虫や花の接写をするときに、被写界深度についてあまりよく知らなかったので、この間から実験をしています。今日は、家にある接写レンズを比較して、ぼやけ具合を比べてみました。
上の写真に示す3つの接写レンズを比較してみました。(a)と(b)は最近使っているもの、(c)はフィルムカメラの時代に使っていたものです。(a)と(b)は最大撮影倍率が等倍なのですが、(c)は接写リングPK-13を取り付けて、等倍になります。
前回の結果から、ぼやけの特徴がもっとも出やすい開放F値、等倍の条件で撮影しました。この時、(a)と(b)は実効F値がF5になり、(c)はF5.6になります(実効F値と最大撮影倍率の関係については
ホームページに載せておきました)。実験は、前回と同様に、実体顕微鏡の本体部分を取り去り、カメラをセットして、マイクロメータが付いたステージに対物ミクロを貼りつけ、マイクロメータでステージを動かしながら撮影していきます。
撮影した画像をImageJに取り込み、対物ミクロの中心部分の四角で囲った部分の中心付近の線の太さを評価しました。この線の太さは、光学顕微鏡で調べて、16ミクロンであることが分かっています。
(a) AF Micro Nikkor 60mmのときマイクロメータで合焦位置から前後に0.25mm間隔で動かした時のパターンを示します。
このレンズの特徴は合焦位置より手前に被写体がきたとき(マイナス符号)と遠くになったとき(プラス符号)で、ぼやけ方が異なることです。近くにきた場合は、線が太くなりながらぼやけていきますが、細い線が両端に残るような感じで広がります。遠くにした場合は、中心に細い線が見えつつも裾の方からぼやけが広がっていきます。1mmずらした場合の画像を比べてみるとこのあたりのぼやけの違いが良く分かります。
(b) AF-S Micro Nikkor 85mmのときこのレンズの場合は、右側が常に裾を引いているようなぼやけ方を示します。合焦位置から手前にずれた場合は、鋭い線がかなり長い間見えていますが、遠くにずれた場合には非対称な形のまま自然に広がっていきます。
画像で見ると非対称にぼやけている様子がよく分かります。
(c) Micro Nikkor 55mm + PK-13往年の名レンズです。このレンズを今のカメラで使うには、フォーカスも露出も全部自分で設定しないといけないので、野外で使うのは大変です。しかし、性能は一番良いようです。
合焦位置からずれていくと、ぼやけ方が極めて自然で、前後であまり変化しません。
画像で見たぼやけ方も極めて自然です。古いレンズの方が優秀なのでしょうか。
そこで、このレンズを使って、いろいろなF値でぼやけ方を調べてみました。
F5.6, F8, F16, F32の4つの条件で、線幅を調べてみたのですが、合焦位置前後で対称に振る舞い、きわめて自然な感じで広がっている様子が分かります。傾きもかなり綺麗に求まります。F32で、もとの幅より少し太めに撮影されているのは、光の回折効果によるものかもしれません。このデータの縦軸をmm単位に直して傾きを求めたものを縦軸に、横軸にはF値の逆数をプロットしたものが次の図です。
実線は幾何光学から計算したもので、等倍の場合は傾き1/2の直線です。ピタリというわけではないのですが、かなりよい結果が得られました。
今使っている接写レンズで、ぼやけの程度が幾何光学で予測したものよりかなり大きくなり、被写界深度がその分狭くなっているのは、多分にレンズの習性によるもののようです。なおかつ、ぼやけ方がレンズによって異なるので、実際の画像への影響も考えていかなければならないようです。