ウツギノヒメハナバチの話
先日、マンションの廊下にたくさんのハチがいることを書きました。これはウツギノヒメハナバチというヒメハナバチ科のハチであるらしいことが分かりました。ちょっと興味が湧いたので、次の本を取り寄せて調べてみました。
守本陸也、小さな昆虫記、講談社 (1986).
前田泰生、但馬・楽音寺のウツギヒメハナバチ その生態と保護、海游舎 (2000).
これらの本を読んで、このハチは地面に穴を掘って、そこに、ウツギの花粉だんごを作り、それに卵を産むという習性があることを知りました。そこで、少しマンションの周辺も調べてみました。
実は、マンションの前庭の芝生が植えてある一角にハチがうろうろしているのは何年か前から知っていました。このハチが、実は、ウツギノヒメハナバチだったようです。この写真でも分かるように、地面には穴がいっぱい開いていて、そこにハチが出入りし、また、その周りを10-20匹のハチが飛び回っています。
穴に入るのはこんな花粉を付けたハチであることもあれば、そうでないこともあります。花粉を付けたハチの時は、一旦入るとなかなか出てきませんが、付けてない時はすぐに出てきます。
本によると兵庫県朝来市楽音寺の境内にはこれと同じような穴が20万個も開いていて、県指定の天然記念物に指定されているそうです。また、その寺の横にはヒメハナ公園という公園が作られ、ウツギを植えているそうです。
この花粉は本当にウツギのものなのでしょうか。そんな疑問が湧いてきたので、花粉を付けたハチを一匹捕まえてきて、その花粉を顕微鏡で調べてみました。
上はハチが運んでいた花粉、下は近くの咲き始めたウツギから採取した花粉です。ウツギはまだ1分か2分咲きかという状態でした。花粉の大きさは上が長さ28ミクロン、下が25ミクロンと、若干、下の方が小さい感じがするのですが、細長く、切れ目が入ったような形はよく似ています。おそらく、ウツギで間違いないでしょう。詳しく見たわけではないのですが、ハチが運んでいた花粉はこのウツギの花粉ばかりで、ほかの花粉は見られませんでした。
ウツギの花粉を集めるヒメハナバチにはウツギノヒメハナバチとコガタウツギノヒメハナバチという2種があります。この同定については、
Y. Hirashima, J. Fac. Agriculture Kyushu Univ. 12, 241 (1963).
X. H.-Li and O. Tadauchi, Jpn. J. Ent. 63, 621 (1995).
の2つの論文に書かれています。要は、大きさが違うことと下の写真に示す頭盾(とうじゅん)の形が違うことで見分けられるようです。
これはメスの頭の部分の拡大ですが、矢印で示した部分が頭盾という部分です。この部分はほとんど平らなのがウツギノヒメハナバチ、湾曲しているのがコガタウツギノヒメハナバチだそうです。また、大きさも違っていて、前者はメスの体長が12-13mm、オスが10-11mmに対して、後者はメスが11mm、オスが10mmよりちょっと大きい程度だそうです。私が捕まえたメスは体長12.5mmで、頭盾がほとんど平らに見えるので、ウツギノヒメハナバチで間違いないのではと思います。
ちなみに、オスは上の写真のように、頭盾の部分が薄黄色に色付きます。
ウツギノヒメハナバチは地面に10-30cmほどの深さで主坑を掘り、そこに、側抗を掘って花粉だんごを作り、卵を産むそうです。卵をうみ終わると側抗を埋め、また、別の側抗を作って卵を産むということを繰り返します。オスはメスが穴を掘り始めた頃から交尾の機会を狙って、穴の上をうろうろと飛び回り、ときどき穴に入ってメスを探します。
メスは半径500mほどの範囲にあるウツギの花の花粉を取りにいって、間違うことなく、自分の巣穴に戻ってきます。穴を掘った直後では、場所を覚えるようにうろうろしながら飛び去っていくのですが、2回目からしっかり覚えているのかまっすぐ飛び去っていくそうです。掘った穴の周りにはまるでクレータのように土が積み上がります。
朝から夕方まで、花粉集めの活動が続きますが、夕方になると、ぴたっと皆いなくなってしまいます。これは、オスは越夜巣という別の穴を掘って夜を越し、メスは自分の巣穴に隠れてしまうからです。
こうした活動が見えるのは5月の終わりから6月中旬にかけてで、ちょうどウツギの開花時期と一致します。卵はすぐに孵り、幼虫時代に花粉を食べて大きくなり、7月中旬ごろには蛹になり、翌年の5月末まで土の中にいるそうです。まだ、シーズン初めなので、これから、もう少しじっくりと観察したいと思います。
守本陸也、小さな昆虫記、講談社 (1986).
前田泰生、但馬・楽音寺のウツギヒメハナバチ その生態と保護、海游舎 (2000).
これらの本を読んで、このハチは地面に穴を掘って、そこに、ウツギの花粉だんごを作り、それに卵を産むという習性があることを知りました。そこで、少しマンションの周辺も調べてみました。
実は、マンションの前庭の芝生が植えてある一角にハチがうろうろしているのは何年か前から知っていました。このハチが、実は、ウツギノヒメハナバチだったようです。この写真でも分かるように、地面には穴がいっぱい開いていて、そこにハチが出入りし、また、その周りを10-20匹のハチが飛び回っています。
穴に入るのはこんな花粉を付けたハチであることもあれば、そうでないこともあります。花粉を付けたハチの時は、一旦入るとなかなか出てきませんが、付けてない時はすぐに出てきます。
本によると兵庫県朝来市楽音寺の境内にはこれと同じような穴が20万個も開いていて、県指定の天然記念物に指定されているそうです。また、その寺の横にはヒメハナ公園という公園が作られ、ウツギを植えているそうです。
この花粉は本当にウツギのものなのでしょうか。そんな疑問が湧いてきたので、花粉を付けたハチを一匹捕まえてきて、その花粉を顕微鏡で調べてみました。
上はハチが運んでいた花粉、下は近くの咲き始めたウツギから採取した花粉です。ウツギはまだ1分か2分咲きかという状態でした。花粉の大きさは上が長さ28ミクロン、下が25ミクロンと、若干、下の方が小さい感じがするのですが、細長く、切れ目が入ったような形はよく似ています。おそらく、ウツギで間違いないでしょう。詳しく見たわけではないのですが、ハチが運んでいた花粉はこのウツギの花粉ばかりで、ほかの花粉は見られませんでした。
ウツギの花粉を集めるヒメハナバチにはウツギノヒメハナバチとコガタウツギノヒメハナバチという2種があります。この同定については、
Y. Hirashima, J. Fac. Agriculture Kyushu Univ. 12, 241 (1963).
X. H.-Li and O. Tadauchi, Jpn. J. Ent. 63, 621 (1995).
の2つの論文に書かれています。要は、大きさが違うことと下の写真に示す頭盾(とうじゅん)の形が違うことで見分けられるようです。
これはメスの頭の部分の拡大ですが、矢印で示した部分が頭盾という部分です。この部分はほとんど平らなのがウツギノヒメハナバチ、湾曲しているのがコガタウツギノヒメハナバチだそうです。また、大きさも違っていて、前者はメスの体長が12-13mm、オスが10-11mmに対して、後者はメスが11mm、オスが10mmよりちょっと大きい程度だそうです。私が捕まえたメスは体長12.5mmで、頭盾がほとんど平らに見えるので、ウツギノヒメハナバチで間違いないのではと思います。
ちなみに、オスは上の写真のように、頭盾の部分が薄黄色に色付きます。
ウツギノヒメハナバチは地面に10-30cmほどの深さで主坑を掘り、そこに、側抗を掘って花粉だんごを作り、卵を産むそうです。卵をうみ終わると側抗を埋め、また、別の側抗を作って卵を産むということを繰り返します。オスはメスが穴を掘り始めた頃から交尾の機会を狙って、穴の上をうろうろと飛び回り、ときどき穴に入ってメスを探します。
メスは半径500mほどの範囲にあるウツギの花の花粉を取りにいって、間違うことなく、自分の巣穴に戻ってきます。穴を掘った直後では、場所を覚えるようにうろうろしながら飛び去っていくのですが、2回目からしっかり覚えているのかまっすぐ飛び去っていくそうです。掘った穴の周りにはまるでクレータのように土が積み上がります。
朝から夕方まで、花粉集めの活動が続きますが、夕方になると、ぴたっと皆いなくなってしまいます。これは、オスは越夜巣という別の穴を掘って夜を越し、メスは自分の巣穴に隠れてしまうからです。
こうした活動が見えるのは5月の終わりから6月中旬にかけてで、ちょうどウツギの開花時期と一致します。卵はすぐに孵り、幼虫時代に花粉を食べて大きくなり、7月中旬ごろには蛹になり、翌年の5月末まで土の中にいるそうです。まだ、シーズン初めなので、これから、もう少しじっくりと観察したいと思います。
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