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虫を調べる シリボソハナレメイエバエ属

イエバエ科も「日本のイエバエ科」が手に入ってから、検索を何度かしてみたのですが、どうもうまくいかないのでしばらくイエバエを調べるのを止めていました。ずっと気にはなっていたのですが、この間、ハナレメイエバエの仲間らしいハエを捕まえたのでもう一度チャレンジしてみることにしました。



対象にしたのはこんなハエです。体長5.6mm。この間から1-2mmの大きさの虫ばかり見ていたので、それに比べるとずいぶん大きい感じがしました。それに、先日、取り付けた実体顕微鏡用のカメラのテストも兼ねています。「日本のイエバエ科」の検索表でまず苦労するのは亜科の検索です。それで、この日は慎重に日本語版と英語版を比較しながら、さらに、このハエの特徴も見ながら調べてみました。結論的には予想通り、このハエはハナレメイエバエ亜科になったのですが、その時に用いた検索の項目をまず書き出してみます。



亜科の検索表は日本語版がやけに簡略で、英語版の方が適切なような気がしました。日本語版にはなくて英語版にはある項目を青字で書き加えました。さらに、③の項目は赤字で書いた部分を付け加えないとうまくいきません。また、「日本のイエバエ科」の検索表では次の部分を訂正する方がよいと思いました。でも、何分、素人がやっていますので、話半分くらいで見ていただければ幸いです。

亜科の検索表(英語)
 4の項目で”Hind tibia without posterodorsal bristle” → “Hind tibia without posterodorsal bristle or with more than one bristle”
亜科の検索表(日本語)
 7の項目で前背面剛毛→前背亜末端剛毛

それでは、上の①~⑥の項目を写真で確かめていきたいと思います。



まず、これは背側から見た全体像です。腹部に模様があります。腹部の節に番号を振っておきました。



これは横からです。腹部第5背板の先端が突き出しています。これは後で種の検索に出てきます。また、このような構造を持っているのは♂の方です。



これは胸部側面の写真です。各部の名称は「大図鑑III」に従ってつけてみました。また、上の項目に書き足した部分は赤字で書いてあります。まず、中胸上後側板には毛が生えていないので、①はOKです。次に④は下側板剛毛についてですが、「大図鑑III」には「日本のイエバエ科」でいう下側板は下後側板+中副基節だと書かれていたので、そう思って見ても毛が生えていないので④もOKです。⑤の後気門にも毛が生えていないようなので、これもOKとします。



次は後脚脛節の写真で、真上から撮影したものです。前方背側に向いて生えている剛毛をad、後方背側に生えている場合をpd、真上に生えている場合をdと書いてあります。すると②はすぐに分かります。③は赤字の部分がないと困ることが分かります。⑥の亜末端剛毛は脛節の末端付近に生えている剛毛ですが、この写真では顕著な剛毛は見当たりません。これで、①から⑥までが確認できたので、ハナレメイエバエ亜科になりました。

次は属の検索です。これも「日本のイエバエ科」に載っていますが、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」ではもっと分かりやすい検索表が載せられていたことを以前ブログに書きました。今回もそちらの検索表を採用することにしました。その結果、シリボソハナレメイエバエ Pygophora属になったのですが、その過程を見ていきます。



基本的には「日本のイエバエ科」と同じなのですが、分かりやすい説明が( )内に書かれています。なお、「日本のイエバエ科」の次の項目は訂正した方がよいと思いました。

ハナレメイエバエ亜科の属の検索表(日本語)
 4の2番目の項目で「頭部には1対の」→「頭部には2対の」

この⑦から⑨を写真で確かめていきたいと思います。



最初は下前側板の剛毛についてです。「日本のイエバエ科」の日本語版検索表では、これが正三角形になると書かれていますが、この写真の上の説明ではさらに詳しく書かれています。この写真でも正三角形というよりは歪んだ三角形になるのですが、上の説明通りならこれでもよいと判断されます。



次は先ほども出た後脚脛節の剛毛についてです。これも上の説明では、adは基部2/3内に2本なのでOKになります。「日本のイエバエ科」の検索表では「後脛節の前背剛毛は2本」と書かれているので、先端1/3にあるやや短い剛毛(矢印)を入れるかどうか迷ってしまいます。



次は頭部の剛毛と単眼三角板についてです。前額眼縁板に生えている剛毛のうち上側の2本(ors)が後ろ向けになっています。⑧はそのことを指しています。⑨は単眼三角板が小さいことです。この両方ともOKです。なお、赤字で書いた部分はこう書いた方がよいかなと思ったところです。



次は中脚脛節についてです。中ほどに後背剛毛は2本あり、これもOKです。ただし、この剛毛、上というよりは横に向いているような感じなので、後剛毛 pと書いてもよさそうです。実際、種の各論ではp-setaとなっていました。これで、すべての項目を調べたので、シリボソハナレメイエバエ属になりました。

最後は種の検索で、これは「日本のイエバエ科」の検索表を使いました。その結果、シリモチハナレメイエバエ Pygophora confusaになったのですが、その過程も見ていきます。まずは検索表です。



これも青字は英語版にあったもの、赤字はこう書いた方がよいかなと思った部分です。特に⑫は英語版と日本語版は異なった剛毛に関する記述のような気がしました。それで、それらを併記することにしました。間違っているかもしれませんが・・・。この検索表にも次の訂正があります。

Pygophoraの種の検索表(日本語)
 1の項目を入れ替える
Pygophoraの種の検索表(英語)
 3と4の項目で、sternite → tergite
 検索表が雄用であること



⑩~⑫はこの写真一枚で説明できます。⑩は腹部第5背板の後縁がこの写真のように突き出していることを表していると思います。⑪はウロコシリモチという幅の広い剛毛を持つ種を除外する項目でこれはないのでOKです。最後は問題の項目です。「日本のイエバエ科」の日本語版検索表では「上方に向けた小剛毛」と書かれているので、おそらく写真の⑫aの部分の毛を指しているのではないかと思いました。これに対して、英語版は「上方に曲がった強い剛毛」とあるので、⑫bにある上に曲がった剛毛を指しているのではないかと思いました。少なくともどちらかだとすると、すべての項目が満足され、これはシリモチハナレメイエバエということになります。

「日本のイエバエ科」によると、シリモチハナレメイエバエは本州から沖縄に分布し、♂の体長は5.3-5.5mmだそうです。そのほか、胸部の剛毛や腹部の色なども比べてみたのですが、だいたいはよさそうな気がしました。

検索に使わなかった写真もついでに載せておきます。



まずは翅脈です。翅脈の名称は「大図鑑III」に従いました。青字は翅室の名前です。



次は前脛節の写真です。



それから胸部背面の写真です。剛毛に名前を付けてみました。略号が分からなくて適当につけたところもあるので間違っているところがあるかもしれません。



最後は顔です。

今回は試料がハナレメイエバエらしいことが分かったいたので、少し安心して検索を進めることができました。また、それをもとにして検索表の項目を解釈したり、誤植を探したりすることができたのですが、まったく分からない種ではずいぶん苦労しそうな気がしました。これからもいろいろな属で確かめていかないといけないなぁと思いました。また、顕微鏡に取り付けたカメラのノイズを減らしてみたのですが、こちらは良好のようです。
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