、いつもいるコカニグモネコハグモです。

正月でも探してみると結構、「むし」はいるものです。小さな「むし」が多いので、名前調べは大変ですが・・・。
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